2025年04月14日

欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況-2024年決算数値等に基づく現状分析-

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4|Aviva

2019年3月にAviva GroupのCEOに就任したMaurice Tulloch氏は、複雑な事業体構成を見直し、より強い説明責任と経営の焦点を絞る観点から、英国の生命保険と損害保険事業を分割し、アジア事業の戦略的選択肢を検討していくと述べていた。また、これにより最大20億ドルの価値のある取引でアジア事業を売却するとしていた。その後、2020年7月にAmanda Blanc 氏がCEOに就任し、この戦略を引き継いできた。

具体的には、Avivaは、以前は世界の十数カ国で事業展開し、英国、フランス、ポーランド、アイルランド、イタリア、カナダ、シンガポール、Aviva Investorsを8つの主要市場(Major markets)として位置付けていた。ただし、その後のポートフォリオを簡素化するための戦略として、英国、アイルランド、カナダの事業等のグループのコア市場(Core Markets)に焦点を置く「持続可能で耐性力のある」方針を推進するとし、この戦略に従って、2020年に、アジアのシンガポールのマジョリティ、インドネシアや香港のジョイントベンチャー、ベトナム事業等の売却を完了し、さらに、2021年には、フランス、イタリア、ポーランド及びリトアニアの事業の売却を完了してきた。Amanda Blanc CEOは、2022年3月に、過去20カ月間で、合計75億ポンドで8つの事業の売却を完了させたと述べた。2023年9月には、シンガポールの事業の売却(2024年3月に完了)やAIG UK Lifeを4億60百万ポンドで買収(2024年4月に完了)することで、保障事業を進展させることを発表した。

2024年に入ってからも、3月にProbitasの買収(7月に完了)によるLloyd’s市場への参入を発表している。

なお、Amanda Blanc CEOは、2023年の決算発表時に、カナダとアイルランドに大規模事業を展開する英国有数の総合保険会社としてのAvivaの地位は「明らかに成果を上げている」と述べ、(1)2026年までに営業利益20億ポンド、(2)2026年までにソルベンシーⅡ自己資本創出18億ポンド、(3)2024年から2026年の3年間での累積キャッシュ送金が58億ポンド、の新たな目標を公表した。また、2024年の決算発表時には、保険・ウェルス・退職分野で英国を代表する「信頼される」総合保険会社としての地位を確立したと述べている。

(1) 地域別の業績-2024年の結果-
英国の生命保険市場では24%のシェアで最大の生命保険会社、アイルランドの生命保険市場では第4位となっている。また、英国&アイルランドの損害保険市場において主導的な地位にある保険会社で、英国では第1位、アイルランドでは第3位となっている。さらに、カナダの損害保険市場では約8%のシェアで第2位となっている。

事業の売却を推進してきた結果、Avivaの保険収益、営業利益の多くは欧州からのものとなっている。IWR(保険・ウェルス・退職)が保険収益で43%、営業利益で61%、英国&アイルランド(損保)が保険収益で36%、営業利益で40%、カナダ(損保)が保険収益で21%、営業利益で16%を占めている。
Avivaの保険事業の地域別内訳(2024年)
なお、CSM残高は、2024年末に96億26百万ポンド、2023年末に84億18百万ポンド、2022年末に69億32百万ポンド(再保険控除後では、2024年末に77億72百万ポンド、2023年末に72億48百万ポンド、2022年末に64億80百万ポンド)となっている。

(2) 地域別の業績-2023年との比較-
保険収益は12%増加して、207億47百万ポンドで、IWR事業、英国&アイルランド(損保)及び国際投資において、二桁進展した。なお、Avivaは、売上高の説明に、保障・医療保険ではAEP(年換算保険料相当額)、退職ではPVNBV(新契約保険料現在価値)、損害保険ではGWP(収入保険料)を使用している。

具体的には、保障のAEPはAIGの英国保障事業の買収完了により、42%増加して3億75百万ポンドとなった。医療の保険料は好調な新契約と価格設定活動を反映して二桁進展となったが、AEPは8%減少して1億.38百万ポンドとなった。退職のPVNBVは2023年の71億ポンドから大幅に増加して2024年は94億ポンドとなった。

英国&アイルランド(損保)のGWPは為替固定ベースで16%増加して76億99百万ポンドとなった。カナダの損害保険のGWPは為替固定ベースで11%増加して45億5百万ポンドとなった。

営業利益は20%増加の17億67百万ポンド(2023年:14億67百万ポンド)となった。これは主に英国&アイルランド(損保)、IWR、Aviva Investorsの成長とコーポレート・センターなどのコスト低下によるもので、カナダにおける悪天候の影響で一部相殺された。

IWR事業の営業利益は、8%増加の10億71百万ポンド(2023年:9億94百万ポンド)となった。保障、医療、退職での増加は主に、昨年と比較したCSMリリースの増加、保障と医療での死亡率の改善、及び退職での年金事業を支える資産収益率の向上による。ウェルスの営業利益も、Workplace、Platform、Advice21での収益増加により増加したが、将来の成長を支えるためのDirect Wealth計画への投資により一部相殺された。

英国&アイルランド(損保)の営業利益は、好調な業績を反映して、57%増の7億8百万ポンド(2023年:4億52百万ポンド)となった。これは、特に利益率の高いリテール事業での好調な取引、引受規律への継続的な注力、効率性の向上により、引受業績が好調だったことによる。営業利益は、英国事業の規模の拡大に伴う投資資産の増加を反映した投資収益率の向上からも恩恵を受けたが、発生保険金の割引の巻き戻しの増加により相殺された。

カナダの損害保険は、天候関連の大災害損失の増加、前年の好結果の反転、及びインフレによる保険金請求額への影響を反映した引受業績の低下により、28%減少の2億88百ポンド(2023年:3億99百万ポンド)となった。

Aviva Investorsの営業利益は、AUMが112億ポンド増加した(平均AUMでは80億ポンド増加して2,330億ポンドになった)ことによる収益の増加を反映して、インフレによるコスト増加により部分的に相殺されたものの40百万ポンド(2023年:21百万ポンド)となった。

国際投資の営業利益は、2024年3月のシンガポール事業の売却により、同事業からの貢献が減少したことにより、48百万ポンド(2023年:63百万ポンド)に減少した。

その他のうちの、コーポレート・センターのコストとその他の業務は、主にプロジェクト支出の減少により、47%減少して1億15百万ポンド(2023年:2億15百万ポンド)となり、グループ負債コストとその他の利息は、2024年7月の劣後債務の償還に先立ち、2023年11月に新たな劣後債務が発行されたため、2億73百万ポンド(2023年:2億47百万ポンド)に増加した。

なお、新契約価値は、IWRでは7%増加して8億39億ポンドとなったものの、シンガポール事業の売却により、全体では2%の進展となった。
Avivaの保険事業の地域別内訳(2023年から2024年に向けての増加額と進展率)
また、CSM残高は、新契約からの貢献や保有契約からの期待収益により18億43百万ポンド増加したが、10億ポンドのリリース等により、12億8百万ポンド増加して、96億26百万ポンドとなった。
 
21 Workplace、Platform、Adviceは、Avivaのファイナンシャルアドバイザーや雇用者向けに様々なサービスを提供するポータルやツール
(参考)地域別ROEの状況
Avivaは、地域別のROEを開示しているが、グループ全体では13.6%で、2023年の14.7%から1.1%ポイント減少した。なお、経営行動とその他の影響を除いたベースでは、2023年の10.6%から1.7%ポイント増加して12.3%となった。
保険事業等のSolvency IROE(資本収益率)の地域別状況
(3) 地域別展開に関する方針及びトピック
Avivaは、2024年に入ってからこれまでに、以下の地域別事業展開の見直し等を公表してきている。

2024年1月5日に、Aviva CanadaがOptiom O2 Holdings Inc(「Optiom」)を約1億ポンド(約1億7,000万カナダドル)での買収を完了したことを発表した。この買収は2023年11月27日に発表されている。

2024年3月4日に、2億42百万ポンドの対価でProbitas Holdings (Bermuda) Limited(「Probitas」) を買収し、Lloyd’s市場に参入することを発表した。この取引によるグループのソルベンシーII株主カバー率への影響は、2023年12月31日時点で約3%ポイントの低下と推定されている。なお、2024年7月10日に、この取引は必要な全ての承認を取得した上で、2億4,900万ポンドで完了したと発表された。

2024年3月18日に、Singapore Life Holdings Pte Ltd(「Singlife」)の株式及び2つの債務証券の住友生命への売却を完了し、総額9億37百万ポンド(16億シンガポールドル)の収益を得たことを発表した。

2024年4月9日に、必要な全ての承認を取得した上で、American International Group, Inc(「AIG」)の上場子会社であるCorebridge Financial, Inc22から、英国で保障事業を展開するAIG Life Limited(「AIG Life UK」)を4億53百万ポンドで買収したことを発表した。この買収は2023年9月25日に初めて発表されているが、AIG Life Limitedは、完全な個人及びグループ保障商品の一覧を提供しており、130万人の個人保障顧客と140万人のグループ保障加入員を抱えている。

2024年12月6日に、AvivaとDirect Line23は、AvivaによるDirect Lineの全株式資本の買収の可能性の財務条件について暫定合意に達したことを発表した。36億ポンドの現金と株式で買収する見通しとなっている。AvivaとDirect Lineは、この発表後も適時進捗状況を公表してきている。
 
22 Corebridge Financialは、2022年にAIGの生命保険、退職、資産管理部門のスピンオフの結果として設立され、2021年にはその一部がBlackstoneに22億ドルで売却された。また、2024年12月には、日本生命がCorebridge Financialの発行済株式の約21.6%を約38.38億ドルで取得している。
23 Direct Lineは自動車保険を中心に、住宅保険やペット保険等を提供する英国の保険会社。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年04月14日「基礎研レポート」)

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