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年金基金の現状(2025.2 欧州)-EIOPAの報告書の紹介(複数の国にまたがる年金基金の状況も含む)

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩
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1――はじめに
複数の国にまたがる年金基金数は数年来減少傾向にある。
1 EIOPA IORPS IN FOCUS REPORT 2024 (2025.2.11 EIOPA)
https://www.eiopa.europa.eu/document/download/4de6b580-521d-4ad0-af83-2ecf133abdf4_en?filename=EIOPA-BoS-25-016_EIOPA%20IORPs%20in%20focus%20report%202024.pdf
(報告書の翻訳や内容の説明は、筆者の解釈や理解に基づいている。)
2――報告書の内容
〇規模、会員数
2023年末までに欧州の年金基金は1.7%減少して1,419基金となっている2。これは、大規模な年金基金の統合が続く一方、小規模な年金基金でも徐々に統合が進行しているためである。
また、単一スポンサーの年金基金は年々減少して716基金、複数スポンサーの年金基金が徐々に増加し703基金と、ほぼ拮抗してきている。
これらは、規模の経済性を追求する中で効率性の向上を目指す傾向の現れと推測される。
加入者と年金受給者の数は、前年より約1%増加して、7,160万人となった。ただし過去3年間では30%増加したことになる。これは主にフランスにおける増加によるものである。
2 アイルランドとキプロスの年金基金は小規模なものが膨大にあるので、以降、この報告書全体で除外された現状分析となっている。仮にこれらを含めると、この2か国についてだけの分析となってしまい、かえって欧州全体の状況がわかりにくくなるからであろう。
年金基金の運用資産は2兆7,200億ユーロと、対前年約8%増加となった。2年前に経験したような一時期の資産減少からは回復してきている。この66%は確定給付型スキームで、前年よりわずかに増加した。しかし3年前との比較では、7%減少している。近年、どの国でも確定拠出型スキームの資産の構成比が上昇しており、確定給付型から確定拠出型へのシフトが進んでいる。
〇投資戦略
欧州経済領域内での直接投資の割合が68%を占めている。しかし年金基金の資産は、その約40%が投資ファンドに配分されており、ファンド内では、多くが欧州経済領域外への投資に配分されている。そうした間接投資をも考慮すると、欧州経済領域内での投資割合は55%にまで低下する。
投資ファンド内では株式投資が33%、貸付に類するもの(debt-focused funds)が25%、不動産は14%などとなっている。欧州外の投資先としては、米国、英国とそれに次いで、ケイマン諸島の規模が大きい。
次に大きいのが債券への投資で、年金基金資産の34%を占める。そのうち各国国債への配分は社債の約2倍となっている。国債は、その77%は欧州域内の国債であるが、米国債が9%を占める。社債の内訳については、欧州域内66%と米国22%と、米国の構成比が国債より高い。
3番目に大きいのが株式で、17%である。その93%は上場株式である。投資先国別にみると米国への投資が多い。
年金基金の資産の投資先については、各国の規制や経済情勢が、投資戦略をきめる重要な要因となっている。特に確定拠出型では、ポータビリティや資産の引出し(decumulation)のオプションが、投資方針に影響を与える重要な要因となっていく可能性がある。
〇資金調達ポジション
確定給付型スキームにおける資金調達率(総資産/総負債)は117%であり、全体としては年金等支払いを賄える充分な資産を保有していると言える。
しかし、確定給付型スキームを有する506基金のうち48基金が資金不足となっている。これは前年末(71基金/512基金)よりは改善している。資金不足の年金基金はドイツとポルトガルに集中している。
〇受取拠出金と支払った給付金
2023年に年金基金全体では1,020億ユーロの拠出金を受け取った。前年からは2%増加、3年前からは22%の増加となった。うち3分の1は加入者から、3分の2はスポンサーからのものである。
支払い給付金は650億ユーロで前年から8%増加、3年前からは30%の増加となった。その75%は退職金関係であり、その他に死亡保険金や障害給付金の支払いも含まれている。
国別にみると、オランダ、ドイツ、イタリアの3か国で全体の80%を占めている。
〇経費
全体で140億ユーロの支出となり、前年と比べても、3年前と比べてもどちらも23%減少している。内訳は主に投資経費である。経費の増減などの動向は、一部の国の動きに大きく左右される要因もあって、今後関連する統計を整備して、その要因の洞察に役立てていく必要がある。
3――おわりに
各国ごとの実態については、このレポートでは割愛したがそれぞれ違いがあり、今後の投資方針などに影響をあたえ、それぞれの国で異なる様相が現れる可能性がある。
国をまたぐ年金基金については、当初、欧州内の市場統合の期待も大きかったが、各国の規制の違いは乗り越えがたいようで、進展が停滞しているようである。
(2025年03月07日「保険・年金フォーカス」)

03-3512-1833
- 【職歴】
1987年 日本生命保険相互会社入社
・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
2012年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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