2024年12月04日

中国の社会保障財政(2023年)

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 片山 ゆき

文字サイズ

1――社会保障に関する経費が6兆元を突破、国の財政支出の2割を占める

中国では少子高齢化が進展するとともに、社会保障に関する経費が増大している。中国財政部によると、2023年、中国の社会保障に関する経費(社会保障関係費)は前年比5.3%増の6兆2,278元(126兆円)と、初めて6兆元を突破した(図表1)。

なお、中国政府は社会保障関係費という括りで支出を管理していないため、本稿では年金・生活保護・就業支援など社会保障関連の多くの経費を含む「社会保障・就業費」(4.0兆元)と、医療・衛生事業などの経費を中心とした「衛生・健康費」(2.2兆元)を合計したものを社会保障関係費とする1。また、この社会保障関係費は国の一般会計(27.5兆元)の22.7%を占めており、最大規模の支出となっている(図表2)。
図表1 社会保障関係費の推移/図表2 一般会計の支出構造
 
1 都市部の企業就労者向けには住宅福祉として住宅積立金(住宅ローンの返済、家賃の支払いなどに充当が可能)が設けられており、別の費目で計上されている。それを加えると、合計は6.6兆元となる。

2――2023年は新型コロナ関連の支出は縮小

2――2023年は新型コロナ関連の支出は縮小。准公務員向けの年金支出、就業補助・企業改革補助など雇用・企業への支出は継続

2023年の社会保障・就業費は前年比8.9%増の4.0兆元となった。その内容を見ると、最も多くを占めているのは公的年金に関する支出(合計2.6兆元)で全体の65.9%を占めている(図表3)。その中でも、准公務員などで構成される行政事業機関向けの年金支出のみで37.4%を占め、項目別で最も多くを占めた。それに次いで、多くの会社員が加入する基本養老保険基金への支出となっており、行政事業機関向けの支出がより手厚い点がうかがえる。また、新型コロナ以降続く、雇用・所得の不安定化、企業支援といった面から、就業補助が前年比12.9%増、企業改革補助が前年比22.2%増と大きく増加している。

一方、衛生・健康費は前年比0.6%減の2.2兆元となった。その内容を見ると、公的医療保険の基金(基本医療保険基金)への財政補助(0.7兆元)が全体の30.0%を占め、最も大きい支出となった(図表4)。それに次いで公共衛生事業が全体の23.6%を占めているが、金額ベースで前年より17.8%減少している。突発性公共衛生事件応急処理、重大公共衛生サービスといった新型コロナ関連の支出は2022年に大幅に拡充しており、その反動を受けたものと思われる。
図表3 社会保障・就業費/図表4 衛生・健康費

3――年金において

3――年金において、制度ごとの収支は黒字でも地域ごとでは東北三省が厳しい状況。年金給付は地域間の財源の移転が奏功

財政において大きなインパクトを持つ公的年金制度について、制度ごとの収支を確認してみる。図表5はそれを示したものになるが、都市の会社員を中心とした都市職工年金は収入のうち81.0%が保険料(4兆3,217億元)となっている。財政補填は収入の14.5%を占める7,731億元であるが、財政補填がなければ支出を賄えず、収支は赤字となってしまう。一方、都市の非就労者や農村住民を対象とした都市・農村住民年金では収入の61.2%が財政補填となっており、保険料収入はわずか27.3%を占めるのみである。財政補填額(3,789億元)は都市・職工年金の財政補填額(7731億元)の半分ほどであるが、制度そのものは財政(税金)によって成り立っている状況にある。

一方、年金原資は省(直轄市・自治区)ごとに管理され、制度は都市ごとに運営されている。よって、省や都市の財政状況が年金給付にも大きなインパクトを与えることになる。ただし、安定した年金給付を確保するために、積立金に余裕のある省(直轄市・自治区)と逼迫した省の間で年金財源(全国統合調整資金)の融通がなされている。2023年は予算ベースで、全国で2,440億元が地域間で移転されることになっている。財源の移転は拠出側と受入側に別れ、前者は18地域、後者は14地域(組織)となった(図表6)。2023年の予算ベースでは広東省が最も多い1,158億元を拠出、次いで北京市が364億元を拠出することになっている。一方、特に東北三省と呼ばれる遼寧省、黒龍江省、吉林省は年金財政が厳しい状態となっている。受入側として遼寧省が最も多い844億元、次いで黒龍江省が829億元、吉林省が219億元であった。受入額が各地域の年金基金収入のどれくらいに相当するかを見てみると、遼寧省は27.2%、黒龍江省は40.9%、吉林省は13.2%を占めた。この地域間の年金財源の移転は、特に黒龍江省と遼寧省において年金の安定給付に大きく貢献していることが分かる2
図表5 公的年金制度ごとの収支(2023 年)/図表6 全国統合調整資金の拠出・受入状況(2023 年)
 
2 年金財源については地域間の移転以外に、中央政府からの財政移転も大きい。

(2024年12月04日「基礎研レポート」)

Xでシェアする Facebookでシェアする

保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

片山 ゆき (かたやま ゆき)

研究・専門分野
中国の社会保障制度・民間保険

経歴
  • 【職歴】
     2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
     (2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
     ・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
     (2019~2020年度・2023年度~)
     ・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
     ・千葉大学客員教授(2024年度~)
     ・千葉大学客員准教授(2023年度) 【加入団体等】
     日本保険学会、社会政策学会、他
     博士(学術)

週間アクセスランキング

ピックアップ

レポート紹介

【中国の社会保障財政(2023年)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

中国の社会保障財政(2023年)のレポート Topへ