2024年08月07日

専業主婦が国民年金保険料を納める制度に変えると、低所得者が不利に!?

基礎研REPORT(冊子版)8月号[vol.329]

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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5月の社会保障審議会年金部会では、2023年9月や2024年1月に続いて、国民年金の第3号被保険者制度が議論された。本稿では、制度の仕組みや廃止した場合の影響、廃止以外の方策を確認する。

1│専業主婦が保険料を納めないのは不公平?

国民年金の第3号被保険者には、厚生年金加入者に扶養される60歳未満で国内に住む年収130万円未満の配偶者が該当する。第3号被保険者の基礎年金は、1985年改正前の旧厚生年金の定額部分と加給年金から分割されたものであるため、第3号被保険者自身は保険料を納めず、配偶者が加入する厚生年金制度全体で必要な費用を負担している。

当制度に対しては、「専業主婦[夫]が保険料を納めないのは不公平だ」という批判をよく聞く。確かに、個人単位の「保険料を納めるか否か」に着目すれば、不公平に感じる。しかし、世帯単位の負担と給付の関係に視野を広げれば、世帯収入が同じ片働き世帯と共働き世帯の負担と給付は同じになっている[図表1]。

他方で、世帯収入が同じ夫婦世帯と単身世帯を世帯単位で比べると、両者の負担は同じであるものの、単身世帯は基礎年金を1人分しか受給しない(図表1下)。しかし、世帯員1人あたりで比べれば、両者(夫婦世帯の1人あたりと単身世帯)の負担と給付は同じになっている。図表1の例では、世帯年収600万円の夫婦の1人あたりと世帯年収300万円の単身者は、同じ負担と給付である。
[図表1]原稿制度での世帯単位の負担と給付の例

2│廃止した際の影響:片働きや低所得者が不利に

当制度を廃止して専業主婦[夫]が国民年金保険料を納める制度にすると、現行制度よりも片働き世帯の負担が増え、夫婦世帯間での公平性が崩れる[図表2]。
[図表2]専業主婦が国民年金保険料を納負担する場合
また、世帯間で負担を公平にするために全加入者が国民年金保険料を納める制度にすると、定額型である基礎年金の費用を報酬比例型の保険料でまかなうことによる、所得再分配効果が無くなる。そのため、収入が少ないほど現行制度よりも負担が大きくなる。例えば、図示した共働き世帯の片方(年収300万円)と年収600万円の単身世帯の負担の比を見ると、図表1や2では両者の収入に比例して1:2だが、図表3では定額部分があるため1:1.7になっている。
[図表3]全加入者が国民年金保険料を負担する場合

3│廃止以外の方策:政府は厚生年金の適用拡大を掲げるが…

前述の例は第3号被保険者に収入がない場合だが、実際には第3号被保険者の約半数が就労している。この場合は、保険料の対象にならない収入が存在する点で、共働き世帯より有利になる。

これを改善する方策として、政府は厚生年金の適用拡大を進めている。第3号被保険者の要件を満たしていても、厚生年金の要件を満たしていれば、厚生年金の加入者となるためである。

しかし、第3号被保険者から厚生年金加入者になると、保険料を負担する必要が生じる。保険料の半額は事業主が負担し、将来に厚生年金を受け取れるとは言え、目先の負担を気にするのは行動経済学でも明らかな人間の心理傾向である。

個人がこのような傾向に流されないよう公的年金制度は強制加入となっているが、お節介のありがたみに気付くのは老後になってからかもしれない。

(2024年08月07日「基礎研マンスリー」)

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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

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