2024年06月21日

東南アジア経済の見通し~輸出と製造業が持ち直し、緩やかな景気回復へ

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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1.東南アジア経済の概況と見通し

(経済概況:内需を中心に堅調に拡大、輸出も回復基調に)
東南アジア5カ国(マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン、ベトナム)の経済は回復ペースが鈍いものの、総じて堅調に推移している。2023年は輸出が低迷して景気が減速したが、足元では輸出が回復に向かっている。また内需については、昨年は高インフレや金融引き締めの累積効果が家計や企業の活動の重石となったが、観光業の回復に伴うサービス業を中心とした労働市場の改善や政府主導のインフラ開発により内需が堅調で経済を下支えしている。
(図表1)実質GDP成長率 2024年1-3月期の実質GDP成長率(前年同期比)をみると、フィリピン(同+5.7%)とインドネシア(同+5.1%)、マレーシア(同+4.2%)の3カ国が前期から上昇した一方、ベトナム(同+5.7%)とタイ(同+1.5%)の2カ国が前期から低下した(図表1)。総じてベトナムとマレーシア、フィリピンは輸出が増加して製造業が回復、景気に明るさが見えてきており、またインドネシアは選挙関連支出により内需が強く堅調に推移している。一方、タイは政府の予算執行の遅れにより公共支出が落ち込み、4四半期連続で1%台の低成長となっている。
(物価:再加速するも利上げの累積効果により緩やかな上昇にとどまる)
東南アジア5カ国の消費者物価上昇率(以下、インフレ率)は昨年鈍化傾向が続いたが、今年は上向いている(図表2)。2022年の世界的なインフレの波は東南アジアにも到来し、22年後半からはエネルギー価格の下落や各国中銀の金融引き締め等からインフレがピークアウトして徐々に落ち着きを取り戻してきた。しかし、今年に入ると天候要因による食料インフレや通貨安に伴う輸入インフレなどから各国のインフレ率はが再び上昇傾向にある。
(図表2)消費者物価上昇率 先行きは緩やかな物価上昇傾向が続きそうだ。米国の利下げ観測の後退に伴い東南アジア通貨は年明けから減価傾向にあり、当面は輸入インフレが進行して上昇傾向で推移するだろう。もっとも、各国の景気回復は勢いに欠けることやこれまでの利上げの累積効果により各国のインフレは緩やかなものにとどまり、年内は各国中銀の物価目標圏内で推移すると予想する。また年内に米国が利下げに踏み切ると、アジア通貨の下落圧力が弱まり物価の安定に繋がるとみられる。なお、今年春まで続いたエルニーニョ現象は年内にラニーニャ現象に移行する可能性がある。天候不順による農作物への影響が懸念され、食品価格の高騰によりインフレが上振れするリスクもある。
(図表3)政策金利の見通し (金融政策:年内に利下げ実施へ)
東南アジア5カ国の金融政策は、インフレの加速を受けて2022年から金融引き締めを開始したが、昨年は緩慢な景気が続き、インフレが落ち着きを取り戻すなかで、各国中銀は概ね利上げ局面を終了している。なお、今年5月にはインドネシア中銀がルピア安に伴う輸入インフレに対する予防的な措置として+0.25%の利上げを実施した。

先行きは米国の利下げに追随する形で金融緩和に動く国が出始めると予想する。当研究所では今年12月に米国が利下げサイクルに転じると予想している。昨年から積極的な金融引き締めを実施してきたインドネシアとフィリピンは米国の利下げ観測の高まりと通貨の動向を見極めながら金融緩和を実施すると予想する。またタイとマレーシア、ベトナムは景気回復と物価の動向を注視つつ、年内は金融政策を据え置くと予想する。
(経済見通し:輸出と製造業が持ち直して、緩やかな景気回復へ)
2024年の東南アジア5カ国は昨年まで好調だったサービス業の増勢が鈍化する一方、輸出と製造業が持ち直すことで、景気は緩やかに回復するだろう。

外需については、昨年低迷していた財輸出が改善し始めている。シリコンサイクルが回復するなど世界的な製造業の調整局面は一巡しており、各国では電気・電子機器を中心に財輸出が増加すると予想する。またサービス輸出はコロナ禍からの経済再開により盛り上がりをみせた過去2年間と比べて勢いは落ちるものの、持続的な拡大が続くだろう。アジア地域のインバウンド需要はコロナ禍からの回復の途上にあり、今後は中国人観光客の復調やビザ優遇措置などの各国政府の観光促進策が外国人観光客の増加に寄与するとみられる。
(図表4)実質GDP成長率の見通し 内需は堅調を維持すると予想する。民間消費はインフレの軟化や観光業と製造業の回復に伴う労働市場の改善により家計の購買力が向上して堅調に推移するが、ペントアップ需要の一巡により増勢は鈍化するだろう。また投資は各国政府の大型インフラ整備計画の継続や輸出型製造業の設備投資の回復、そしてサプライチェーンの多様化による東南アジアへの直接投資の流入などが下支えとなり底堅い伸びが続くと予想する。もっとも年内は各国中銀が実施してきた金融引締めの累積効果は家計・企業の活動を圧迫するため、内需は力強さに欠ける展開になるだろう。

以上の結果、2024年は輸出と製造業が持ち直して各国で成長率が上昇すると予想する(図表4)。2024年の成長率の上昇幅は輸出主導経済であるベトナム、マレーシア、タイで高くなる。一方、内需主導経済のインドネシアとフィリピンは概ね横ばいの成長となるだろう。

(2024年06月21日「Weekly エコノミスト・レター」)

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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