2024年06月19日

日銀短観(6月調査)予測~大企業製造業の業況判断DIは2ポイント上昇の13と予想、物価関連項目に注目

経済研究部 主席エコノミスト 上野 剛志

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6月短観予測:景況感は小動きに、インフレ関連項目に注目

(非製造業の景況感は堅調維持) 
7月1日に公表される日銀短観6月調査では、注目度の高い大企業製造業の業況判断DIが13と前回3月調査から2ポイント上昇し、小幅ながら、景況感の持ち直しが示されそうだ(表紙図表1)。同DIの上昇は2四半期ぶりとなる。製造業・非製造業ともに円安に伴う原材料価格上昇が景況感の重石となるが、製造業ではダイハツの認証不正問題で停止していた自動車生産・出荷の再開や半導体市場の回復が追い風となる。一方、大企業非製造業では、長引く物価高による消費マインドの停滞もあって、業況判断DIが33(前回は34)となり、景況感が若干弱含むと予想している。
 
ちなみに、前回3月調査1では、認証不正問題の影響で大企業製造業の景況感がやや悪化した一方で、インバウンド需要の増加や株高による資産効果を受けて、非製造業では景況感が改善していた(図表2・3)。
(図表2)前回調査までの業況判断DI/(図表3)主な業種の業況判断DI(大企業)
ダイハツの認証不正問題を巡っては、5月にかけて全工場が稼働を再開しており、生産・出荷が徐々に回復に向かっているとみられる。従って、大企業製造業では、自動車生産・出荷の持ち直しが関連業種にも波及する形で景況感の回復に寄与したとみられる。また、世界的に半導体市場が回復に向かっていることも追い風になる。なお、円安に伴う原材料価格上昇が幅広く景況感の抑制に働いたと考えられるが、輸出割合の高い加工業種では円安による輸出採算の改善効果が上回ったと考えられる(図表4~7)。

大企業非製造業では、株高による資産効果や旺盛なインバウンド需要などが支えとなったものの、長引く物価高による消費マインドの停滞や円安に伴う原材料価格上昇の影響がやや勝り、景況感は弱含みそうだ。

中小企業の業況判断DIについては、製造業が前回から3ポイント上昇の2、非製造業が2ポイント低下の11と予想(表紙図表1)。大企業同様、製造業の景況感がやや改善する一方、非製造業ではやや悪化すると見込んでいる。
 
先行きの景況感はバラツキが生じると予想(表紙図表1)。引き続き、円安に伴う原材料高への懸念が幅広く景況感の重石となるが、製造業では、自動車の挽回生産や半導体市場の回復期待が支えとなり、景況感の緩やかな持ち直し継続が示されると見ている。非製造業についても、大企業では定額減税や賃上げ効果による消費回復期待を受けて、景況感がやや改善するだろう。一方、中小企業では、人手不足への懸念が特に強いうえ、もともと先行きを慎重に見る傾向が強いだけに、今回も先行きにかけて悪化が示されると予想している。
(図表4)生産・輸出・消費の動向/(図表5)鉱工業生産の動向(実績・予測)
(図表6)国内延べ宿泊者数の動向/(図表7)ドル円と輸入物価の動向
 
1 回収基準日は前回3月調査が3月13日、今回6月調査が6月13日(基準日までに約7割が回答するとされる)。
(設備投資計画は総じて強めの内容に)
2023年度の設備投資計画(全規模全産業)は前年比7.0%増となり、前回3月調査(10.7%増)から下方修正されると予想(図表8~10)。

例年、6月調査(実績)では、大企業において下方修正が入ることで、全体として下方修正される傾向がある2。さらに同年度については、人手不足による工事の遅れや資材価格高騰を受けて見合わせや先送りになった分も大きいと推測されることから、例年よりもやや大きめの下方修正が入ると予想している。
 
一方、2024年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年比12.6%増と前回3月調査(3.3%増)から大幅に上方修正されると予想。上方修正幅は9.3%ポイントと例年3をやや上回ると見ている。

例年6月調査では年度計画が固まってきて投資額が上乗せされる傾向が強いうえ、既述の通り、今回は前年度からの繰り越し分も大きめになると予想される。資材価格や人件費の上昇を受けて、投資額が嵩みやすくなっている面も押し上げ材料になる。ただし、実態としても、既往の収益回復を受けた投資余力の改善に加え、脱炭素・DX・省力化・サプライチェーンの再構築等に伴う投資需要を背景とした強めの投資計画が示されると見込んでいる。
(図表8)GDP統計 設備投資の動向/(図表9)設備投資計画推移(全規模全産業)
(図表10)設備投資計画の予測表
 
2 直近10年間(2013~22年度)における6月調査(実績)での修正幅は平均で▲2.0%ポイント。
3 直近10年間(2014~23年度)における6月調査での修正幅は平均で+6.5%ポイント
(注目ポイント:物価関連項目)
今回の短観において特に注目されるのは物価関連項目だ。具体的には、企業の価格設定に影響を与える「販売価格判断DI」の先行き(3か月後)や「企業の物価見通し(1~5年後)」が高止まりしたり上振れたりするか?(図表11・12)、賃上げを通じて物価の基調に影響する「雇用人員判断DI」が引き続き人手不足感の深刻さを示しているか?、賃上げの原資となる今年度の「収益計画」が堅調な内容となるか?がポイントになる。これら項目について、全体としての動向だけでなく、中小企業も含めた広がりが見られるかも確認したい。

総合的に見て、今回の短観の内容が「賃金と物価の好循環に伴う基調的な物価上昇率の高まり」に対する日銀の自信を強めるものとなるかどうかが、今後の利上げの蓋然性やペースを占う重要な材料となる。
(図表11)仕入・販売価格DI(全規模)/(図表12)企業の物価見通し(全規模)
(利上げ判断を後押しも、目先はハードル高い)
今回の短観は、企業の景況感こそ全体的に小動きに留まるとみられるものの、強めの設備投資計画に加えて、物価関連項目における物価上昇圧力の継続示唆などがうかがえる内容になることで、日銀にとって「賃金と物価の好循環に伴う基調的物価上昇率上昇」への自信に繋がる材料、すなわち先行きの利上げ判断を後押しする材料になりそうだ。

ただし、日銀は6月の金融政策決定会合(MPM)において、長期国債の買入れ減額方針を決定した上で、次回7月のMPMにおいてその具体的な計画を決定することを表明済みだ。ここで同時に利上げを決定すると、市場金利が想定以上に上振れしたり、市場が消化できずに不安定化したりするリスクがある。植田総裁は7月利上げの可能性を否定していないが(円安けん制の狙いもあるとみられる)、現実的にはハードルが高い。次回MPMにかけて余程円安が進まない限り、日銀がそうしたリスクを積極的に取りに行く可能性は低いと見ている。
 
 

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(2024年06月19日「Weekly エコノミスト・レター」)

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経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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