2024年03月05日

ドイツの民間医療保険及び民間医療保険会社の状況(1)-2022年結果-

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1―はじめに

ドイツの民間医療保険及び民間医療保険会社を巡る状況については、基礎研レポート「ドイツの医療保険制度(2)―公的医療保険の保険者との競争環境下にある民間医療保険及び民間医療保険会社の状況」(2016.4.4)の中で、その現状と国全体の医療保険制度の中での位置付けの全体像について、2014年ベースの数値に基づいて、報告した。その後、毎年の保険年金フォーカスにおいて、直近の状況について報告してきた。昨年は「ドイツの民間医療保険及び民間医療保険会社の状況(1)-2021年結果-」(2023.4.11)及び「ドイツの民間医療保険及び民間医療保険会社の状況(2)-2021年結果-」(2023.4.14)において、2021年ベースの数値に基づいて報告した。

今回と次回のレポートは、基本的にはこれらのレポートを2022年ベースに更新したものである1,2。まずは、今回のレポートでは、民間医療保険の普及状況について報告する。
 
1 ドイツの医療保険制度全体の概要及びその中での民間医療保険の位置付けや各種の制度の具体的な内容等については、基礎研レポート「ドイツの医療保険制度(1)(3)」(2016.3.15~2016.4.18)を参照していただきたい。
2 以下の図表については、基本的には、ドイツ保険協会(GDV)の「Statistical Yearbook of German Insurance 2022」及び民間医療保険連盟(PKV)の「Zahlenportal: www.pkv-zahlenportal.de」からの数値に基づいている。両者の数値は必ずしもベースが同じにはなっていない。また、PKVをデータ・ソースとするGDVの資料についても、GDVの資料に基づく、としている。なお、GDVの資料で必ずしも数値の整合性が取れていないと思われるものについても、原資料の数値を尊重した。

2―民間医療保険の普及状況(1)

2―民間医療保険の普及状況(1)-被保険者数-

この章では、民間医療保険の普及のうちの被保険者数の状況について報告する。

1|代替医療保険
民間医療保険連盟(PKV)の資料に基づくと、以下の図表が示すように、2022年(末)において、公的医療保険を代替する代替医療保険1のうち、完全医療保険1の被保険者数が870万人、介護保険の被保険者数が919万人となっている。ともに、ここ数年間、前年に比べてほぼ横ばいないしは減少し続けている。
代替医療保険の被保険者数
公的医療保険と民間医療保険の間の移動状況については、以下の図表の通りとなっている。

・2011年までは、民間医療保険への流入超過であったが、公的医療保険の加入要件等の制度変更の影響もあり、2012年からは公的医療保険への流出が上回っていた。

・ただし、2015年までの3年間に高い水準で流出していたのに比べると、2016年及び2017年の流出数はそれぞれ1.5千人及び3.7千人で、大きく減少していた。

・2018年はさらに民間医療保険への流入が増加し、7年ぶりに流入が流出を若干上回った。2019年には、民間医療保険への流入がさらに13.2千人増加して146.9千人となり、流出を17.4千人上回った。2020年には、民間医療保険への流入は145.0千人で、流出を20.2千人上回った。2021年には、民間医療保険への流入は引き続き146.5千人と高水準で、流出を23.3千人上回った。

・2022年には、民間医療保険への流入が146.5千人と前年と同水準ながら引き続き高水準であったのに対して、公的医療保険への流出が対前年減少したことから、純増は30.1千人となった。 
公的医療保険と民間医療保険の間の移動状況
(1) 完全医療保険
完全医療保険には、2022年でドイツ国民の約1割にあたる870万人が加入している。

また、完全医療保険の被保険者の構成は、以下の図表の通りとなっており、(1)財政支援3を受けている公務員やその家族等が約半分を占めており、(2)男性が5割、女性が3割強、子どもが2割弱の構成比となっている。
完全医療保険の被保険者構成(2022年)
 
3 公務員やその配偶者、子ども等は、医療給付等に対して、連邦政府や地域や地方当局からの財政的な支援が行われる。
(2) 介護保険
介護保険の被保険者数は2022年において918万人で、完全医療保険に比べて約50万人多い。これは、ドイツポスト(Deutsche Post AG)やドイツ鉄道(Deutsche Bahn AG)の職員が含まれてくることによる影響が大きい。
2|付加医療保険
一方で、公的医療保険に対する付加的な保障を提供する付加医療保険1の被保険者数4は、以下の図表か示すように、2022年で2,291万人となっており、追加の医療保障ニーズへの高まりを反映して、2021年に比べて約71万人増加している。

さらに、商品別にみてみると,外来付加保険が871万人,病院付加保険が656万人,歯科治療保険が1,844万人となっている。2021年との比較では、各保険とも順調に増加してきているが、特に、歯科治療保険が増加率でも3.4%と最も高くなっている。
付加医療保険の被保険者数
 
4 1人の被保険者が複数の契約に加入している場合、複数カウントされる。
(参考)被保険者数の増加率の推移
ここ10年間の被保険者数の増加率の推移をみると、完全医療保険と介護保険については常にマイナスで、被保険者数が減少してきている。一方で、付加医療保険についてはプラスを維持して、被保険者数が増加してきている。また、その増加率についても、2016年までは逓減傾向にあったが、2017年に反転してからは回復傾向にあり、2018年以降は2%以上の水準となっている。なお、完全医療保険と付加医療保険の合計の被保険者数の増加率も、付加医療保険の増加の影響により、回復傾向を示してきていたが、2022年の増加率は、付加医療保険の増加率と同様に対前年若干低下した。
民間医療保険の被保険者数の増加率
3|基本タリフ1
2009年1月から、(代替医療保険を提供する)民間医療保険会社は、公的医療保険の給付サービスに相当する「基本タリフ(Basistarif)」5を提供しなければならなくなった。基本タリフは、民間医療保険連盟が保険監督法に基づいて設計している業界共通の統一料率商品であり、(1)加入時の年齢別に保険料が決定されるが、健康状態は加味されない、(2)保険料水準は公的医療保険の平均最高保険料を上回ってはならない、等の制約がある。

この基本タリフの2022年の加入者数は34,100人であり、前年に比べて200人減少している。2009年の設立当初から、大幅に増加している状況にはない。

なお、1994年に導入された「標準タリフ(Standardtarif)」の加入者数については、2022年において53,000人で、前年に比べて900人の減少となっている。
基本タリフへの加入状況(加入者の加入事由別内訳)/標準タリフへの加入状況
 
5 国民皆保険を実現するための第1段階の措置として、2007年7月からは、「標準タリフ(Standardtarif)」の提供が義務付けられていたが、第2段階の措置として「基本タリフ(Basistarif)」が導入されることになった。
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中村 亮一

研究・専門分野

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