2023年09月21日

欧州大手保険グループの2022年上期末SCR比率の状況について(3)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告(資本取引等)-

文字サイズ

1―はじめに

欧州大手保険グループの2023年上半期決算発表に伴い、ソルベンシーII制度に基づく各種数値等が開示されている。

このテーマに関する前々回のレポートでは、欧州大手保険グループのSCR比率の水準等について、全体的な状況を報告し、前回のレポートでは、各社のSCR比率の推移分析や感応度の推移について報告した。今回のレポートでは、ソルベンシー比率に影響を与える資本管理に関係する取引等のトピックについて報告する。

2―各社の2023年における資本取引等

2―各社の2023年における資本取引等

各社の2023年に入ってからのこれまでの主なソルベンシー比率に影響を与える資本管理に関係する取引等(増減資や劣後債等の発行、子会社や契約ブロックの売買等)とその概要について、各社のプレスリリース資料等に基づいて報告する。なお、一部は、既に保険年金フォーカス「欧州大手保険グループの2022年末SCR比率の状況について(3)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告(資本取引等)-」(2023.4.7)で報告した内容と重複していることを述べておく。
1|AXA
AXAの2023年における主な資本取引等とその概要は、以下の通りであった。

2023年1月4日に、2033 年満期の 7 億 5,000 万ユーロの優先債の発行に成功したと発表した。

2023年2月24日に、投資サービスプロバイダーとの間で、最大11億ユーロの AXA の自社株買い戻しプログラムに関連する自社株買い契約を締結したと発表した。AXA は、この株式買戻しプログラムに従って買い戻された全ての株式を消却予定としている。

2023年2月28日に、AXA SA が Banca Monte dei Paschi di Siena SpA の1億株の株式の2億3,300万ユーロでの売却を成功裏に完了したと発表した。

2023年4月5日に、2043 年満期の 10 億ユーロの劣後債の発行に成功したと発表した。この債券はソルベンシーIIに基づく Tier 2 資本として適格となる。

2023年4月19日に、2054年1月16日期限の7億5百万ポンド、5.625%の劣後Tier 2債券に対する現金公開買い付けを発表した。

2023年7月13日に、総額3億1,000万ユーロの現金でのGroupe Assurances du Crédit Mutuel España(「GACM España」)の買収を完了したと発表した。GACM Españaは、代理店やパートナーの幅広い流通ネットワークを通じて商品を販売しており、2022年のリテール損保と医療部門の総収入保険料が4億ユーロであった。2022年末において、連結ソルベンシーII比率は272%、適格自己資本は3億ユーロだった。

2023年8月3日に、AIGの子会社であるCorebridge Financial Inc.からLaya Healthcare Limited(「Laya」)を6億5,000万ユーロの対価で買収する契約を締結したと発表した。Laya は、アイルランドの健康市場で主導的な地位を占めており、28%の市場シェアを誇り、70 万人近くの保険契約者にサービスを提供し、年間保険料 約8 億ユーロとなっている。AXA はアイルランドに既に拠点を置き、損害保険市場でナンバー 1 の地位を築いているが、この取引により、活況で急速に成長する医療保険市場での事業をさらに拡大することになる。この取引は2023年末までに完了予定で、この取引により、AXA グループのソルベンシーII比率は▲3 ポイントの影響があると想定されている。
2|Allianz
Allianzの2023年における主な資本取引等とその概要は、以下の通りであった。

2023年5月10日に、Allianz SEが最大15億ユーロ規模の新株買い戻しプログラムを決議したと発表した。このプログラムは 2023 年 5 月末に開始され、遅くとも 2023 年 12 月 31 日までに完了するものとし、Allianz SEは買い戻した株式を全て消却する。

2023年7月10日に、ミュンヘンの大手資産運用会社であるGlobal Gate Capital(GGC Group)へのレバノン事業の売却及び譲渡に関する取引を完了したと発表した。この取引により、Allianz グループのソルベンシー資本と現金ポジションは影響を受けない、としている。

2023年9月5日に、Allianzとアフリカ最大のノンバンク金融サービスプロバイダーであるSanlamは、汎アフリカ有数のノンバンク金融サービスを創設する合弁会社であるSanlamAllianzについて規制当局の承認を得たことを発表した。これにより、アフリカ 27 市場でアフリカ大陸の顧客の進化し続けるニーズを満たす革新的な保険及び金融のソリューションとサービスを提供できることになる、と述べた。
3|Generali
Generaliの2023年における主な資本取引等とその概要は、以下の通りであった。

2023年1月19日に、「LTI プラン 2022-2024」と呼ばれるグループの長期インセンティブプランと、実行中のグループのインセンティブ及び報酬プランを目的として、以前に買い戻されたものと合わせて、最大1,050万株の自社株買いを開始すると発表した。

2023年4月20日に、4億9,956万3,000ユーロの永久債の買戻しと4回目のグリーンボンド(2033年4月20日満期の新しいユーロ建てTier 2債券)の発行を無事完了したと発表した。

2023年5月4日に、Frankfurter LebenとGenerali Deutschland Pensionskasseの売却で合意したと発表した。この取引は、生命保険事業のプロファイルと収益性の継続的な改善を通じて収益プロファイルを強化し、資本集約度を削減し、営業成績を向上させるというGeneraliの戦略に沿ったものである。この取引により、グループのソルベンシーII比率が1%ポイント増加する。

2023年6月15日に、Liberty MutualからLiberty Segurosを買収し、欧州保険業界のリーダーシップを強化すると発表した。これにより、スペイン(4位)とポルトガル(2位)での損保ポジションを強化し、アイルランドと北アイルランドに参入する。取引総額は23億ユーロとなり、グループの規制上のソルベンシー比率への影響は約▲9.7ポイントと推定されている。なお、Liberty Segurosは、2022年12月31日時点でソルベンシー比率が330%を超え、強固な資本基盤を有している。

2023年6月30日に、Eurovitaの保険契約者を保護するため、他の保険会社4社(Allianz, Intesa Sanpaolo Vita, Poste Vita and Unipol SAI)と共同で事業を展開すると発表した。

2023年7月6日に、アジア最大の金融機関の一つであるCathay Financial Holdingsの子会社であるCathay Lifeから、保険及び機関投資家向けの世界有数の資産運用会社であるConning Holdings Limited(CHL)を買収して、グローバルな資産管理ビジネスを強化し、Cathay Lifeと長期的なパートナーシップを構築する、と発表した。Conningとその関連会社は、約 1,570 億ドル(1,440 億ユーロ)の運用資産を持ち、保険会社やその他の機関顧客のニーズに応える世界的な資産管理会社である。事業内容としては、Conning(保険及び機関債券)、Octagon Credit Investors(銀行融資、CLO、特殊信用)、Global Evolution(新興市場債券)及びPearlmark(債券及び株式不動産)となっている。この買収により、Generaliの運用資産総額(AUM)は8,450億ドル(7,750億ユーロ)になる。また、CHLがGenerali Investments Holding S.p.A (GIH)に出資した結果、Cathay LifeはGIHの少数株主となる。Cathay Lifeによる GIH の CHL 株式 100% の拠出の対価として、Cathay Lifeは慣例的な決算調整を条件として、決算時点で GIH の株式資本の 16.75% を所有する予定である。なお、Generali又はGIHがCathay Lifeに対して支払うべき現金の前払いはなく、グループのソルベンシーII比率への影響はごくわずかであると想定されている。

2023年9月5日に、サステナビリティボンドフレームワークに従って「グリーン」形式で発行される、総額5億ユーロの2033 年 9 月償還の新しいユーロ建て Tier 2 債券を発行したと発表した。
4|Aviva
Avivaの2023年における主な資本取引等とその概要は、以下の通りであった。

2023年1月12日に、Interserve Pension Schemeとの4億ポンドのバイイン取引を完了したと発表した。

2023年2月10日に、Arcadia Group Pension Schemesとの8億5,000 万ポンドのバイイン取引を完了したと発表した。

2023年4月4日に、DB (UK) Pension Schemeとの4億ポンドのバルク年金契約のバイイン取引を完了したと発表した。

2023年4月17日に、Aviva Ventures にさらに 1 億 5,000 万ポンドを出資し、最初の 150 万ポンドを 個人や組織によるMRI、超音波、X線などの診断スキャンの予約を支援する事業を行っているScan.com に投資すると発表した。

2023年5月5日に、Thomas Cook年金制度の管理委員会との9億ポンドの一括年金買取り取引を完了したと発表した。これにより、Avivaは、12,500 人を超える会員の確定給付型年金債務を保証し、年金保護基金(PPF)の報酬レベルと同等又はそれを超える年金給付を提供することになる。

2023年7月20日に、NTL 1999 年金制度の 1 億 2,000 万ポンドのフルスキームを獲得したと発表したこれにより、Avivaが約650人の会員の確定給付債務を保証し、これらの会員の投資と長寿のリスクを制度から取り除くことになる。

2023年7月24日に、 Barclays UK と35万人の顧客からなる同社の住宅保険ポートフォリオを購入する契約を締結したと発表した。買収は8月に完了予定としている。

2023年9月13日に、Singapore Life Holdings Pte Ltd(Singlife)の株式 25.9% を 2 つの債券とともに住友生命に全額売却することに合意したと発表した。住友生命は、Avivaの株式に対して 5 億ポンド9 億シンガポールドル)、2 つの債券に対して 3 億ポンド(5 億シンガポールドル)、合計8億ポンド(14億シンガポールドル)をクロージング時に対価として支払う予定である。
5|Aegon    
Aegonの2023年における主な資本取引等とその概要は、以下の通りであった。

2023年4月4日に、英国の個人保障ブックをRoyal Londonに売却することを発表した。この取引は、選択した市場で主要なビジネスを創出するための一環として、英国の中核となるリテール及びワークプレイスプラットフォーム活動に集中するというAegonの戦略に基づいている。

2023年6月1日に、ポーランドとルーマニアでの事業のウィーン保険グループAG Wiener Versicherung Gruppe(VIG)への売却が1億2,500万ユーロで完了したことを発表した。これは、ハンガリーとトルコの事業の売却完了に続き、Aegonの中・東欧における保険、年金、資産管理事業のVIGへの完全売却を完了するための最終段階となった。

2023年6月2日に、2億ユーロの余剰現金資本を株主に還元することを目的として、2023年2月9日に発表した自社株買いプログラムを完了したと発表した。

2023年7月4日に、オランダの年金、生命保険、損害保険、銀行業務、住宅ローン組成業務のASRとの統合が完了し、ASRとの資産管理提携が開始することを発表した。取引の一環として、Aegonは22億ユーロの現金収入とASRの株式29.99%を受け取った。この統合により、オランダで第2位の保険会社が誕生することになる。  

2023年7月6日に、15億ユーロの自社株買いプログラムの開始を発表した。不測の事態がない限り2024年6月30日までに完了予定である。

2023年7月21日に、インドの合弁会社であるAegon Life Insurance Companyの株式56%をインドの金融サービス会社であるBandhan Financial Holdings Limitedに売却し、インドの合弁事業から撤退すると発表した。

(参考)Aegonのグループ監督者の変更
Aegonは、2023年6月30日に法定本拠地をバミューダ諸島に移転する意向であると発表した。これに伴い、グループ監督者はDNB(オランダの中央銀行)から、BMA(バミューダ金融庁)に移管される。ただし、本社はオランダのままでオランダの税務居住者であり、Euronext Amsterdamとニューヨーク証券取引所(NYSE)での上場は継続する。

なお、このグループ監督者の変更は、Aegonの資本管理アプローチに重大な影響を与えることはないと述べている。

ASRとの取引完了後、Aegonはオランダで規制対象の保険事業を行わなくなるため、ソルベンシーII制度の下で、DNBがAegonのグループ監督者であり続けることができない。バミューダにはAegonの子会社4社がある。バミューダの規制制度は、EUのソルベンシーII制度及び英国のソルベンシーUK制度との同等性が認められており、さらには米国のNAIC(全米保険監督官協会)によって、適格管轄区域及び相互管轄区域としても指定されている。
6|Zurich
Zurichの2023年における主な資本取引等とその概要は、以下の通りであった。

2023年6月8日に、2022年11月21日に開始した最大18億スイスフランの公募株式買い戻しプログラムが2023年6月7日に完了したと発表した。Zurichは、2022年11月21日以降、平均購入価格438.55スイスフラン、総額18億スイスフランで自社株4,104,413株を買い戻している。自社株買いプログラムに基づいて買い戻された株式は消却予定である。

2023年9月4日に、2013年に発行した5億ユーロの4.25%期限付劣後債を償還するオプションを行使する意向であると発表した。これらの債券の償還日は 2023年10月2日となっている。

3―まとめ

3―まとめ

以上、欧州大手保険グループ各社のプレスリリース資料等に基づいて、2023年に入ってからのこれまでの資本管理に関係する取引等のトピックについて報告してきた。

これまでのレポートでも述べてきたように、2016年1月1日に新たなソルベンシー制度であるソルベンシーIIがスタートして7年半が経過したが、この間、各社は、新たなソルベンシー制度に適切に対応すべく、各社各様の考え方に基づいて、リスク管理や資本管理等で各種の対応を行ってきている。

資本管理の面では、今回のレポートで報告したように、2023年に入ってからも、将来の劣後債務等の償還時期等を見据えた上で、必要に応じて、償還時にその一部等に関して、新たな劣後債務の発行等を行ったりしてきている。また、積極的に地域別の事業展開や事業領域そのものの見直しを行うことで、新たな会社の買収や子会社の売却等を行ってきている。この結果として、各社の戦略の差異等を反映する形で、今回報告している保険グループ間でも、子会社等の売買取引が行われたりしてきている。

こうした各社の資本管理や前回のレポートで報告したリスク管理の考え方等については、適宜あるいは四半期毎の報告書やSFCR(Solvency and Financial Condition Report:ソルベンシー財務状況報告書)等において、一般の投資家向け等にも開示や説明がなされてきている。ただし、各社によって、その説明の内容やそのレベル等は異なっている。

ソルベンシーII制度の下での各種の開示や報告の問題については、現在行われているソルベンシーIIのレビューにおいても、いくつかの見直し提案等が行われているところである。これらの議論の動向も踏まえて、今後の決算時の開示資料や説明資料において、こうした点に関して、さらなる情報提供の工夫や充実が図られていくことが期待されることになる。

いずれにしても、欧州の大手保険グループのソルベンシーIIを巡る状況やそれへの各種対応については、日本の保険会社にとっても大変参考になるものがあることから、今後とも継続的に注視していくこととしたい。
Xでシェアする Facebookでシェアする

中村 亮一

研究・専門分野

(2023年09月21日「保険・年金フォーカス」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【欧州大手保険グループの2022年上期末SCR比率の状況について(3)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告(資本取引等)-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

欧州大手保険グループの2022年上期末SCR比率の状況について(3)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告(資本取引等)-のレポート Topへ