2023年07月04日

欧州保険会社が2022年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(5)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その4)-

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(1-2) 集計及び資本追加
リスクの集計については、ガウス型コピュラに基づく業界標準のアプローチを使用している。相関行列は、コピュラによってモデル化されたリスク間の相互依存性を定義する。可能であれば、10年超にわたる四半期観測を考慮して、過去の市場データを用いて、市場リスクの各ペアについて相関パラメータを導出する。

「内部モデル資本バッファー」と呼ばれる他の効果が様々な理由により考慮される。
内部モデルの範囲に含まれない会社については、保険会社の場合、標準モデルに基づいている。米国子会社等は、第三国同等性原則に基づいて、それぞれのローカル資本要件に基づいている。非保険会社は、銀行や資産運用会社などのそれぞれのセクターの資本要件で含まれる。

なお、Allianzグループは、グループとローカルのSCR算出の両方において、唯1つの内部モデルを適用している。

E.4.3集計及び資本アドオン
リスクを集計するために、ガウス型コピュラに基づく業界標準アプローチを使用する。相関行列は、コピュラによってモデル化されたリスク間の相互依存性を定義する。可能であれば、10年超にわたる観測を考慮して、過去の市場データの統計的分析を用いて、市場リスクの各ペアについて相関パラメータを導出する。過去の市場データ又はその他のポートフォリオ固有の観察が不十分または利用できない場合、相関は明確なグループ全体のプロセスに従って設定される。これは、リスクとビジネスの専門家の専門知識を組み合わせた専用の社内委員会である「相関設定委員会」によって行われる。相関は一般に、相関が参照する要因の全分布間の依存関係を反映するように設定される。全分布間の依存関係を記述する相関関係は、テール(即ち、極端な事象)における特に強い依存関係が想定される場合には、係数によって増加する。十分な品質のデータが利用可能である場合は常に、経験的証拠を使用して専門家の判断を支援する。

「C.リスクプロファイル」の章の分散化セクションで記述されているように、分散化は、異なるリスクはお互いに完全には従属しておらず、必ずしも全てのリスクが同時に実現するわけではないという事実によってもたらされる。これは、内部モデルの相関によって反映される。標準モデルがリスクカテゴリの内部や間を考慮しているのに対して、内部モデルはモデル化された全てのリスクドライバのペアの間の相関を考慮している。それゆえ、内部モデルの分散化効果は標準モデルよりも大きい。追加的な詳細は、以下のセクションで提供される。グループの分散化効果に関するさらなる情報については、「C.リスクプロファイル」を参照のこと。

分散リスク資本を決定するために、前のセクションで説明した方法論を適用して、リスクの同時発生に基づいて200年間のイベントの経済価値の変化が計算される。「内部モデル資本バッファー」と呼ばれる他の効果が、ポートフォリオの質の複製によるリスク資本の潜在的な過小評価、クロス効果を含むバッファーの重要な複数回使用、またはリングフェンスファンドによる分散の喪失などのような、様々な理由で考慮される。ローカルの事業体レベルで、又は特定のモデル構成要素の特定の欠陥に対して、追加のアドオンが適用されることがある。

さらなる資本要件が、内部モデルの範囲に含まれない会社について考慮される。保険会社の場合、これらの要件は標準モデルに基づいている。第三国同等性原則の下で考慮されている会社(主にAllianz Life Insurance Company of North America)については、それぞれのローカル資本要件に基づいている。非保険会社は、銀行や資産運用会社などのそれぞれのセクターの資本要件に従って含まれる。内部モデルを適用しないこれらの事業体の追加的な資本要件は、ファクターベースアプローチに基づいて、グループのソルベンシーII資本要件に集計される。ファクターベースアプローチはグループに対する分散化効果が適切に考慮されることを確実にする。

Allianzグループは、グループとローカルのSCR算出の両方において、唯1つの内部モデルを適用している。ローカルのモデル構成要素が使用できる。しかしながら、ローカルのモデル構成要素とそれらの較正の責任はローカル会社にあり、構成要素はグループのレビューと確認の対象となる。

(2) Aviva
Avivaは、内部モデルの計算のプロセスについて、

リスクの特定→リスク発生確率の決定→リスクの財務上の影響を決定→同時に他のリスクが発生する確率を決定→リスク間の相互作用を考慮→資本要件分布を準備するために多重リスクシミュレーションを使用→資本要件

という図を作成して説明している。

また、「Avivaの内部モデルを使用すると、テールや経験分布のあるものを含め、どの統計分布をリスク要因(死亡率、金利、信用リスクなど)の表現に使用するかを柔軟に決定できる。較正は、標準式に暗黙的に示されているように、リスクが正規分布(または類似分布)に従うと仮定することに限定されない。」と説明している。

E.4.3内部モデルの計算
E.4.3.1使用されている方法
内部モデルの目的は、Avivaがさらされているリスクを識別し、適切に較正された入力を使用してこれらのリスクをモデル化し、それらを集計してSCRを計算することである。内部モデルは、規制要件に準拠して、SCRを直接導き出すことができる(すなわちSCRが99.5パーセンタイルである)1年間の期間にわたる基本自己資本の変動の総計分布を生成する。

当社のアプローチの概要は以下の通り。

内部モデルアプローチ
リスクの特定→リスク発生確率の決定→リスクの財務上の影響を決定→同時に他のリスクが発生する確率を決定→リスク間の相互作用を考慮→資本要件分布を準備するために多重リスクシミュレーションを使用→資本要件

Avivaの内部モデルは、ヘヴィーテールで(裾が重く)経験的な分布のあるものを含め、どの統計分布をリスク要因(死亡率、金利、信用リスクなど)の表現に使用するかを柔軟に決定できる。較正は、標準式に暗黙的に示されているように、リスクが正規分布(または類似分布)に従うと仮定することに限定されない。この柔軟性は、Avivaにとって最も重要なリスクの動作を正確にモデル化するために重要である。

リスク要因の大部分については、統計分布は利用可能な関連データに直接当てはまる。 ただし、損害保険責任リスク、信用リスク、オペレーショナルリスクなど、一部のリスクタイプについては、分布はさらなるモデリングプロセスから導き出される。このアプローチは、これらのリスクタイプの重要性と、リスクの行動が正確に反映されることを確実にしたいという要望の両方を考えると適切である。

較正が適切であり、内部モデルのアウトプットが妥当であることを確認するために、広範囲のテスト及びレビュープロセスが実行される。これらは、ボトムアップでのモデリングプロセスで使用される重要な前提の検証と、較正と損失関数(つまり、貸借対照表上の資産と負債の評価のための資産及び負債管理モデルでの計算の代用として使用される数式)のテストから、トップダウンのストレステスト及びシナリオテスト、損益帰属のテストまで範囲が及んでいる。

Avivaは、ビジネスの様々な構成要素に対するソルベンシー資本要件を計算するために、内部モデルと標準式アプローチの組み合わせを使用して定義された、グループ全体にわたる部分内部モデルの実施を選択した。これらの要素は、一般的にリスクではなく、法人又は個別の事業ブロックである(詳細は上記のE.4.2に記載されている)。内部モデルによる資本計算を標準式の計算と統合するために、部分内部モデルの手法2(委任法の付属書XVIIIに記載)が使用される。

単体ベースとグループベースにおける内部モデルの差異
単体ベースとグループベースとでSCRを算出する際に同じ内部モデルが使用されているとは限らない。ここでは、両者の差異に関するGeneraliの説明内容について報告する。

Generaliは、「法人レベルでのSCRの計算には異なるアプローチが適用される」として、「ローカルに特定の較正に関して、イタリアの会社については、グループ・レベル及び他のPIM事業体の計算とは異なって、イタリア政府債務へのストレスや確率論的ボラティリティ調整は適用されない。」と述べている。これは、イタリアの保険監督当局のIVASSのスタンス等を反映したものとなっている。

E.4.3.内部モデルで使用された方法
法人レベルでのSCRの計算には異なるアプローチが適用される
IMの使用は、グループ・レベルでのSCRの計算と、IM範囲内のエンティティのSCRの計算の両方に対して承認されている。ただし、スイスの法人であるGenerali Assurances Générales SAとGenerali Personenversicherungen SAは、ローカルレベルで引き続きSST(スイス・ソルベンシー・テスト)の資本要件を使用し、スペインの法人Generali España SA de Seguros y ReasegurosとCajamarVida SA de Seguros y Reasegurosは、ローカルレベルで引き続き標準式を使用している。この目的のために、ローカル適合性評価は、モデルと較正が範囲内の会社に対しても適切なままであることを認めている。ローカルに特有の較正に関しては、イタリアの会社の計算については、グループ・レベル及び他のIM事業体とは異なって、イタリア国債へのストレスや確率論的ボラティリティ調整は適用されないことに留意が必要になる。

なお、2020年まではAXAも「個々の会社レベルで使用された内部モデルと、グループのソルベンシー資本要件の計算に使用された内部モデルとの主な違い」について、英国の監督当局である健全性規制機構(PRA)のスタンスによるものとして、(1)AXA Insurance UK plcでは、「動的ボラティリティ調整」の使用が認められない、(2)年金負債の評価で、AXA Insurance UK plc及びAXA PPP healthcare Ltdの単体SCR計算の社債スプレッドの動きに対して、50%のヘアカットが適用される、の2点を挙げていたが、2021年以降のSFCRにおいては、「ソルベンシーII規制に従う個々の会社レベルで使用される内部モデルとAXAグループのSCRの計算に使用される内部モデルの間に差異は存在していない」と説明している。

3―まとめ

3―まとめ

今回のレポートでは、欧州大手保険グループ各社のSFCR(含むQRTs(定量的報告テンプレート))から、使用された内部モデルに関する説明について報告した。

各社とも基本的には2021年のSFCRにおける記述をベースにしているが、必要に応じて、内容についての若干の見直しを行い、一部充実等を図っている。

これまでの5回のレポートで、2022年のSFCRに関しての具体的内容を報告してきた。

次回の基礎研レポートでは、これまでのレポートを総括する形で、各社の内部モデルの適用状況に関して、標準式と使用された内部モデルのリスクカテゴリ毎の差異の説明等の内容について報告する。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2023年07月04日「保険・年金フォーカス」)

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【欧州保険会社が2022年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(5)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その4)-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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