2023年06月28日

欧州保険会社が2022年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(4)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その3)-

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(5) Aegon
AegonのSCRの構成は、以下の図表の通りとなっており、内部モデルによるものが、分散効果控除前のSCRの75.8%を占めている。

内部モデルを適用している会社は、以下の通りである。

Aegon the Netherlands:(Aegon Levensverzekering N.V、Spaarkas N.V.)
Aegon the UK:(Scottish Equitable plc);
Aegon N.V

ソルベンシーIIのSCR計算の対象となるAegon内のその他全ての会社は、標準式を使用している。

Aegonの分散効果による控除率は38.7%と5社の中ではAvivaに次ぐ高い水準となっている。
AegonのSCR(ソルベンシー資本要件)(2022年)
なお、Aegonは、標準式と内部モデルの使用状況について、以下のように図表にまとめて、詳細を報告している。
標準式と内部モデルの使用状況
また、分散効果に関して、以下の説明を行っている。
 

ソルベンシーII PIM SCR内の分散効果
ソルベンシーII PIMの下で、Aegonは国単位及びリスクタイプ間の分散効果を計算する。標準式の構成要素内では、規定されたSF相関行列に従って分散化が決定される。

内部モデル内では、過去のデータと専門家の判断を利用して、全てのリスク要因に対して限界確率分布関数が適合されている。組み合わされた全てのリスク要因の全体的な同時確率分布関数は、リスク間の依存構造を考慮に入れる。この共同分布からのサンプルをシミュレートする200万シナリオからの損失は、全体的な経験的損失分布関数を当てはめるために使用され、これから99.5%のポイントを取ることによって200年の1回の損失を導き出す。

シナリオはシナリオジェネレータと依存構造を使用して生成され、市場データと専門家の判断に基づくリスクドライバー間の依存関係(相関)が定義される。各シナリオには、金利、株式リターン、死亡率などのリスク要因の値が含まれている。

合計ネットSCR(分散効果反映後)は、自己資本における200年に1回の損失の平均によって決定される。分散はリスクタイプの独立型SCRの合計と合計ネットSCRの差として定義される。

ソルベンシーII PIMの内部モデルと標準式コンポーネントの間の分散は、ソルベンシーIIの規定に従って、統合テクニック3(IT3)を使用して計算される。

さらに、以下の説明も行われている。
 

QRT S.25.02.22に示されている2,275百万ユーロ(2021年:3,080百万ユーロ)の分散化には、PIM SCRのSF部分とIM部分の統合及びリスクカテゴリ間の分散化が含まれるが、各リスク要素内の分散化は含まれない。

QRT S.25.02.22のリスクカテゴリ内では、主に次のように各リスクカテゴリ内に分散がある。分散は、内部モデルのリスクタイプ、SFリスクのタイプ、そして最後にIT3の集約によってもたらされる。 グループ全体の分散効果をもたらす様々なリスクタイプ間の相互作用の概要は以下のとおりである。

・市場リスク(MR)の分散は、主に内部モデル内の金利ミスマッチリスクの分散によって推進される。グループのテールシナリオは、スプレッド拡大による損失を伴う信用リスクによって推進され、200年に1年のシナリオを推進する。信用リスク(スプレッド拡大へのエクスポージャー)がSCRの観点からAegonにとって最大のリスクエクスポージャーであるため、信用リスクの分散効果は他の内部モデルのリスクタイプと比較して比較的小さい。不利な信用シナリオには金利低下が伴うが、これはオランダと英国の両国にとって好ましいシナリオとなる。したがって、信用スプレッド拡大シナリオでは、金利ミスマッチリスクの分散というベネフィットがある。 また、当グループは為替リスクについて、特にホールディングスの英ポンド商品と英国の英ポンド建てエクスポージャーとの間で、事業部門全体での分散を実現している。

・保険引受リスク(UR)の分散は、他の引受リスクや市場リスクタイプとの相関が比較的低い長寿リスクによって推進され、結果として分散効果が得られる。QRT S.25.02.22 で報告され、上の表に示されている生命保険引受リスクには、最大の要素として長寿リスクと保険契約者の行動リスクが含まれている。保険契約者の行動リスクには、解約と住宅ローンの繰り上げ返済の両方が含まれる。 引受リスク、特に長寿リスクは、200 年に 1 回のイベントで自己資本の損失総額を引き起こす信用リスクなどの市場リスクタイプとの相関性も低い。したがって、これらのリスクタイプ間の相関関係が低いため、信用リスクが支配的なシナリオではより高い長寿リスクの分散効果が得られることになる。

・その他の資本要件には、OFS事業体(Aegon銀行を含む、他の金融事業体)に加えて、D&A(控除合算法)に基づく事業体(主に米国の生命保険事業体であるAegon Americas)の資本要件が含まれる。AC、OFS、D&A の各事業体の間には、分散化によるメリットはない。

(6) まとめ(各社間比較)
これまでの各社の数値を過去からの推移を含めてまとめると、次ページの図表の通りとなる。

内部モデル適用比率については、AXAが97.0%と5社の中では最も高くなっている。AXAの内部モデル適用比率については、XL事業体について、2019年に同等性評価から標準式に変更になったことにより大きく低下したが、2020年には標準式から内部モデルに変更になったことから再び大きく上昇している。

これに比べて、AllianzとGeneraliの内部モデル適用比率は70%台前半となっている。

なお、2021年から2022年にかけての各社の内部モデル適用比率は、AXA、Allianz及びGeneraliにおいて低下したが、AvivaとAegonにおいては上昇した。

こうした動きを含めて、各社の内部モデル適用比率の状況は、子会社の買収・売却等の事業戦略の差異の影響を受けている要素も大きい。
分散効果控除前のSCR算出における内部モデル適用比率
分散効果による控除率の水準は、Generaliを除けば、ほぼ30%から40%の範囲にある。

なお、各社の数値の水準の差異は、各社の生命保険・健康保険・損害保険の事業構成の比率等を反映したものともなっている。
分散効果による控除率

3―まとめ

3―まとめ

今回のレポートでは、欧州大手保険グループ各社のSFCR(含むQRTs(定量的報告テンプレート))から、内部モデルの使用状況及び分散効果の状況について報告した。

次回のレポートでは、使用された内部モデルに関する説明内容等について報告する。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2023年06月28日「保険・年金フォーカス」)

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