2023年04月28日

海外からの人口流入で、当面は前回より現役世代が増える見通し-新しい将来推計人口を読む(2) 海外からの人口流入の影響

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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2|65歳以上人口:海外から流入した人々の高齢化により、推計期間の後半で前回推計より増加
65歳以上人口については、別稿で今回の推計の概要や前回との違いを確認したため、本稿では海外からの流入の仮定が前回と変わった影響を確認する。

海外からの流入(外国人の入国超過数)を前回推計と同じ水準(6.9万人)と仮定した推計(図表6の今回・流入据置)を見ると、2070年では今回の中位推計を約45万人下回っているだけだが、乖離幅は次第に拡大し、2120年では250万人ほど下回っている。推計期間の後半ほど乖離が大きいのは、推計期間の前半に20~24歳として流入した外国人が推計期間の後半には65歳以上になるためである。

前回の推計と比較すると、海外からの流入を前回と同じ水準と仮定した推計は、2050年頃までは前回の死亡中位と同程度の水準で推移した後、2060年頃からは前回の死亡低位(長寿化が大きいケース)と同程度の水準で推移し、2090年頃からは再び前回の死亡中位と同程度の水準で推移している。このことから、海外からの流入の増加は、現役世代だけでなく高齢世代においても、今回の中位の推計結果が前回の中位の推計結果を上回る要因になっている、と言える。
図表6 65歳以上人口の実績と見通し (今回と前回の比較)
3|15歳未満人口:海外からの流入増加の影響は限定的
15歳未満人口についても、65歳以上人口と同様に、本稿では海外からの流入の仮定が前回と変わった影響を確認する。

海外からの流入を前回推計と同じ水準と仮定した推計(図表7の今回・流入据置)をみると、今回の中位推計と比べて、2070年では約70万人、2120年では80万人ほど低い水準になっている。図表3を見ると15歳未満の外国人の入国超過数は年間約9000人だが、入国者の残留により影響が累積する形になっている。しかし、15~64歳人口や65歳以上人口のように、海外からの流入増加によって前回の中位推計を上回るほどの影響は見られない。

なお、15歳未満人口については、入国した外国人による出産の影響も考えられる。しかし、今回の推計の公表の場となった社会保障審議会人口部会では、来日する外国人は就学や就労のために滞在することや、自国での出生率が低い東アジアからの入国者が多いことが影響して、日本での外国人の出生率は低く8、外国人の出産による影響はそれほど大きくないと説明された。
図表7 15歳未満人口の実績と見通し (今回と前回の比較)
 
8 社会保障審議会人口部会(2023.4.26)の資料2によると、2016~2020年の平均での日本人の合計特殊出生率が1.37だったのに対して、外国人は0.94にとどまっている。将来推計では、この0.94(固定値)を外国人の出生率として用いている。

4 ―― 総括

4 ――― 総括:海外からの流入増で現役世代は前回より増えるが、海外から流入した人々の将来的な高齢化や日本人の出生減の影響に要注意

以上の結果をまとめると、次のように整理できよう。
 
  • 海外からの人口流入(外国人の入国超過数)の仮定は、高水準になった期間にあたる2016~2019年の平均が使われたため、前回と比べて2倍以上の水準となった。なお、外国人の入国超過数の大半は15~29歳である。
     
  • 15~29歳を中心に海外から人口が流入するため、現役世代の人数(15~64歳人口)は前回の推計より増加した。ただし増加幅は、出生率低下の影響が次第に出てくることにより、2060年をピークに縮小する。
     
  • 海外からの人口流入が前回の推計と同程度だと仮定すると、出生率低下の影響で、現役世代の人数(15~64歳人口)は前回の推計よりも減少する。このことから、今回の推計で15~64歳人口が前回の推計を上回ったのは、海外からの流入増加の影響が大きかったと言える。
     
  • 65歳以上人口は、推計期間の後半で海外から流入した人々の高齢化の影響が現れ、海外からの流入増加が、今回の推計結果が前回を上回った要因になったと言える。
     
  • 15歳未満人口では、海外からの流入が一定程度の増加要因にはなっているが、今回の推計結果が前回を上回るほどの影響はなかった。

このように、海外からの人口流入(外国人の入国超過数)が高水準に移行したとみられる影響で、現役世代の人数は前回の推計を上回る結果になった。公的年金などの社会保険制度は国籍に関係なく居住者に対して適用されるため、現役世代の減少抑制が海外からの人口流入によるものだとしても、制度の支え手が前回の推計より増える形になる。他方で、推計期間の前半に流入した外国人は推計期間の後半には高齢世代となる。年金制度で言えば受給者になるため、高齢期に制度どおりに年金を受給できるよう、現役時に勤務先の事業主や本人に社会保険への加入についてきちんと説明し理解してもらうことが、現在より重要になるだろう。

また、当面は海外からの流入増加で現役世代は前回推計より増えるが、将来的には日本人における出生率低下の影響が現れて、増加幅はほとんどなくなる。多くの外国人を受け入れるための社会整備や経済力強化と同時に、子どもを産み育てやすい環境整備も進める必要があろう。
 
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

(2023年04月28日「基礎研レポート」)

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