2023年04月27日

出生率は1.36へ低下し、男性の平均寿命は85歳を超える見通し-新しい将来推計人口を読む(1) 少子化と長寿化の見通し

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ―― 本稿の問題意識:複雑な将来推計人口を読み解く

4月26日に公表された新しい将来推計人口1は複雑な結果となった。出生率の見通しが前回推計より低下したものの、外国人の入国超過の見通しが倍増したために、現役世代の減少が前回の推計よりも抑えられた。ただし、長寿化は引き続き進む見通しとなっており、高齢化率は長期的には前回推計より高まっている。

本稿では、上記のうち少子化と長寿化に着目して、推計の仮定や結果を確認する。

2 ―― 推計の仮定

2 ―― 推計の仮定:出生率は前回より低下し、長寿化ペースは男性で加速(女性は前回なみ)

将来の人口は、現在の人口を出発点に、出生数を加え、死亡数を差し引き、海外との移動を加味して推計される。そのため、出生数の計算基礎となる出生率と、死亡数の計算基礎となる死亡率が、重要な仮定となる。将来は不確実なため、出生率と死亡率について、それぞれ高位・中位・低位の3通りの仮定が設定されている。
1|出生率の仮定:コロナ禍前から見られた低下傾向を反映して、前回より低下
出生率は母親の年齢ごとに異なるため、ある年の15~49歳の年齢別出生率を合計した合計特殊出生率を確認する。

出生率の長期的な水準は、コロナ禍の前から見られた低下傾向を反映して、前回よりも低い設定となった(図表1)。標準的な仮定である中位の合計特殊出生率を見ると、前回の1.44から1.36へと低下した2。なお、今回の推計では、コロナ禍に伴う影響を加味するため、2021年と2022年には実績見込みの値が用いられ、コロナ禍の影響を受ける世代についてはコロナ禍に伴う晩婚化や晩産化が加味されている。このため、近い将来の出生率が低くなっている。
図表1 出生率の実績と見通し(今回と前回の比較)
図表1を見ると、中位よりも未婚化や少産化が進んだ状況を仮定した低位では、長期的な合計特殊出生率が1.13まで低下している。この値は確かに低い水準だが、2006年の推計ではより低い値が仮定されていた(図表2)。今回の低位は、ある程度想定される範囲に収まった、と言えよう。
図表2 出生率の実績と見通し(過去の出生低位との比較)
 
2 中位の長期的な合計特殊出生率は、結果として推計の起点時の値と近い水準になる傾向があるため、事前にある程度の想定が可能となっている。例えば、前回の起点となった2015年は1.45、今回の起点になった2020年は1.33であった。
2|死亡率の仮定:男性の長寿化ペースが加速し、推計期間の更新で平均寿命は男女とも前回を超過
死亡率は年齢ごとに異なるため、ある年の各年齢の死亡率(実際には死亡率の反対概念である生残率)を集約した平均寿命を確認する。

今回の推計では、1970年以降の死亡率3を、長寿化(死亡率の低下傾向)を加味した計量モデルに当てはめて、将来の死亡率を推計している(ただし、2021年と2022年は実績の死亡数から推計している)。標準的な仮定である中位の平均寿命を見ると、男性は前回の84.95歳から85.89歳へと1歳近く延び、女性は91.35歳から91.94歳へと0.6歳ほど延びる見込みになっている。これらの水準は、前回の死亡低位(長寿化が大きい場合)の仮定(男性86.05歳、女性92.48歳)に近くなっている。

前回よりも平均寿命が延びた要因には、推計の終了時点(推計の起点の50年後)が前回よりも5年後ろ倒しになっている影響もあるが、男性については同じ時点で比べても前回推計を上回っており、5年前の想定よりも速いペースで長寿化が進む見込みであることも挙げられる。
図表3 平均寿命の実績と見通し(今回と前回の比較)
これまでの推計と比較すると(図表4)、男性については、今回の中位や実績は前回の低位(長寿化が大きい場合)を下回っているが、2006年推計と2012年推計の低位(長寿化が大きい場合)とほぼ一致している。このことから、男性は想定される中で比較的速いペースで長寿化が進んできた、と言えよう。他方で女性については、今回の中位や実績は過去の低位(長寿化が大きい場合)を下回っている。このことから、女性は、想定される中ではそこまで速くないペースで長寿化が進んできた、と言えよう。
図表4 平均寿命の実績と見通し(今回の死亡中位と過去の死亡低位の比較)
 
3 ただし、東日本大震災が起きた2011年は除外されている。なお、1970年が起点となっているのは前回と同様。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

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