2023年04月04日

欧州大手保険グループの2022年末SCR比率の状況について(2)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告(比率の推移分析と感応度の推移)-

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1―はじめに

欧州大手保険グループの2022年決算発表に伴い、ソルベンシーII制度に基づく各種数値等が開示されている。

前回のレポートでは、欧州大手保険グループのSCR比率の水準等について、全体的な状況を報告したが、今回のレポートでは、各社のSCR比率の推移分析や感応度の推移の状況について報告する。

2―各社のSCR比率や感応度の推移

2―各社のSCR比率や感応度の推移

各社とも、2016年1月からのソルベンシーII制度の実施に向けて、SCR比率の充実や適正な感応度水準の維持に向けた対応を行ってきていたが、2016年以降も、着実に営業利益を積み上げること等で資本の充実を図ってきている。

なお、以下のSCR比率の推移の要因分解は、各社の公表資料に基づいているが、例えば「経営行動(management action)」に何を含めるのか等が、必ずしも統一されているわけではない。さらには、感応度の対象内容やシナリオも各社各様である1。加えて、要因分解に関する情報提供が行われている時期や感応度の対象時期も必ずしも統一されておらず、各社の考え方に基づいている。

なお、2022年上期末の状況については、基礎研レポート「欧州大手保険グループの2022年上期末SCR比率の状況について-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告-」(2022.9.16)で報告しているので、こちらも参考にしていただきたい。
 
1 現在行われているソルベンシーIIのレビューの中で、「感応度に関する情報の標準化」が提案されている。これについては、保険年金フォーカス「EIOPAがソルベンシーⅡの2020年レビューに関する意見をECに提出(4)-助言内容(報告と開示)-」(2021.2.3)を参照のこと。
1|AXA
(1) SCR比率の推移
2022年末のSCR比率は、2021年末の217%から2%ポイント低下して215%となった。

この要因については、以下の通りとなっている。

・通常の自己資本の形成で+23%ポイントとなったが、一方で、主にフランスのサープラスファンド(剰余積立金)の減少によって発生する営業差異▲2%ポイントで一部相殺された。

・2023年の39億ユーロの配当金で▲14%ポイント、26億ユーロの自社株買いで▲10%ポイント

・為替を含む市場の影響で▲3%ポイント、主にインプライド・ボラティリティの上昇と不利な株式市場環境によって発生し、一部金利の上昇によって相殺された。

・経営行動による影響は+1%ポイント、そのうち、グループの株式ヘッジの増加により+2%ポイント、ポートフォリオ管理、特にAXAベルギー契約ポートフォリオの処分で+1%ポイント、AXAシンガポール及びAXAマレーシアの売却完了による影響は限定的、年金給付サープラスに関する資産上限の影響を含むスイスの年金ファンドに対するL&S(生命保険・貯蓄)保有契約への行動(年金移管)で▲2%ポイント

・規制/モデルの変更による影響は+4%ポイント、そのうちIBOR(銀行間調達金利指標)移行に伴う特定のEIOPAリスクフリー・レートの変更による一時的な好影響が+5%ポイント、フランス・ドイツを中心としたモデル改善により+2%ポイント、欧州規制の解釈変更に伴うAXA XLを中心とした子会社発行劣後債の不適格性により▲3%ポイント、UFRの15bpsの引き下げにより▲2%ポイント

・劣後債及びその他の影響は、主に▲4億ユーロの裁判所判決によるAXA SAの税金資産減損の償還の影響を反映しており、劣後債の償還と3億ユーロの発行のネットの動きで相殺されて、+0%ポイント
AXAのSCR比率推移の要因
(2) 感応度の推移
2022年末の感応度は、2021年末に比べて、金利の感応度が若干低下した一方で、株式の感応度が若干増加した。

なお、2020年末から、ユーロソブリンスプレッド(ユーロソブリン債とユーロスワップレートの差)とクレジット削減(社債の20%が3ノッチ格下げされる前提)に対する感応度が新たに開示されており、2022年末には、前者が+50bpsで▲9%ポイント、後者が▲4%ポイントとなっている。さらに、2022年はインフレーションスワップカーブ+50bpsに対する感応度が開示され、+3bpsとなっている。

なお、AXAは適格自己資本の感応度も開示している。
AXAの感応度の推移
2|Allianz
(1) SCR比率の推移
2022年末のSCR比率は、2021年末の209%から8%ポイント低下して、201%となった(なお、Allianzは、基本的には技術的準備金の経過措置を適用していないが、これを適用した場合には、230%になるとしている)。

この要因については、以下の通りとなっている。

・営業利益による資本形成とビジネス進展による影響が+27%ポイント(税及び配当控除後で+8%ポイント)

・市場による影響は▲19%ポイント(税引き後で▲13%ポイント)で、株式市場の下落、国債の信用スプレッドの拡大、金利やボラティリティの上昇、ロシア/ウクライナの投資の市場価値の低下によるマイナスの影響が、一部金利の上昇で相殺された。

・経営行動及び資本管理の影響は▲2%ポイントで、このうち、様々なリスク削減策による経営行動で+12%ポイント、配当支払(45憶ユーロ)、自社株買い(20億ユーロ)の影響が一部劣後債務取引(10億ユーロ)によって相殺されたことによって、資本管理が▲14%ポイント

・規制/モデルの変更による影響は、UFRの更新等で▲3%ポイント

・その他には、Allianz GI U.S. Structured Alpha案件2に対する 19 億ユーロの追加引当金(第1四半期に計上)等による影響が含まれる。
AllianzのSCR比率推移の要因
また、自己資本とSCRへの影響は、以下の図表の通りとなっている。自己資本は、市場の影響で、含み損益が大きく減少したことの影響を主因として、81憶ユーロ減少した。
Allianzの自己資本及びSCR推移の要因
 
2 これについては、保険年金フォーカス「欧州大手保険グループの2022年上期末SCR比率の状況について(3)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告(資本取引等)-」(2022.9.22)で報告しているので、参照していただきたい。
(2) 感応度の推移
国債に対する信用スプレッドによる感応度は、2020年末が高かったが、2021年末に続いて、2022年末もさらに低下している。また、2019年末には株式の感応度が大きく上昇していたが、2022年末は若干低下している。

なお、統合ストレスシナリオによる場合の感応度は、個々の感応度の合計に比べて、クロス効果により追加の▲1%ポイント(2021年末では▲8%ポイント)の影響があるとしている。
Allianzの感応度の推移
3|Generali
(1) SCR比率の推移
2022年末のSCR比率は、2021年末の227%から6%ポイント低下して、221%となった。

この要因については、以下の通りとなっている。

・営業利益の計上による資本形成で+19%ポイント

・市場状況の好調な進展(金利の上昇が株式市場の低下とスプレッドやボラティリティやインフレの上昇で一部  相殺)で+3%ポイント

・配当等の資本移動で▲11%ポイント

・規制変更等(UFRの▲15bpの引き下げ等)により▲5%ポイント

・M&A(主として、インド、マレーシア及びフランスでの買収に関連)で▲12%ポイント
通常の資本形成により、SCRを超過する自己資本は、40億ユーロ増加しているが、このうち生命保険事業が31億ユーロ、損害保険事業が14億ユーロ、その他で▲4億ユーロとなっている。
GeneraliのSCR比率推移の要因/Generaliの自己資本とSCRの推移の要因
(2) 感応度の推移
2022年末は、2021年末と比較して、金利に対する感応度が大きく低下している。

社債スプレッドの拡大による影響は、2019年からプラスとなっていたが、2022年はマイナスとなっている。

なお、イタリア国債のBTP(イタリア国債)スプレッド+100bpsによる影響は、2021年までの3年間は二桁のマイナスと大きなものになっていたが、2022年は▲5%ポイントとなっている。

Generaliは、Own Funds &Life New Business Supplementary Informationの中で、自己資本の感応度も開示している。
Generaliの感応度の推移
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中村 亮一

研究・専門分野

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