2022年11月09日

インドの保険監督規制を巡る動向-IRDAIによる一連の改革の状況(その1)-

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4―その他の主要な規制の見直し等の動向―最低資本金、販売目標の設定等―

1|最低資本金の引き下げ
IRDAIは、新しいプレーヤーが保険事業を開始するための最低要件である資本要件について、10 億ルピー(1,320 万ドル)の資本を見直すことを検討している。

最低10億ルピーの資本基盤では、ニッチプレーヤーは保険市場に参入できないことから、彼らに門戸を開くために、企業の規模と運営、適用される保険免許の種類に応じた資本要件に移行することを検討している。

これにより、保険セクターへの参入障壁が軽減され、マイクロ保険、農業保険や地域に焦点を当てた保険会社等の、より多くのニッチな保険会社が市場に参加し、Tier 2 及びTier 3 に分類される都市12からのプレーヤーの参加が強化されることで、保険の普及率がより一層向上していくことが期待されている。
 
12 Tier1がデリー、バンガロール、チェンナイ、ムンバイ、コルカタ、アーメダバード、ハイデラバードといった最も発展した都市で、Tier2がその次にランクされる100程度の都市、Tier3は発展途上の都市となる。
2|販売目標の設定
IRDAIは普及率を高めるために、各保険会社の販売目標を設定することも検討している。

IRDAIは、7月に生命保険会社と損害保険会社が今後5年間で保険の普及率を高めるための成長目標を設定した。これによると、保険会社は2027年までに保険普及率を少なくとも2倍にする(生命保険セクターでは、普及率を3%から6%に引き上げる)ための目標を設定されている。IRDAIはまた、保険の浸透を促進するための推進を主導すべき各保険会社の州を特定している。

生命保険会社のManaging Directors及びCEOへの電子メール通信で、IRDAIは、各保険会社の総保険料(GWP)の成長目標(トップTierの保険会社に対しては30%の年平均成長率(CAGR)を、中小保険会社に対しては40%~50%のCAGR)を提案したとされている。

いずれにしても、これはIRDAIによる保険市場の成長と促進に向けた強い取組姿勢を示しているとされ、IRDAIは、現在世界第10位のインドの保険市場の規模が、近い将来に世界第6位の規模になることを目指している(Swiss Re Instituteが2022年7月13日に公開した報告書 Sigma4/2022「世界の保険:インフレリスクの最前線と中心(World insurance:inflation risks front and centre)」13によれば、予測された成長ペースで、インドは2032年までにドイツ、カナダ、イタリア、韓国を抜いて、世界第6位の保険市場になると予想されている)。
3|保険業務のデジタル化に向けた取り組み14
(1)電子保険契約に関するガイドライン草案の発行
IRDAIは、9月29日に、電子形式の保険契約及び提案書の発行及び提出に関するガイドライン案を発行15した。「2022年IRDAI(電子保険契約の発行)規則(Issuance of e-Policies Regulations 2022)草案」の中で、IRDAIは、保険業務の効率化を促進し、保険契約の電子勧誘及びサービス提供の適切な枠組みを提供するために、電子保険契約の発行に関する現行の規制が見直されるとした。

規制で提案されている主要な変更の一部は次のとおりである。  

a.電子プラットフォームによる保険契約の勧誘及びサービス
b.全ての募集モードにおける電子保険契約の発行
c. 電子保険契約を保持するための電子保険口座の使用の義務付け

IRDAIは、全ての保険契約者に電子保険口座 (eIA) を必須とし、保険契約者に発行される全ての保険は保険契約者のeIAに保持されることを強調している。全ての保険会社は、保険契約者が選択した登録済みの保険レポジトリ(Insurance Repository)16のいずれかを通じて、保険契約者ごとに一意の eIA 番号が作成されるメカニズムを導入する。eIA が作成されると、別の eIA を作成することなく、全ての保険会社がそれを使用する必要がある。

公開草案はまた、直接又は保険仲介業者を介して電子モードで保険事業を勧誘する全ての保険会社は、勧誘される商品に関して、物理的な提案書と一致する電子提案書を用意しなければならない、と述べている。電子提案書フォームには、適用可能な規定に従って、適合性評価フォームとカスタマイズされたメリットの図も含まれる。

(2)デジタル保険取引所の創設
IRDAIは、全ての生命保険及び損害保険契約が掲載されるオンラインプラットフォームであるデジタル保険取引所のBima Sugamを承認した。2023年に運用を開始する可能性がある。

保険セクターを変革するこの取引所は、保険の購入、請求の決済、その他の機能などの保険サービスを提供し、IRDAIによって監視される。

ブローカー、保険代理店、銀行及びPolicy Bazaarのようなアグリゲーターは、Bima Sugam を通じて個人に保険契約を販売する際の仲介者又は橋渡し役として機能する。  
オンラインプラットフォームの確立は、電子保険契約の発行や、全ての保険契約者に保険レポジトリを備えたデジタル保険口座を持たせることなど、保険業務をデジタル化するIRDAIの計画に沿ったものである。
 
14 インドにおける保険業務のデジタル化に向けた取り組みについては、別途のレポートで詳しく報告することとし、ここでは概略のみを述べている。
15 https://www.irdai.gov.in/ADMINCMS/cms/whatsNew_Layout.aspx?page=PageNo4818&flag=1
16 保険契約のデータベースで、IRDAIにより、2013年9月に設立された。

5―まとめ

5―まとめ

以上、今回のレポートでは、Shri Debasish Panda氏の長官就任後のここ8カ月のIRDAIの動きのうち、IRDAIの改革に向けてのスタンスやその具体的な改革項目等について報告してきた。

次回の保険年金フォーカスで、さらなる規制改革の動きを報告する。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2022年11月09日「保険・年金フォーカス」)

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レポート紹介

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