2022年11月02日

テレワークで生産性低下/向上を感じた人の特徴-テレワークで生産性が上がった人/下がった人(8)-

保険研究部 准主任研究員 岩﨑 敬子

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1――はじめに

本稿を含めて全8回の基礎研レターでは、2022年3月にニッセイ基礎研究所が独自に行ったアンケート調査のデータを用いて、テレワーク拡大によってどのような人は生産性が高まったと感じ、どのような人は生産性が下がったと感じたのかを分析した結果を紹介してきた。本稿は、そのうち最後回となる第8回目として、左辺をテレワークをするようになって感じた生産性の変化、右辺をこれまで紹介した生産性に影響を及ぼすと考えられる様々な要因等として推定した線形回帰モデルの推定結果を紹介し、全体の結果を要約する1
 
1 本稿の分析で用いたデータについての詳細は、以下を参照。
 岩﨑敬子(2022年9月14日)「会社員/公務員がテレワークによって感じた生産性の変化概況-テレワークで生産性が上がった人/下がった人(1)―」(https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=72366?site=nli

2――テレワークをするようになって生産性が上がった人/下がった人

2――テレワークをするようになって生産性が上がった人/下がった人

表1は、左辺をテレワークをするようになって感じた生産性の変化、右辺をこれまで紹介した生産性に影響を及ぼすと考えられる様々な要因として推定した回帰分析の結果である。列1は、日本で新型コロナ拡大が始まって以降(2020年1月以降)テレワークを行った人へ、「在宅勤務・テレワークで仕事をする時、勤め先に出社して仕事をする場合と比べて、仕事の生産性をどう感じましたか。」という質問の回答を被説明変数に用いている。具体的には、「生産性が向上した」を選択した場合は5、「生産性がやや向上した」は4、「変わらない」は3、「生産性がやや低下した」は2、「生産性が低下した」は1を取る変数である。列2と列3の被説明変数も同様の質問を用いている。列2の被説明変数は、「生産性が向上した」、もしくは「生産性がやや向上した」と回答した場合に1を取るダミー変数で、列3の被説明変数は、「生産性が低下した」、もしくは「生産性がやや低下した」と回答した場合に1を取るダミー変数である(列2と列3は線形確率モデル)。
表1.線形回帰モデルの推定結果
表1.線形回帰モデルの推定結果(続き)
表1の結果からは、これまでの基礎研レター(テレワークで生産性が上がった人/下がった人(1)~(7)3)で見てきたように、年齢が低い人や年収が高い人(700万円以上)が、テレワークによって生産性が向上したと感じた傾向が確認できる。また、男性よりも女性の方が生産性が向上したと感じた傾向もみられる。

夏休みの宿題については、終わりの頃にやった人ほど、テレワークによって生産性が低下したと感じた傾向も確認できる。さらに、住まいについては、寮、社宅、官舎に住む人は、生産性が低下したと感じた傾向が確認できる。加えて、賃貸住宅に住む人の方が、持ち家の人に比べて、生産性が向上したと感じた人の割合が小さい傾向もみられる。また、利他性が強い人は、利他性が強いほど生産性が向上したと感じにくく、生産性が低下したと感じやすい傾向も確認される。

さらに、「配偶者のいる女性は、テレワークで生産性の低下を感じた傾向―テレワークで生産性が上がった人/下がった人(3)―」4で紹介した記述統計で示された、同居の配偶者・パートナーのいる女性はテレワークで生産性の低下を感じた傾向が、様々な要因を調整した上でも見られるのかを確認するため、同居の配偶者・パートナー有と女性の交差項を説明変数に含めた。結果、この交差項は、列1ではマイナス、列3ではプラスに統計的に有意である。つまり、様々な要因を調整した上でも、女性は同居の配偶者・パートナーがいる場合、生産性が低下したと感じた傾向が確認される5
 
2 利他性の計測には、独裁者ゲームと呼ばれる実験で使われる「あなたは、今調査会社から1000円を渡されたとします。この1000円を、日本人全体からランダムに選ばれただれかと、あなたが決めた配分で分けることができるとします。あなたはどのように配分しますか。」という質問を用いた。利他性の変数は、相手への配分額が大きいほど大きい値を取る変数としている。
3 岩﨑敬子(2022年9月14日)「会社員/公務員がテレワークによって感じた生産性の変化概況-テレワークで生産性が上がった人/下がった人(1)―」(https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=72366?site=nli
岩﨑敬子(2022年9月21日)「低年齢層ほどテレワークで生産性が向上したと感じた傾向-テレワークで生産性が上がった人/下がった人(2)―」(https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=72393?site=nli
岩﨑敬子(2022年9月28日)「配偶者のいる女性は、テレワークで生産性の低下を感じた傾向-テレワークで生産性が上がった人/下がった人(3)―」(https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=72456?site=nli
岩﨑敬子(2022年10月5日)「高年収層はテレワークで生産性が向上したと感じた傾向-テレワークで生産性が上がった人/下がった人(4)―」(https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=72521?site=nli
岩﨑敬子(2022年10月12日)「寮/社宅に住む人はテレワークで生産性が低下したと感じた傾向-テレワークで生産性が上がった人/下がった人(5)―」(https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=72589?site=nli
岩﨑敬子(2022年10月19日)「現在バイアスが強い人は、テレワークで生産性低下を感じた傾向-テレワークで生産性が上がった人/下がった人(6)―」(https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=72660?site=nli
岩﨑敬子(2022年10月26日)「利他性が強い人はテレワークで生産性低下を感じた傾向-テレワークで生産性が上がった人/下がった人(7)―」(https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=72773?site=nli
4 岩﨑敬子(2022年9月28日)(https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=72456?site=nli
5 本分析は株式会社クロスマーケティングのモニター会員を対象に実施した Web 調査に基づくものであり、日本の公務員/会社員全体の傾向とは異なる可能性がある点に注意が必要である。また、本分析は、生産性と様々な変数との相関関係を確認しているもので、因果関係を示しているとは言えない点にも注意が必要である。

3――おわりに

3――おわりに

本稿を含めて全8回の基礎研レターでは、ニッセイ基礎研究所の独自調査のデータを元に、新型コロナ拡大以降テレワークを行った人の間では、どういった人がテレワークによって生産性が向上したと感じ、どういった人は生産性が低下したと感じたのか、その傾向を確認してきた。なぜ本稿で紹介したような傾向が見られるのかという要因については今後の検討課題であるが、夏休みの宿題を夏休みの終わり頃に行った人(現在バイアスが強い人)や、利他性が強い人はテレワークによって生産性が低下したと感じた傾向からは、こうした心理的特性を考慮したテレワークシステムの整備が重要である可能性が示唆される。さらに、年収の高い人や持ち家の人は生産性が向上したと感じた傾向が見られたこと、配偶者・パートナーと同居している女性は生産性が低下したと感じた傾向が見られたことからは、家庭環境を含めて、テレワークを行う環境の整備が、テレワークで生産性を高めるために重要であることが示唆されるだろう。
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保険研究部   准主任研究員

岩﨑 敬子 (いわさき けいこ)

研究・専門分野
応用ミクロ計量経済学・行動経済学 

経歴
  • 【職歴】
     2010年 株式会社 三井住友銀行
     2015年 独立行政法人日本学術振興会 特別研究員
     2018年 ニッセイ基礎研究所 研究員
     2021年7月より現職

    【加入団体等】
     日本経済学会、行動経済学会、人間の安全保障学会
     博士(国際貢献、東京大学)
     2022年 東北学院大学非常勤講師
     2020年 茨城大学非常勤講師

(2022年11月02日「基礎研レター」)

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