2022年09月22日

欧州大手保険グループの2022年上期末SCR比率の状況について(3)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告(資本取引等)-

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1―はじめに

欧州大手保険グループの2022年上半期決算発表に伴い、ソルベンシーII制度に基づく各種数値等が開示されている。

このテーマに関する前々回のレポートでは、欧州大手保険グループのSCR比率の水準等について、全体的な状況を報告し、前回のレポートでは、各社のSCR比率の推移分析や感応度の推移について報告した。今回のレポートでは、ソルベンシー比率に影響を与える資本管理に関係する取引等のトピックについて報告する。

2―各社の2022年における資本取引等

2―各社の2022年における資本取引等

各社の2022年に入ってからのこれまでの主なソルベンシー比率に影響を与える資本管理に関係する取引等(増減資や劣後債等の発行、子会社や契約ブロックの売買等)とその概要について、各社のプレスリリース資料等に基づいて報告する。なお、一部は、既に保険年金フォーカス「欧州大手保険グループの2021年末SCR比率の状況について(3)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告(資本取引等)-」(2022.4.12)で報告した内容と重複していることを述べておく。
1|AXA
AXAの2022年における主な資本取引等とその概要は、以下の通りであった。

2022年1月6日に、2042年満期の12.5億ユーロの劣後債の発行が成功したことを発表した。この取引は、ソルベンシーIIの下でTier2資本として適格となる。

2022年2月11日に、AXA Insurance Pte Ltd(「AXA Singapore」)のHSBC Insurance(Asia-Pacific)Holdings Ltdへの現金対価総額5.29億米ドル(4.63億ユーロ)での売却を完了したと発表した。

2022年2月24日に、2022年4月27日までに最大5億ユーロの自社株を買い戻すと公表した。なお、これらの買戻し株は全て消却される予定としている。

2022年5月25日に、2043年満期の Reg S 劣後債 12 億 5000 万ユーロを機関投資家向けに発行したことを発表した。この債券は、AXA XL の2025年満期、5億米ドル、4.45% 劣後債とAXA XLの2047年満期、5億ユーロ、3.25% 劣後債(2027 年に償還可能)で構成され、グループの未払債務の一部の借換えを含む、一般的な企業目的に使用される。債券は、規制当局及び格付け機関の観点から、適用される制限内で資本として扱われる。この取引は、債券がソルベンシーIIに基づくTier 2資本として適格となるように構成されている。

2022年7月1日に、AXA Group の持株会社である AXA SAが、2022年6月30日のキャプティブ再保険会社である AXA Global Reとの合併に続き、以前に発表した AXA Groupの内部再保険会社への転換を完了したことを発表した。AXA SAは、2022年1月1日まで遡って有効で、毎年更新可能な 25%のクォータシェア再保険契約を通じて、2022年に特定の欧州のP&C キャリアに再保険をかける。

2022年7月14日に、AXA Germany がドイツの認可保険会社であるAthora Deutschland GmbH (Athora Germany)に、160億ユーロの生命保険及び年金保険準備金のポートフォリオを売却する契約を締結したことを発表した。ポートフォリオは2013年以降、新契約を閉鎖しており、主に従来型の貯蓄型保険で構成されている。平均保証利率は3.2%である。売却による AXAの貸借対照表に対する保証の減少は、金融市場リスクに対するグループのエクスポジャーをさらに減少させる。

契約条件に基づき、AXA Germany はポートフォリオを Athora Germanyに6億6,000万ユーロで売却する。この売却により、AXA SA は推定4億ユーロの正味現金収入を得ることが見込まれる。AXA は、取引完了後に開始される株式買戻しにより、売却による利益の希薄化を相殺する予定である。取引の一環として、AXA IMは 2028 年まで資産管理サービスをAthoraに提供する契約を締結している。

この取引により、AXA グループの基礎的収益が2023年以降、年間3,600万ユーロ減少すると予想される。AXA グループのソルベンシーII比率に与える影響は軽微である。また、この取引が完了すると、グループに設定した従来の一般勘定準備金の削減目標である300~500億ユーロのうち、240億ユーロが確保されることになる。

この取引は、規制当局の承認を含む慣習的な完了条件の対象となり、現在、2023 年の第 4 四半期に完了すると予想されている。

2022年8月3日には、最大10億ユーロの新たな自社株買戻しプログラムを開始することを発表した。8月4日に公表された投資サービスプロバイダーとの株式買戻し契約の締結により、2022年8月 8日から遅くとも 2022年11月18日までに株式が買い戻される。AXAは、最大10億ユーロの自社株買戻しプログラムに関連して買い戻された全ての株を消却する予定である。

2022年8月29日には、以下の 2 つのシリーズの AXA SA劣後債に対する現金公開買付けを発表した。

・1,250百万米ドル  8.60%  2030年12月15日満期の劣後債
・7億5000万米ドルのシリーズ B  固定・変動金利永久超劣後債1(2036年の最初のコール日まで6.379%のクーポン)

各公開買付は、2030年12月15日満期の8.60% 劣後債に関しては最大入札額 5億米ドル、固定・変動金利永久超劣後債に関しては最大入札額 3 億米ドルを条件としている。

2022年8月30日には、マレーシアでの保険事業であるAXA Affin General Insuranceの49.99% の株式保有と AXA Affin Life Insuranceの49%の株式保有のGeneraliへの売却を完了したことを発表した。
 
1 「超劣後債(Deeply Subordinated Notes)」は、発行者の直接的、無条件、無担保及び最低ランクの劣後債務を構成し、これらは、相互に、また現在及び将来の他の全ての超劣後債務と優先順位付け及び優先順位付けされることになるもので、発行者によって発行された参加債券及び発行者に付与された参加型ローンよりも下位であり、発行者の通常の劣後債務及び非劣後債務よりも下位となるもの、である。
2|Allianz
Allianzの2022年における主な資本取引等とその概要は、以下の通りであった。

2022年1月4日に、Allianz Franceの貯蓄契約ポートフォリオ(ユニットリンク資産の60%で総額21億ユーロ)をCNP Assurancesに譲渡することを発表した。

2022年2月11日に、European Relianceの72%を2.07億ユーロ相当で取得する株式購入契約を発表した。統合される会社はギリシャでナンバーワンの損害保険会社になる、としている。

2022年2月17日に、最大10億ユーロの新しい株式買戻しプログラムを発表した。

2022年3月24日に、Allianz Ayudhya Capital PCL(AYUD)がAetna Thailandを買収し、タイの保険市場でのプレゼンスをさらに拡大すると発表した。

2022年5月4日に、アフリカ最大のノンバンク金融サービス会社であるSanlamと、アフリカで 1 世紀の歴史を持つ世界有数の保険会社及び資産運用会社の1つであるAllianzが、現在及び将来の事業をアフリカ全体で統合し、最大の汎アフリカノンバンク金融サービス事業体を構築すると発表した。

SanlamとAllianzの事業統合により、アフリカ大陸の29か国で事業を展開する一流の汎アフリカノンバンク金融サービス事業体が誕生する。合弁会社は、汎アフリカ最大の保険会社となり、事業体が事業を行う大部分の市場で上位3位にランクされると予想される。事業体は、330億南アフリカランド(約20億ユーロ)を超える合計グループエクイティバリュー(GEV)を持つと予想される。

2022年5月17日に、Allianz SE は、間接子会社であるAllianz Global Investors U.S. LLC(AGI US)が、米国司法省(DOJ)及び証券取引委員会(SEC)と、Structured Alpha問題に関して和解した、と発表した。DOJ の決議に従い、AGI USは 1 件の刑事証券詐欺について有罪を認め、SEC の決議により、AGI US は関連する米国証券法に違反したことが立証された。これらの和解は、AllianzのStructured Alpha問題に関する米国政府の調査を完全に解決するものである。和解に関連して、AGI US は DOJ に1億7,430 万米ドルの罰金を支払い、SECには投資家への補償として使用される可能性がある6億7,500 万米ドルのペナルティを支払う。DOJ と SEC が対処するその他の金銭的義務は、Structured Alphaの投資家に支払われる約 50 億米ドルの補償によって満たされているか、又は満たされる予定である。このような支払額と 50 億米ドルの補償は、2021 年と 2022 年第 1 四半期に設定された引当金に既に反映されている。

また、同じく2022年5月17日に、Allianz GIとVoya Financialが長期的な戦略的パートナーシップを締結する計画を発表した。これによると、(1)Allianz GIは特定の米国の投資チームと資産を Voya Investment Management (Voya IM) に譲渡し、Voya IMのAUM(運用資産残高)がプロフォーマベースで約3,700億ドルに増加、(2)Allianz GIとVoya Investment Managementは、米国外の全てのVoya Investment Management戦略の長期的な戦略的販売パートナーシップを確立、(3)Allianz GIが Voya IMの最大24%の株式を取得、となっている。

2022年6月3日に、ロシア事業の過半数株式をロシアの損害保険会社 Zetta Insuranceの所有者である Interholding LLCに売却することに合意したと発表した。取引が完了すると、Allianzは合併会社の49.9%の少数株を保有することになる。この取引は、主に株主資本による外国為替のマイナスの影響の再分類により、Allianzの損益計算書に約4億ユーロのマイナスの影響を与えると推定されている。グループのソルベンシー資本とキャッシュポジションは影響を受けない。

2022年6月29日に、Allianz Asia Pacific(Allianz)と The Hongkong and Shanghai Banking Corporation Limited(HSBC)は、アジアの主要市場をカバーする独占的なバンカシュアランス販売契約を 15 年間延長することを発表した。2012 年以来、アジア太平洋地域におけるAllianzと HSBCの戦略的パートナーシップは、地域全体において強力でレジリエントなバンカシュアランス事業を形成してきたが、これが2036年まで延長され、HSBCは引き続き、この地域における保障、教育、退職、ウェルス、遺産のニーズの分野で、Allianzの保険商品を販売していくことになる。
3|Generali
Generaliの2022年における主な資本取引等とその概要は、以下の通りであった。

2022年1月27日に、インドの生命保険会社Future Generali India Insurance Company Limited(FGII) と 損害保険会社Future Generali India Life Insurance Company Limitedの両方で、最初の国際的プレーヤーとして、インドの保険合弁事業の過半数株主になると発表した。その後3月30日に、関係者からの必要な全ての承認を受けた後、Industrial Investment Trust Limited(IITL)が保有するFGLIの全株式(約16%)の取得と、FGIIの追加株式の引受を完了し、インドの生命保険会社の過半数株主になると発表した。さらに2022年5月6日に、関連する規制当局及び競争当局から承認を受け、取引が完了し、FGIIの約74%の株式を保有している、と発表した。

2022年5月30日に、2042年7月満期の全ての劣後債7.5億ユーロ(現在の未払元本金額3.0億ユーロ)に関して、2022年7月10日に早期償還オプションを行使する、と発表した。

2022年6月29日に、サステナビリティボンドフレームワークに従って「グリーン」形式で発行された、5億ユーロの2032年7月満期の新しいユーロ建Tier 2債券を発行した、と発表した。これはGeneraliにとって3回目のグリーンボンドの発行になる。

2022年7月1日に、関連する規制当局及び競争当局からの必要な全ての承認を受けて、CRÉDIT AGRICOLE ASSURANCES からの LA MEDICALE の買収及びLa Mé dicale が販売及び管理する死亡保障ポートフォリオの Predica からの購入を完了した、と発表した。この買収は、独立した医療専門家の特定のネットワークを獲得することにより、代理店を通じての販売を強化し、専門家市場での地位を強化するという Generaliの戦略の一環である。

2022年8月2日に、2022年4月29日の株主総会の決議に基づいて、8月3日から、12月31日までに、総額最大5億ユーロの自社株買いを行う、と発表した。

2022年8月30日に、マレーシアの AXA-Affin合弁会社の買収と MPI Generaliの100%の買収を完了した、と発表した。Generali は AXA Affin Life Insuranceジョイントベンチャーの70%の株式(AXA から49%、Affinから21%)と AXA Affin General Insuranceジョイントベンチャーの約53%の株式(AXA から49.99%、Affinから3%)を取得した。

グループはまた、MPI Generali Insurans Berhadの現在の49%の株式保有を、マレーシアのジョイントベンチャーパートナーである Multi-Purpose Capital Holdings Berhad (MPHB Capital) が保有する株式を取得することで100%に増やした。

Generaliは、MPI Generaliと AXA Affin Generali Insuranceの事業を統合する予定であり、完了時には統合後の会社の70%を保有することになる。Affin Bankが、生命保険事業と損害保険事業の30%を保有する。

全ての事業体は、2023 年初頭に単一の統一ブランド「Generali Malaysia」が立ち上げられるまで、現在のブランドで引き続き運営される。

この買収により、Generali はマレーシア市場の大手保険会社の1つとして位置付けられ、同国の生命保険セグメントにアクセスできるようになる。Generaliはまた、Affin Bankとの間で、従来型の損害保険商品及び生命保険商品の販売に関する独占的なバンカシュアランス契約を締結した。
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中村 亮一

研究・専門分野

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