2022年09月07日

ドイツの生命保険監督を巡る動向(2)-BaFinの2021年Annual Reportより(生命保険会社の監督及び業績等の状況)-

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1―はじめに

前回のレポートでは、ドイツの保険監督官庁であるBaFin(Bundesanstalt für Finanzdienstleistungsaufsicht:連邦金融監督庁)の2021年のAnnual Report1の「スポットライト(Spotlights)」の章に記載されている項目の中から、主として生命保険の監督に関するトピック及びそれらのトピックに関連する最近の状況について報告した。

今回のレポートでは、Annual Reportの「III.監督行為」の章の「2.保険会社及び年金基金(Pensionsfonds)の監督」等に基づいて、ドイツの生命保険会社の監督及び業績等の状況について報告する。

2―法規制等の改正

2―法規制等の改正

2021年に拡大又は修正された主な法規制等は、以下の通りとなっている。

1.ドイツ保険監督法(VAG)
主な変更は届出義務に関するもので、重要な国境を越えた保険活動又は危機的状況の場合、法律の修正版は、国家監督当局と欧州保険年金監督局(EIOPA)の間の情報交換を強化する。

2.金融市場規範を強化するドイツ法(2021年7月1日に大部分が発効し、2022年1月1日に完全に発効)
この法律は、保険分野についても、VAGのセクション34 (3) に新たな規制のための委任規定を導入した。これにより、連邦財務省やBaFinは、機能や保険活動のアウトソーシングの通知に関するより詳細な規定を発行する権限を与えられた。2021年末、BaFinは、「ドイツ保険アウトソーシング通知規則」を基礎とした規制案に関する協議プロセスを開始した。

加えて、金融市場規範強化法は、保険会社、年金基金、公益法人ではない葬儀費用基金についても、遅くとも連続10会計年度を経過した時点で監査役の変更が義務付けられることとなった。

3.最高責任準備金評価利率の引き下げ
連邦財務省は、責任準備金規則 (Deckungsruckstellungsverordnung) と年金基金監督に関する規則 (Pensionsfonds-Aufsichtsverordnung) の最高責任準備金評価利率を2022年1月1日から0.9%から0.25%に引き下げた。

4.小規模保険事業、葬儀費用基金、ペンションカッセン(Pensionskassen)及び年金基金(Pesnionsfonds)のソルベンシーに関する通達
2021年4月20日、BaFinは、VAGのソルベンシー条項の適用方法に関するガイダンスを含む通達5/2021 (VA) を発行した。この新しい通達は、通達4/2005 (VA) を置き換えるもので、欧州IORP(職域年金基金)II指令の施行後にドイツ法で改訂されなければならなかったものである。新しい通達は、VAG第211条で定義されている全ての元受保険会社、BaFinが監督する葬儀費用基金(VAG第218条 (1) )、ペンションカッセン(VAG第232条 (1))及び年金基金 (VAG第236条 (1) ) に適用される。

3―保険会社のリスク分類

3―保険会社のリスク分類

1|保険会社のリスク分類
BaFinは、監督する保険会社をリスククラスに割当て、保険会社がどの程度緊密に監督されるべきかを定義するために使用している。

保険会社は、会社/グループの市場への影響と品質を反映する2次元マトリックスを使用してクラスに割り当てられる。ペンションカッセンと年金基金の市場への影響は、ペンションカッセンと年金基金の総投資額に基づいて測定されている。生命保険会社の場合には、ユニットリンク生命保険からの運用も含まれる。これとは対照的に、健康保険会社、損害保険会社及び再保険会社に用いられる決定的な要素は、総保険料収入となる。また、資産(=投資)リストに開示された総額が、グループ分類の統一基準として選択される。

市場への影響は、「非常に高い」、「高い」、「中間」、「低い」の4段階のスケールで測定される。保険会社の質は、「純資産と財政状態」、「事業成績」、「ガバナンス体制」、「将来の実行可能性」及び「重要な保有先」という要素に基づいて、「A(高品質)」から「D(低品質)」からなる4段階で評価される。グループ評価の場合には、「重要な保有先」の代わりに「グループ固有の要素」を使用する。

BaFinは、最初の2つの要素のスコアを保険に特化した指標を用いて決定し、「ガバナンス体制」は定性的な基準を用いて評価される。「将来の実行可能性」は、企業/グループの将来の発展を評価するのに適した、特定の保険種類に関する定量的又は定性的な基準を含む。さらに、「グループ固有の要素」は、最初の4つの基準を超えて、全てのグループ固有の側面を評価する。評価システムは、個々の基準に対する評価を合計して、「A(高品質)」から「D(低品質)」からなる4段階の総合評価を作成している。
2|リスク分類の結果
2021年12月31日時点のデータに基づく評価は、以下の通りとなっている。

BaFinは2021年のリスク分類で、保険会社の約74%をより質の高い「A」又は「B」に分類した。これは2020年の約75%に比べて、若干低下した。
Risk classification resuits
因みに、2020年の結果は以下の通りである。
Risk classification resuits for 2020
また、保険グループの分類では、個々の会社の分類結果と、グループ固有の定性的及び定量的なインプットの両方が使用される。分類された保険グループは、当期に 「A」(2%) 、「B」(83%) 又は 「C」 (15%)の品質評価を受けた。

4―保険会社の検査

4―保険会社の検査

1|保険会社の検査
定期検査はリスクベースの手法で計画されている。企業のオンサイトでもリモートでも、程度の差こそあれ柔軟に実施することができる。BaFinがリスク分類の結果を超えて考慮する要因の1つは、監督対象の事業体が直近に検査を受けた時期である。臨時・トピックス関連の検査も行われる。

2021年の保険監督部門の検査件数は65件で、前年 (42件) を上回った。この背景には、BaFinがCOVID-19のパンデミックを受けて2020年に延期していた調査を報告期間中に実施していたことがある。多くの調査がリモートで行われた。

リスククラス別の検査内訳は、以下の通りとなっている。
Breakdown of inspections by risk class
2|監督下にある保険会社と年金基金の
BaFinによって監督されている保険会社と年金基金の数は以下の通りとなっている。2020年12月31日現在の生命保険会社数は、事業活動中が81社、非事業活動中が5社となっていたので、事業活動の会社数が1社減少している。
B aFin監督下にある保険会社と年金基金の数(各年末)

5―2021年の生命保険会社の事業結果

5―2021年の生命保険会社の事業結果

2021年の生命保険会社の事業結果の概要は、以下の通りである。

なお、以下の2021年の数字は暫定的なもので、2021年12月31日現在の中間報告に基づいている。また、保険監督法第45条に従い、ソルベンシーII指令の適用範囲に含まれる特定の会社については、中間報告の要件の一部が免除されていることにも留意する必要がある。
1|契約動向
2021年の元受生命保険新契約は、前年の約460万件から増加して約510万件だった。新契約保険金額の総額は、前年の2,828億ユーロに対して、6.5%増加して約3,012億ユーロとなった。

定期保険が新契約総数に占める割合は、前年度の30.0%から32.7%に増加した。

年金及びその他の保険契約の割合は、61.7%から60.0%に低下した。養老保険契約の割合は1.0%ポイント低下して、7.3%となった。

生命保険契約の早期解約(解約、払済契約への転換及び早期終了の他の形態)は、210万件で前年並み、保険金総額は1,051億ユーロで1.3%減少した。

保有ベースでの、2021年末の元受生命保険契約は、前年の8,110万件から約8,160万件に増加し、総保険金額は4.19%増加の3兆4,560億ユーロだった。

元受保険契約に係る総保険料は、前年の981億ユーロから952億ユーロに減少した。
生命保険契約動向
2|投資動向
総投資額は、1兆242億ユーロから1兆498億ユーロへと2.5%増加した。一方で、2021年末の正味含み益は、金利上昇の結果、前年の2,150億ユーロに対し、1,550億ユーロに減少した。これは、総投資の14.8%(前年は21.0%)に相当している。

2021年の平均純投資収益率は前年の3.7%から3.5%に低下した。継続的に高い投資純収益率の理由の1つは、追加責任準備金(Zinszusatzreserve:ZZR)を積み増すための支出の増加と、それに伴う投資評価準備金の実現益化による影響による可能性が高い。
生命保険会社の投資
3|将来予測
BaFinは例年通り、2021年に生命保険会社向けの将来予測エクササイズを実施した。この予測は、2021年9月30日の基準日時点で実施されたもので、持続的な低金利が生命保険会社に及ぼす中長期的な影響に焦点を当てている。これを評価するために、BaFinはドイツ商法に従って、2021会計年度とそれに続く14会計年度の業績予想データを収集した。保守的な投資ポートフォリオが使用された。その上で、生命保険各社は個別の経営計画に沿って新規投資や再投資のシミュレーションを行った。また、BaFinは、選択した3会計年度のソルベンシーIIの数値の予想変化を再度調査した。

予測を分析した結果、生命保険会社は契約上の義務を果たすことができるというBaFinの評価が裏付けられた。しかし、市場金利の低水準が続けば、会社の経済的ポジションは引き続き逼迫することが予想される。

したがって、BaFinは、保険会社がこのような金利条件下で予想される財務業績について、将来を見据えた批判的な厳しい方法で分析することを確実にするために、保険会社を非常に注意深く監視し続ける。生命保険会社は適時適切な対策を講じ、適切な注意を払うことが不可欠となる2
 
2 低金利環境が保険会社やペンションカッセンに与える影響については、前回の保険年金フォーカスで報告した。
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中村 亮一

研究・専門分野

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