2022年05月09日

欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況-2021年決算数値等に基づく現状分析-

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5Aegon
Aegonは、現在、自国のオランダや英国を中心とする欧州と、米国、ブラジルを中心とする米州が2大地域となっている。

Aegonは、以前は世界の20カ国以上で事業展開してきたが、例えば2010年から2017年までに4カ国の保険事業から撤退し、さらに、2018年にはAegon Ireland の売却、米国の生命保険再保険事業の最後のブロックの売却、チェコとスロバキアの事業売却(2019 年 1 月 8 日に完了)を行ってきた。2019年には日本における変額年金ジョイントベンチャーの 50%持分をそのパートナーであるSony Lifeに売却(2020 年 1 月 29 日に完了)した。さらに、2020年には、ハンガリー、ポーランド、ルーマニア、トルコでの保険・年金・資産管理事業の売却を発表して、2022年には売却を完了する予定としている(このうち、ハンガリーは2022年3月に完了済)。

このように、Aegonは、主導的なポジションを得ることができる市場に焦点を当てるという観点から、積極的な対応を進めてきており、現在は、3つのコア市場(米国、英国、オランダ)、3つの成長市場(スペインとポルトガル、ブラジル、中国)とグローバルなアセットマネージャーとしての事業に戦略的な焦点を当てて、投資、保障及び退職ソリューションを提供してきている。

(1)地域別の業績-2021年の結果-
営業利益では、自国のオランダの構成比が40%(2020年は39%)、英国が10%(8%)、南欧・中東欧等を含む「国際」が8%(10%)であるのに対して、米国及び中南米からなる米州の構成比が41%(46%)で他の欧州保険グループに比較して高くなっている。

Transamericaのブランドを中心とする米国子会社のAegon USA Groupは、2021年末の認容資産で、米国の生命保険・健康保険グループで第13位(2020年末は第12位)となっている。

なお、損害保険事業は、欧州で展開しているが、その全体における位置付けは高くない。
保険事業の地域別内訳(2021年)/うち 欧州の主要国別内訳
(2)地域別の業績-2020年との比較-
2020年との比較では、全体で保険料は4%減少した。地域毎に見た場合も、オランダでは生命ポートフォリオの縮小、英国では退職プラットフォームにアップグレードされた生命保険契約の減少による等、各地域で減少した。

営業利益については、株式市場の高騰による手数料の増加と事業の成長による積極的な貢献により、11%増加した。

新契約価値については、米州で、2020年に▲45%と大きく低下していたことの反動により2.7倍に増加したことを主因として、全体でも約2倍になった。
保険事業の地域別内訳(2020年から2021年に向けての増加額と進展率)(単位:百万ユーロ)/うち 欧州の主要国別内訳(2020年から2021年に向けての増加額と進展率) (単位:百万ユーロ)
(参考)地域別のROC
なお、Aegonは、地域別のROCを開示しているが、その状況は以下の図表の通りとなっている。
保険事業のROC(Return on Capital)の状況/
(3)地域別展開に関する方針及びトピック
Aegonは、2021年に入ってからこれまでに、以下の地域別事業展開の見直し等を公表してきている。

・2021年3月1日に、英国を拠点とする傷害保険商品のプロバイダーであるStonebridgeをEmbignellグループの一部であるGlobal Premium Holdings Groupに約6000万ポンド相当の対価で売却することを無事に完了したと発表。

・2021年8月13日に、欧州委員会は、ウィーン保険グループAG Wiener Versicherung Gruppe(VIG)による中東欧でのAegonの事業の買収について競争法上の認可を与えることを決定した。一方で、AegonとVIGは、9月20日に、ブダペストメトロポリタン裁判所から、この買収を阻止するというハンガリー内務省の決定に異議を唱えた共同控訴を却下したとの通知を受けた、と発表した。これに対して、AegonとVIGは、ハンガリー最高裁判所に上訴する予定だとしている。

・2021年12月15日に、RGAにより、オランダでの長寿エクスポージャーの追加部分に再保険をかけたことを発表。再保険契約は、70億ユーロの年金債務に関連する長寿リスクに対する保障を提供する。2019年12月にAegonが実施した同様の長寿再保険契約と合わせて、オランダの生命保険事業の長寿リスクエクスポージャーの約40%が軽減されることになる。これはオランダの生命保険事業のソルベンシーII比率を約15%ポイント、グループのソルベンシーII比率を約5%ポイント増加させる。

・2021年12月22日に、VIGは、「ウィーン保険グループとハンガリーは、ハンガリーの保険会社であるAegonとUNION Vienna Insurance Group AGに関する協力の概要とさらなる手続きについて合意に達した。」として、これにより「ハンガリーのAegon企業とUNION Vienna Insurance Group Biztosító Zrt.に、ハンガリー国が45%参加することができることになる。」と発表。また、「VIGの支配権と運営管理を伴う協力の構造は、さらなる交渉の対象となる。ハンガリー政府は、100%国営のハンガリー持株会社であるCorvinus Nemzetközi Befektetési Zrtを交渉パートナーとして指名した。」と発表。

・2022年2月16日に、VIGがCorvinus Nemzetközi Befektetési Zrtを保有するハンガリー国との間で合意に達したと発表。これによると、「ハンガリーのVIG会社は、ハンガリーのVIG持株会社(VIG Magyarorszag Befektetesi Zrt)と2つのオランダの持株会社(Aegon Hungary Holding BVとAegon Hungary Holding II BV)によって保有される。Corvinusは、これら3つの持株会社のそれぞれで45%の非支配少数株主持分を取得する。これらの持株会社への3つの45%の参加について合意された購入価格は、約3億5,000万ユーロになる。UNION Vienna Insurance Group Biztosito Zrtの株式の98.64%は、ハンガリーのVIG持株会社に提供される。オランダのAegon持株会社2社は、ハンガリーのAegon(保険、資産運用、年金基金、サービス会社)の株式を100%保有している。VIGは、これら3つの持株会社の55%の支配的過半数持分を保持する。」ことになる。次のステップでは、3つの持株会社を統合し、ハンガリーのVIG持株会社を中央ステアリングユニットとして指定する予定としている。

・2022年3月23日に、ハンガリー事業のウィーン保険グループAG Wiener Versicherung Gruppe(VIG)への売却を完了したことを発表。取引の総収入は6億2000万ユーロにのぼる。この完了は、2020年11月に発表されたように、中・東欧でのAegonの保険、年金及び資産管理事業のVIGへの売却を8億3,000万ユーロで完全に完了するための重要なステップとなる。ポーランド、ルーマニア、トルコでのAegonの事業の売却は、必要な現地の規制当局の承認を条件として、2022年中に完了する予定としている。
(参考)ハンガリー、ポーランド、ルーマニア、トルコの事業の売却について
2020年11月29日に、ハンガリー、ポーランド、ルーマニア、トルコでの保険、年金、資産管理事業をウィーン保険グループAG Wiener Versicherung Gruppe(VIG)に8億3,000万ユーロで売却することに合意した、と発表した。この取引により、IFRS資本が505百万ユーロ増加し、ソルベンシーII比率は約8%ポイント増加すると想定されていた。この取引は、この種の取引に慣習的な規制及び独占禁止法の承認の対象であり、2021年の後半に完了する予定である、と述べていた。ただし、この取引に関して、2021年4月7日に、VIGは、ハンガリー内務省によるハンガリーのAegon企業の外国投資家による買収を拒否する命令を前日の午後に受け取った、と発表していた。
6Zurich
Zurichは、世界の210以上の国と地域で、生命保険や損害保険等のサービスを提供している。

Zurich は、事業ポートフォリオの見直しを適宜行っており、非中核事業の撤退を通じて資本を解放する一方で、成長が見込める市場において、買収等に再投資してきている。

(1)地域別の業績-2021年の結果-
欧州では、自国のスイス以外に、ドイツから高い営業利益を上げている他、英国、アイルランド、スペイン、イタリアからの営業利益も有意な水準となっている。ただし、こうした欧州各国からの構成比は全体の66%であり、残りの34%を北米9、中南米、アジア・太平洋が占めている。

他社との比較では、アルゼンチン、ブラジル、チリ、メキシコ等の中南米の位置付けが高くなっているのが特徴的で、営業利益で12%を占めている。Banco Santanderとの提携によるZurich Santanderにおける販売等が貢献している。また、オーストラリア、香港、インドネシア、日本、マレーシア等のアジア・太平洋のシェアも保険料、営業利益、MCEVにおいて2割程度と高い水準になっている。
生命保険事業(Global Life)の地域別内訳(2021年)/うち 欧州の主要国別内訳
 
9 Zurichの米国子会社グループは、他の米国事業を有する会社の米国子会社グループのような大きな規模を有していない。
(2)地域別の業績-2020年との比較-
Zurichの決算数値は米ドル建で報告されているため、2020年との比較を見る上では、2021年の米ドルの主要通貨に対する状況を考慮しておく必要がある。Zurichは通貨変動が各種指標に与える影響を開示している。

営業利益は、全体的に商品ミックスの改善やマージンの改善、好調な販売等により、27%と大きく進展した。2020年に減少していた欧州・中東・アフリカにおいても27%進展し、アジア・太平洋においては引き続き継続的な高成長をベースに29%と大きく進展した。なお、欧州ではほぼ全ての主要国においてプラス進展で、特に英国とイタリアの進展率が高かった。

なお、新契約価値も、欧州を中心にマージン率が改善して、全体で22%増加した。
生命保険事業(Global Life)の地域別内訳(2020年から2021年に向けての増加額と進展率)/うち 欧州の主要国別内訳(2020年から2021年に向けての増加額と進展率)
(3)地域別展開に関する方針及びトピック
Zurichは、2021年に入ってからこれまでに、以下の地域別事業展開の見直し等を公表してきている。

・2021年4月7日に、Zurich とFarmers Exchangesが米国におけるMetLifeの損害保険事業の買収を39.4億ドルで完了したことを発表。これにより、Farmers Exchangesのプレゼンスが新しい販売チャネルへのアクセスで強化され、Zurichの手数料ベースの収益が2023年から約10%増加する。

・2022年1月3日に、イタリアの伝統的な保険とユニットリンク保険の両方で構成される生命保険と年金のバックブックをポルトガルの保険会社Gama Lifeに売却することを発表。これにより、グループの信用リスクへのエクスポージャーの大幅な削減を図ることができ、約12億米ドルの資本を解放し、グループのSST比率は11%ポイント増加する、としている。
7|(参考)Prudential
以前のPrudential plcは、2019年10月に、アジアと米国における保険事業を展開するPrudential plc10と欧州における保険事業と投資管理事業を展開するM&G plcc11に分割された。さらに、Prudential plcは、2021年1月に、2021年第2四半期に米国事業であるJackson Financial Inc.12をグループから分離することを決定した、と公表し、2021年9月20日に分離を完了したと発表した(なお、Jackson National Groupは、2021年末の認容資産で、米国の生命保険・健康保険グループで第8位(2020年末は第10位)となっている)。

現在のPrudential plcは、高成長のアジアとアフリカを中心に、生命保険と健康保険及び資産管理事業を提供する会社となっている。アフリカでは8カ国(カメルーン、コートジボワール、ガーナ、ケニア、トーゴ、ウガンダ、ザンビア、ナイジェリア)で事業展開している。なお、M&G plcは英国と欧州を中心とした28の市場で事業展開している。
 
10 分離後のPrudential plcは、英国に本社を置き、ロンドン証券取引所でpremium listingされ、香港でprimary listingされ、ニューヨークとシンガポールに上場している会社となる。また、英国又は欧州の顧客を持たないため、ソルベンシーII制度の対象外となる。
11 M&G Prudentialのグループ全体の監督者は、引き続き英国の保険監督当局であるPRA(健全性規制機構)が務めることになる。
12 Jackson Financial Inc。(JFI)は、米国の持株会社で、Jackson Holdings LLC(JHLLC)の直接の親会社となる。
JHLLCの間接的な完全所有子会社に、Jackson National Life Insurance Company及びPPMAmerica.Incが含まれる。
(1)地域別の業績-2021年の結果-
アジア・アフリカの事業の中では、香港の位置付けが最も高く、シンガポールがこれに次いでいる。その他に、中国、インドネシア、マレーシアの位置付けが高くなっている。
生命保険事業(Long-Term Business Operation)等の地域別内訳(2021年)/うち アジアの主要国別内訳(2021年)
(2)地域別の業績-2020年との比較-
アジア・アフリカの事業について、2020年との比較では、インドネシアを除くと、営業利益、EEV、新契約利益ともほぼ順調に拡大している。ただし、2021年の香港の保険料は10%のマイナス進展となっている。
生命保険事業(Long-Term Business Operation)等の地域別内訳 (2020年から2021年に向けての増加額と進展率)/うち アジアの主要国別内訳(2021年)(2020年から2021年に向けての増加額と進展率)
なお、アジア各国の営業利益の推移及び各国・地域における市場ランキングは、以下の図表の通りとなっている。
営業利益の地域別内訳(アジアの主要国)
(3)地域別展開に関する方針及びトピック
Prudential plcは、2021年以降に、Jackson Financial Inc.の分離に加えて、以下の地域別展開の見直し等を行ってきている。

・2021年1月26日に、Prudential Myanmar がミャンマーの大手銀行の1つであるYoma Bankと独占的な 戦略的バンカシュアランスパートナーシップを確立したと発表。

・2021年3月3日に、Prudential Vietnam がMSB(Vietnam Maritime Commercial Joint Stock Bank )との成功したバンカシュアランスパートナーシップを延長かつ拡大したと発表。

・2021年10月28日に、アフリカ地域本部をロンドンからケニアのナイロビに移転すると発表。

・2022年4月5日に、インドネシアでグローバル保険会社として初めて、シャリア生命保険事業を行うPrudential Syariahを設立すると発表。
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中村 亮一

研究・専門分野

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【欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況-2021年決算数値等に基づく現状分析-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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