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ドイツの民間医療保険及び民間医療保険会社の状況(2)-2020年結果-
中村 亮一
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4―民間医療保険会社の状況(3)-財務面-
ソルベンシーIIが2016年1月1日に施行されて以来、ソルベンシーIは保険監督法第211条の意味の範囲内で小規模な保険会社としての資格を有する6つの医療保険会社にのみ適用されてきた。6つの全ての会社が2020年12月31日時点でそれらに適用されるソルベンシー規則を遵守している。
残りの40の医療保険会社は、2020年末現在、ソルベンシーIIの対象となっている。これらの医療保険会社の大多数は、SCR(Solvency Capital Requirement:ソルベンシー資本要件)の計算に標準式を使用している。4つの会社は、部分的又は完全な内部モデルを使用している。どの会社も、USP(Undertakings Specific Parameter:会社固有のパラメータ)を使用していない。
40社のうち、2社がVA(Volatility Adjustment:ボラティリティ調整)とTTP(Transitional on the Technical Provision:技術的準備金に関する移行措置)を適用し、3社がVAのみを適用し、1社がTTPのみを適用した。TRFR(Transitional on the Risk- Free Rate:リスクフリー金利の移行措置)を適用した会社はなかった。また、移行措置の適用無しではSCRを満たせない会社は改善計画の提出が求められるが、そのような会社は無かった。
全ての会社が、2020年12月31日現在及び2020年の全ての四半期報告日において、SCRの十分なカバレッジを有していたことが示された。
2019年12月31日現在、民間医療保険者のSCRカバレッジ率は474%だった。2020年の第一四半期には、特に新型コロナウイルス危機の初期に資本市場の公正価値が大幅に下落したため、平均SCRカバレッジ比率は353.0%と急激に大きく低下した。ただし、その後、年間を通じては回復して、2020年12月31日現在では430%だった。
2020年12月31日現在、全ての民間医療保険会社の総SCRは72億ユーロ(2019年12月31日現在は65億ユーロ、以下同様)であった。医療保険会社は主に市場リスクにさらされている。これは、標準式の使用者のSCRの約74%(約81%)に相当している。また、その時点でのSCRの約47%(約41%)が医療保険の引受リスクに関連していた。
2020年12月31日現在、全ての医療保険会社の総自己資本は約310億ユーロ(約287億ユーロ)だった。医療保険会社は自己資本の大部分(約2/3)を調整準備金として報告している。サープラス資金も自己資本の大きな構成要素であり、1/3弱を占めている。自己資本の他の構成要素である株式資本やそれに伴う発行プレミアムは相対的に重要ではない。
BaFinは、2020年に、資本市場における不利な進展が業績及び金融の安定性に与える影響をシミュレートするために、医療保険会社向けの予測テストを実施した。
老齢化積立金を設定する必要がない短期商品のみを提供している7社を除く39の医療保険会社が、2020年9月30日の基準日時点で将来収支予測を行った。これは、医療保険会社の低金利による中期的影響を調べることに焦点を当てて行われた。この目的のために、BaFinは、各シナリオが異なる不利な資本市場シナリオの下で、2020年及びその後の4年間のHGB(商法)に準拠した予測財務業績に関するデータを収集した。あるシナリオでは、BaFinは、新規投資及び再投資は、0.5%のリターンの固定金利証券でのみ行われると仮定した。2番目のシナリオでは、医療保険会社は、金利の変化がないと仮定して、個々の会社計画に従って新規投資と再投資をシミュレートできた。
全体的な結論は、持続的な低金利環境は、経済的観点から医療保険会社にとって対応できるものであった、ということだった。予想されたように、生成されたデータは、低金利シナリオでは新規投資と再投資に付随するリスクが発生し続け、投資収益が減少することを示していた。これは、保険料調整によって数理計算上の割引率を徐々に引き下げる必要があることを示していた。
医療保険会社は、ACIR(Actuarial corporate interest rate:保険数理上の会社金利)に基づいて技術的金利を決定する。
(生命保険と同様のテクニックを使用して運営される)SLT医療保険のビジネスモデルは、保険料率に基づいており、保険料率が適切かどうかを確認するために毎年見直す必要がある。これには、保険料の計算の基礎となる全ての前提、特に投資の純利益の進展に関連する前提の調査が含まれる。保険会社は、ドイツアクチュアリー協会(DAV)によって開発されたACIRに基づいて、この進展と安全マージンを推定する。保険会社は毎年ACIRをBaFinに報告する必要がある。これにより、保険料の調整が必要な場合に、既存の保険料の技術的金利を引き下げる必要があるかどうかが決定される。
2020年に計算されたACIRの数値は、セクター全体でドイツの医療保険監督規則に規定されている最高技術的金利3.5%を下回っていた。低金利環境が続いている結果、ACIRの数値は前年に比べて低下した。したがって、殆どの場合、保険会社は、保険料率の目的で使用される関連する技術的金利をさらに引き下げる必要がある。ACIRガイドラインには、この目的のための手順が含まれており、保険数理調整に関与する責任アクチュアリー及び保険数理管財人が、対象会社に適切で信頼できる技術的金利を決定できるようにする。
被保険者の約84%(前年は61%、以下同様)が、2021年にペンディングの完全医療保険の保険料調整の影響を受ける。このセクターの平均保険料調整額は約10.1% (5.1%)である。医療保険会社は、保険料の増加を制限するために、合計約26億ユーロ(約20億ユーロ)の配当のための準備金を使用した1。
5―まとめ
ドイツの生命保険会社は、長期の貯蓄性商品を保証利率付で販売してきたことから、低金利環境の継続で、販売面でも財務面でもかなり厳しい運営を迫られている状況にあった。それに比べると、医療保険会社の状況は、これまで相対的に大きな問題として捉えられている状況にはなかった。
これは、医療保険会社の場合には、利率に比べて、保険事故発生率による影響がより大きな意味合いを有していたことが関係していた。ただし、代替医療保険等は終身保障で提供されていることから、金利環境に基づく割引率の影響が、特に昨今の低金利環境の継続によって、かなり大きなものとなってきていた。こうした状況下で、2021年には、2020年に比べてさらに多くの被保険者が保険料調整の影響を受ける形になっている。
こうしたドイツにおける民間医療保険及び民間医療保険会社の状況については、今後のドイツにおける公的医療保険制度の改定等の動向と併せて、同じように超低金利環境下にある日本においても参考になるものがあると思われることから、その動向を引き続き注視していくこととしたい。
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(2022年04月26日「保険・年金フォーカス」)
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