2022年04月12日

欧州大手保険グループの2021年末SCR比率の状況について(3)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告(資本取引等)-

中村 亮一

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4|Aviva
Avivaの2021年における主な資本取引等とその概要は、以下の通りであった。

2021年2月23日に、フランス事業の32億ユーロでの売却を承認したと発表した。この取引はUFF(Aviva France)のフランスの生命・損害・資産管理事業と75%の株式をカバーしている。これによるAvivaへの影響は、(1)ソルベンシーII資本剰余金が約8億ポンド増加し、ソルベンシーII比率が約22%ポイント増加、(2)180%のソルベンシーII比率を超える超過資本が約21億ポンド増加、(3)IFRS純資産価値が約5億ポンド減少、となる。この取引は、規制当局の承認を含む協議及び慣習的な条件の対象であり、2021年末までに完了する予定であると述べた。

2021年2月24日に、トルコでの合弁事業であるAviva SA Emeklilik ve Hayat AS(「Aviva SA」)の40%の株式を、1億2,200万ポンドの現金対価で、Ageas Insurance International NVに売却することに合意したと発表した。この取引により、AvivaのIFRS純資産価値及びソルベンシーII資本剰余金が約1億ポンド増加すると想定されている。この取引は、規制当局の承認を含む通常の完了条件の対象であり、2021年に完了する予定であると述べた。

2021年3月4日に、イタリアの生命保険及び損害保険事業(「Aviva Italy」)の残りを8億7,300万ユーロの現金で売却(生命保険事業をCNP Assuranceに5億4,300万ユーロで売却、損害保険事業をAllianzに3億3000万ユーロで売却)することを発表した。これによる財務への影響は、(1)ソルベンシーII資本剰余金が約2億ポンド増加し、ソルベンシーII比率が約7%ポイント増加、(2)180%のソルベンシーII比率を超える超過資本が約7億ポンド増加、(3)IFRS純資産価値が約2億ポンド減少、となる。この取引は、規制及び独占禁止法の承認を含む慣習的な完了条件の対象であり、2021年後半に完了する予定であると述べた。

2021年3月26日に、ポーランド及びリトアニアの事業であるAviva Poland の全株式を25億ユーロの現金対価でAllianzに売却することを発表した。

2021年4月1日に、イタリアの生命保険合弁会社であるAviva Vita SpAの80%の株式の売却を完了したことを発表した。

2021年8月12日に、最大総額7億5,000万ポンドの対価で普通株式の買戻しを開始すると発表した。

2021年9月30日に、フランス事業のAéma Groupeへの売却が完了したことを発表し、現金対価で28億ポンド (32億ユーロ)を受け取ったと発表した。

グループ最高経営責任者のAmanda Blanc氏は、ポートフォリオを簡素化するための戦略として、英国、アイルランド、カナダの事業等のグループのコアに焦点を置いた「持続可能で耐性力のある」方針を推進している、と述べている。

さらに、2022年に入ってからは、2022年3月2日に、B株スキームにより、普通株式の保有者(「株主」)に37億5,000万ポンドの資本を返還する提案を発表した。
5|Aegon    
Aegonは、3つのコア市場(米国、オランダ、英国)、3つの成長市場(スペイン&ポルトガル、中国、ブラジル)、1つのグローバル資産運用会社のビジネスに焦点を当てている。

Aegonの2021年における主な資本取引等とその概要は、以下の通りであった。

2021年3月1日に、英国を拠点とする傷害保険商品のプロバイダーであるStonebridgeをEmbignellグループの一部であるGlobal Premium Holdings Groupに約6000万ポンド相当の対価で売却することを無事に完了したと発表した。

2021年7月7日に、2020年の最終配当と上級管理職向けの特定の株式ベースの変動報酬プランの両方の希薄化効果を中和するために、1億3,300万ユーロの普通株式を買い戻すと発表した。なお、これは8月23日に完了した。

2021年8月12日に、2005年に発行された最低4%のクーポンで2億5000万米ドルの変動金利永久資本証券を償還する権利を行使すると発表した。償還はAegonのレバレッジ削減目標に沿ったものである。

2021年8月13日に、欧州委員会は、ウィーン保険グループAG Wiener Versicherung Gruppe(VIG)による中東欧でのAegonの事業の買収について競争法上の認可を与えることを決定した。一方で、AegonとVIGは、9月20日に、ブダペストメトロポリタン裁判所から、この買収を阻止するというハンガリー内務省の決定に異議を唱えた共同控訴を却下したとの通知を受けた、と発表した。これに対して、AegonとVIGは、ハンガリー最高裁判所に上訴する予定だと述べた。

2021年9月17日に、株式で支払われた2021年の中間配当の希薄化効果を中和するために、9,600万ユーロの普通株式を買い戻すと発表した。これらの株式は自己株式として保有され、将来の配当金の支払いに使用される。10月27日に、この自社株買いプログラムは完了した。

2021年12月15日に、RGAにより、オランダでの長寿エクスポージャーの追加部分に再保険をかけたことを発表した。再保険契約は、70億ユーロの年金債務に関連する長寿リスクに対する保障を提供する。2019年12月にAegonが実施した同様の長寿再保険契約と合わせて、オランダの生命保険事業の長寿リスクエクスポージャーの約40%が軽減されることになる。これはオランダの生命保険事業のソルベンシーII比率を約15%ポイント、グループのソルベンシーII比率を約5%ポイント増加させる。

2021年12月22日に、VIGは、「ウィーン保険グループとハンガリーは、ハンガリーの保険会社であるAegonとUNION Vienna Insurance Group AGに関する協力の概要とさらなる手続きについて合意に達した。」として、これにより「ハンガリーのAegon企業とUNION Vienna Insurance Group Biztosító Zrt.に、ハンガリー国が45%参加することができることになる。」と発表した。また、「VIGの支配権と運営管理を伴う協力の構造は、さらなる交渉の対象となる。ハンガリー政府は、100%国営のハンガリー持株会社であるCorvinus Nemzetközi Befektetési Zrtを交渉パートナーとして指名した。」と発表した。

なお、Aegonは2022年に入ってからも、以下のような動きを見せている。

2022年1月7日に、株式ベースの報酬プランのために5千万ユーロの株式を買い戻すと発表し、1月25日に完了した。

2022年2月16日に、VIGがCorvinus Nemzetközi Befektetési Zrtを保有するハンガリー国との間で合意に達したと発表した。これによると、「ハンガリーのVIG会社は、ハンガリーのVIG持株会社(VIG Magyarorszag Befektetesi Zrt)と2つのオランダの持株会社(Aegon Hungary Holding BVとAegon Hungary Holding II BV)によって保有される。Corvinusは、これら3つの持株会社のそれぞれで45%の非支配少数株主持分を取得する。これらの持株会社への3つの45%の参加について合意された購入価格は、約3億5,000万ユーロになる。UNION Vienna Insurance Group Biztosito Zrtの株式の98.64%は、ハンガリーのVIG持株会社に提供される。オランダのAegon持株会社2社は、ハンガリーのAegon(保険、資産運用、年金基金、サービス会社)の株式を100%保有している。VIGは、これら3つの持株会社の55%の支配的過半数持分を保持する。」ことになる。次のステップでは、3つの持株会社を統合し、ハンガリーのVIG持株会社を中央ステアリングユニットとして指定する予定であると述べた。

以上、ここまでのハンガリー政府とVIGを巡る取引の構図の概要は、以下の図表の通りとなっている(筆者作成)。
ハンガリー政府とVIGを巡る取引の構図の概要
2022年3月23日に、ハンガリー事業のウィーン保険グループAG Wiener Versicherung Gruppe(VIG)への売却を完了したことを発表した。取引の総収入は6億2000万ユーロにのぼる。この完了は、2020年11月に発表されたように、中・東欧でのAegonの保険、年金及び資産管理事業のVIGへの売却を8億3,000万ユーロで完全に完了するための重要なステップとなる。ポーランド、ルーマニア、トルコでのAegonの事業の売却は、必要な現地の規制当局の承認を条件として、2022年中に完了する予定であるとした。

Aegonのハンガリーでの事業の売却後、AegonのIFRS資本は2022年の第1四半期に約4億ユーロ増加し、そのうち約3億7500万ユーロが12月31日の貸借対照表のポジションに基づいて帳簿上の利益として認識される。Aegonのハンガリー事業の売却の完了、債務の返済及び株式の買戻しの組み合わせは、グループのソルベンシーII比率に重大な影響を与えることはない、としている。

Aegonは、同日に6シリーズの劣後債に対する3.75億ユーロの公開買付けによる債務返済も発表しており、4月1日に、この公開買付けの最終結果が発表された。

なお、Aegonは、2022年中に、株式買戻しを通じて3億ユーロの余剰現金資本を株主に還元する予定であると述べている。
(参考)ハンガリー、ポーランド、ルーマニア、トルコの事業の売却について
2020年11月29日に、ハンガリー、ポーランド、ルーマニア、トルコでの保険、年金、資産管理事業をウィーン保険グループAG Wiener Versicherung Gruppe(VIG)に8億3,000万ユーロで売却することに合意した、と発表した。この取引により、IFRS資本が505百万ユーロ増加し、ソルベンシーII比率は約8%ポイント増加すると想定されていた。この取引は、この種の取引に慣習的な規制及び独占禁止法の承認の対象であり、2021年の後半に完了する予定である、と述べていた。ただし、この取引に関して、2021年4月7日に、VIGは、ハンガリー内務省によるハンガリーのAegon企業の外国投資家による買収を拒否すると発表した命令を前日の午後に受け取った、と発表していた。
6|Zurich
Zurichの2021年における主な資本取引等とその概要は、以下の通りであった。

2021年1月12日に、17.5億米ドルの期限付き劣後債の発行に成功したことを発表した。これは2051年4月に満期を迎え、2031年1月に最初に償還可能となる。

2021年4月7日に、Zurich とFarmers Exchangesが米国におけるMetLifeの損害保険事業の買収を39.4億ドルで完了したことを発表した。これにより、Farmers Exchangesのプレゼンスが新しい販売チャネルへのアクセスで強化され、Zurichの手数料ベースの収益が2023年から約10%増加する。

2021年5月4日に、2億2500万スイスフランの劣後債務を償還するオプションを行使する意向であると発表した。

2021年8月16日に、0.0%の利回りで2億スイスフランの10年シニア債務の発行に成功したことを発表した。これは2031年8月に満期になる。

2021年9月1日に、2億スイスフランの劣後債を償還するオプションを行使する意向であると発表した。

2021年12月1日に、2億米ドルの無担保シニア債の発行に成功したことを発表した。

2021年12月16日に、顧客サービスの自動化のための会話型人工知能(AI)テクノロジーを提供する、エストニアを拠点とする企業AlphaChatを買収することを発表した。

なお、Zurichは、2022年に入ってからも、、以下のような動きを見せている。

2022年1月3日に、イタリアの伝統的な保険とユニットリンク保険の両方で構成される生命保険と年金のバックブックをポルトガルの保険会社GamaLifeに売却することを発表した。これにより、グループの信用リスクへのエクスポージャーの大幅な削減を図ることができ、約12億米ドルの資本を解放し、グループのSST比率は11%ポイント増加する、と述べた。

2022年1月4日に、10億米ドルの劣後債務を償還するオプションを行使する意向であると発表した。

2022年1月7日に、2億7500万スイスフランの劣後債の発行に成功したことを発表した。これは2052年5月に満期になり、2032年2月に最初に償還可能となる。

2022年3月22日に、2029年7月に満期を迎える4億スイスフランの無担保シニア債の発行に成功したことを発表した。

3―まとめ

3―まとめ

以上、欧州大手保険グループ各社のプレスリリース資料等に基づいて、2021年に入ってからのこれまでの資本管理に関係する取引等のトピックについて報告してきた。

前回のレポートでも述べたように、2016年1月1日に新たなソルベンシー制度であるソルベンシーIIがスタートして6 年が経過したが、この間、各社は、新たなソルベンシー制度に適切に対応すべく、各社各様の考え方に基づいて、リスク管理や資本管理等で各種の対応を行ってきている。

資本管理の面では、今回のレポートで報告したように、2021年に入ってからも、将来の劣後債務等の償還時期等を見据えた上で、必要に応じて、償還時にその一部等に関して、新たな劣後債務の発行等を行っている。また、積極的に地域別の事業展開や事業領域そのものの見直しを行うことで、新たな会社の買収や子会社の売却等を行っている。この結果として、各社の戦略の差異等を反映する形で、今回報告している保険グループ間でも、子会社等の売買取引が行われることになっている。

こうした各社の資本管理や前回のレポートで報告したリスク管理の考え方等については、適宜あるいは四半期毎の報告書やSFCR(Solvency and Financial Condition Report:ソルベンシー財務状況報告書)等において、一般の投資家向け等にも開示や説明がなされてきている。ただし、各社によって、その説明の内容やそのレベル等は異なっている。

ソルベンシーII制度の下での各種の開示や報告の問題については、現在行われているソルベンシーIIのレビューにおいても、いくつかの見直し提案等が行われているところである。これらの議論の動向も踏まえて、今後発表されてくる2021年のSFCR等の開示資料や説明資料において、こうした点に関して、さらなる情報提供の工夫や充実が図られていくことが期待されることになる。

いずれにしても、欧州の大手保険グループのソルベンシーIIを巡る状況やそれへの各種対応については、日本の保険会社にとっても大変参考になるものがあることから、今後とも継続的にウォッチしていくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2022年04月12日「保険・年金フォーカス」)

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