2020年05月22日

新型コロナウイルスの感染拡大が保険会社に与える影響(1)-米国大手保険G及び大手再保険Gの2020年第1四半期業績発表による-

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1―はじめに

欧州や米国においては、4月下旬から5月にかけて、2020年の第1四半期の業績発表が行われてきている。今回の業績発表は、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大の影響を受けた時期が含まれていることや、まさに現在もその真っただ中にある状況下における業績発表であることから、各保険会社が、実際のCOVID-19の影響の程度や第2四半期以降の動向をどのように見ているのかを窺い知ることができるものとなる。

今回は、こうした欧州や米国の保険会社の第1四半期の業績発表の中から、大手保険グループのCOVID-19の影響等に関する公表内容について、2回に分けて報告する。まずは、今回のレポートでは、米国大手保険グループ及び大手再保険グループの状況を報告する。
 

2―米国大手保険グループの公表内容

2―米国大手保険グループの公表内容

ここでは、米国大手保険グループの中から、Prudential Financial、MetLife及びAIGの状況について報告する。
1|Prudential Financial
Prudential Financialの2020年第1四半期の業績発表1において、COVID-19に関して、Charles Lowrey会長兼CEOは、「パンデミックに関連する市場の混乱が第1四半期の財務結果に悪影響を及ぼしたが、Prudentialは、その約束を果たし続けるために、堅調なリスク管理、強力なバランスシート、そして重要なリソースにより、『堅固』なままである。」と述べている。

Prudential Financialの第1四半期は、グループ全体で、前年同期の9億3,200万ドルの純利益に対して、2億7,100万ドルの純損失だった。また、調整後営業利益(Adjusted Operating Income:AOI)(税引後)は9億3,900万ドル(前年同期は、12億5,900万ドル、以下同様)、調整後営業利益(税引前)は11億9,200万ドル(16億500万ドル)、調整後EPS(Adjusted Earnings Per Share)(税引後)は2.32ドル(3.00ドル)だった。

COVID-19が第2四半期の結果に与える影響(想定)2について、第1四半期との比較で、調整後営業利益(税引前)で▲250百万ドル、調整後EPS(Adjusted Earnings Per Share)(税引後)で▲0.49ドルであると報告している。

また、調整後営業利益(税引前)への影響額▲250百万ドルのビジネス区分別内訳は、以下の通りとなっている。
COVID-19による影響額
さらに、第2四半期及び年間の調整後営業利益(税引前)への影響について、以下の通りとしている。なお、死亡率や罹患率への影響については、国民一般と比較して、被保険者のより若年層への分布やアンダーライティングを反映した低い死亡率及び生存保険契約による相殺効果で緩和されていると説明している。
COVID-19による影響額(AOI(税引前))
また、この算出の主要な前提については、以下の通りであるとしている。

・死亡者数 米国 10万人、日本 4万人
・感染や感染死亡率等は、学術及び業界研究に基づく
・第2四半期に死亡者数はピークを迎えることを前提
・費用は、主として、販売サポート、従業員医療保障、テクノロジー、その他経費に関連している。

なお、将来の見通しに関しては、「当社の主要な取り組みに関する声明には、市場や競争の状況、又はCOVID-19のパンデミックの影響を含むその他の要因により、当社の戦略を実行できないリスクが伴う。Prudential Financial Inc.は、このドキュメントに含まれる特定の将来予測に関する記述を更新することを約束していない。」と述べている。
2|MetLife
MetLifeは、その2020年第1四半期の業績発表3において、COVID-19について、「MetLifeへの予測されるCOVID-19の影響に関する詳細は、MetLifeの2020年第1四半期の補足スライドにある『第1四半期の補足スライド』という見出しの『第2四半期の展望』で入手できる。」として、この資料4の「保険引受マージン」の項目において、以下のように述べている。

・COVID-19生命保険と傷害&疾病の請求の影響は、殆どの保険種類に及んでいる。
・歯科及び自動車における請求の影響はプラス
・退職と介護における長寿の影響は相殺

なお、MetLifeの第1四半期は、グループ全体で、前年同期の13億ドルの純利益に対して、44億ドルの純利益だった。また、調整後利益(Adjusted Earnings)は14億ドル(前年同期は、14億ドル、以下同様)、一株あたりで1.58ドル(1.48ドル)だった。

COVID-19の影響について、日本の四半期報告書にあたるForm 10-Kの四半期開示に関する様式版である「10-Q」5における「連結会社の見通し」においては、以下のように述べている。

「COVID-19パンデミックに関連する動向を注意深く監視し、当社のビジネスへの影響を評価している。COVID-19パンデミックは、世界経済と金融市場に大きな影響を与えた。政府や企業は、ウイルスの封じ込めようとして、旅行の禁止と制限、検疫、社会的距離、適所への避難、又は完全な封鎖命令、事業の制限と閉鎖など、数多くの対策を講じてきた。これらの対策は混乱し、事業活動を中断させ続け、金融市場に経済の減速と大きな変動をもたらし、世界の中央銀行はこれまでにない財政及び金融政策で対応してきている。

私たちは、リスク管理と事業継続計画を実施し、予防措置やその他の予防策を講じた。これには、従業員の出張制限やリモート作業の手配などがあり、これまでに重要なビジネスプロセス、顧客サービスレベル、主要ベンダー、財務報告システム、財務報告に対する内部統制及び開示の統制と手順を維持することを可能にした。

COVID-19パンデミックに関連するイベントは、当社の事業運営、投資ポートフォリオ、財務結果又は財務状況に重大な悪影響を及ぼす可能性がある。資本と流動性に関する会計上の見積もり、資産評価、及び様々な財務シナリオを引き続き検討する。しかし、健康、経済、社会、規制、及びその他の要因の進展に照らして、COVID-19パンデミック及びそれに対応して取られた当社の事業運営、投資ポートフォリオ、財務結果、財務状況への潜在的な影響は依然として不確実なままである。」

また、「投資リスク」の「現在の環境」においては、以下のように述べている。

「グローバルな保険会社として、私たちは変化するグローバルな金融及び経済環境、世界中の中央銀行の財政及び金融政策、ならびに政府の措置の影響を受け続けている。COVID-19パンデミックは、世界経済と金融市場に大きな影響を与えており、世界の株式、クレジット、不動産市場に大きな変動を引き起こしている。

世界中の政府と中央銀行は、COVID-19パンデミックに前例のない財政政策と金融政策で対応しており、これは金融市場と世界経済に重大かつ継続的な影響を与えると予想されている。これらの政策対応には、財政支援、流動性プログラム、新しい金融ファシリティ、及び金利水準のゼロ近辺 、ゼロ、一部の市場でのマイナスへの引き下げを含むがこれらに限定されない財政及び金融刺激策が含まれる。時間の経過とともに、これらの政策の有効性と、それらが世界経済及び金融市場の見通しにとって何を意味するかについてさらに詳しく知ることになるが、現在のところ、当社の事業運営、投資ポートフォリオ及びデリバティブへの影響を適切に判断するために、COVID-19パンデミックの影響の期間と重大度を確実に推定するには、要素が多すぎる。

COVID-19パンデミックが世界経済と市場に影響を与えた結果、2020年の第1四半期には、流動性に起因する価格の混乱や信用スプレッドの拡大など、金融市場に経済の減速と大きな変動があった。その結果、2020年の第1四半期に、ポートフォリオ内の特定の投資の価値は減少したが、これらの影響の一部は、そのような市場リスクをヘッジする特定の独立したデリバティブの価値の増加によって緩和された。これらの状況はしばらく続く可能性があり、リスクを伴う投資の価格設定レベル、ならびに当社の事業運営、投資ポートフォリオ及びデリバティブに引き続き影響を与える可能性がある。」
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中村 亮一

研究・専門分野

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