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- 2020年の成長率は6%前後も、2021年は5.5%前後へ低下
2017年10月に5年に1回の党大会(19大)を終えた中国では、2018年に入りデレバレッジを推進し始めたため、インフラ投資が急減速した。また、2018年夏に激化した「米中対立」は、中国経済の将来を担う「中国製造2025」関連産業の先行きに不透明感をもたらし製造業の投資を鈍らせるとともに、中国株が大きく下落して消費者マインドを冷やし、自動車販売は前年割れに落ち込んだ。さらに、「産業のコメ」と言われる集積回路(IC)にも影響を及ぼし、データセンター建設ラッシュが沈静化し、次世代通信規格(5G)への移行期に差し掛かったスマホの買い控えも重なって、それまで6%台後半で推移していた成長率は2018年末には6%台前半まで減速することとなった(図表1の減速A)。
しかし、デレバレッジ推進は棚上げしたものの、その後も「米中対立」は沈静化しなかったため、景気は再び減速し始め、7月にはニッセイ基礎研究所で開発した景気インデックス が6%を割り込むこととなった(図表1の減速B)。そこで中国政府は8月27日、「流通の発展を加速し消費を促進することに関する意見」を発表し消費拡大策(自動車購入規制の段階的緩和や深夜営業など20項目)を打ち出し、9月4日には地方政府特別債券の発行とその使用を加速する措置を発表した。また、8月には新たに導入したローンプライムレート(LPR)を貸出基準金利よりも低めに設定し、9月と11月にはそれをさらに引き下げて金利低下を促すとともに、9月16日には預金準備率を引き下げて銀行の貸出余力を増やした。そして、景気インデックスは9月には6.14%、10月には6.07%、11月には6.20%と底打ちすることとなった。
中国経済を需要項目別に見ると、個人消費の代表的な指標である小売売上高は、2019年1-11月期に前年比8.0%増と2018年通期の同9.0%増を1.0ポイント下回った。業種別の内訳が分かる一定規模以上企業の2019年1-11月期の売上高を見ると、日用品類が同13.9%増、化粧品が同12.7%増と高い伸びを示した一方、住宅販売の不振を背景に、家具類が同5.5%増、家電類が同5.9%増と2018年通期の伸びを大きく下回り、自動車は前年割れに落ち込んでいる。
他方、投資の代表的な指標である固定資産投資は、2019年1-11月期に前年比5.2%増と2018年通期の同5.9%増を0.7ポイント下回った。3大セクター別に見ると、不動産開発投資は同10.2%増と2018年通期の同9.5%増を上回り、インフラ投資も同4.0%増と2018年通期の同3.8%増を上回ったが、製造業は同2.5%増と2018年通期の同9.5%増を大きく下回った。
また、2019年1-11月期の輸出(ドルベース)は前年比0.3%減と、2018年通期の同9.9%増を大幅に下回り、ほぼ前年並みの水準で推移している。特に、“関税引き上げ合戦”が激化した対米輸出が同12.5%減と大きく落ち込んでいる。
以上のような中国経済の現状と政策動向を踏まえると、2020年の成長率は6.0%前後を維持するものの、2021年には5.5%前後へ鈍化すると予想している(図表2)。個人消費は、所得税減税などによる名目可処分所得の押し上げ効果が徐々に薄れてくるため減速は避けられないものの、中間所得層の増加がサービス消費を拡大し、ネット販売化が新たな消費を喚起する流れが続いているため、底堅い伸びを予想している。投資は、引き続き米中対立を背景とした先行き不透明感が足かせとなるものの、ITサイクルが最悪期を脱したのに加えて、インフラ投資も次第に勢いを増すと見ているため、2020年の投資は伸びを高めると予想している。但し、第14次5ヵ年計画に入る2021年以降はデレバレッジを再開すると見ているため、インフラ投資と不動産開発投資の伸びが鈍化して、投資は減速すると見ている。輸出は、先行指標となる新規輸出受注指数が拡張・収縮の境界線となる50%を18ヵ月連続で割り込んでおり、米中対立は「第一段階」の合意に至ったあとも覇権争いの長期化は避けがたく、製造拠点を海外に移転する動きがじわじわと広がりそうで、輸出の持続的な回復は期待できない。
一方、消費者物価は11月に前年比4.5%上昇と抑制目標である「3%前後」を大幅に上回ることとなった。アフリカ豚コレラが蔓延したことで、豚肉価格が前年同月の約2倍に高騰し、それが牛肉価格などに波及して食品価格全体を押し上げた。但し、工業生産者出荷価格を見ると、景気悪化を背景に原材料や耐久消費財の出荷価格が下落してきており、食品・エネルギーを除く消費者物価(コア部分)は前年比1.4%上昇に留まるなど、それ以外の物価は概ね安定している。
今後の消費者物価は、アフリカ豚コレラによる食品高を背景に2020 年上半期にかけて4%台まで上昇率を高めると見られるものの、食品・エネルギーを除く消費者物価が緩やかな上昇に留まり、工業生産者出荷価格も下落基調にあることを考えると、2021 年の消費者物価は3%を割り込む可能性が高いと見ている。
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三尾 幸吉郎
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(2020年01月08日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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