2019年10月18日

IFRS第17号(保険契約)の修正EDに対する関係者の意見等の動向

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5―その他の関係団体等からの意見

今回の修正提案に対する意見は、IASBのWebサイトで確認7できるが、119の個人や団体からの意見が寄せられている。その中で今回の修正提案に対するその他の関係団体等からの、意見は以下の通りである。
1|IAIS(保険監督者国際機構)
IAISは、まずは「新しい保険契約の基準は、保険会計のグローバルなコンバージェンスを促進するものであり、これにより財務報告の一貫性と比較可能性が向上し、結果として市場規律がより効果的になり、金融の安定性が高まることになる。」とし、今回の修正EDに関するコメントについては、「EDの範囲内のプルデンシャルな懸念事項に限定することを選択している。IAISは、IASBのEDの提案に基本的な異議を唱えていない。」と述べている。

さらに、「EDが国際基準に関連する実施努力を容易にする多くの簡素化を提供することを評価する。」とし、「提起された懸念はさらなる公開草案を正当化するには十分な大きさではないと考えている。これに加えて、IAISはIASBに対し、実務的に可能な限り早期に高品質な基準を最終化することを目的として、提起された全ての重要な懸念事項に対処するために受け取った回答を注意深く検討することを求める。」と述べている。
2|EIOPA(欧州保険年金監督局)
EIOPAは、まずは2018年10月に自らが行ったIFRS第17号についての分析8(これについては、基礎研レポート「IFRS第17号(保険契約)を巡る動向について(1)-各国の実施延期を求める動き及びIFRS導入の影響分析等- 」(2018.12.21)で報告済)に基づいて、「IFRS第17号に基づいて作成された保険者の財務諸表の透明性と比較可能性が高まると予想されることは、保険者のビジネスモデルに対するより良い洞察を提供し、欧州経済領域(EEA)の金融安定性を強化する可能性がある。」とし、「IFRS第17号の実施は、欧州の公益にとって有益である」と述べている。

また、今回の修正EDに関しては、「適用される割引率及びリスク調整の決定に関するIFRS第17号の原則に関して提起された留保事項について、これらの留保事項は、企業固有のインプットを許容する適切な水準を超えている可能性があり、その結果、大きく異なるかつ潜在的に比較不能な結果をもたらす可能性があるが、IASBが対処しないことを決定したことを理解する。」と述べている。そして「実際の実施状況をモニターし、実施後のレビューにおける評価テーマとして、割引率やリスク調整の決定を記録することを提言する。」としている。

また、「適切な集計レベルを決定し、保険契約の収益性を測定する上で、より原則に基づくアプローチを支持する。EIOPAの観点からすると、年次コホートによる集計は、実施後のレビューにおいて基準の効率性を評価するための重要な領域である。」としている。
3|ESMA(欧州証券市場監督局)
ESMAは、例えば以下のコメントを述べており、関係者から提起されている課題については、必要に応じて、IFRS第17号の導入後のレビュー等を通じて、さらに検討していくことを提案し、発効日の1年延期をさらに遅らせることに対しては強く反対している。

・実績報告の以下の主要な目的を追求するために必要な、年次コホート規定を含む集計要件の水準の修正を提案しないとのIASBの決定を支持する。(i) サービスが提供された時に保険契約の収益を認識する、(ii)保険会社が損失が予想されると決定するとすぐに、不利な契約の損失を認識する、(iii)収益性の変化に関するタイムリーな情報を報告する。しかしながら、これらの目的を追求しつつ、これらの要件の有効性及び効率性を改善できることを示す更なる証拠が得られた場合には、我々は、IASBに対し、IFRS第17号の導入後レビューの一環として、あるいは可能であれば、基準の適時な導入に影響を及ぼすことなく、それ以前にIASBがそれを検討することを推奨する。

・金融情報の利用者に、保険契約に関するより透明で関連性のある情報を提供するために対処すべきである2つの具体的な提案に関するいくつかの懸念を確認した。

(1) 基礎となるビジネス慣行の経済性をより良く反映させるために、将来の契約更新に関連する保険契約獲得キャッシュ・フローのための資産を認識するとの提案の妥当性を認識する一方で、基準において重要な判断の追加的要素を導入することを懸念する。したがって、我々は、提案された要件の実施における恣意的な判断の範囲を縮小するために、更新の定義及び将来の契約更新に対する保険契約キャッシュ・フローの配分に関する方法論について、IASBがガイダンスを提供することを強く提案する。

(2) 保有する再保険契約と関連する元受保険契約の経済的整合性を反映したモデルの開発に同意する。ただし、提案されたアプローチは、より大きな損失の認識をより長期的にシフトさせつつ、再保険を締結することのメリットを直ちに認識させるリスクがあることに留意している。したがって、適時に実行可能であれば、提案がより正確なマッチングをどのように確保できるかについて、IASBが再検討することを推奨する。このような時宜を得た解決策が存在しない場合には、新しい基準の実施経験に基づいて、IASBは、保険契約と再保険契約の整合性の改善された表示が-経済的に関連している場合に-どのようによりよく表現されているのかを、後の段階で検討することを推奨する。

・ESMAは、提案された修正から生じる不確実性に対処することを意図したIFRS第17号の発効日の1年延期提案を支持する。しかしながら、発効日の更なる延期は想定されないことを強く勧告する。同様に、IFRS第17号との整合的な適用を確保するために、IFRS第9号からの暫定的例外の適用期間を1年延長することを支持する。しかしながら、IFRS第9号の適用をこれ以上遅らせないことを強く推奨する。これ以上の延期は、保険業界で活動している発行体によって保有される金融商品の重要な残高について、特に信用リスクに関しての、より良い情報の提供を妨げることになる。
 

6―IFRS第17号を巡るその他の動向

6―IFRS第17号を巡るその他の動向

この章では、今回のIASBによるIFRS第17号の修正に関するEDへの意見とは独立して、IFRS第17号を巡るその他の動向のうち、IFRSを実質的に採択しているオーストラリアとカナダの保険監督当局における動きについて報告する。

1|オーストラリアの保険監督当局APRAの対応
オーストラリアの保険監督当局であるAPRA (オーストラリア健全性規制庁)は、9月27日に、保険会社宛に書簡9を送って、IFRS 第17号のオーストラリア版であるAASB第17号を健全性資本及び報告の枠組みに統合するアプローチについて協議している。協議は11月22日まで行われる。

また、生命保険及び損害保険会社は、生命保険及び損害保険資本(Life and General Insurance Capital Standards :LAGIC)制度に従っているが、民間の健康保険会社の資本ルールは開発中であり、APRA はこの部門のAASB 第17号へのアプローチを検討している。

(1)リスク軽減のための実施準備
APRA はAASB 第17号への移行に伴うリスク軽減のため、AASB 第17号への準備に関する情報を保険会社に要求しており、11月8日までに回答することを求めている。

(2)レビューアプローチ
APRA は以前、2020年半ばに確定する予定である国際会計の枠組みがより確実になるまで、規制資本と報告に対する詳細なアプローチを決定しないと述べていたが、利害関係者は、慎重な取り扱いとAPRA の報告要件の側面を明確にすることを求めてきていた。APRAは、この書簡を皮切りとして、AASB17統合への指標となるアプローチに関する最新情報を提供することを提案している。

(3)健全な枠組みへの統合時期
APRA は、AASB 第17号の発効日が2022年1月であると仮定して、保険会社が2023年7月1日からAASB 第17号ベースの規制資本要件の報告と決定を開始することを提案している。なお、保険会社が2023年7月1日のAPRA が示した開始日より前にAASB 第17号を採用する場合、保険会社は、引き続き既存の健全性及び報告基準に基づいて、規制資本を決定し、規制報告書を提出しなければならない。

(4)具体的な項目についての方向性(例)
APRAは、統合計画のいくつかの側面を概説している。生命保険固有の項目については、例えば、以下のような方向性が示されている。

・資本費用の較正については、AASB 第17号の統合による意図しない結果に対処するために、LAGICの枠組みでのリスク費用の再較正が必要かどうかを検討する。これは、AASB統合に関連する多くの調整が、自己資本基準の決定及び健全性資本要件の計算に影響を与えるという見解を反映している。

・割引率については、規制上の自己資本を決定するために、保険会社に特定のリスクフリー割引率を適用することを引き続き要求する。APRAの見解では、慎重な資本結果を達成するためには、容易に実現可能な資産から得られる収益を反映し、信用リスクのないこれらのレートに基づいて負債を評価することが引き続き適切である。また、オーストラリアの契約債務については、英連邦政府証券の利回りを、保険会社の資本ベースと所定の資本額を決定するための安全率として維持することを意図している。外貨建契約債務については、契約債務通貨及びカウンターパーティ・グレード1の流動性の高いソブリンリスク証券の利回りを基準としたリスクフリー金利の適用を保険会社に求める要件を維持しようと考えている。APRAはさらに、規制上の自己資本を決定するために適用される利回りに内在する信用リスクや非流動性に対する準備金を除去するための調整を保険会社に求め、割引率の決定に関する情報をAPRAに提供することを期待している。
2|カナダの保険監督当局OSFIの対応
カナダの保険監督当局であるOSFI(金融機関監督庁)は、保険資本の枠組みに関する以下のガイドラインAをIFRS 第17号に整合させるために、その改訂を検討している。

(1) 生命保険会社向けの生命保険資本適正テスト(LICAT)
(2) 損害保険会社向けの最低資本テスト(MCT)

OSFIは、8月13日に、連邦規制下の保険会社に書簡10を送付して、「IFRS第17号に関するOSFIの活動」に関する情報を提供している。これによれば、OSFIは、IASBがIFRS第17号の修正を承認し、カナダ会計基準審議会がそれらを公認プロフェッショナル会計士カナダハンドブックに組み込む場合、公に掲示された勧告を修正し、2018年6月27日に発行された書簡10で概説された作業の進捗のタイムラインを更新すると述べた。

さらに、OSFIは、2019年秋に、保険会社と会計方針の選択について協議し、会社のポジションを理解し、カナダの業界全体でIFRS 第17号の適用に一貫性及び/又は比較可能性があるかどうかを判断する、としている。

OSFIは、IASBが新しい発効日を承認する場合、2020年6月に別の直接協議を追加する予定で、直接協議は、最終に近いLICAT及びMCT 2022年ガイドライン、フォーム、及びQIS 2を対象とし、全体的な資本への影響、及び調整又は移行措置の必要性を判断する、としている。また、OSFIは、2021年にLICAT及びMCT 2022年ガイドラインを完成させる予定としている。

一方で、OSFIは2019年11月に規制リターンの草案について協議し、2020年6月までにそれらを確定する予定である。
 
10  OSFIの連邦規制の生命保険及び損害保険会社宛書簡「IFRS第 17号に関するOSFIの活動」http://www.osfi-bsif.gc.ca/Eng/fi-if/in-ai/Pages/ifrs17-let.aspx
11 OSFIの連邦規制の生命保険及び損害保険会社宛書簡「IFRS第 17号のLICAT及びMCT 2021レビュー」
http://www.osfi-bsif.gc.ca/Eng/fi-if/in-ai/Pages/licatmct_let.aspx
 

7―まとめ

7―まとめ

以上、今回のレポートでは、「IFRS第17号(保険契約)の修正」に関するEDに対する関係者の意見及びIFRS第17号を巡る動向のうち、オーストラリアとカナダの保険監督当局における動きについて報告してきた。

IFRS第17号については、今回のコメントを踏まえて、さらにIASBでの議論が行われていくことになる。最終的には、2020年半ばに確定することが予定されている。一方で、これに併せて、EFRAG等の利害関係者によるIFRS第17号の採択に向けた検討も進められていくことになる。

ところが、今回の修正EDに対しても、EFRAGや保険業界団体から、多くの修正やさらなる明確化等を求めるコメントが寄せられている。さらには、保険業界団体だけでなく、EFRAGからも、発効日のさらなる1年の延期(元々予定されていた発効日からの2年延期)が提案されている。こうした意見を踏まえて、IASBがどのような対応を行っていくのか、それに対して関係者がどのような反応を示していくのか、が注目されていくことになる。

IFRS第17号については、日本の保険会社も大きな影響を受ける可能性がある会計基準であることから、今後の動向については引き続き注視していきたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2019年10月18日「基礎研レポート」)

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【IFRS第17号(保険契約)の修正EDに対する関係者の意見等の動向】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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