- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- アジア経済 >
- 【マレーシア】4-6月期GDPは前年同期比+4.9%-2期ぶりの成長加速、鉱業の回復が押し上げ
2019年08月16日
2019年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比4.9%増1と前期の同4.5%増から上昇し、Bloomberg調査の市場予想(同4.7%増)を上回った。
4-6月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に外需の改善が成長率上昇に繋がった(図表1)。
GDPの5割強を占める民間消費は前年同期比7.8%増(前期:同7.6%増)と小幅に上昇、食品・飲料やホテル・レストランを中心に高水準で推移した。
政府消費は前年同期比0.3%増(前期:同6.3%増)と大きく鈍化した。
総固定資本形成は同0.6%減(前期:同3.5%減)と低迷した。設備投資が同4.2%減(前期:同7.4%減)と3期連続のマイナス成長、また建設投資は同1.2%増(前期:同1.3%減)と2期ぶりのプラスとなったが、+1%台の低成長で停滞したままとなっている。なお、投資を公共部門と民間部門に分けて見ると、全体の7割を占める民間部門が同1.8%増(前期:同0.4%増)と小幅に上昇した一方、公共部門が同9.0%減(前期:同13.2%減)と7期連続のマイナスとなった。
純輸出は実質GDP成長率への寄与度が+1.4%ポイントとなり、前期の+0.9%ポイントから改善した。輸出が同0.1%増(前期:同0.1%増)の横ばいで停滞したものの、輸入が同2.1%減(前期:同1.4%増)とマイナス幅を広げた。
供給側を見ると、鉱業の回復が成長率上昇に繋がった(図表2)。
第一次産業は同4.2%増(前期:同5.6%増)と低下したものの、高めの水準を維持した。前期に二桁増に急上昇した天然ゴム(同2.2%増)が鈍化、漁業(同5.4%減)と林業(同5.8%減)がそれぞれ減少した一方、パーム油(同9.5%増)は好調だった。
第二次産業をみると、まず鉱業は同2.9%増(前期:同2.1%減)となり、前年同期に落ち込んだ天然ガスの反動増によって7期ぶりのプラスとなった。また製造業は同4.3%増(前期:同4.1%増)と小幅に上昇した。内訳を見ると、電気・電子、光学機器(同4.1%増)と石油・化学、ゴム・プラスチック製品(同3.0%増)は伸び悩んだが、輸送用機器(同7.2%増)の好調が全体を牽引した。また建設業は同0.5%増(前期:同0.3%増)と僅かに上昇したものの、2期連続のゼロ成長となった。
GDPの6割弱を占める第三次産業は前年同期比6.1%増(前期:同6.4%増)と低下した。卸売・小売(同6.7%増)と情報・通信(同6.3%増)、不動産・ビジネスサービス(同7.9%増)が堅調な伸びを維持した一方、政府サービス(同3.7%増)と金融・保険(同4.8%増)が低調に推移した。
1 8月16日、マレーシア中央銀行が2019年4-6月期の国内総生産(GDP)を公表した。
第一次産業は同4.2%増(前期:同5.6%増)と低下したものの、高めの水準を維持した。前期に二桁増に急上昇した天然ゴム(同2.2%増)が鈍化、漁業(同5.4%減)と林業(同5.8%減)がそれぞれ減少した一方、パーム油(同9.5%増)は好調だった。
第二次産業をみると、まず鉱業は同2.9%増(前期:同2.1%減)となり、前年同期に落ち込んだ天然ガスの反動増によって7期ぶりのプラスとなった。また製造業は同4.3%増(前期:同4.1%増)と小幅に上昇した。内訳を見ると、電気・電子、光学機器(同4.1%増)と石油・化学、ゴム・プラスチック製品(同3.0%増)は伸び悩んだが、輸送用機器(同7.2%増)の好調が全体を牽引した。また建設業は同0.5%増(前期:同0.3%増)と僅かに上昇したものの、2期連続のゼロ成長となった。
GDPの6割弱を占める第三次産業は前年同期比6.1%増(前期:同6.4%増)と低下した。卸売・小売(同6.7%増)と情報・通信(同6.3%増)、不動産・ビジネスサービス(同7.9%増)が堅調な伸びを維持した一方、政府サービス(同3.7%増)と金融・保険(同4.8%増)が低調に推移した。
1 8月16日、マレーシア中央銀行が2019年4-6月期の国内総生産(GDP)を公表した。
4-6月期GDPの評価と先行きのポイント
4-6月期の成長率は+5%弱となり、新政権発足後の+4%台半ばの緩やかな成長ペースから加速したが、これは前年同期の鉱業生産が供給ショックによって落ち込んでいたことによる「ベース効果」に起因するものとみられる。昨年4-6月期はサバ州東部にあるパイプラインの破損に伴う修復作業で天然ガスの供給が滞っていたほか、悪天候に伴うパーム油の生産減少が成長率を押し下げる要因となっていた。現在は天然ガスの生産能力が回復しており、7-9月期もこのベース効果がGDPの押上げ要因となりそうだ(図表3)。
また景気の牽引役である民間消費が小幅ながら加速したことも成長率を押し上げた。民間消費は新政権が実施した6月の物品サービス税(GST)の廃止2が消費を押し上げる構図が続いている。昨年4-5月は総選挙でマハティール首相がGST廃止を打ち立て消費が低迷していたため、今年4-6月期まではGST廃止の消費の押し上げ効果が続いたものと見られる。しかし、この減税効果は既に一巡しており、6月の消費者物価上昇率は前月から+1.3%ポイント上昇した(図表4)。インフレ率は依然として低水準にあるものの、物価上昇により家計の実質所得は目減りすることには変わらない。
また景気の牽引役である民間消費が小幅ながら加速したことも成長率を押し上げた。民間消費は新政権が実施した6月の物品サービス税(GST)の廃止2が消費を押し上げる構図が続いている。昨年4-5月は総選挙でマハティール首相がGST廃止を打ち立て消費が低迷していたため、今年4-6月期まではGST廃止の消費の押し上げ効果が続いたものと見られる。しかし、この減税効果は既に一巡しており、6月の消費者物価上昇率は前月から+1.3%ポイント上昇した(図表4)。インフレ率は依然として低水準にあるものの、物価上昇により家計の実質所得は目減りすることには変わらない。
世界経済の減速や米中貿易摩擦の激化を背景にマレーシアの輸出は低迷している。マレーシアは中間財の対中輸出が多く、米中貿易戦争の影響を受けやすい国である。実際、この2四半期は民間投資が低調に推移している。雇用・所得環境は依然として良好な状態にあるが、19年に入ってから変調をきたしている。4-6月期は製造業とサービスセクターの給与が同4.2%増(前期:同4.9%増)、就業者数が前年比1.9%増(前期:同2.1%増)と、それぞれ鈍化傾向が続いており、今後の民間消費の減速が懸念される。こうした外需主導の景気後退リスクは依然としてくすぶったままであり、先行きの景気は+4%台半ばの緩やかな成長ペースが続くと予想される。
マレーシア中銀は今年5月の金融政策決定会合で景気支援を目的として2016年以来となる政策金利の引き下げを決定しているが、最近の米中貿易摩擦の激化を受けて金融市場では早速マレーシア中銀の追加利下げ観測が高まっている。年明けからの米連邦準備制度理事会(FRB)のハト派化が新興国の利下げの後押しとなっていることもマレーシアの追加利下げ観測を補強している。今後、先進国経済が景気後退に陥る展開となれば、マレーシアを含む新興国は資金流出圧力に晒されるだろう。9月には欧州中央銀行(ECB)の金融緩和が予想される。先進国の金融緩和に乗じてマレーシアも追加利下げに踏み切り、国内経済を下支えすると同時に将来の利上げ余地を確保するなど金融政策を柔軟に見直すことは有効だろう。
2 新政府は18年6月1日よりGSTの廃止(ゼロ税率化)を実施し、9月にSSTを再導入(売上税10%、サービス税6%)するまでの3ヵ月間はタックス・ホリデー(免税措置期間)となった。
マレーシア中銀は今年5月の金融政策決定会合で景気支援を目的として2016年以来となる政策金利の引き下げを決定しているが、最近の米中貿易摩擦の激化を受けて金融市場では早速マレーシア中銀の追加利下げ観測が高まっている。年明けからの米連邦準備制度理事会(FRB)のハト派化が新興国の利下げの後押しとなっていることもマレーシアの追加利下げ観測を補強している。今後、先進国経済が景気後退に陥る展開となれば、マレーシアを含む新興国は資金流出圧力に晒されるだろう。9月には欧州中央銀行(ECB)の金融緩和が予想される。先進国の金融緩和に乗じてマレーシアも追加利下げに踏み切り、国内経済を下支えすると同時に将来の利上げ余地を確保するなど金融政策を柔軟に見直すことは有効だろう。
2 新政府は18年6月1日よりGSTの廃止(ゼロ税率化)を実施し、9月にSSTを再導入(売上税10%、サービス税6%)するまでの3ヵ月間はタックス・ホリデー(免税措置期間)となった。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2019年08月16日「経済・金融フラッシュ」)
このレポートの関連カテゴリ
03-3512-1780
経歴
- 【職歴】
2008年 日本生命保険相互会社入社
2012年 ニッセイ基礎研究所へ
2014年 アジア新興国の経済調査を担当
2018年8月より現職
斉藤 誠のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2024/12/13 | インド消費者物価(24年11月)~11月のCPI上昇率は4カ月ぶりに低下、食品価格の高騰がやや緩和 | 斉藤 誠 | 経済・金融フラッシュ |
2024/12/06 | インド経済の見通し~豊作と政府の設備投資の回復により景気が回復、再び内需主導の高成長軌道へ | 斉藤 誠 | Weekly エコノミスト・レター |
2024/12/06 | インド経済の見通し-内需主導で6%台後半の高成長軌道が続く | 斉藤 誠 | 基礎研マンスリー |
2024/11/26 | ニッセイ景況アンケート調査結果-全国調査結果 2024年度調査(2024年9月) | 斉藤 誠 | ニッセイ景況アンケート |
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年12月13日
ECB政策理事会-3会合連続となる利下げを決定 -
2024年12月13日
インド消費者物価(24年11月)~11月のCPI上昇率は4カ月ぶりに低下、食品価格の高騰がやや緩和 -
2024年12月13日
海底資源探査がもたらす未来-メタンハイドレートと海底金属 -
2024年12月13日
日銀短観(12月調査)~景況感はほぼ横ばい、総じて「オントラック」を裏付け、日銀の利上げを後押しする内容 -
2024年12月13日
グローバル株式市場動向(2024年11月)-トランプ氏の影響で米国は上昇するが新興国は下落
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【【マレーシア】4-6月期GDPは前年同期比+4.9%-2期ぶりの成長加速、鉱業の回復が押し上げ】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
【マレーシア】4-6月期GDPは前年同期比+4.9%-2期ぶりの成長加速、鉱業の回復が押し上げのレポート Topへ