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EIOPAが保険ストレステストに関するDPを公表-方法論的原則とガイドラインを提示-
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2.3.4.サブ結論
55.この章では、STの演習で検討すべき3つの概念的要素、i)ベースラインの定義と再計算、ii)期間、iii)経営行動、について説明し、それぞれのアプローチの単独の長所と短所を提示する。将来のEIOPA STの目的のために、3つの要素によって提供される選択肢は全体的に評価されるべきであり、STの目的とアプローチの複雑さの両方を考慮すべきである。
56.特定のショックに対する保険の感応度の評価に焦点を当てているミクロプルーデンスSTの場合、最も適切な選択は、(実現可能であれば)埋め込みの適用に制限があり、事後的なストレス後経営行動を何ら考慮しない瞬間的なショックアプローチであろう。ストレス後の重要指標の計算に重要な簡素化が必要な場合は、同じ簡素化を使用したベースラインシナリオの再計算を検討することができる。この設定は、単一ショックシナリオ又は複数ショックシナリオに基づくことができる。後者が適用される場合、特定のショックによる限界的影響に関する情報が要求されるかもしれない。
57.目的が業界の脆弱性を(ミクロ又はマクロレベルで)評価することである場合、最も適切な選択は、長期間にわたって引き伸ばされる特定のシナリオ要素(例えば保険特有のショック)を補完した瞬間的ストレスシナリオであろう。事後的なストレス後経営行動は適用されるべきではないが、組み込まれた経営行動の使用に制限を適用すべきではない。代替的には、事後的なストレス後経営行動をとることも可能であり、それによってこれらの措置の影響は別々に報告されなければならない。
58.スピルオーバー効果に焦点を当てたマクロプルーデンスな目的の場合、提案されたアプローチは、事後的なストレス後の経営行動の使用に対する制限と組み込まれた経営行動に対する潜在的な制限を伴う1期間の瞬間ショックアプローチに基づくであろう。制限がなくなり、あらゆる種類の経営行動が可能になる。経営行動の影響を含む(このような場合も含まない場合も含む)この種の分析は、複数期間にわたるテストの複雑さに直面することなく、瞬時のストレスシナリオにおける二次的影響の定量分析を可能にする。
59.提案されているアプローチは、今後のEIOPA演習STで実行されるべき実行可能な前進を表している。時間が経てば、アプローチは複数期間の枠組みに向けてさらに強化される可能性がある。ただし、複数期間の包括的なマクロプルーデンスST固有の複雑さはさらに分析する必要があるため、このタイプのST分析は2番目のステップとしてしか考慮できない。
60.具体的なストレスの目的に関連する提案されたアプローチの要約は、以下の表の通りである。
(図表は上記と重複するため、省略)
STの目標と範囲は、STの実行のためになされるべき重要な選択であり、これらの選択は、当面のSTの目的に大きく依存している。例えば、分散効果やグループ内取引が考慮されることで、ターゲティンググループは金融安定性の観点からより多くの洞察を得ることができる、としている。
各種検討の結果として、運用上の観点からのミクロ指向STの最も適切な範囲は、単独会社を対象とすることである、としている。これは、より厳密な監督のためのインプットを提供し、ショックの適用とデータ検証プロセスを容易にする一方で、より国別の分析も可能にする、としている。
3-4.サブ結論
72. STの目標と範囲は、STの実行のためになされるべき重要な選択である。これらの選択は、当面のSTの目的に大きく依存している。例えば、分散効果やグループ内取引が考慮されることで、ターゲティンググループは金融安定性の観点からより多くの洞察を得ることができる。
73.同時に、グループレベルのSTは高レベルの複雑さを伴う。特に、EU以外の会社との統合は、運用上の困難とそれほど意味のない結果をもたらす。また、グループSTの結果は、検証がより難しく、監督上の目的にはあまり役立たず、国レベルの分析に簡単に使用することはできない。
74.単独とグループの中間的な目標は、STを合成グループに適用することである。例えば、これはEU以外の会社の排除を可能にする。しかし、STの合成グループをターゲットにすることには、重大な欠点がある。繰り返しになるが、集計結果は検証がより困難となる。また、合成グループは存在しない法人であるため、結果に関するコミュニケーションと監督上の行動の両方がより困難となる。
75.これらの検討事項に照らして、運用上の観点からのミクロ指向STの最も適切な範囲は、単独会社を対象とすることであろう。これは、より厳密な監督のためのインプットを提供し、ショックの適用とデータ検証プロセスを容易にする一方で、より国別の分析も可能にする。 マクロ指向の分析の場合には特別な考慮が必要となる。
3-1.全体的
シナリオ開発のためのハイブリッドアプローチは、予想されるリスクを評価して市場の動きとの整合性を維持することを可能にするので、純粋なヒストリカル又は純粋なフォワードルッキングアプローチよりも好ましい。
また、市場ショックのきめ細かさは、演習の目的と併せて考慮されなければならない。特定の国に基づく分析がより高いレベルのきめ細かさを必要としない限り、バケットアプローチはEU全体の評価のための好ましい選択肢と見なすことができる。
4.3.5.サブ結論
100.シナリオ開発のためのハイブリッドアプローチは、予想されるリスクを評価して市場の動きとの整合性を維持することを可能にするので、純粋なヒストリカル又は純粋なフォワードルッキングアプローチよりも好ましい。
101.単一ショック、単一シナリオ及び複合シナリオの選択は、演習の目的に厳密に関連するものとする。理想としては、マクロシナリオと保険業界のショックの影響を組み合わせたシナリオで解決したい。
102. SII(ソルベンシーII)の枠組みとの整合性が望まれるが、リスクフリー金利曲線を導き出すためのアプローチの変更は、物語によって示された市場の状況をよりよく反映するように勧められる。UFRがベースラインに関して変更されていない場合は、(該当する場合)ストレスシナリオの下でのUFRの変化に対する感応度の情報を収集できる。
103.監督上の目的のために、ストレス後のポジションに対するLTGと移行措置の影響は、SIIの枠組みに沿って報告され分析される必要がある。
104.市場ショックのきめ細かさは、演習の目的と併せて考慮されなければならない。特定の国に基づく分析がより高いレベルのきめ細かさを必要としない限り、バケットアプローチはEU全体の評価のための好ましい選択肢と見なすことができる。
ここでは、シナリオ設計の個々のテーマのうちの2つの項目について紹介する。
(1)ソルベンシーII枠組みとの整合性と、より市場適合性の高いシナリオへの移行の必要性(UFRについて)
DPは、リスクフリーレート(RFR)曲線を作成するためのソルベンシーIIの枠組みに従うストレステストの有用性に疑問を投げかけており、EIOPAは、ストレステストで低利回り環境などの業界の真の脆弱性を明らかにする場合は、ソルベンシーIIの要素、特に終局フォワードレート(UFR)を調整する必要がある、としている。
EIOPAは、UFRの調整の影響を評価するための以下の2つの異なるアプローチを示し、その長所と短所の分析を行っている。
・オプション1(シナリオの一部としてUFRを調整)
ストレステスト用に規定されたRFR曲線に調整済みのUFRが直接含まれる。
・オプション2(UFRの変更によるわずかな影響を伴うシナリオでは、UFRは変更されないままとする)
ストレス前後の状況でUFRの変更によるわずかな影響が別々に要求される可能性がある。
・ストレス後の規制上のポジションを評価するために、ベースラインに関してUFRを変更しないことを勧告する。しかし、このアプローチでは、ベースラインとストレス後の状況の両方で、UFRの動きに対する感応度を評価する価値がある。
・シナリオの経済的影響を評価するためには、UFRを規定のシナリオと一致するように調整することが望ましい選択肢となる。
なお、LTG(長期保証)及び移行措置の影響に関しては、これらの措置はソルベンシーⅡの枠組みと整合的に取り扱われ、即ちLTG及び移行措置は、比較可能性を高め、経済的な影響と監督上の分析のためのショックの規制上の影響をよりよく評価するために、ストレス後の結果において区分して報告されるべきと述べている。
(2)気候変動リスク
従来のストレステストモデルでの気候シナリオの使用は、未だ開発段階にあり、(重大なモデリングとデータの課題により)共通の方法論はまだ合意されていない。EIOPAは、気候ストレステストに関連する他の監督当局及び組織によって行われた作業に留意しており、気候関連リスクを取り入れるためにその監督ストレステスト方法論を強化することをコミットしている、と述べている。
EIOPAは今回のDPにおいて、気候リスクストレステストに対する2つのアプローチを検討している。
1.長期的な気候シナリオ分析
気候変動の影響がかなりの期間にわたって完全に現れると予想されることを考慮している。
これは、気候関連リスクに対する保険会社の脆弱性を評価し、様々な会社が、評価が困難なリスクをどのように管理しているかを理解するのに役立つ。シナリオでは、様々な気候変動の道筋を探り、物理的リスクと移行リスクの両方を取り入れることができる。
2.短期的な気候ストレス
気候関連のストレスを1~3年という典型的なストレステスト期間内に組み入れる。ストレスには、物理的リスクと移行リスクの両方が含まれる。このアプローチは、EIOPAの2018年保険ストレステストの演習に含まれるNat-Catシナリオに似ている。
6―まとめ
このDPの導入部において述べられているように、このDPは、「方法論及び運用の観点から見た、ストレステストに対するEIOPAのアプローチの一般的な機能強化の一部」となっている。さらに、「ストレステストの結果の適切なフォローアップ分析を可能にし、発行される可能性のある推奨事項をより適切に発展させ、フォローアップするために、EU全体のST演習の頻度を減らすことが検討されている。」と述べている。これにより、「2つのST演習の間で、EIOPAは、業界への負担を軽減するトップダウン及び/又はボトムアップのアプローチを通じて、特定のエクスポージャーに対して集中的な感応度分析と評価を行う。」としている。
加えて、「方法論的観点から、EIOPAは、悪条件下での流動性ポジションの評価、移行に対するポジションの評価、気候変動から生じる物理的リスク、及び多期間ストレステストへの潜在的なアプローチなど、ST関連の特定トピックに関する追加文書を発行する予定である。」としている。
その意味で、今回のDPはあくまでもEIOPAによるストレステストの全般的な見直しに向けての第1歩となっている。
ストレステストは、保険会社にとって極めて重要なリスク管理ツールとなっており、今回のDPを契機としたEIOPAによるストレステスト検討の動きは、欧州以外の保険業界関係者にとっても、極めて関心の高い事項であることから、今後も引き続き注視していくこととしたい。
(2019年08月13日「保険・年金フォーカス」)
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