2019年07月10日

【東南アジア経済】ASEANの貿易統計(7月号)~輸出は6ヵ月連続の減少、米中貿易戦争の影響でアジア向けが減少

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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19年5月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て、通関ベース)は前年同月比3.8%減(前月:同2.6%減)とマイナス幅が拡大した(図表1)。輸出の伸び率は昨年前半まで堅調に推移していたが、年後半からは海外経済の減速やITサイクルのピークアウト、米中貿易摩擦、コモディティ価格の下落などを受けて低下傾向で推移、直近6ヵ月は緩やかな減少が続いている。ベトナムでは輸出の増加が続いているものの、5月に米中貿易摩擦が再び激化、米国の景気減速懸念が浮上するなど外部環境は悪化しており、輸出停滞が長期化する懸念は高まっている。

ASEAN6カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、5月は北米向け(同14.8%増)が2ヵ月連続で加速したものの、米中貿易戦争の影響が広がるなかで東アジア向け(同4.1%減)と東南アジア向け(同4.8%減)が減少、EU向け(同9.3%減)も低迷した(図表2)。
(図表1)ASEAN6カ国の輸出額/(図表2)ASEAN6ヵ国仕向け地別の輸出動向
タイの19年5月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比6.2%減(前月:同2.8%減)と、マイナス幅が拡大した。輸出は今年2月に大規模軍事訓練後の武器の出荷と貨幣用金が牽引して一時的に急伸したものの、基調としては昨年後半から米中貿易摩擦や世界経済の減速など先行きの不透明感が強まるなかで電子機器を中心に減少傾向にある。一方、輸入額が前年同月比0.7%減(前月:同0.7%減)と停滞した結果、貿易収支は1.8億ドルの黒字となり、前月から16.4億ドル改善した(図表3)。

輸出を品目別に見ると、全体の約8割を占める主要工業製品は同5.9%減(前月:同4.4%減)と低迷した(図表4)。工業製品の内訳を見ると、家電製品(同1.7%増)こそ僅かに増加したものの、主力の電子機器(同6.7%減)と機械・装置(同4.7%減)が低迷したほか、自動車・部品(同11.1%減)や石油化学製品(同15.0%減)も減少した。また鉱業・燃料は同20.9%減(前月:同0.8%増)となり、石油製品(同21.3%減)を中心に大幅に減少した。さらに農産物・加工品も同3.5%減と、前月の同3.3%増からマイナスに転じた。天然ゴム(同9.9%減)とゴム製品(同15.7%減)は国際価格下支えを目的とした供給削減によって大きく減少したほか、加工食品(同5.9%減)も二ヵ月ぶりのマイナスとなった。
(図表3)タイの貿易収支/(図表4)タイ輸出の伸び率(品目別)
ベトナムの19年5月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比9.5%増(前月:同10.4%増)と小幅に低下した。輸出の伸び率は今年2月に旧正月に伴い営業日数が減少した影響で一時的に減少したものの、繊維関連が堅調に拡大、電気・電子製品も持ち直すなど、勢いを取り戻している。また輸入額も前年同月比10.2%増(前月:同19.9%増)と鈍化した結果、貿易収支は12.9億ドルの赤字となり、前月から7.3億ドル悪化した(図表5)。

輸出を品目別に見ると、まず輸出全体の約2割を占める電話・部品が同15.3%増(前月:同11.5%増)、コンピュータ・電子部品が同16.5%増(前月:同16.7%増)となり、それぞれ二桁増を維持した(図表6)。繊維関連では、織物・衣類が同16.5%増(前月:同9.1%増)、履物が同11.8%増(前月:同15.8%増)と、それぞれ好調に推移した。農産品は、野菜(同3.9%増)が増加する一方、カシューナッツ(同11.3%減)やコーヒー(同21.8%減)、コメ(同23.1%減)が低迷したほか、天然ゴム(同28.9%減)が再び減少した。

輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が同10.3%増(前月:同8.4%増)、地場企業が同7.7%増(前月:同15.0%増)となり、それぞれ3ヵ月連続で増加した。
(図表5)ベトナムの貿易収支/(図表6)ベトナム輸出の伸び率(品目別)
マレーシアの19年5月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比2.7%減(前月:同4.5%減)とマイナス幅が縮小した。輸出の基調は昨年から主力の電気・電子製品を中心に増加傾向を維持してきたが、年後半からはベース効果の剥落やパーム油の出荷減少により増勢が鈍化、今年1月には原油需要の低迷を受けて2016年10月以来のマイナス圏に突入した。一方、輸入額は前年同月比3.6%減(前月:同1.4%減)とマイナス幅が拡大した結果、貿易収支は21.8億ドルの黒字となり、前月から4.5億ドル黒字が縮小した(図表7)。

輸出を品目別に見ると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同2.2%減(前月:同4.7%減)と、主力の電気・電子製品(同4.5%減)を中心に低迷した(図表8)。また鉱物性燃料は同17.2%減(前月:同0.3%減)と大きく減少した。原油(同24.0%減)が低迷したほか、石油製品(同19.8%減)と天然ガス(同10.0%減)がそれぞれ二ヵ月ぶりのマイナスとなった。一方、動植物性油脂は同12.2%増(前月:同19.4%減)と、パーム油の出荷が増えて13ヵ月ぶりのプラスに転じた。
(図表7)マレーシア貿易収支/(図表8)マレーシア輸出の伸び率(品目別)
インドネシアの19年5月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比9.0%減(前月:同9.5%減)とマイナス幅が縮小した。輸出は昨年前半までは主力のパーム油やゴム製品、石炭などの資源関連が落ち込むなかでも自動車・同部品を支えに堅調に推移してきたが、昨年後半からは世界的な需要減退と商品価格の下落を背景に鉱産物や電気機械が振るわず、低迷している。一方、輸入額が前年同月比17.7%減(前月:同4.7%減)とマイナス幅が拡大した結果、貿易収支は2.1億ドルの黒字となり、2ヵ月ぶりに黒字化した(図表9)。

全体の9割を占める非石油ガス輸出が同6.4%減(前月:同7.1%減)、石油ガス輸出が同31.8%減(前月:同37.1%減)となり、それぞれ低迷した(図表10)。また品目別に見ると、繊維製品(同0.0%増)が若干のプラス、電気機械(同0.4%減)が小幅マイナスに止まったものの、輸出全体の4分の1を占める鉱産物(同19.5%減)や動植物製油脂(同13.7%減)、プラスチック・ゴム製品(同6.0%減)、機械類(同5.0%減)、天然・養殖真珠(同4.5%減)など幅広い品目が減少した。
(図表9)インドネシアの貿易収支/(図表10)インドネシア輸出の伸び率(品目別)
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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