コラム
2019年04月16日

「平成31年度」の行方-令和元年度?

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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4月になり年度が改まった。5月1日から元号も「令和」となることが決まった。

日本の会社は3月末決算が多いし、ましてや保険会社は法律で事業年度が4月から3月と決まっている。従ってこれから5月以降決算発表やら、株主総会などが続く季節が始まる。それと同時に新年度の経営計画や収支計画なども同時に発表、説明されることも多い。

さて、3月末に事業年度が終わり、これから発表されるのは、いつの決算か。

それは当然「2018年度決算」である。これを、元号を用いて言うと「平成30年度決算」である。これには何の問題もなさそうだ。

では新年度の計画は?「平成31年度」なのか、「令和元年度」なのか。意外に頭を悩ませるかもしれない。

「平成31年度」が正しいという立場の意見は
  • 新元号が決まる前から、もうすでに平成31年度という名前の年度が始まっており、場合によっては正式な文書にも使っている。その名前をいまさら変えるわけないだろう。(?)
  • 年度は、その始まりの月の属する元号で表示するものなのである。(?)

それでおそらく正しいのだろうが、法令で決められているというレベルではなさそうだ。一方、「令和元年度」派の意見は、
  • 5月1日改元だと、12か月のうち11か月が令和時代に属する。
  • 区切りがいい。

あまり、理論的ではなさそうで、「平成31年度」派のほうが、威勢がいいようにも見えるが。
 
さて、元号に関する法律上の扱いをみると、まず元号法という法律があり、短いのでここに全文を紹介してしまうことにする。
昭和五十四年法律第四十三号
元号法
 1 元号は、政令で定める。
 2 元号は、皇位の継承があつた場合に限り改める。
附則
1 この法律は、公布の日から施行する。
2 昭和の元号は、本則第一項の規定に基づき定められたものとする。

法律で定められているのはこれだけなので、さらに実務的な行政上の取り扱いについては、総務省から各都道府県知事と政令指定都市市長あてに「元号を改める政令等について」1という文書が発出され、その中で改元に伴う元号による年表示の取扱いについて述べている。特に「新元号への円滑な移行に向けた関係省庁連絡会議申し合わせ」という文書が添付されており、その中では「国民生活への影響をできる限り少なくすること」、「各府省における円滑な事務手続きに資すること」を基本的な考え方とし、要は、誤解が生じない限り、柔軟な取扱いを認める旨記載されている。例えば、とある法律の文章中の元号を変更するためだけの改正は、別の改正機会が来るまで必要ないなどとされている。

さて、この通知文書の中で、国の予算における会計年度の名称については、
「原則、改元日以降は、当年度全体を通じて、「令和元年度」とし、これに伴い、当年度予算の名称は、各府庁が改元日以降に作成する文書においては、「令和元年度予算」と表示するものとする。」

とある。

これを見ると、5月からは国の予算上は、「平成31年度」ではなく、(4月も含めて)「令和元年度」と表示することになる、ということだ。

あくまでも省庁の文書の国の予算の名称の扱いであるので、民間企業を含め、私的な文書の記載を直接統制するものではなさそうだ。しかし中央省庁から都道府県などにこうして通知がなされると、そうした行政機関はもちろんのこと、それに近い団体、公共性の強い団体(スポーツ団体とかも?)などは、このやりかたに従うほうが不必要な議論をせずに済むので、間接的に統一される方向にはなるのだろう。
 
個人的な印象ではあるが、筆者の貧しい想像力で、来年の今頃「2019年度」の決算説明をする場面を頭に描いてみても、その時期(令和2年5~7月頃)に

「平成31年度の業績は・・・」などと聞くと、かなり令和に慣れたであろう雰囲気からすると、「え?まだ平成?」という違和感をもつことになろう。また、「始まりの月の属する元号で年度を表記する」なら、

平成30年度、平成31年度、令和2年度・・・

となり、令和元年度が登場しない。わかってはいても、1年とばしてしまったかのようだ。だから会計年度は「令和元年度」が便利だと思う。もともと、この時期に皇位の継承と事前の新元号の発表をすると決めた段階で、新元号を積極的に使用できるようにという点も配慮された(はず)であろう。とはいってもこの後、今は想像のできない何らかの不都合・迷いも出てくるかもしれない。

(先に挙げた通知でも、個別の疑義は所管官庁に問い合わせるようにと、付言されている。)
 
また、「元年」という呼び方は「1年」といっては何か問題があるのかという議論もあろうか。

調べてみると、大正、昭和への改元の際には、「改元の詔書」で「大正元年」、「昭和元年」と称することが明記されていたようだ。平成への改元の際は、そこまで全般的なものはないようだが、戸籍事務に関する法務省の通知2に「新元号の初年は「平成元年」と記載する」なる文言があるとのことだ。今般、「令和」では、先に挙げた総務省の通知等以外には、そうした法令について筆者は確認していないが、慣例からいっても「1年ではなく元年」がより正しいのであろう。

しかし、決算説明などの場面では、例えば損益計算書を3~5年並べた数表が作成されることがあるが、その際はどうか。

昭和から平成では、S62、S63、H1・・・だったが、今回は

H29、H30、R1・・・でいいのだろうか。「R」にはずいぶん違和感があるが、平成の「H」もかつてそうだった。これは直に慣れるだろう。こういう場合には「H元」とかはあまり見かけなかった記憶があるので、「R元」ではなく「R1」が使われることが多くなると思うが、昭63、平元、平2・・・などという表記も時に見かけるので、なんとも言えない。
 
「年度」というのは、様々な事業、運営に際して便利なように1年を区切るものであるから、会計年度のほかにも、産業などによって異なる様々な区切り方が用いられる。学校年度(4月~翌年3月)、米穀年度(11月~翌年10月)、砂糖年度(10月~翌年9月)・・など。もちろん、国によっても違うので、これは日本だけの例である。

こうして、元号や年度のことを気にし始めると、国や地域、産業分野など、広範囲の歴史や経緯に足を踏みいれてしまうことになりそうだ。機会があれば、そうしたことに触れることもあろうが、今回はあえて軽く、目先にある問題として、今般の改元における会計年度の表示の話だけにしておく3
 
 
1 総務省「元号を改める政令等について」http://www.soumu.go.jp/menu_kyotsuu/important/kinkyu02_000318.html
2「昭和64年1月7日法務省民2第20号法務局長,地方法務局長あて民事局長通達」とのことであるが、筆者は現物を確認できていない
3 興味ある方は以下のレポートなどもご参照
「国の会計年度はなぜ4月から3月までなのか?諸外国はどうか?」中村亮一(2019.4.5 基礎研レター)https://www.nli-research.co.jp/files/topics/61267_ext_18_0.pdf?site=nli
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2019年04月16日「研究員の眼」)

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