2019年04月05日

「機微技術」をめぐる米中攻防戦 - 安全保障か経済か、厳しい選択を迫られる日本

基礎研REPORT(冊子版)4月号

総合政策研究部 常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任 矢嶋 康次

中村 洋介

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1―覇権争いでは決して折れない米国

米国と中国の覇権争いが続いている。とりわけ、知的財産等、ハイテク覇権に関しては、そう簡単には折り合えないだろう。中国に覇権は渡さない、対立も辞さないという強いスタンスは、議会等「米国指導者層の総意」と受け止めるべきだ。経済・産業だけでなく安全保障に直結しかねない先端技術、知的財産に関する事項は、とりわけ強硬なスタンスで臨むはずだ。
 
今後日本においても、米中ハイテク覇権争いのあおりを受けないか、という点に注目していく必要がありそうだ。

2―厳しくなる米国の機微技術管理

米国の機微技術管理が厳しくなりつつある。機微技術とは、武器や軍事転用可能な技術のことを指す。米国が「技術を盗もうとしている」と警戒する中国を念頭に、安全保障にも影響するような最先端技術の流出を防ぐ対策を強化している。
 
2018年8月に成立した国防権限法*に盛り込まれる形で、対米投資規制を強化する外国投資リスク審査近代化法(FIRRMA)と、輸出管理規制を強化する輸出管理改革法(ECRA)が成立した。FIRRMAを通じて、外国企業の対米投資を審査している対米外国投資委員会(CFIUS)の権限を強化した。例えば、従来は合併や買収のように対象企業を支配するものを審査対象としてきたが、FIRRMAによってその対象が拡大し、少額投資であっても米企業の重要技術等にアクセスが可能となる場合は審査対象になる。また、ECRAでは、今まで輸出規制で対象となっていなかったAI等の新興・基盤技術の輸出管理を強化する、つまり米国政府の輸出許可が必要となる方向性が盛り込まれている。本稿執筆時点では、対象となる新興・基盤技術の特定に向け米国政府で検討作業が進められている。2018年11月には、新興技術の特定に関してパブリックコメントを実施、14の技術分野を示した上で、意見を募集した。そこで示された技術分野では、バイオテクノロジー、AI、ロボット技術等、足もと世界的に注目され、スタートアップ等がこぞって取り組んでいる先端技術分野が含まれている[図表]。
機微技術分野
まだ本格的な実用化や製品化に時間がかかる先端技術にも管理対象が拡大することになり、従来の「安全保障上の理由」「軍事転用への懸念」の解釈が拡大しつつあるように見受けられる。

3―日本にとっては、「米国との安全保障」か「拡大する中国との経済取引」か、という難しい選択

米国の念頭にあるのは中国だが、今回の規制強化によって日本企業も影響を受けそうだ。
 
例えば、中国企業と合弁企業を展開する日本企業が、米国企業へ少額出資をしようとした際に、米国から厳重な審査を受ける可能性がある。
 
また、米国企業と米国内で先端技術に関する共同研究を行っている日本企業が、その研究成果を国外に持ち出す場合や、その成果を用いた製品を中国に輸出するような場合に、米国政府の許可が必要となる可能性がある。
 
日本は、米国と中国という2つの経済大国と経済面で相互に大きく依存し合っている。サプライチェーンは複雑に絡み合い、国境を越えたビジネスは当たり前だ。急速に進む技術革新を取り込めなければ死活問題になるだけに、AIや自動運転技術等の先端技術を持つ米国企業へのアクセスは重要だ。とは言え、巨大な中国市場を無視することは出来ない。今後確定する規制内容や、制度運用次第の面もあるが、日本企業にとってもその動向や影響については注視が必要な状況だ。
 
安全保障の面では、日本は米国とは切っても切れない関係にある。経済、ビジネス面では中国との結びつきが大きくなりつつある。中国に覇権を渡すまいとする米国の規制強化によって、今後日本は「踏み絵」を踏まされることになるのだろうか。米中の激しい争いが「漁夫の利」となるほど甘くは無さそうだ。
 
*The National Defense Authorization Act 2019
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総合政策研究部

矢嶋 康次 (やじま やすひで)

中村 洋介

(2019年04月05日「基礎研マンスリー」)

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