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「機微技術」をめぐる米中攻防戦 - 安全保障か経済か、厳しい選択を迫られる日本
基礎研REPORT(冊子版)4月号
総合政策研究部 常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任 矢嶋 康次
中村 洋介
1―覇権争いでは決して折れない米国
今後日本においても、米中ハイテク覇権争いのあおりを受けないか、という点に注目していく必要がありそうだ。
2―厳しくなる米国の機微技術管理
2018年8月に成立した国防権限法*に盛り込まれる形で、対米投資規制を強化する外国投資リスク審査近代化法(FIRRMA)と、輸出管理規制を強化する輸出管理改革法(ECRA)が成立した。FIRRMAを通じて、外国企業の対米投資を審査している対米外国投資委員会(CFIUS)の権限を強化した。例えば、従来は合併や買収のように対象企業を支配するものを審査対象としてきたが、FIRRMAによってその対象が拡大し、少額投資であっても米企業の重要技術等にアクセスが可能となる場合は審査対象になる。また、ECRAでは、今まで輸出規制で対象となっていなかったAI等の新興・基盤技術の輸出管理を強化する、つまり米国政府の輸出許可が必要となる方向性が盛り込まれている。本稿執筆時点では、対象となる新興・基盤技術の特定に向け米国政府で検討作業が進められている。2018年11月には、新興技術の特定に関してパブリックコメントを実施、14の技術分野を示した上で、意見を募集した。そこで示された技術分野では、バイオテクノロジー、AI、ロボット技術等、足もと世界的に注目され、スタートアップ等がこぞって取り組んでいる先端技術分野が含まれている[図表]。
3―日本にとっては、「米国との安全保障」か「拡大する中国との経済取引」か、という難しい選択
例えば、中国企業と合弁企業を展開する日本企業が、米国企業へ少額出資をしようとした際に、米国から厳重な審査を受ける可能性がある。
また、米国企業と米国内で先端技術に関する共同研究を行っている日本企業が、その研究成果を国外に持ち出す場合や、その成果を用いた製品を中国に輸出するような場合に、米国政府の許可が必要となる可能性がある。
日本は、米国と中国という2つの経済大国と経済面で相互に大きく依存し合っている。サプライチェーンは複雑に絡み合い、国境を越えたビジネスは当たり前だ。急速に進む技術革新を取り込めなければ死活問題になるだけに、AIや自動運転技術等の先端技術を持つ米国企業へのアクセスは重要だ。とは言え、巨大な中国市場を無視することは出来ない。今後確定する規制内容や、制度運用次第の面もあるが、日本企業にとってもその動向や影響については注視が必要な状況だ。
安全保障の面では、日本は米国とは切っても切れない関係にある。経済、ビジネス面では中国との結びつきが大きくなりつつある。中国に覇権を渡すまいとする米国の規制強化によって、今後日本は「踏み絵」を踏まされることになるのだろうか。米中の激しい争いが「漁夫の利」となるほど甘くは無さそうだ。
*The National Defense Authorization Act 2019
中村 洋介
(2019年04月05日「基礎研マンスリー」)
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