2019年04月02日

年金改革ウォッチ 2019年4月号~ポイント解説:パート以外への厚生年金適用拡大

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ―― 先月までの動き

先月は、次期財政検証や制度改正に向けて多数の部会等が開催された。
 
○社会保障審議会  年金財政における経済前提に関する専門委員会
3月7日(第10回) 年金財政における経済前提、その他
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_03851.html (資料)
3月13日(報告書) 
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_03932.html (資料)
 
○(年金局)年金広報検討会
3月8日(第2回)  年金ポータル(仮)の具体的内容、年金広報コンテストの基本的方向、その他
 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212815_00008.html (資料)
 
○(年金局)働き方の多様化を踏まえた社会保険の対応に関する懇談会
3月12日(第3回) 関係団体からのヒアリング②、その他
 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_03943.html (資料)
3月26日(第4回) 関係団体からのヒアリング③、その他
 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_04191.html (資料)
 
○社会保障審議会  年金部会
3月13日(第8回)  2019年財政検証、年金財政における経済前提(報告)、年金広報、遺族年金制度
URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212815_00009.html (資料)
 
○社会保障審議会  企業年金・個人年金部会
3月19日(第2回) 関係団体からのヒアリング、確定給付企業年金の非継続基準の予定利率
URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000204064_00005.html (資料)
3月29日(第3回) 関係団体からのヒアリング
URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000204064_00006.html (資料)
 
○社会保障審議会  年金数理部会
3月28日(第81回) 公的年金財政状況報告(平成29年度)、その他
URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000198131_00008.html (資料)
 

2 ―― ポイント解説:パート以外への厚生年金適用拡大

2 ―― ポイント解説:パート以外への厚生年金適用拡大

働き方の多様化を踏まえた社会保険の対応に関する懇談会では、厚生年金の適用拡大に向けて諸団体からのヒアリングが実施された。本稿では、同検討会の特徴*1であるパート(短時間)労働者以外への厚生年金の適用拡大を確認する。
 
*1 過去の適用拡大に関する会議体と比べて、パート労働者以外の論点でのヒアリングを実施した点などが特徴。
図表1 厚生年金の加入対象事業所 1|制度の再確認:個人事業所は業種・規模により任意適用
厚生年金の適用拡大と言えば、検討期限が2019年9月に法定されているパート労働者の拡大が近年の話題である。しかし厚生年金の加入要件は、労働時間などの働き方だけでなく、職場(事業所)が厚生年金の対象か否かにも影響される。

現在の制度では、法人の事業所は業種や規模に関係なく厚生年金の強制適用の対象である。一方で個人事業所は、法律で決められた16業種かつ従業員が5人以上の場合にのみ強制適用の対象となる。それ以外の個人事業所は強制適用の対象ではなく、従業員の半数以上の同意を得れば任意で加入できる仕組みになっている(図表1)。

検討会では、労働条件の公平性の観点と企業間の競争条件の公平性の観点から、この要件の見直しが論点の1つになっている。
図表2 年金機構の加入促進活動の状況 2|留意点の確認:実効性の確保と被用者性の確認
労働条件や競争条件の公平性の観点からは、すべての企業での厚生年金適用が望ましい姿と言えよう。
図表3 年金機構の指導で加入した事業所 しかし、望ましい姿であっても、それが実効性を持たなければ意味がない。法人事業所は、すべての規模で強制適用になってから30年になるが、未だに未適用事業所や未適用従業員の問題があり、日本年金機構が対策に取り組んでいる(図表2・3)。実効性のある適用拡大のためには、法的に強制するだけでなく、少人数の事業所でも事務が負担とならないような諸手続きの見直しが必要であろう。

また、代表者1人だけや家族経営の企業が、被用者保険である厚生年金の対象としてふさわしいか(被用者性)について、法人経営か個人経営かを問わず再確認が必要だろう。現在の年金制度では、所得捕捉の問題等を主因として自営業者は厚生年金に加入できない仕組みになっている*2。しかし、2006年の会社法改正で法人の設立要件が大幅に緩和されており、5人未満の法人が厚生年金の強制適用の対象となった当時と比べて、法人経営と個人経営の垣根が下がっている*3。厚生年金の適用における労働条件や競争条件の公平性と被用者性との優先順位について、労働法や社会保障法の有識者から意見を聞くなど、しっかりとした再確認が必要だろう。
 
*2 例えば、社会保障制度改革国民会議報告書(2013) p.40.
*3 例えば同検討会では、フリーランスも法人化すれば厚生年金に加入できる、という主旨の発言があった。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

(2019年04月02日「保険・年金フォーカス」)

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