2019年03月26日

保険・年金商品のコストと収益性に関する報告書の公表(欧州)-EIOPAによる初の試作的報告書

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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1――保険・年金商品のコストとパフォーマンスの公表要請について

1当報告書の公表要請(欧州委員会から欧州監督当局へ)
欧州保険年金監督局(EIOPA)は2019年1月10日、保険および年金商品の費用と過去のパフォーマンスに関する最初の報告書1を公表した。

これは、欧州委員会(EC)からの、欧州監督当局(ESAs)に対する「個人向け投資商品のコストとパフォーマンスについて、定期的に報告するように」という要請に応えるものである。この要請が2017年10月に出されて以来、今回はその最初の報告ということであり、いまだデータ不足とはいえ、今後の基盤あるいは方向性を示す、試験的な内容となっている。

この報告書では、EU内の「保険型投資商品」(Insurance-Based Investment Products:IBIP)と特定の「個人年金商品」(Personal Pension Products:PPP)のコスト集計データと、2013年~2017年の、(今後発展するとしても)仮の定義に基づくパフォーマンスを示した。

こうした基礎データの把握とその利用は、EU内の規制で定められた保険契約の「重要情報書面」(Key Information Documents:KID)の記載内容に基づく。この記載内容というのは、投資型の保険商品の一部である「パッケージ型リテール投資商品」(Packaged Retail Investment and Insurance-based Products:PRIIPs)の販売時に求められる、資産運用などのリスクの程度、予想パフォーマンスなどの事前説明文書に記載されているべき事項であり、2016年4月に一応の最終決定をみている。

しかし、それだけでは不十分だったので、今回の報告書作成のために、EIOPAがEU内の保険会社に追加データの提供を求めて得られたデータをも利用している。この状況は、個人年金保険についても同様の状況である。  

2――報告書の内容

2――報告書の内容

1対象となる保険、年金商品の範囲
今回、分析の報告対象となった保険商品には以下のようなものがある。

保険型投資商品は、市場の変動に完全に、あるいは部分的に連動している、満期保険金のある保険商品である(従って解約返戻金への期待も高い)。リターンが常に発生する一方で、資産の変動などのリスクも負っている。具体的にはユニットリンク商品、有配当商品、その混合型も存在する。

とはいえ、一定の保証(例えば保険料から決められた費用の控除後の水準や、一定の利回り)が付けられた商品の引き受け量が多いようである。もちろん有配当商品やユニットリンクとの混合型で一定の保証があるものが典型的だが、ユニットリンク商品ですらなんらかの保証がついているタイプもある。その他には死亡保障がついているものもある。

保険料の払込方法としては、一時払も平準払(即ち保険料累積型)もあるが、証券投資やファンド投資の場合には一時払が多いのに比べると、保険商品においては、特に長期のものについて平準払が多いようである。

「ユニットリンク商品」は、受け取った保険料を資金として、株式や債券など様々な投資を行い、リスクはあるが、保証はないのが普通である。

有配当商品も様々な資産に投資するが、保険契約者を直接リスクにさらすわけではなく、保険会社でリスクをとりながら、少しでもリターンを得ようとする商品である。法律の定めや商品タイプによって、保証される部分や保証されない配当などを含む。

また「個人年金商品」は、退職後の生活資金を準備するという重要な目的を有することからそれぞれの国内法のもとで税制優遇などを受けた個人年金であり、上記の保険型投資商品同様、ユニットリンクや有配当商品として提供される。それぞれの国の年金制度などに密接に関連していることが多く、また年金を受取る段階になると、その受取方法の選択が多岐にわたり、分析も複雑になるためか、さしあたってこの報告書では、保険料積立期間のみを対象としている。
2国別の保険規模や、分析対象など
EU内における生命保険セクターの規模の概要について、報告書の記載の中から少し見ておく。

EU統計局(Eurostat)によると、EU全体の個人金融資産は、2016年には33兆8500億ユーロである。その約40%が保険・年金などの商品、また預金等が約30%、そして株式や投資ファンドが約25%である。

欧州証券市場監督局(ESMA)によれば、EUにおける集団投資事業(UCITS2)の資産は全体で4兆3000億ユーロであり、これにはユニットリンクの一部が含まれる。
 
国別の保険規模を、2016年における責任準備金ベースでみると、最も大きい市場は英国であり、以下フランス、ドイツ、イタリア等と続く。

また2016年中の、会計上の元受保険料(Gross Written Premium3)ベースでみると、フランス、イタリア、英国の順に規模が大きい。
 
こうした市場からのデータではあるが、最初の報告である今回は、使えるデータが限られている。これは、追加データを提供した保険会社の数が限られていることや、そうして集計されたデータの統一性などが原因と思われる。把握された規模は、2016年責任準備金残高ベースで、EU内の生命保険市場全体の21%であり、今回の報告内容はこの範囲内に限定される。保険会社数でいえば、21の国と地域の63会社のデータが分析された。これは受け取ったデータの45%を占める。

本格的にこうしたデータを評価するにあたっては、先の欧州委員会の要請によれば、「少なくとも全体の65%をカバーすること」が目標となっているので、こうした点でみても、まだ試行の域を出ないものではある。
 
2 日本でいう投資信託のような投資ファンドと思われる
3 財務諸表の表面上記載される保険料のこと(つまり、期間損益を測るための未経過保険料などを考慮しないベースのもの)
3報告されたコストとパフォーマンスの概要
データ不足であるということなので、報告書で述べられた結果を、今そのまま受け取って考察するのはまだ控えるべきだろう。それでも今回、以下のような分析がなされているので、今後、こうした実情が分析されることに、期待することはできそうである。

その意味で、コスト、パフォーマンスにつきいくつか紹介すると、以下のようなものがある。
 
・保険型投資商品についての結果
KIDにおいては、保険商品を7つのリスクの大小に応じて7つのカテゴリーに分類して示すことが求められている。(1:非常に低い から7:最大のリスクまで)
リスクカテゴリー別のコストでは、リスクが高いほうがコスト高になっている傾向にある。有配当商品はカテゴリー1か2であり、比較的コストは低い水準である。

・ネットリターンの分布
2016年実績データを収集できた344の商品について、ネットリターンをみると、-12%から50%以上にまで分布しているが、1%~4%の商品が151と約4割を占める。

・ここ数年の動き
2013年から2017年の実績利回りをみると、ユニットリンク商品では2.62%(2017)~6.70%(2014)といったバラツキが見られるが、有配当商品は会社がリスクをとって平準化していることから、2.31%(2016)~3.21%(2015)と、リターンは少し低い水準だが、バラツキは小さい。

・リスクカテゴリーとパフォーマンスの関係(ユニットリンク、有配当)
2017年の一時払商品の場合において、リスクカテゴリー別のリターンをみると、当然のことではあるが、例えばリスクカテゴリー1(リスクがほぼない)ではリターンがほぼ0%であるが、リスクカテゴリー7だと、-10%~15%とばらついている。
 
その他にインフレや税金コストの影響についても分析されている。
 
・個人年金についての結果
個人年金については、得られたデータがさらに特定の国に限られ、使える量も少ないので、現時点では、保険型投資商品の補足程度にしかならないが、ほぼ同じ傾向の結果にはなっている。
 
また、全般的にいえることとして、商品種類、保険料、リスクカテゴリー、管轄区域(法域)によって、保険コストが異なる。これは当然のこととも取れるが、様々なリスクカテゴリーに関連する資産管理コストの変動が異なる要因であるとされている。

パフォーマンスについては、商品の違い、例えば最低保証、年金原資額の変動調整、有配当商品の最終精算配当、リスクやボラティリティの影響などから、比較が困難であると結論し、かつ今後の大きな課題と認識されている。
 

3――おわりに

3――おわりに

今回の分析は、試行的なものである。上で見たように、データの質・量ともに限界があり、比較可能性にも制約があることから、データ収集をしたものの、かなり多くの部分は使用できなかったようだ。

今後、こうした課題に対処するため、EIOPAは、コストの定義、特に有配当商品の過去のパフォーマンスの計算方法を検討・策定していくことにしている。データ不足の中で、あえて報告書を試作してみて、今後の指針について具体的なイメージと課題をより深めたことが大きな進歩かもしれない。

(2019年03月26日「保険・年金フォーカス」)

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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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