2019年03月07日

外国人労働者との多文化共生ー日本語教育における高齢者活躍の期待

基礎研REPORT(冊子版)3月号

総合政策研究部 研究員・経済研究部兼任   鈴木 智也

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1―共生社会実現への課題

1|外国人労働者の拡大
 
2018年12月、新たな在留資格の創設を盛り込んだ改正入国管理法が成立した。今後5年間に最大34.5万人の外国人労働者を新たに受入れることになる。現在、日本に在留する外国人は264万人。国内で就労する労働者は146万人。受入規模の大きさを理解することができる。これら外国人労働者はどこから来るのであろうか。国内に流入する外国人労働者は近年増加傾向にある。2018年の増加率は前年比+14.2%、その半分程度はベトナムとネパールの出身者が寄与している。この事実は、非漢字圏である両国が日本の人手不足を補う人材プールとなっていることを示している。
 
外国人は日本とは異なる社会的背景を有している。そのため、文化や慣習の違いから地域社会との間に問題を抱える場合が少なくない。外国人が地域社会に円滑に溶け込むためには、社会統合に向けた取組みが欠かせないものとなる。特に重要と考えられるのは、日本語能力の底上げである。共通の言語は相互理解を深める最良のツールであり、外国人が日本の文化や慣習を学ぶ際に情報へのアクセスを容易にしてくれる。
 
上述の通り、今後は非漢字圏の出身者が増加すると見込まれる。非漢字圏の出身者は、中国や韓国などの漢字圏出身者と比べて、日本語習得の壁が高いと言われている。それだけに、手厚い日本語教育の環境整備が重要となる。
 
2|日本語教育の現状
 
しかし現状では、教育体制の整備が十基礎研レター分に進んでいるとは言い難い。日本語教育に関わる省庁は複数にまたがり、教育機関や地域が異なれば所管する省庁も異なっている[図表1]。
国内外における日本語教育の概観
また、国内で働く日本語教師の57%は無報酬のボランティアであり、地域の日本語教室はボランティアに依存しているのが実情だ。そのため教育の質は均一に保たれておらず、地域的なばらつきが生じている。今後、流入拡大が見込まれる外国人は就労を目的とした資格で来ることになるため、日本語教室の役割は大きくなると予想される。仮に、今後5年間で34.5万人の日本語学習者が加わるとすれば、現在の水準で考えると5.8万人の教師が必要になる。さらに、教育の質を改善しようとすれば、2.2万人のボランティアの置き換えや再教育も必要となる。他にも、日本語教室が開設されていない地域が1,896市区町村中1,209も存在し、在留外国人の2割にあたる約55万人もの外国人がそこに居住しているという問題や、外国人の子弟に対する教育支援の問題もある。外国人の児童生徒に対する教育は、権利が法的に保障されているものの、就学の義務は課されていない。そのため、学校教育において体系的な支援は行われず、日本語能力の乏しい児童生徒が教育の機会から置き去りにされるといった状況が生まれている。日本語教育に残された課題は多く、体制整備はまだ道半ばである。
 
3|高齢者は日本語教師に最適
 
教育体制の整備が求められる中、高齢者は地域の日本語教育を担う存在として注目される。それは、高齢者と外国人のニーズは日本語教育に関して相互補完的だからだ。高齢者は日本語に堪能で文化に対する造詣が深く、様々な背景を持つ経験豊富な人材である。一方、外国人は日本語能力が未熟で日本の社会慣習に対して理解が浅く、比較的若い世代が多いため人生経験も足りていない。日本語教師には語彙力だけでなく歴史や文化といった社会全般の知識が求められるが、若者と比べて高齢者はその条件を備えている場合が多い。豊富な知識や経験を有することは、外国人が抱える様々な問題の解決に役立つだろう。高齢者にとっては収入を得ながら活き活きと活躍する機会となる。日本語教師は豊かな老後を支える受皿となり得るのである。

2―両者を結びつける取組み

1|高齢者の意識改革
 
一方で、高齢者は外国人に対する受容性が若年層より相対的に低いとされ、自然体で日本語教師に魅力を感じるとは考えにくい。報道機関の世論調査によると、外国人の受入れに対する賛否は若い世代ほど積極的であり、年齢と共に反対意見が増えていく。この要因を社会心理学の「接触仮説」に基づいて考えると、各世代の受容性は外国人との接触機会の多寡に影響されると考えられる。仮説によれば、集団に対する偏見は無知から生まれ、接触機会の増加によって解消される。少し古い調査ではあるが2000年に実施された内閣府の世論調査によると、外国人との接触の機会は年齢とともに減少していく[図表2]。
外国人受け入れ
仮に、この傾向が現在も変わらないとすれば、高齢者が外国人との接触の機会を多く持つことで社会全体の受容性が高まる。高齢者が日本語教師になることは、共生社会の実現にもつながる一石二鳥の取組みであると言えるだろう。
 
2|インセンティブとコスト負担
 
高齢者が日本語教師を新たな職業として選択するには、何らかのインセンティブが必要である。少なくとも、日本語教師が安定して収入の見込める自立した職業になることが必要だろう。それにはボランティア依存から脱却して日本語教師の雇用機会を増やすことや介護職員処遇改善加算制度*1のような待遇改善の仕組みを導入することなど、現状の延長線上にない取組みを検討していくことも必要だ。ただし、これらの取組みは新たな財政負担を伴う。その社会コストを「誰が負担すべきか」という問題については、まだ明確なコンセンサスが 形成されていない。公費で負担すべきだとする意見がある一方で、外国人本人に負担を求めるべきだとする意見や外国人を受入れる事業主や業界が負担すべきだとする意見もあり、見方は分かれている[図表3]。
 
海外の事例では、公費による負担が主流と見られるが、中には台湾やシンガポールのように事業主が一部を負担しているケースもある。外国人を受入れるうえで社会コストの発生は避けられない。それをどのように負担すべきか、さまざまな意見を踏まえて考える必要があるだろう。
 

3―腰を据えた議論を

外国人への日本語教育は共生社会の実現に向けた優先課題である。本稿では、高齢者活躍に着目して日本語教育の基盤強化を考えてきたが、実際に一筋縄で進む話ではないだろう。日本語教育のボランティア依存からの脱却、日本語教育の質的向上、そのための制度的サポートや負担分担に関するコンセンサスの形成など、解決していくべき課題は多い。一方で、外国人の流入増が見込まれる新たな在留資格制度の運用開始までには時間が限られており、迅速な対応が求められてもいる。社会の安定に関わる問題だけに片手間の議論で済ませることなく、真正面から腰を据えた取り組みが必要である。
 
*1 介護職員処遇改善加算制度とは、事業者が特定の要件を満たすことで介護職員の給与に対して国から一定の給付が得られるシステムのこと。加算は全5区分から構成され、取得要件の難易度に応じて1人あたり月額1.2万円~3.7万円が支給される。
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総合政策研究部   研究員・経済研究部兼任

鈴木 智也 (すずき ともや)

研究・専門分野
日本経済・金融

(2019年03月07日「基礎研REPORT(冊子版)」)

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