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都道府県別にみた宿泊施設の稼働率予測~インバウンド拡大に伴うホテル建設が進み、一部地域では供給過剰も~
白波瀨 康雄
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1―はじめに
1 宿泊人数×宿泊日数。
2 1~11月は第2次速報値、12月は第1次速報値。
2―試算(需給予測)の概要
需要サイドの利用客室数は訪日外国人と国内旅行客に分け、延べ宿泊者数を1部屋当たりの平均利用人数で除して算出した。訪日外国人の延べ宿泊者数は訪日外客数に宿泊日数を乗じて算出した。訪日外客数は政府目標である2020年に4,000万人、2030年に6,000万人を想定している。国内旅行客の延べ宿泊者数は、性別・年齢別の将来推計人口と宿泊日数を基に算出した。
供給サイドの総客室数は、2017年から固定した上で客室稼働率を算出した。その結果、稼働率が85%を超えた都道府県のホテルは客室数が不足しているとし、85%に収まるための必要な客室数(利用客室数÷85%-総客室数)を求めた。加えて、その都道府県について、2020年までのホテルのオープン計画(株式会社オータパブリケイションズ「全国ホテルオープン情報」)を加味した稼働率を求めた。また、オープン計画を加味すると、稼働率が大幅に低下する都道府県もみられた。
旅館、簡易宿所については稼働率が85%を上回る都道府県は現れなかった。ただし、旅館は廃業による客室数の減少が続いており、一部都道府県については、旅館の客室数の減少が続いた場合の稼働率について言及した。
3 リゾートホテル、ビジネスホテル、シティホテルなど。
4 宿泊する場所を多数の人で共用する構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業のもの(ベッドハウス、山小屋、カプセルホテルなど)。
3―【需要サイド】訪日外国人の宿泊動向
1|訪日外客数の動向2013年に1,000万人を上回った訪日外客数は、2018年に3,000万人を突破した(図表2)。7年連続の増加となるが、伸び率は8.7%と7年間で最も低くなった。政府は2020年の訪日外客数4,000万人を目標にしており、目標達成には2019、2020年の2年間で年率14%の増加が必要となる。十分射程圏内にあるが伸び率は2015年をピークに低下しており、回復が遅れれば達成が遠のく恐れもある5。
また、政府は2030年に訪日外客数6,000万人を目指している。この達成には、2020年に4,000万人到達後、年率4%超の伸びが必要である。
5 内閣府「地域の経済2018(平成30年11月27日)」では、LCC航空便数が2018年以降毎年10%増加すれば、2020年に 訪日外国人数は3,770万人になり、毎年20%増加すれば2020年に4,210万人になると予測している。なお、LCC就航便数は2016 年、2017 年にそれぞれ 28.2%、25.7%増加しており、現状と同程度の伸びが続けば政府目標は十分に達成可能と分析している。
訪日外国人の平均宿泊数(延べ宿泊者数÷訪日外客数)をみると、2013年から2015年半ばにかけて3泊台前半から3.4泊まで高まったが、その後は減少に転じ、2018年入り後には2.7泊まで落ち込んでいる(図表4)。落ち込んだ時期は、ちょうど民泊の物件が増加し始め、民泊という言葉が話題になり始めた時期と重なっており(図表4)、訪日外国人の滞在日数が減少したというよりも、調査対象外となっている民泊の利用者が増加した可能性が高い7。そして、住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行された2018年6月以降、宿泊数は増加に転じている。民泊新法施行を控え、民泊仲介サイトのAirbnbでは違法民泊の恐れのある物件の掲載を取りやめたことで、登録件数が2018年春時点の6.2万件から6月4日時点で1.38万件に急減8した。民泊を利用できなくなったことで、ホテルなどの宿泊に需要が流れているとみられる。また、民泊新法に基づく民泊は営業日数に制限(年間180日)があるほか、自治体によってはより厳しい規制を敷いている地域もあり、旅館業法に基づく簡易宿所を民泊として運営するケースもみられる。よって、民泊新法に基づく民泊の普及ペースは同法施行前と比べると緩やかなものにとどまると思われる9。
また、三大都市圏(埼玉、東京、千葉、神奈川、愛知、京都、大阪、兵庫の8都府県)より地方(三大都市圏を除く39道県)の外国人宿泊者数が伸びており、地方のシェアは2011年の33.5%から2017年には41.0%まで増え、初めて4割を突破した。しかし、その後は横ばいの動きとなっている。なお、政府は地方のシェアについて、2020年に50%、2030年に60%の目標を掲げている。
6 民泊サービスの法令上の定めはないが、住宅(戸建住宅、共同住宅等)の全部又は一部を活用して宿泊サービスを提供す ることを指す。民泊サービスを実施するには、「(1)住宅宿泊事業法による住宅宿泊事業の届出を行う」、「(2)国家戦略特別区 域法の特区民泊の認定を受ける」、「(3)簡易宿泊営業として旅館業法上の許可を取得する」場合が一般的としている。(厚生労働省HP「民泊サービスと旅館業法に関するQ&A」)
7 また、宿泊を伴わないクルーズ船による入国者数が増加していることも、平均宿泊数の下押し要因となる。2018年(11月までの累計)の訪日クルーズ外客数は233万人と訪日外客数の8.2%を占めており、訪日外国人の平均宿泊数を0.2泊程度押し下げている。
8 「日本経済新聞」2018年6月4日
9 実際、2019年1月時点で民泊受理件数は約1.3万件に達しているものの、2018年春時点で民泊仲介サイトのAirbnbで掲載されていた件数(6.2万件)の2割に過ぎない。
3|外国人延べ宿泊者数の将来予測外国人延べ宿泊者数の予測にあたっては、訪日外国人が政府目標通り2020年に4,000万人、2030年に6,000万人に達するとし、2020年に1人当たり3.2泊、2030年には民泊の普及を見込み2018年上半期と同水準の2.8泊とした。その結果、外国人延べ宿泊者数は2020年に1.28億人泊、2030年には約1.68億人泊となった(図表6)。また、地方への広がりも足元でみられるが、政府目標と比べると広がりは緩慢であり一部地域に偏っていることから、2020年の地方のシェアは2017年(41%)と変わらず、2030年には45%に到達するとした(政府目標は2020年に50%、2030年に60%)。
4―【需要サイド】国内旅行客の宿泊動向
観光庁の「旅行・観光消費動向調査」から年齢別の国内旅行の年間宿泊数(2015年から2017年の3年平均)をみると、男性は30代が7.0泊と最も多く、女性は20代が3.9泊と最も多くその後は男女とも年齢が高くなるほど減少していく(図表8)。なお、20~60代にかけて男性の宿泊数が女性を大きく上回っているのは、出張・業務に伴う宿泊が多いためである。先行きは、健康寿命の延伸によるアクティブシニアの増加や宿泊施設のバリアフリー化により、高齢者の宿泊日数が増える可能性があるものの、人口減少や高齢化が延べ宿泊者数の下押し圧力になると見込まれる。総人口は2017年の1.27億人から、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(平成29年推計)」によれば、2020年は1.25億人(2017年対比▲1.2%)、2030年は1.19億人(2017年対比▲6.1%)へと減少する見通しである。男女別・年代別の年間宿泊数(15-17年平均)と将来推計人口を基に将来の国内旅行客の延べ宿泊者数を予測すると、2020年は4.2億人泊(2017年対比▲960万人泊(▲2.2%))、2030年は3.9億人泊(2017年対比▲4,128万人泊(▲9.6%))と人口減少を上回るペースで減少していく(図表7)。
(2019年02月18日「基礎研レポート」)
白波瀨 康雄
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| 日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
|---|---|---|---|
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