コラム
2018年08月24日

本格化する日本版DMO~インバウンドの拡大を全国津々浦々に~

白波瀨 康雄

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2017年の訪日外国人旅行者数は前年比19.3%増の2,869万人となった。6年連続の二桁増となり、政府目標である2020年4,000万人は十分射程圏内に入っている。インバウンドは地方への広がりも期待されている。政府は地方に関する数値目標として、三大都市圏(埼玉、東京、千葉、神奈川、愛知、京都、大阪、兵庫の8都府県)を除く39道県を地方部とし、2020年の外国人延べ宿泊者数7,000万人泊1 、シェア50%を掲げている。
(図表1)外国人延べ宿泊者数の推移/(図表2)訪問率の都道府県別分布 まず、2017年の地方部の外国人延べ宿泊者数は前年比16%増の3,188万人泊となった。目標到達には残り3年間で毎年30%増が必要であり、ハードルは高い。また、地方部シェアについては、2017年には40.9%と初めて4割を突破した(図表1)。ただ、5年前の2012年(32.5%)から8.4%pt上昇したが、その半分以上は、すでに観光地としての人気がある沖縄(2.9%pt)、北海道(1.9%pt)が占めている。次に福岡(1.2%pt)、長野(0.6%pt)、大分(0.5%pt)が続き、残り34県のシェアはほとんど変化していない。2つの数値目標に向けて、さらなる地方への広がりを加速させる必要があるだろう。宿泊してもらうには、当然ながらまずは訪れてもらわなければ始まらない。ただ、現状は訪問率が1%を下回っている県が半数近くにのぼっている(図表2)。受け入れ体制を整えるとともに、プロモーションを行って認知度を上げ、訪れてもらうためのブランド戦略が必要になってくる。
観光庁は地方創生の柱の1つとして、観光地域づくりの舵取り役となる日本版DMOの登録制度を2015年11月に創立した。DMOとはDestination Management/Marketing Organizationの頭文字から成る、経営的な視点に立ち、戦略的に地域の観光を推進する法人のこと。従来から、行政や観光協会が観光地域づくりを担ってきたが、地域の関連事業者や住民等の巻き込みや観光客に対するデータの収集や分析、効果的な認知度向上に向けたプロモーションが不十分であったことが課題として挙がっている。実際、市場調査やブランド戦略といったマーケティングを専門とする部門や担当者を置いている観光協会は、都道府県では約40%、市町村では約20%に過ぎない2。日本版DMOには、「どんな人が」「どこから」「何を求めて」「どうやって」訪れているのかを把握した上でターゲットを絞り込み、効果的なプロモーション活動を展開していくことが求められている。

例えば、日本版DMOの1つ、兵庫県豊岡市、京都府京丹後市を対象区域とする一般社団法人豊岡観光イノベーション(2016年6月発足)では、豊岡市内40カ所に無料Wi-Fiを設置して観光客の属性や行動ルートを把握・分析している。こうしたデータを活用してターゲットを絞った戦略を打つことができ、その効果の検証にも役立てることができる。また、欧米豪からの来訪者の割合が高いことをすでに把握しており、英語・フランス語による外国人向け宿泊予約サイトの運営を開始した。インターネットを通じて自由に観光地を決めて宿泊予約をする傾向が強い個人客の獲得に主眼を置いている。豊岡市の外国人延べ宿泊者数は2011年の1,118人泊から2017年の50,800人泊へと急増しており、着実に成果を上げているようだ。
 
豊岡観光イノベーションは、豊岡市が主導して、豊岡市合併前の旧1市5町に残っている6つの観光協会の上部組織として設立し、隣接している京都府京丹後市もマーケティング区域とした。地方銀行や路線バス事業者などの民間企業が基金を拠出しており、メンバーは市の派遣職員や商社・旅行会社などの派遣社員からなる。民間のノウハウを活用して、外国人向け宿泊サイトの運営の他にも、着地型ツアー・体験プログラムの販売や視察の受け入れなどの収益事業を行っている。また、地元事業者に対して外国人観光客の動向などマーケティング情報の提供や交流会の開催を行っている。地域事業者と戦略を共有し、地域一丸となって観光地域づくりに推進できるよう取り組んでいる。

豊岡イノベーションの2016年度の収入は、83%が国や市からの補助金だが、2020年度には補助金の割合は21%まで減り、収益事業や行政からの受託事業による収入が74%を占める見通しだ3。将来的には補助金に頼らないビジネスモデルを目指している。地域全体が潤うことが役割であり、日本版DMO自体が必ずしも収益を追求する必要はないが、優秀な専門人材を確保し、継続・発展していくためにも、自主財源の確保に努める必要があるだろう。
(図表3)インバウンド消費額 現在、日本版DMOの登録法人は86件(地域連合DMOが8件、地域連携DMOが48件、地域DMOが30件)にのぼり、その候補法人として122件が登録されている4。訪日外国人の約6割はリピーターであり、彼らは地方への訪問率が高い。旅行形態も団体旅行から個人旅行へ移行し、地域住民との交流や体験型プログラムなどよりディープな体験を求めている。今後、行政区域に縛られることなく観光客の目線に立てるDMOの取り組みがより重要になってくるだろう。

地方部のインバウンド消費額は年間1兆円を突破した。これは個人消費の0.8%に相当し、一定程度の経済効果が生まれている(図表3)。多様な関係者を巻き込んで戦略的に進める観光地域づくりが各地で奏功し、インバウンドが全国津々浦々に広がることを期待したい。
 
1 人泊=宿泊人数×宿泊日数
2 観光庁「国内外の観光地域づくり体制に関する調査業務(2016年3月)」
3 観光庁「日本版DMO形成・確立計画」
4 マーケティングを行うエリアによって、広域連携DMO(複数の都道府県で形成)、地域連携DMO(複数の市町村で形成)、地域DMO(1つの市町村で形成)の3つに分かれる
 
 

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(2018年08月24日「研究員の眼」)

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