2019年02月15日

2019・2020年度経済見通し(19年2月)

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

文字サイズ

2. 実質成長率は2018年度0.5%、2019年度0.8%、2020年度1.1%を予想

(日本経済は当面低空飛行が続き、オリンピック終了後に正念場を迎える可能性)
2018年10-12月期は2四半期ぶりのプラス成長となったが、7-9月期の落ち込みを取り戻すには至らず、景気は基調として弱い動きとなっている。2019年1-3月期は国内需要が底堅さを維持するものの、海外経済の減速を背景とした輸出の低迷が続くため、前期比年率1%を下回る低成長となることが予想される。今回の予測では、海外経済は成長ペースが鈍化するものの緩やかな回復基調が維持されることを前提としているが、下振れリスクは徐々に高まっている。日本経済は依然として国内需要の自律的な回復力が弱いため、海外経済が一段と悪化した場合には、輸出の失速を起点として景気が後退局面入りするリスクが大きく高まるだろう。
夏季五輪開催前後の成長率 2019年7-9月期は2019年10月に予定されている消費増税前の駆け込み需要を主因として高めの成長となるが、増税直後の2019年10-12月期は前期比年率▲1.6%とマイナス成長となることが避けられないだろう。ただし、大規模な消費増税対策が講じられることから、成長率のマイナス幅は前回増税時(2014年4-6月期の前期比年率▲7.3%)を下回るだろう。

2020年度は東京オリンピック・パラリンピックの開催・終了が景気振幅の一因となりそうだ。過去の夏季オリンピック開催国において、開催前後の四半期毎の実質GDP成長率(1964年の東京から2016年のリオデジャネイロまでの平均。ただしデータ上の制約から1980年のモスクワを除く)をみると、成長率のピークは開催2四半期前で、その後1年間は伸び率が低下していることが確認できる。需要項目別には、総固定資本形成は開催3四半期前がピークで、開催2四半期後まで伸び率が急低下しており、個人消費は開催2四半期前をピークに、開催3四半期後まで伸び率が緩やかに鈍化している。
これを機械的に2020年の東京オリンピック・パラリンピックに当てはめると、成長率のピークは2020年1-3月期となる。もちろん、実際の経済はオリンピック以外の要因に左右されるが、現在、計画されている消費増税に向けての各種施策は期限付きのものも多く、対策の効果一巡がオリンピック終了と重なることで、景気の落ち込みを増幅するリスクがあることには注意が必要だろう。特に、キャッシュレス決済時のポイント還元については、制度終了(2020年6月)前後に駆け込み需要と反動減が発生する可能性がある。

今回の予測では、オリンピック関連需要の一巡によるマイナスの影響を、消費増税後の反動減の緩和による押し上げが打ち消すことにより、2020年度前半まで景気は好調を維持するとした。しかし、オリンピック終了後の2020年度下期には押し上げ要因がなくなるため、景気の停滞色が強まることは避けられないだろう。

実質GDP成長率は2018年度が0.5%、2019年度が0.8%、2020年度が1.1%と予想する。
実質GDP成長率の推移(四半期)/実質GDP成長率の推移(年度)
(消費の本格回復は見込めず)
実質GDP成長率の予想を需要項目別にみると、民間消費は2018年度が前年比0.6%、2019年度が同0.5%、2020年度が同0.6%と予想する。

2018年の春闘賃上げ率は2.26%(厚生労働省「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況について」)と3年ぶりに前年を上回ったが、アベノミクス開始以降で最も高い伸びだった2015年の2.38%に及ばなかった。2019年の春季交渉を巡る環境を確認すると、失業率は完全雇用とされる3%程度を下回る2%台半ばまで低下し、有効求人倍率はバブル期のピークを上回る1.6倍台で推移するなど、労働需給は引き締まった状態が続いている。一方、企業収益は過去最高水準にあるものの、海外経済の減速を受けてここにきて減益となる企業が増えている。

労務行政研究所が1/30に発表した「賃上げに関するアンケート調査」によれば、2019年の賃上げ見通しは(対象は労・使の当事者および労働経済分野の専門家約500人)の平均で2.15%となり、前年を0.02ポイント上回った。厚生労働省が集計している主要企業賃上げ実績は同調査の見通しを若干上回る傾向があるが、前年からの変化の方向は概ね一致しているため、2019年の春闘賃上げ率は前年並みとなる公算が大きい。ただし、ここにきて景気の先行き不透明感が高まっていることが、これから本格化する賃上げ交渉に影響を及ぼす可能性がある。当研究所は、2019年の春闘賃上げ率は前年から0.04ポイント低下の2.22%と予想している。

労働需給の引き締まりが反映されやすいパートターム労働者の時給は上昇を続けるものの、春闘賃上げ率の停滞を受けて一般労働者(正社員)の所定内給与は伸び悩みが続くこと、企業収益の改善ペース鈍化を受けてボーナスの伸びが鈍化することから、2019年度の一人当たり賃金は2018年度から伸びが大きく鈍化することが予想される。また、足もとの雇用者数は前年比で2%程度となっているが、15歳以上人口が減少を続ける中でこのような高い伸びを維持することは難しいだろう。名目雇用者報酬の伸びは2018年度の前年比3.0%から2019年度が同1.9%、2020年度が同1.8%へと低下するだろう。

また、利子所得の低迷、年金給付の抑制などから、家計の可処分所得の伸びは引き続き雇用者報酬の伸びを大きく下回る可能性が高く、各種の軽減策がとられているとはいえ消費増税後の家計のネット負担額は可処分所得比で1%近くとなる。個人消費はオリンピック関連需要(宿泊費、交通費、飲食費、買い物代、家電製品など)の一時的な盛り上がりは見込まれるものの、予測期間末までに本格回復には至らないだろう。
賃上げ見通しと実績の推移/実質雇用者報酬の予測
(設備投資の循環的な調整圧力が徐々に高まる)
設備投資は2018年7-9月期には自然災害による供給制約の影響もあり前期比▲2.7%と大きく落ち込んだが、10-12月期は供給制約の解消に伴い同2.4%の高い伸びとなった。
設備投資・GDP比率 製造業の能力増強投資、人手不足対応の省力化投資、東京五輪関連の建設投資、訪日外国人急増に伴うホテル建設など、設備投資の押し上げ要因は多い。経常利益やキャッシュフローに対する設備投資の比率は低水準にとどまっており、企業の投資スタンスは積極化しているわけではないが、過去最高水準にある企業収益を背景に、設備投資は底堅い動きが続く可能性が高い。

ただし、個人消費を中心とした国内需要は当面力強さに欠ける状況が続く可能性が高く、期待成長率の上昇によって企業の投資意欲が高まるまでには時間を要するだろう。また、過去最高水準にある企業収益だが、輸出の減速、原材料費、人件費上昇に伴うコスト増などから先行きは増益率が鈍化することが見込まれる。設備投資の名目GDP比は2018年10-12月期には16.5%と現行のGDP統計(簡易遡及を除く)で遡ることができる1994年以降のピークを更新しており、循環的な調整圧力は高まりつつある。

設備投資は2017年度の前年比4.6%をピークに2018年度が同3.4%、2019年度が同2.5%、2020年度が同1.7%へ減速すると予想する。
(2018年度第2次補正、2019年度当初予算が公共事業を押し上げ)
公的固定資本形成は、2017年7-9月期から減少が続いているが、2018年11月に成立した災害からの復旧・復興を中心とした総額0.9兆円の2018年度第1次補正予算(うち公共事業関係費は0.4兆円)の執行によって、2019年1-3月期は7四半期ぶりの増加となることが見込まれる。
公共事業関係費の推移 また、2018年12月に閣議決定した「防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策」に基づき、2018年度の第2次補正予算で公共事業関係費を大幅に積み増したほか、2019年度の政府予算案でも公共事業関係費を2018年度当初予算比で9,310億円増(うち、臨時・特別の措置が8309億円)、前年比15.6%の大幅増加とした。2019年度の公的固定資本形成は前年比3.2%となり、アベノミクスが始まった2013年度(前年比8.6%)以来の高い伸びとなるだろう。
Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【2019・2020年度経済見通し(19年2月)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

2019・2020年度経済見通し(19年2月)のレポート Topへ