2019年02月15日

2019・2020年度経済見通し(19年2月)

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.2018年10-12月期は年率1.4%と2四半期ぶりのプラス成長

2018年10-12月期の実質GDP(1次速報値)は、前期比0.3%(前期比年率1.4%)と2四半期ぶりのプラス成長となった。

自然災害の影響で7-9月期に減少した民間消費(前期比0.6%)、設備投資(同2.4%)が揃って高い伸びとなり、国内需要が前期比0.7%の増加となったことがプラス成長の主因である。一方、外需寄与度は前期比▲0.3%(年率▲1.2%)と3四半期連続のマイナスとなった。輸出は前期比0.9%と2四半期ぶりに増加したが、自然災害に伴う供給制約の影響で前期比▲1.4%の落ち込みとなった7-9月期の後としては低い伸びにとどまる一方、供給制約の解消や国内需要の持ち直しから輸入が前期比2.7%の高い伸びとなったためである。

2018年10-12月期は前期比年率1%程度とされる潜在成長率を上回る成長となったが、自然災害の影響で前期比年率▲2.6%の大幅マイナス成長となった7-9月期の落ち込みを取り戻すには至らなかった。景気は基調として弱い動きとなっている。

2018年の実質GDPは0.7%と7年連続のプラス成長となったが、2017年の1.9%からは大きく減速した。また、2018年内(1-3月期から10-12月期まで)の成長率は▲0.0%にとどまり、日本経済は2018年を通して横ばい圏で推移した。
(停滞色を強める輸出)
景気の牽引役となっていた輸出はここにきて停滞色を強めている。日本銀行作成の実質輸出、内閣府作成の輸出数量指数は2018年7-9月期に自然災害に伴う供給制約の影響で大きく落ち込んだ後、10-12月期は2四半期ぶりに増加したが、いずれも7-9月期の落ち込みを取り戻すまでには至らなかった。

世界の貿易量は2017年中には前年比で4~5%程度の高い伸びとなっていたが、2018年入り後は減速傾向が続いており、足もとでは2%台まで伸びが低下している。
実質輸出、輸出数量指数の推移/世界の実質GDPと貿易量の関係
IHS Markitの製造業PMI(購買者担当指数)は2017年12月の54.4をピークに低下を続けており、2019年1月には50.7となった。地域別には、米国が高水準を維持している一方、2017年末にかけて60台の高水準まで上昇したユーロ圏が急低下し、新興国では中立水準の50を下回った。また、日本の輸出数量に対して先行性のあるOECD景気先行指数(OECD+非加盟主要6カ国)も2017年末頃をピークに緩やかな低下傾向が続いている。輸出を取り巻く環境は一段と厳しさを増しており、海外経済の減速を背景とした輸出の失速を起点として景気が後退局面入りするリスクは徐々に高まっている。
製造業PMIの推移/OECD景気先行指数と輸出数量指数の関係
(消費税率引き上げの影響-世帯属性によって負担にバラツキ)
2019年10月には消費税率が8%から10%へと引き上げられるが、前回(2014年度:5%→8%)よりも税率の引き上げ幅が小さいこと、飲食料品(酒類と外食を除く)及び新聞に対する軽減税率、教育無償化、キャッシュレス決済時のポイント還元など多岐にわたる増税対策が予定されているため、景気への悪影響は前回よりも小さくなるだろう。

手厚い増税対策により、消費税率引き上げ時の家計負担額は1997年度、2014年度を大きく下回ることが見込まれる。日本銀行の試算によれば、1997年度の増税時には同時に所得減税の打ち切りや医療費の自己負担増が実施されたため、家計のネット負担額は8.5兆円と消費税率引き上げ分(5.2兆円)を上回るものとなった。また、2014年度は各種給付措置、住宅ローン減税などが実施されたものの、年金保険料率の引き上げなどの負担増があったため、家計のネット負担額は8.0兆円と消費税率引き上げ分(8.2兆円)と同程度の大きさとなった。
消費増税時の家計負担額 これに対して、2019年度に予定されている消費税率引き上げ時には軽減税率の導入、教育無償化、キャッシュ決済時のポイント還元、プレミアム商品券、年金生活者支援給付金などによって負担が大きく軽減される。当研究所の試算によれば、家計のネット負担額は2.5兆円(2020年度の対2018年度増加額)と消費税率引き上げによる負担増(5.7兆円)を大きく下回る。
ただし、世帯属性によって増税対策の影響が大きく異なることには注意が必要だ。ここで、「家計調査(総務省統計局)」を用いて、消費税率引き上げ、軽減税率、教育無償化(幼児教育+高等教育)の影響を試算すると、年齢階級別、年間収入別に大きな格差が生じることが確認された。

平均的な世帯では消費税率引き上げ(8%→10%)に伴う負担額が年間5.6万円、軽減税率による軽減額が▲1.4万円、教育無償化による軽減額が▲2.4万円、ネット負担額が1.7万円(可処分所得比0.3%)となる(総務省統計局「家計調査」2018年分を基にした数値)。

これを年齢階級別にみると、保育所、幼稚園の子どもがいる世帯が多い39歳以下では教育無償化による負担減が消費税率引き上げによる負担増を上回る一方、教育無償化の恩恵を受ける世帯が少ない50歳以上ではネットで負担増となる。60歳以上の世帯ではネット負担額の可処分所得比が1%近くになる。40~49歳では、消費税率引上げによる負担額が軽減税率、教育無償化による負担軽減額でほぼ相殺される。

年間収入階級別には、全ての所得階級で負担増となるが、教育無償化の恩恵を大きく受ける高所得者層では消費税率引き上げによる負担増がかなりカバーされるのに対し、すでに段階的無償化が実施されている低所得者層では追加的な負担減が限定的となるため、消費増税時のネットの負担は相対的に大きくなる。年間収入が最も低い第Ⅰ分位(年間収入252万円)では、ネット負担額の年間収入比が1%近くとなる。一般的に限界消費性向は高所得者層のほうが低いため、増税緩和策によるマクロ的な消費下支え効果は平均的な世帯で考えるよりも小さくなる可能性があるだろう。
年齢階級別の増税と負担軽減策による影響/年間収入五分位階級別の増税と負担軽減策による影響
前回の消費税率引き上げ時には、事前の想定を大きく上回る駆け込み需要とその反動が発生したが、今回増税時の駆け込み需要は前回を大きく下回るだろう。もともと、前回よりも税率の引き上げ幅が小さいこと(3%→2%)、住宅、自動車など買い替えサイクルの長い高額品については前回の引き上げ時に前倒しで購入した世帯が多いことから、駆け込み需要の規模はそれほど大きくならないことが想定されていたが、増税対策の拡充によってその可能性はより高くなった。キャッシュレス決済時のポイント還元(5%)は増税前の買い控えをもたらす恐れすらある。
消費増税前の駆け込み需要の想定 当研究所では、消費増税前の駆け込み需要の規模は、1997年4月が3.5兆円(個人消費1.7兆円、住宅投資1.8兆円)、2014年4月が4.0兆円(個人消費3.0兆円、住宅投資1.0兆円)と試算しているが、次回の増税前の駆け込み需要は1.9兆円(個人消費1.5兆円、住宅投資0.4兆円)と前回の半分程度になると想定している。
実際、駆け込み需要が早めに顕在化する住宅着工戸数は、これまでは消費税率引き上げの1年前には駆け込み需要が顕在化していたが、今回は増税まで1年を切った現在でも目立った動きは見られない。個人消費については、増税直前に駆け込み需要が発生する傾向が強いため、増税前に高成長となる一方、増税後には一時的にマイナス成長となることは避けられないが、成長率の振幅は前回に比べれば小さくなるだろう。
消費税率引き上げ前後の個人消費の推移/消費税率引き上げ前後の住宅着工戸数の推移
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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