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コラム
2018年12月28日
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4――地方財源不足額と臨時財政対策債の償還を巡る議論
いずれも、臨時財政対策債への依存を減らすべきこと、既存債務を縮減していくべきことを提言している点では共通しているものの、それぞれの真意は隠されているようにも見える。
そうした点を脇に置けば、財政制度等審議会の提言は、地方財政計画上で財源余剰が生じた場合に、歳出に充当するのではなく、債務償還に充てるべきだとして、歳出と債務の拡大に歯止めをかける枠組み作りを志向したところに意義がある。膨張を続ける臨時財政対策債への対処が定まっていない状況下で、国の債務縮減につなげることまで踏み込んだのは時期尚早の感もあるが、これまでの地方財源不足額に対して、折半の結果として国が赤字国債を増発してきたことを踏まえれば、このような論点もあり得ることを社会的に示したことは重要である。
また、地方財政審議会の見解は、現行制度の尊重と堅実な現状認識に基づいたものであり、縮減すべき対象として、臨時財政対策債残高だけでなく、交付税特会借入残高を具体的に挙げた点に意義がある。「折半対象財源不足額」が存在しない状況が定着した訳ではないことに注意を喚起したこと、楽観論を戒めた点も重要である。
さらに、経済財政諮問会議の問題提起は、どのようにして既往臨時財政対策債の圧縮を図るのかという具体的な方策は示していないものの、既往債という言葉を用いて、「折半対象財源不足額」以外の地方財源不足額の主因、すなわち、既往臨時財政対策債償還費に焦点を当てたことに意義がある。
実のところ、提示された論点自体は決して目新しいものではないが、多くの人が注目し、また、公表資料を目にする可能性の高い財政制度等審議会、地方財政審議会、経済財政諮問会議の資料の中に示されたことは、コンセンサス形成に向けた大きな前進と言ってよいであろう。
そうした点を脇に置けば、財政制度等審議会の提言は、地方財政計画上で財源余剰が生じた場合に、歳出に充当するのではなく、債務償還に充てるべきだとして、歳出と債務の拡大に歯止めをかける枠組み作りを志向したところに意義がある。膨張を続ける臨時財政対策債への対処が定まっていない状況下で、国の債務縮減につなげることまで踏み込んだのは時期尚早の感もあるが、これまでの地方財源不足額に対して、折半の結果として国が赤字国債を増発してきたことを踏まえれば、このような論点もあり得ることを社会的に示したことは重要である。
また、地方財政審議会の見解は、現行制度の尊重と堅実な現状認識に基づいたものであり、縮減すべき対象として、臨時財政対策債残高だけでなく、交付税特会借入残高を具体的に挙げた点に意義がある。「折半対象財源不足額」が存在しない状況が定着した訳ではないことに注意を喚起したこと、楽観論を戒めた点も重要である。
さらに、経済財政諮問会議の問題提起は、どのようにして既往臨時財政対策債の圧縮を図るのかという具体的な方策は示していないものの、既往債という言葉を用いて、「折半対象財源不足額」以外の地方財源不足額の主因、すなわち、既往臨時財政対策債償還費に焦点を当てたことに意義がある。
実のところ、提示された論点自体は決して目新しいものではないが、多くの人が注目し、また、公表資料を目にする可能性の高い財政制度等審議会、地方財政審議会、経済財政諮問会議の資料の中に示されたことは、コンセンサス形成に向けた大きな前進と言ってよいであろう。
5――臨時財政対策債の償還費を実質的に負担するのは国か、地方か?
それでも、実質的な借換えによる償還財源確保の先送りを止めて、臨時財政対策債残高を縮減することのできる償還財源を確保する方策は、具体的には示されていない。これまでは議論の対象にすらなっていなかったと言うべきであり、未だに臨時財政対策債の残高が膨張を続けていること、本質的な償還財源が確保されてないことに関して、社会全体として強い危機意識が持たれているとは言い難い。
地方財源不足額を当面解消する資金手当ての中心的手段として、臨時財政対策債ではなく、交付税特会による借入れが用いられていた時代には、「交付税特会借入金は地方全体の債務でありながら、個別地方公共団体には債務として認識されていない」という理由で、厳しい批判がなされた。その交付税特会借入残高のピークは33兆6,173億円であったが、臨時財政対策債残高が2011年度末にはその金額を上回ってしまったのに、特に注目されたり、大きく報道されたりしたことはなかった。臨時財政対策債に対する社会的な危機意識の低さが象徴されていると言っても過言ではない。
臨時財政対策債を発行するのは個別の地方公共団体であり、償還義務を直接負うのは発行体である地方公共団体である。交付税特会による借入れに代えて、臨時財政対策債を地方公共団体に発行させる方法を採ることで、「個別地方公共団体には債務として認識されない」ことはなくなったことが、国の危機意識を後退させてはいないであろうか。
他方、後年度の地方交付税算定過程で元利償還金の全額が実質的に補填される位置づけとなっていることで、地方公共団体においては、自らの実質的な債務から除外して考えられていることはないであろうか。
言い換えると、強い危機意識が社会的に共有されてこなかったのは、臨時財政対策債は、国から見れば地方の債務、地方から見れば国の債務として認識されている側面が強いように思われる。
前述の経済財政諮問会議の提言が新聞報道された折も、「元利金の償還は国が補填するため、将来の財政負担に懸念がある」と解説した記事が見られたが、「国が補填する」という記述は正確ではない。臨時財政対策債の元利償還金は地方交付税制度の中で補填される建前になっていると表現すべきであり、国が補填することと制度を通じて財源確保することの境界線が曖昧なために、それぞれが都合のよい解釈をしているのではないかと危惧される。実際には制度の中で本当の意味での財源補填ができていないのに、新たな臨時財政対策債を割り当てることで償還財源確保の問題が先送りされ、臨時財政対策債の償還費を実質的に負担するのは誰なのかという単純な問いに対する答えを明確にすることが避けられてきたようにさえ見えてしまう。
地方財源不足額の当面の解消策を講じる「地方財政対策」が決定される際には、毎年、総務大臣と財務大臣の間で覚書が交わされるが、その覚書においては、「既往臨時財政対策債の償還費は折半対象財源不足額に含めない」という趣旨のことが明確に書かれていることは、意外に知られていない。それを額面通りに解釈すれば、既往臨時財政対策債の償還費を国が補填することはないことになる。地方交付税の財源は5種類の国税であるから、地方交付税制度の中での償還財源確保には国は間接的に関与しているが、そこで確保できなかった場合には国が追加的な負担を行うことはない、というべきかもしれない。
そもそも、過去の「地方財政対策」において、「折半対象財源不足額」のうち国負担分は赤字国債の増発によって、地方負担分は臨時財政対策債の発行によって賄われ、後者から後年度に発生するのが既往債の償還費にほかならない。したがって、それを国による負担の対象とはしないのは、過去の「折半」の考え方を反故にしない限り、当然とも言えることである。
望ましいか否かという観点からではなく、仕組みに即して解釈すれば、臨時財政対策債の償還財源を地方交付税制度の中で確保できない場合は、結局、償還費を実質的に負担するのは地方だと考えるべきであろう。たとえば、臨時財政対策債の償還費を地方交付税で賄いつつ、他の歳出に対する充当することができる地方交付税の額が実質的に減額されるという形を採らないとは言えないだろう。
このように考えると、地方全体で見た場合の既往債償還費が実質的な借換えによって手当てされる方法が17年間も続けられてきたことは、由々しき事態である。地方公共団体が実質的な負担をする事態を避けるには、臨時財政対策債の償還財源を地方交付税制度の中で確保することが不可欠である。そのためには、既往臨時財政対策債償還費を賄えるだけの「地方財源余剰」が地方財政計画上で生ずることが必要となる。経済財政諮問会議の言葉を引用するならば、税収拡大に応じて「地方財源余剰」が拡大するような構造を地方財政計画策定過程に組み込むことが必要であろう。
その第一歩は、消費税率および地方消費税率の引き上げに伴う増収分を、少しでも「地方財源余剰」捻出に振り向けることである。今、必要なのは、そのための仕組み作りである。
地方財源不足額を当面解消する資金手当ての中心的手段として、臨時財政対策債ではなく、交付税特会による借入れが用いられていた時代には、「交付税特会借入金は地方全体の債務でありながら、個別地方公共団体には債務として認識されていない」という理由で、厳しい批判がなされた。その交付税特会借入残高のピークは33兆6,173億円であったが、臨時財政対策債残高が2011年度末にはその金額を上回ってしまったのに、特に注目されたり、大きく報道されたりしたことはなかった。臨時財政対策債に対する社会的な危機意識の低さが象徴されていると言っても過言ではない。
臨時財政対策債を発行するのは個別の地方公共団体であり、償還義務を直接負うのは発行体である地方公共団体である。交付税特会による借入れに代えて、臨時財政対策債を地方公共団体に発行させる方法を採ることで、「個別地方公共団体には債務として認識されない」ことはなくなったことが、国の危機意識を後退させてはいないであろうか。
他方、後年度の地方交付税算定過程で元利償還金の全額が実質的に補填される位置づけとなっていることで、地方公共団体においては、自らの実質的な債務から除外して考えられていることはないであろうか。
言い換えると、強い危機意識が社会的に共有されてこなかったのは、臨時財政対策債は、国から見れば地方の債務、地方から見れば国の債務として認識されている側面が強いように思われる。
前述の経済財政諮問会議の提言が新聞報道された折も、「元利金の償還は国が補填するため、将来の財政負担に懸念がある」と解説した記事が見られたが、「国が補填する」という記述は正確ではない。臨時財政対策債の元利償還金は地方交付税制度の中で補填される建前になっていると表現すべきであり、国が補填することと制度を通じて財源確保することの境界線が曖昧なために、それぞれが都合のよい解釈をしているのではないかと危惧される。実際には制度の中で本当の意味での財源補填ができていないのに、新たな臨時財政対策債を割り当てることで償還財源確保の問題が先送りされ、臨時財政対策債の償還費を実質的に負担するのは誰なのかという単純な問いに対する答えを明確にすることが避けられてきたようにさえ見えてしまう。
地方財源不足額の当面の解消策を講じる「地方財政対策」が決定される際には、毎年、総務大臣と財務大臣の間で覚書が交わされるが、その覚書においては、「既往臨時財政対策債の償還費は折半対象財源不足額に含めない」という趣旨のことが明確に書かれていることは、意外に知られていない。それを額面通りに解釈すれば、既往臨時財政対策債の償還費を国が補填することはないことになる。地方交付税の財源は5種類の国税であるから、地方交付税制度の中での償還財源確保には国は間接的に関与しているが、そこで確保できなかった場合には国が追加的な負担を行うことはない、というべきかもしれない。
そもそも、過去の「地方財政対策」において、「折半対象財源不足額」のうち国負担分は赤字国債の増発によって、地方負担分は臨時財政対策債の発行によって賄われ、後者から後年度に発生するのが既往債の償還費にほかならない。したがって、それを国による負担の対象とはしないのは、過去の「折半」の考え方を反故にしない限り、当然とも言えることである。
望ましいか否かという観点からではなく、仕組みに即して解釈すれば、臨時財政対策債の償還財源を地方交付税制度の中で確保できない場合は、結局、償還費を実質的に負担するのは地方だと考えるべきであろう。たとえば、臨時財政対策債の償還費を地方交付税で賄いつつ、他の歳出に対する充当することができる地方交付税の額が実質的に減額されるという形を採らないとは言えないだろう。
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その第一歩は、消費税率および地方消費税率の引き上げに伴う増収分を、少しでも「地方財源余剰」捻出に振り向けることである。今、必要なのは、そのための仕組み作りである。
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(2018年12月28日「研究員の眼」)
石川 達哉
石川 達哉のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2018/12/28 | 同床異夢の臨時財政対策債-償還費を本当に負担するのは国か、地方か? | 石川 達哉 | 研究員の眼 |
2018/07/13 | 「地方財源不足額」は本当に解消されているのか?―先送りされ続ける臨時財政対策債の償還財源確保 | 石川 達哉 | 基礎研レポート |
2017/08/31 | 再び問われる交付税特会の行方-地方財政の健全性は高まったのか? | 石川 達哉 | 基礎研レポート |
2017/07/03 | 増大する地方公共団体の基金残高 その2-実は拡大している積立不足!? | 石川 達哉 | 研究員の眼 |
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