2018年12月10日

IAIS(保険監督者国際機構)によるICS(保険資本基準)2.0に対する関係団体の反応

文字サイズ

2|米国の各保険協会
米国の各保険協会も、コメントを提出して、ICS Version 2.0に対する懸念を表明している。

この中で、例えば、AIA(American Insurance Association:米国保険協会)、NAMIC(National Association of Mutual Insurance Companies:全米相互保険会社協会)、PIC(Property Casualty Insurers Association of America :米国損害保険協会)及びRAA(Reinsurance Association of America:米国再保険協会)の4つの団体は、IAISのJonathan Dixon事務局長宛のレターで、提案されたICS Version 2.0が「基準の目的、すなわち保険契約者の保護と金融安定性への貢献、を進めなかった」と述べた。

問題は、ICSがグループの資本要件を計算するための州の集計アプローチを認識していないという長年米国が主張している点についてである。この認識がなければ、米国でICSを実施することはできず、「実際に、一貫して実施され、効果的なIAIS基準にはならない」と述べている。さらに、この提案では、市場調整後の評価、社内モデル、GAAP Plusなどの点で「他の多くの問題」がある、としている。

以下では、具体的なコメントが入手可能なACLI(American Council of Life Insurers:米国生命保険協会)とPICの例を紹介する。

(1)ACLI(American Council of Life Insurers:米国生命保険協会)
 ACLIがIAISに提出したコメントによれば、例えば、保険負債の評価に関連する項目等に関しては、以下のようなコメントがなされている。

1) MAV 3バケットアプローチについて
・MAVの3バケットのアプローチが目的に適合しているとみなされる前に、相当量のさらなる発展が必要である。この開発の重要な部分は、負債割引率とこれらの負債を裏付ける資産の利回りとの連動を改善することである。MAVの割引率を決定するための全ての場合に適合するようなアプローチは、世界中に存在する様々なIAIG ALMリスクプロファイルを適切に区別することができない。この点で、自らの資産に関するスプレッドは、「ガードレールを持つ自己資産」(OAG)手法の重要な特徴であり、OAG手法が、ミドルと一般のバケットの前提のより適切な較正を「知らせる」ために使用されるべきであると推奨する。例えば、OAG手法は、ミドルバケット内の株式資産を含めるか含めないかの影響を測定できるベンチマークを提供するために使用することができる。同様に、自己スプレッド対WAMPスプレッドなどを使用して、適用比率を適用することの影響を測定することもできる。

2) GAAP Plus等の検討
・GAAP Plusのアプローチは、監査された連結財務諸表に依拠しているし、逆に会計基準設定者の仕事から恩恵を受ける。(少なくとも米国内における)内部統制や財務諸表の報告を含む年1回の独立監査;内部監査人による継続的かつ関連する作業;オンサイト及び/又はオフサイトの検査及び分析プロセスを通じた監督関与;有価証券及び会計監督当局による監督及び施行。財務諸表の作成者、監督者、格付機関、多くの投資家やその他の利害関係者は、また、アカデミアにおける正式な訓練、継続的な教育、監督資本措置だけでなく、多数の分野が関連する日々の使用を通じた一般的な知識を通じて、GAAPの知識から恩恵を受けることができる。

・IFRS第17号の導入にはより多くの時間が必要だが、いったん完了すれば、世界の多くはこれまで可能であったよりも保険契約の会計処理のためのより一般的な基礎になる。米国における業務慣行は引き続きFASB規則の対象となるが、米国GAAPの目標とする改善は、IFRS第17号に方向性を示すものである。

・GAAP Plusアプローチは、監督当局が要求するグループ資本措置と同じ財務報告の評価基準を使用する会社によるコンプライアンス費用を削減し、IAISが長い年月にわたって独自の評価基準を維持する必要がなくなるため、ICSのメンテナンス費用を削減する可能性がある。集計方式(Aggregation Method)は同様の利点を提供する可能性が高い。

・従って、IAISは、IFRS第17号が開発されるまでの時間を確保し、最終的にはICS内の評価のオプションとみなすために、モニタリング期間中にGAAP Plusの開発を継続することを奨励する。

3) 内部モデルの使用に関して
・所要資本の基礎とて内部モデルを使用することは、ソルベンシーIIのように、管轄区域レベルでは適当であるかもしれない、と 認識している。しかし、グローバルスタンダードに必要な資本の基礎として内部モデルを適用するには、大きな課題がある。

・IAISの優先事項は、内部モデルをICSに適合させる方法にあまり重点を置くのではなく、資本要件を決定するための標準的な方法を改善し続けることである。このことを踏まえると、我々は、内部モデルを、必要資本に対するICS参照手法と内部モデルを使用する会社の必要資本の結果との間の相違について、IAISと議論するためのベンチマークとして使用することには何らかの価値があると見ている。例えば、内部モデルの出力と同じグループのICS参照手法を比較することで、ICS参照手法の潜在的な欠陥が明らかになる可能性がある。
(2)PIC(Property Casualty Insurers Association of America:米国損害保険協会)
PCIはICS Version2.0に対するコメント4を提出し、PCIの副会長、金融政策担当のSteve Broadie氏は、その声明5の中で、保険グループの国際資本及び監督基準の提案について重大な懸念を表明した。

Steve Broadie氏は、「ICSの多くの側面が開発中であるか、さらなるフィールドテストが必要である。現在のバージョンには、市場価値ベースの標準的な方法だけが含まれている。これは、州の保険監督当局及び米国の消費者に長年支えられている保険規制会計基準及び資本要件とは根本的に異なる設計である。」とし、「市場価値ベースのグループ資本要件を課すことで、消費者のコストが大幅に増加し、競争力と安定性が低下するだろう。このような反消費者要件は米国では採用されないだろう。」と語った。

2018年11月5日
PCIは、保険グループの国際資本及び監督基準の提案について重大な懸念を表明
【ワシントン2日 共同】米国損害保険協会(PCI)は、国際的に活動する保険グループの監督のための共通枠組み(ComFrame)と保険資本基準(ICS)のVersion 2.0の草案という2つの保険監督者国際機構(IAIS)の提案にコメントを提出した。これらの提案は、2019年後半にIAISによって採択される予定である。ICS 2.0の採択は暫定的なものとなるが、監督者への機密報告及び5年間のモニタリングプロセスがある。以下の声明は、PCIの副会長、金融政策担当のSteve Broadie氏によるものである。

「PCIは、IAISのグローバル保険基準の2つの主要な提案の開発について、引き続き重要な懸念を抱いている。IAISはこれらの提案を進めるにつれて、ICSの適切な実施として、保険契約者保護における同等の結果を達成する管轄地域におけるグループ資本枠組みを認識するようにIAISに要請する。これにより、大幅な追加の導入コストと異なるグループ資本評価の間の競合の両方を避けることができる。」と、Broadie氏は述べた。

ICSの多くの側面が開発中であるか、さらなるフィールドテストが必要である。現在のバージョンには、市場価値ベースの標準的な方法だけが含まれている。これは、州の保険監督当局及び米国の消費者に長年支えられている保険規制会計基準及び資本要件とは根本的に異なる設計である。「市場価値ベースのグループ資本要件を課すことで、消費者のコストが大幅に増加し、競争力と安定性が低下するだろう。このような反消費者要件は米国では採用されないだろう。」とBroadie氏は続けた。

「ComFrameは米国の消費者志向の州ベースの保険規制制度を認識し、保険グループの組織と規制当局の多様な方法を認識するための柔軟性を提供することが不可欠である。ワンサイズのアプローチは、米国の消費者に害を及ぼし、国際的な保険市場を混乱させるだろう。」と、Broadie氏は述べた。

「PCIは、IAISと現在開発中の米国のグループ資本モデルであるNAICのグループ資本計算と連邦準備制度のビルディングブロックアプローチを認識するICSに関するTEAM USAと協力し続ける。」との言葉で、Broadieは締めくくった。

 

3―保険業界団体以外からの反応

3―保険業界団体以外からの反応

保険業界団体以外からのコメント等のうち、NAIC(全米保険監督官協会)及びIMF(国際通貨基金)からの反応は、以下の通りである。

1|NAIC(全米保険監督官協会)
NAICもIAISにコメントを提出しているが、そのうち保険負債の評価及び内部モデルに関する項目については、以下のような内容を述べている。

MAVにおける3バケットアプローチに関して、例えばトップバケットとして定義される適格基準について、「個別に資産を管理する必要がある基準を明確にする必要がある。あるステークホルダーはそれがリングフェンスを意味していると考えており、他のステークホルダーはその正確な適用に自信が無い。」としている。また、ミドルバケットとして定義される適格基準について、「フィールドテストでは基準があまりにも制限的で、一部の会社はミッドバケットに収まる可能性のある商品を見つけるのに苦労するかもしれないことが分かる可能性が高い。」と述べている。 

また、MAVスプレッド調整の目的を考慮して、ICS Version 2.0に適したミドルバケット(トップバケット及び一般バケットにも適用される)用に指定された適格資産のリストについて、「現在、株式はリスクフリー・レートを上回るスプレッドには適格ではない。年金型商品を支えるための自然投資は、不動産などの株式及び株式型投資ビークルである。ICSの規則は、負債に合わせて適切な投資手段を追求する保険会社に不利益を与えるべきではない。株式タイプの投資は、スプレッドの対象となる資産のリストに含める必要がある。」としている。

なお、LTFRの区分について、「LTFRを先進国と途上国の2つに区分けすることはやや恣意的である。 IAISは代替的な区分けを検討すべきである。可能な区分けの例としては、米ドル、ユーロ、円などのハードカレンシー又は準備通貨、先進国の他の通貨、途上国の通貨の3段階の区分けが考えられる。」としている。

内部モデルに関しては、「内部モデルの報告についてのコメントはないが、大きな問題は比較可能性である。(CDの)第3パラグラフで約束されている将来の協議において、内部モデルの比較可能性についてのさらなるコメントを述べる。」と述べている。

2|IMF(国際通貨基金)
IMF(国際通貨基金)は、10月に公表した、「2018年10月グローバル金融安定性リスク報告書:グローバル金融危機後の10年:我々はより安全になっているのか?:Global Financial Stability Report October 2018: A Decade after the Global Financial Crisis: Are We Safer? 」において、ICSに関連して、「金融監督当局がシステミックリスクを軽減するために重点を置くべき主要な問題の1つは、保険会社のための世界的に受け入れられた資本基準を通じてプルデンシャル・レジームを改善し、調和させることである。」と述べた。

さらに、IMFは、「現在の金融システムの全体的な評価を、システミックリスクにさらされてはいないが影響を受けないということからは程遠い」と評価した。

いくつかの国や地域で改善された保険業界の規制を評価して、セクターのシステミックリスクを軽減する役割を果たしたとして、EU管轄区域におけるソルベンシーIIの実施を歓迎した。しかし、そのようなリスクを総合的に考慮するためには、規制のより広い範囲が必要となる、と述べた。

また、「監督当局は、健全な体制を改善し、調和させることを目指すべきだ」とし、「保険会社にとっては、システミックリスクの可能性を考えれば、グローバル資本基準を確立し、破綻処理制度を強化する必要がある。」とし、「資産管理者にとってマクロプルーデンス・ツールは比較的少数である。資産管理者にとっての包括的でグローバルに整合的な基準を実施することは、監督者に、リスク、特に流動性のミスマッチやレバレッジに関連するリスクをより正確に特定し、軽減するためのデータとツールの両方を与えることになる。特に、集中リスクに対するより厳しい制限がある。」と述べた。

さらに、この発展を支援するために、データ共有におけるより大きな国境を越えた協力と、システミックリスクの監視をさらに発展させることを求めた。
 

4―まとめ-IAISの今後の対応等-

4―まとめ-IAISの今後の対応等-

以上、今回のレポートでは、IAISによるICS Version 2.0に対するフィードバック等の関係団体等からの反応の状況について、その概要を報告してきた。

今後は、これらのフィードバックを踏まえたIAISでの検討が注目されていくことになる。
今回のICS Version 2.0に関するCDに対するフィードバックについては、1,500ページ以上にわたる大部のものとなっているとのことであるが、IAISはこれらのフィードバックに基づいて、さらに行動することを約束している。

ルクセンブルクで開催されたIAIS年次総会で提示された資料に基づけば、2018年のフィールドテストについては、18の管轄地域からの47のボランティアグループが参加し、また、米国が主張する集計方式(Aggregation Method)に関するデータ収集については、5つの管轄地域からのボランティアグループが参加している。さらに、同じ資料に基づけば、今後のスケジュールについては、2019年6月から8月の間にICPsやComFrameに対するさらなる改定に関する公開協議(60日間)が行われ、2019年11月にICS Version 2.0を含む改定後のICPsやComFrameの採択が予定されている。

IAISは、今後、今回提出されたコメントの詳細を検討し、2018年のフィールドテストの分析と併せて、ICS Version 2.0の更なる検討を行っていくことになる。

さらに、2019年のフィールドテストは、2019年4月末に開始され、7月末までに提出が予定されている模様である。IAISは、これについてのデータ分析も行い、このコンサルテーションのフィードバックもICS Version 2.0に反映されていくことになるとのことである。

IAISのICS Version 2.0を巡る動向については、全ての保険会社等の関係者が、その動向を注意深く見守っていることから、その設定を巡る動きについては、今後も引き続き注視していくこととしたい。
Xでシェアする Facebookでシェアする

中村 亮一

研究・専門分野

(2018年12月10日「保険・年金フォーカス」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【IAIS(保険監督者国際機構)によるICS(保険資本基準)2.0に対する関係団体の反応】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

IAIS(保険監督者国際機構)によるICS(保険資本基準)2.0に対する関係団体の反応のレポート Topへ