2018年12月10日

IAIS(保険監督者国際機構)によるICS(保険資本基準)2.0に対する関係団体の反応

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1―はじめに

IAIS(保険監督者国際機構)における保険会社に対する国際的な資本規制であるICS(Insurance Capital Standard:保険資本基準)の検討に関しては、IAISが2018年7月31日に、ICS Version 2.0を含むComFrame(Common Framework for the Supervision of Internationally Active Insurance Groups)全体に関する公開協議をリリースした。これについては、基礎研レポート「IAISがICS(保険資本基準)Version 2.0のための公開協議文書を公表-新たな保険負債評価の割引率アプローチ等を提案-」(2018.8.14)で、その概要を報告した。この公開協議文書(Public Consultation Document:CD)に対するフィードバックは、2018年10月30日までに求められていた。

今回のレポートでは、これらのフィードバック等の関係団体からの反応について、一般に公表されているベースの情報に基づいて、その概要を報告する。
 

2―保険業界団体からの反応

2―保険業界団体からの反応

今回のIAISのCDに対しては、主要各国の保険協会等が個別にコメントを提出している。さらには、グローバルな保険業界の公式代表機関として、世界の保険協会から構成されているGFIA(Global Federation of Insurance Associations:グローバル保険協会連合)1もコメント2を提出している。

ここでは、各国の保険協会によって公表されているコメント等に基づいて、主要な団体による保険負債評価等に関するコメントを中心に報告する。
1|Insurance Europe(保険ヨーロッパ)
欧州の保険業界団体であるInsurance Europe(保険ヨーロッパ)は、11月5日に「より多くの作業がグローバルな保険資本基準をテスト可能な状態にするために必要(More work needed to make global Insurance Capital Standard ready for testing)」との声明を公表3している。

これによれば、保険会社のビジネスモデルを適切に反映し、保険会社が直面するリスクを正確に特定して測定するために、グローバルな保険資本基準(ICS)Version 2.0には依然として大きな改善が必要だ、と述べた。

具体的には、まずは、「ICS 2.0の開発に関する保険監督者国際機構(IAIS)の相談に応えて、保険ヨーロッパは4年前のその開発の当初からICSによって行われてきたいくつかの改善を歓迎する、としたものの、しかしながら、さらに重要な洗練化が必要である。」とした。

さらに、「IAISが、2019年末までに、保険会社による機密報告である、次の段階を開始するための枠組みの準備を整えることを望んでいることを考慮すれば、機密報告の結果が有意義であることを保証するために、これらの改善がさらに急いで要求される。実際、現在進歩が進むほど、ICSの実施可能なバージョンの採用が達成される可能性が高くなる。」と述べた。

加えて、「今後の数カ月間における業界との継続的な対話と交流が、これらの改善を徹底的に議論し、意思決定に十分な情報が提供され、欠陥を最小限に抑えられるようにする鍵となる。」と述べた。

より具体的な内容としては、例えば以下の通りである。
(1)保険負債割引率を含む評価
保険負債割引率を含む評価に関しては、以下のような点をコメントしている。

・負債の割引率が、保険ビジネスモデルの長期的性質及び保険会社が採用するALM手法を反映している場合にのみ、市場調整評価アプローチがサポートされる。長期負債を評価する場合、リスクフリー曲線の調整はMAVアプローチの前提条件である。

・LTFR(長期フォワードレート)は毎年更新する必要はない。これは、安定した長期的なパラメータを意図している。

・評価のバケッティングの概念は、個々の負債特性がこれを正当化する場合に、IAIGs(Internationally Active Insurance Groups:国際的に活動する保険グループ)がポートフォリオ固有の調整を計算することを可能にするという利点を有する。

・「保険契約の長期的性質を反映し、資本リソースの潜在的な過度のボラティリティを軽減する」ための調整を開発するというIAISの目標を達成するリスクフリー曲線への調整を開発するために重要な改善が引き続き必要となる。

・自己資産/自己スプレッドアプローチはトップバケットの適切な提案である。しかし、適格基準のいくつかは緩和すべきである。特に、内部信用格付けを使用するオプションが存在し、資産適格性基準は、長期債務をカバーする長期資産のより広い範囲の使用を可能にすべきである。

・ミドルバケットの現在のデザインは、さらなる開発の出発点となるが、大幅な改善が必要である。
 ・調整は、長期株式、不動産、インフラストラクチャー及びその他の非固定利付資産の慎重に健全なALMアプローチへの貢献を認識すべきである。
 ・適格基準はあまりにも煩雑であまりに狭く定義されている。

(2)内部モデル
内部モデルに関しては、以下の通り述べている。

・モニタリング期間中の内部モデルの許容は非常に歓迎される。内部モデルは、会社の事業及び資本管理の深い理解を提供することによって、会社及び監督者に重要な価値をもたらす。

・モニタリング期間は、標準的な方法で対処されていない複雑なリスクや構造を把握できるようにすることで、内部モデルがどのように基準全体を強化する役割を果たすことができるのかを知る機会になる。その点で、内部モデルは重要なツールであり、標準的な方法の必要な代替手段として、ICSフレームワークの永久的な部分でなければならない。

(3)ICSの開発について
保険ヨーロッパは、以下のような重要な見解を繰り返している。

・グローバルな資本基準を持つ基本的な側面は、全ての管轄区域における基準の具体的な翻訳である。国際基準は、管轄区域を超えて整合的に実施される場合にのみ、その目的を達成することができる。

・グローバルな監督コミュニティを代表するIAISは、ICSに関連する戦略目標に関する議論を強化すべきである。 ICSの潜在的なプラス又はマイナスの影響についての徹底的な議論を行うことを目指すべきである。

・IAISは、会社のリスクエクスポジャーに沿って、簡素化のための提案と、厄介な報告要素への比例性アプローチの適用の可能性を提示すべきである。

・IAISは、ICSの採択が確定する前に、今後の作業が必要になる可能性があることを、その予定表と計画で確認する必要がある。IAISは、ICSの設計と較正における5年間の機密報告期間の結論と結果を考慮する適切な時期を予見する必要がある。

・実施に先立って、ICSは移行措置及びグランドファザーリング規定を検討する必要がある。

(4)全体的な意見
最後に、全体的な意見として、以下のように述べている。

・欧州の保険業界は、ソルベンシーIIが世界で最も保守的で洗練されたプルデンシャル・レジームであると考えており、ソルベンシーIIの見直し版がICSの適切な実施とみなされると想定している。欧州におけるICSの実施は、実際にはIAIGsだけでなく全ての欧州保険会社に適用される既存のプルデンシャル・レジームのレンズとツールを通じて、欧州連合の議員によって最終的に検討されることになる。このような観点から、ICSはIAIGs以外の会社でも機能するように設計されていることが重要である。

・保険ヨーロッパは、ICSの比較目的を高く評価する。従って、実施に関する監督協定は、共通の重要要素(例えば、連結グループアプローチ、市場調整評価、99.5% 1年VaRで計算されたリスクベース資本)を参照すべきであることを強調する。

なお、一般的なコメントセクションの内容を紹介すると、以下の通りとなっている。

Insurance Europe(保険ヨーロッパ) ICS2.0に対する意見

一般的なコメントセクション
保険ヨーロッパは、グローバルな保険資本基準Version 2.0の開発に関するインプットを提供する機会を歓迎する。

2019年末までにICS 2.0を完成させるという野心を踏まえて、ICSが根底にある保険ビジネスモデルを適切に反映し、直面しているリスクを特定して測定するために重要な作業が必要である。

ICS 2.0の目的はフレームワークをテストすることだが、ICSは、市場整合的な評価に基づいて一貫した統合アプローチを使用するリスクベースのフレームワークであることが重要である。テスト期間の結果が意味を持つように、適切に設計され、較正されていることが重要である。事実、機密報告段階におけるICSの設計が適切であればあるほど、ICSの実施可能なバージョンの採用が達成可能である可能性が高い。

近年ICSの設計には多くの改善がなされており、これらは欧州の産業界から非常に歓迎されている。 今後数ヶ月間、業界との継続的な対話と交流は、これらの改善が徹底的に議論され、意思決定に十分な情報が提供され、欠陥が最小限に抑えられるようにするうえで重要である。コンサルテーション・ペーパーに示されているICS 2.0のドラフトに対応して、保険ヨーロッパは以下の見解を強調したいと考えている。

評価に関して:
・負債の割引率が、保険ビジネスモデルの長期的性質及び保険会社が採用するALM手法を反映している場合にのみ、市場調整評価アプローチがサポートされる。長期負債を評価する場合、リスクフリー曲線の調整はMAVアプローチの前提条件である。

・リスクフリー利回りを導出するための提案された方法論は適切である。曲線の流動性部分はスワップ/国債に基づいており、非流動性部分は長期フォワードレート(LTFR)に補外することによって決定されるべきである。

・LTFRは毎年更新する必要はない。これは、安定した長期的なパラメータを意図している。毎年の更新はフレームワークに正しくない精度を導入することになる。

・IAISは、強制売却リスクに対処する潜在的な方法をさらに調査すべきである。強制資産売却のリスクに取り組むために、IAISの現在の提案(適用比率、適格基準、キャッシュフロー・マッチング等)のいくつかの特徴が含まれているが、このリスクに対処するより良いアプローチがあるかもしれない。

・評価のバケッティングの概念は、個々の負債特性がこれを正当化する場合に、IAIGsがポートフォリオ固有の調整を計算することを可能にするという利点を有する。

・「保険契約の長期的性質を反映し、資本リソースの潜在的な過度のボラティリティを軽減する」ための調整を開発するというIAISの目標を達成するリスクフリー曲線への調整を開発するために重要な改善が引き続き必要となる。

・自己資産/自己スプレッドアプローチはトップバケットの適切な提案である。しかし、適格基準のいくつかは緩和すべきである。特に、内部信用格付けを使用するオプションが存在し、資産適格性基準は、長期債務をカバーする長期資産のより広い範囲の使用を可能にすべきである。

・ミドルバケットの現在のデザインは、さらなる開発の出発点となるが、大幅な改善が必要である。
 ・調整は、長期の株式、不動産、インフラストラクチャー及びその他の非固定利付資産の慎重に健全なALMアプローチへの貢献を認識すべきである。
 ・適格基準はあまりにも煩雑であまりに狭く定義されている。

・参照ポートフォリオの使用に固有の高いベーシスリスクがある場合、IAISは一般バケットのみに適格な負債を最小化することを目指すべきである。提案されているベーシスリスク軽減メカニズムは、一般バケットアプローチに含めることが歓迎される。

・LTFRへの調整も含めるべきであり、これは、保険会社が非常に長い期間にわたって獲得することが期待できる投資収益率を反映したものであるべきである。

・IAISは、現在の経済情勢とストレスの多い市場環境の両方において、意図した通りに機能するように、提案されている評価手法についての広範なテストを実施すべきである。金融ストレスに対するテストは、IAISによって実施されるべきであり、会社に負担をかけるべきでない。

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中村 亮一

研究・専門分野

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