2018年11月19日

インドにおけるリスクベースの監督(Risk-based Supervision)を巡る動向-IMFのFSAPでの指摘等を受けてのIRDAIの動き-

保険研究部 取締役 研究理事   中村 亮一

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1―はじめに

インドの保険監督当局であるIRDAI(Insurance Regulatory and Development Authority of India)は、10月4日に「保険部門の『リスクに基づく監督』への移行(Moving towards ‘Risk Based Supervision’ of the Insurance Sector)」に関する通達(Circular)1を公表して、今後のインドにおける「リスクベースの監督枠組み(Risk-based Supervision Framework)」(RBS又はRBSFと呼ぶ)についての考え方を公表した。

なお、これに先立って、4月には、IMF(国際通貨基金)が、FSAP(Financial Sector Assessment Program:金融セクター評価プログラム)において、インドにおけるRBSの導入を勧告していた。

今回のレポートでは、こうしたインドにおけるRBS導入を巡る動きについて報告する。  

2―IMFによるFSAPにおけるRBSの導入勧告(2018年4月)

2―IMFによるFSAPにおけるRBSの導入勧告(2018年4月)

IMFは、2018年4月に、インドの金融セクターに対するFSAPの結果を公表した。その中で保険分野については、報告書「金融セクター評価プログラム:保険分野の規制と監督:テクニカルノート(Financial Sector Assessment Program: Insurance Sector Regulation and Supervision-Technical Note)」2において、評価結果を詳しく説明している。

なお、以下の記述はFSAPの報告書に基づいているため、その後のIRDAIの対応等により、現段階では状況が異なっているものもあるが、あくまでも報告書公表時点でのIMFによる勧告のベースになっているものを示すものとして、そのままの記述を報告している。
1|現在のソルベンシー制度の評価
IMFは、インドの現在のソルベンシーの枠組みを「その大部分が2011年におけるままである」として。「IRDAIはまだソルベンシー要件を包括的に更新していない。」とした。さらに、インドの現在は、契約の規模に沿って動くが、投資やオペレーショナル・リスクを含むリスクには影響を受けない単純な、主にファクターベースのソルベンシー要件のセットに安住している、と述べた。

また、2020~21年度に想定されている保険契約に関する国際財務報告基準(IFRS)の実施には、財務報告書の経済的評価への動きが要求されることから、近隣諸国はソルベンシー規制のための「リスクベースのアプローチと資産と負債の評価のためのより経済的な基礎」を実践してきている。これに対して、インドは、アジアでも国際的にも、いまだこの方向に動いていないアウトライアー(外れ国)である、と評価した。

ただし、「ソルベンシー・コントロール・レベルと適格資本の新しい形態へのより正式なアプローチが導入され、IRDAIは現在、ソルベンシー目的及びリスクベース資本の経済的評価のための計画について業界と取り組んでいる。」とした。

インドの保険会社は、議論のためにインドのIRDAIに経済資本の計算を報告しなければならず、インドはリスクベースの資本制度を積極的に検討している。
2|今後のソルベンシー制度について
IMFは、IRDAIがソルベンシー枠組みの現代化のための戦略、計画、タイムテーブルをできるだけ早く考案すること、を勧告した。IRDAIは、(ソルベンシー評価要件へのインプットとしての)保険負債に関する想定される新しいIFRS17と十分進歩した新しいIAISの保険資本基準に敬意を示し、インド市場への適用のために必要なものとして調整し再較正すべきだとした。

また、IRDAIは他のアジアの国々(シンガポール等)における確立されたアプローチを利用することができる、とし、インドは先例に追随することでうまくいくと述べた。

さらに、市場の性格と内部モデルオプションの複雑性を考慮すれば、IRDAIは全てのリスクをカバーするリスクベース資本に対して標準化されたアプローチを実施し、保険会社にORSA(リスクとソルベンシーの自己評価)を発展させることを要求すべきである、とした。

IMFは、ソルベンシー制度を更新することは、インドの保険会社が2021年から想定されている新たな保険契約の会計基準であるIFRS第17号の適用や保険監督者国際機構(IAIS)が開発している保険資本基準(ICS)の準備にも役立つ、と述べた。

さらに、IMFは、国際的枠組みに相当するソルベンシー基準に従わないことは、海外への進出の野望を有している保険会社にとって障害となる可能性がある、と警告した。
3|リスクベースの監督枠組みへの移行の勧告
IMFは、IRDAIは監督のためのよりリスクベースの枠組みに移行すべきである、とした。特に、現地検査は、コンプライアンスベースであり、保険会社の戦略、ビジネスモデルや運営に内在しているリスクのさらなる評価及びこれらのリスクに関係しているガバナンスとコントロールの妥当性の余地がある、とした。よりリスクベースの監督アプローチは、リスクベース資本を補完し、より良いリスク管理を奨励する。IRDAIは、監督上の焦点を決定するために、影響とリスク評価を用いて、リスクベースの監督サイクルを進展させるべきである。他のインドの監督当局のアプローチとのいくつかの共通点が、コングロマリットの監督のさらなる進展を支援するだろう、と述べた。
4|リソースと組織のレビュー
IMFは、IRDAIはよりリスクベースのアプローチの要求に応えるためにそのリソースと組織をレビューすべきである、と勧告した。

現在のリソースは、IRDAIが考えている、「大きくは4年毎から2年毎に、各引受会社を検査する頻度を倍増する」という目標オンサイトワークプログラムを支援するには人員が不足する危険があり、よりリスクベースのアプローチに移行することで、いくつかのリソースをリリースし、スキルと専門知識に関する新しい要求を負わせることができる、と述べた。

また、IRDAIは、現在237名の労働力の4分の1を国有保険会社からの3年間の割り当てに重く依存しているが、こうした公共部門の保険会社からの代理によるスタッフへの依存や現在の組織構造をレビューすべきである、と勧告した。
5|その他の評価
なお、IMFは、IRDAIの政府からの独立、「ソルベンシー・コントロール・レベルを含む一部の分野での過度の非公式のアプローチ」を含め、最後に2011年に訪問した後に提出された勧告の殆どが対処されたという肯定的なコメントを述べた。

また、2016年3月までに、生命保険会社(344%)と損害保険会社(239%)の両方のソルベンシー比率が最低150%を快適に超えており、業界は利益を上げており、生命保険会社のリスクは「比較的良好に広がっていた。」とした。

なお、FSAPの報告書のエグゼクティブ・サマリーにおけるRBS等に関係する記述の抜粋は、以下の通りとなっている。

エグゼクティブ・サマリーからの抜粋

IRDAIはまだソルベンシー要件を包括的に更新していない。 ソルベンシー・コントロール・レベルと適格資本の新しい形態へのより正式なアプローチが導入された。 2020~21年度の国際財務報告基準(IFRS)の実施には、財務報告書の経済的評価への動きが要求される。IRDAIは現在、ソルベンシー目的及びリスクベース資本の経済的評価のための計画について業界と取り組んでいる。 インドは、アジアでも国際的にも、いまだこの方向に動いていないアウトライアーである。 投資規制は保守的なままだが、インフラストラクチャーと住宅部門への投資には珍しい最低限の要件がある。保険破綻処理の枠組みはテストされていないが包括的であるようにみえる。

保険規制に関する2011年のFSAPの勧告の殆どは対処されてきている。いくつかの領域におけるIRDAIの独立性と過度に非公式なアプローチは、ソルベンシー・コントロール・レベルや他の規制当局との協力への手配を含み、解決された。より強力な損害保険の責任準備金要件と新たな保険詐欺枠組みが導入された。保険規制は、(金融コングロマリットの監督を含んで)国内的にも国際的にも、今やより幅広い金融セクターの監督の中により密接に統合されている。

主要な勧告は、IRDAIがソルベンシー枠組みの現代化のための戦略、計画、タイムテーブルをできるだけ早く考案することである。IRDAIは、(ソルベンシー評価要件へのインプットとしての)保険負債に関する想定される新しいIFRS17と十分進歩した新しいIAISの保険資本基準に敬意を示し、インド市場への適用のために必要なものとして調整し再較正した。IRDAIは他のアジアの国々(即ち、シンガポール)における確立されたアプローチを利用することができる。市場の性格と内部モデルオプションの複雑性を考慮すれば、IRDAIは全てのリスクをカバーするリスクベース資本に対して標準化されたアプローチを実施し、保険会社にORSAを発展させることを要求すべきである。そのアプローチを適切に較正するためには時間が取られるべきである。

IRDAIは監督のためのよりリスクベースの枠組みに移行すべきである。特に、現地検査は、コンプライアンスベースであり、保険会社の戦略、ビジネスモデルや運営に内在しているリスクのさらなる評価及びこれらのリスクに関係しているガバナンスとコントロールの妥当性の余地がある。よりリスクベースの監督アプローチはリスクベース資本を補完し、より良いリスク管理を奨励する。IRDAIは、監督上の焦点を決定するために、影響とリスク評価を用いて、リスクベースの監督サイクルを進展させるべきである。他のインドの監督当局のアプローチとのいくつかの共通点がコングロマリットの監督のさらなる進展を支援するだろう。

IRDAIはよりリスクベースのアプローチの要求に応えるためにそのリソースと組織をレビューすべきである。現在のリソースはIRDAIの目標オンサイトワークプログラムを支援するには十分でない。よりリスクベースのアプローチに移行することで、いくつかのリソースをリリースし、スキルと専門知識に関する新しい要求を負わせることになる。IRDAIは公共部門の保険会社からの代理によるスタッフへの現在の依存や現在の組織構造をレビューすべきである。

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保険研究部   取締役 研究理事

中村 亮一 (なかむら りょういち)

研究・専門分野
保険会計・計理

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