2018年10月01日

欧州大手保険グループの2018年上期末SCR比率の状況について-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告-

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1―はじめに

欧州大手保険グループの2018年上期決算の発表が8月に行われており、それに伴い、ソルベンシーⅡ制度に基づく各種数値等も開示されている。今回は、各社の2018年上期末のSCR比率の状況について、SCR比率の水準や感応度及びそれらの推移、さらには関係するその他の事項について報告する。併せて、2018年上期における各社の資本管理に関するトピックについても報告する。
 

2―欧州大手保険グループのSCR比率

2―欧州大手保険グループのSCR比率

欧州大手保険グループのSCR比率(=自己資本/SCR(Solvency Capital Requirement:ソルベンシー資本要件))の2014年末から2018年上期末の推移については、下記の表の通りとなっている。なお、ZurichはソルベンシーIIの対象ではないが、参考のためスイスの制度に基づく数値等を掲載している。
欧州大手保険グループのSCR比率等の推移
この表によれば、2018年上期末においては、2017年末と比較してのSCR比率の変化は各社各様である。AXAの比率が28%ポイントと大幅に上昇しており、Aegonの比率も2016年末から2017年末にかけての44%ポイントの大幅な上昇に続いて、10%ポイント以上上昇している。Prudentialも7%ポイントの上昇となっているが、Allianzはほぼ横ばいである。これに対して、GeneraliとAvivaの比率が低下している。なお、ソルベンシーIIにおいては、2018年からUFR(終局フォワードレート)がそれまでの4.2%から4.05%に15bps引き下げられているが、その影響度合いは限定されたものとなっている。

SCR比率の推移は、各社の資本充実やリスクテイクへの方針の差異等を反映して、一律ではなく、必ずしも市場環境に対応して同一のトレンドを示しているわけではない。

さらには、(1)各社の生保と損保等の事業や地域別の構成比率の差異等から、目標とするSCR比率等が異なっている、(2)事業の地域構成の差異からくる為替等の影響の程度が異なっている、(3)各社とも引き続き規制当局との交渉等を踏まえた内部モデルの変更や洗練化を実施してきている、等の理由から、単純な各社間の絶対水準や年度間の推移の比較ができない、ことには注意が必要になる。
 

3―各社のSCR比率や感応度の推移及び資本管理に関係するトピック

3―各社のSCR比率や感応度の推移及び資本管理に関係するトピック

この章では、各社のSCR比率の推移の要因分解及び感応度の推移に加えて、各社の資本管理に関係するトピックを報告する。

各社とも、2016年1月からのソルベンシーII制度の実施に向けて、SCR比率の充実や感応度の抑制に向けた対応を行ってきていたが、2018年に入ってからも、着実に営業利益を積み上げること等で資本の充実を図るとともに、資本配賦の最適化のために、リスク負担の見直し等を行ってきている。

なお、以下のSCR比率の推移の要因分解において、例えば「経営行動(management action)」に何を含めるのか等が必ずしも統一されているわけではない。さらには、感応度の対象やシナリオも各社各様である。加えて、要因分解に関する情報提供が行われている時期も必ずしも統一されていない。

そうした点も含めて、以下の報告は、各社の情報提供に基づいて、報告している。
1|AXA
(1)SCR比率の推移
AXAは、2018年上期において、ユニットリンク型事業を中心とした好調な業績を反映して、資本が着実に積み上がった。加えて、米国でのIPOの影響もあり、2018年上期末のSCR比率は、2017年末に比べて、28%ポイントと大きく上昇して、233%となった。
AXAのSCR比率推移の要因
(2)感応度の推移
感応度については、金利感応度を2014年末から2015年末にかけて大きく低下させた後、2015年末以降はほぼ横ばいとなっていたが、2018年上期末は若干上昇している。
AXAの感応度の推移
(3)トピック
AXAは、2018年上期において、米国事業のAXA Equitable HoldingsのIPOを成功させ、40億ドルの資金を確保し、XLグループ買収の資金を確保したとしている。また、XL Groupの買収については、9月10日に、監督当局の承認が得られ、9月12日には完了した、と公表している。

さらに、AXAは、欧州の変額年金会社であるAXA Life Europe をプライベート・エクイティ・カンパニーであるCinvenに12億ユーロで売却する計画を発表している。今年末又は2019年初めの売却完了を予定しており、これによりSCR比率が2%ポイント上昇するとしている。

加えて、AXAは、ING及びUberとの革新的なパートナーシップ、Swiss Group Life事業の変革等も公表している。

AXAはポートフォリオを成長が期待できる優先セグメントにシフトするとしており、具体的には、損害保険、医療、保障へのシフトを進める方針を示している。これに関して、2016年基礎利益ベースでは、XLグループを含めて、損害保険が50%、医療が10%、保障が21%の構成比になる、と報告している。

生命保険事業においては、他の欧州大手保険会社と同様に、資本集約型の保証商品ではなく、顧客がリスクを負うユニットリンク型商品へシフトすることを考えている。
2|Allianz
(1)SCR比率の推移
2018年上期は、地政学的な不安定性と通貨変動に遭遇する中で、好調な業績で引き続き高水準の営業利益を計上し、資本形成に貢献した。上期の57億ユーロの営業利益による資本増加のうち、生命保険が27億ユーロ、損害保険が26億ユーロ、資産管理が12億ユーロであった。

一方で、いくつかのマイナーなモデル変更を行ったことと、UFRが15bps引き下げられたことが、SCR比率にマイナスに働いている。さらに、取引信用保険会社のEuler Homes のバイアウト(2018年4月に完了)やOLBの売却による非連結化及び台湾事業の売却もマイナス要因になっている。

市場の影響は若干プラスに働いたことから、結果として、2018年上期末のSCR比率は、2017年末に比べて1%ポイント上昇して230%となった。

なお、各要素のSCR比率への影響については、営業利益によるものが+18%ポイント、市場の影響が▲1%ポイント、資本管理とその他(配当等)が▲13%ポイント、規制/モデル変更が▲4%ポイントであった。
AllianzのSCR比率推移の要因
(2)感応度の推移
感応度については、2016年末に低下していた株式市場の変動に対する感応度が2017年度末に上昇して、2015年末の水準に戻っていたが、2018年上期末も引き続きほぼ同水準となっている。一方で、社債の信用スプレッドの感応度は低い水準にとどまっている。なお、2018年上期末は、コンべクシティの増加により、金利感応度が増加したとしている。
Allianzの感応度の推移
(3)トピック
Allianzは、7月2日に10億ユーロの株式買戻しプログラムを公表しており、プログラムは9月30日までに完了し、買い戻された全ての株式は消却されることになる。これにより、第3四半期のSCR比率に▲3%ポイントの影響があるとしている。

Allianzは、資本の効率化を推進するために、内部再保険会社を積極的に使用している。具体的には、Allianz SEは、イタリアのAllianz SpA、フランスのAllianz IARD、ベルギーのAllianz  Benelux SE、スイスのEuler Hermes Re AGを含む様々なグループ子会社との再保険契約を締結している。これにより、子会社の資本要件を軽減し、グループ間の資本代替性を向上させている。

Allianzは、7月にナイジェリアの生損保兼営会社Ensure Insurance plcを取得し、急速に成長しているナイジェリア市場への参入を果たすとともに、このM&Aがアフリカにおける長期成長戦略のマイルストーンになると述べている。
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中村 亮一

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