2018年08月14日

IAISがICS(保険資本基準)Version2.0のための公開協議文書を公表-新たな保険負債評価の割引率アプローチ等を提案-

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(3)監督カレッジの役割
モニタリング期間中、監督カレッジが重要な役割を果たす。IAIGの監督カレッジのメンバーは、モニタリング期間中にGWSに報告された参照ICSについて議論し、評価することが期待されている。モニタリング期間中にGWSがIAIGに追加報告を要求する場合、IAIGの監督カレッジのメンバーは、追加報告について議論し、評価する。 GWSが提供する要約結果は、監督カレッジが参照ICSと追加報告について議論し、評価するのに十分なものでなければならない。

参照ICSの評価、及び該当する場合、追加報告には、以下が含まれていなければならない。

・既存のグループ資本基準又は開発中の計算との比較
・IAIGの重大なリスクがどの程度捉えられているか。
・必要とされる計算の妥当性と実用性。そして
・IAIGによる措置の実施における困難

この目標を達成するために、IAISはGWS及びホスト監督者からのフィードバックと意見を収集する。これを行うために、IAISは、個々のIAIGの監督カレッジの議論に基づいて、GWS及びホスト監督者からの書面によるフィードバックを収集するための確実な手段を提供する。

(4)移行措置
モニタリング期間中、IAISは、モニタリング期間の終了後にICSをPCRとして実施する管轄区域を支援する経過的取扱(例えば、適格資本に関する)を検討する。例えば、影響を受ける保険グループに想定されるシステム変更の程度に応じて、新しい要件の段階的導入を可能にすることは珍しいことではない。関連する管轄区域で採択されるために必要な法律及び/又は規則が必要な場合、実施のための移行期間も一般的である。
 

5― ICS Version 2.0 CDの具体的内容-保険負債評価の割引率-

5― ICS Version 2.0 CDの具体的内容-保険負債評価の割引率-

この章では、今回の ICS Version 2.0 CDのうち、保険負債評価に使用する割引率の設定に焦点を絞って報告する4

基準となる参照ICSの評価としては、「市場調整価値(Market Adjusted Valuation:MAV)」が規定されている。これ以外に、GWSのオプションによる追加報告という形で、「GAAP調整(GAAP with Adjustments(GAAP Plus))」での報告が認められている。
 
4 この章の説明は、あくまでも「リスクベースのグローバルな保険資本基準Version2.0 公開協議文書」に基づいているが、さらに詳しい内容については2018 Quantitative Field Testing Packageの中の「Technical Specifications(技術仕様書)」等を参照していただきたい。
1|市場調整評価(MAV)アプローチ
(1)概要-ICS Version 1.0からの主たる変更点-
ICS Version 1.0においては、基本イールドカーブの調整のオプションについて、以下の3つのオプションが認められていた。これらのオプションの詳しい内容は、前回のレポートを参照していただきたい。

1) ブレンドオプション(Blended Option)
2) 高品質資産(HQA)オプション(High Quality Assets Option)
3) ガードレール付きの自己資産(OAG)オプション(Own Assets with Guardrails Option)
今回のICS Version 2.0 CDにおいては、これらの3つのオプションに代わって、新たに「3バケットアプローチ」と呼ばれる方式が提案されている。

(2)基本イールドカーブ
2015年のフィールドテスト以来、割引のために取られているアプローチは、最も取引される35の通貨の利回り曲線を規定し、既定の利回り曲線でカバーされていない他の市場で活動するボランティアグループの利回り曲線を決定する方法論を提供することである。

通貨別に規定された利回り曲線は、以下の方式で決定される。

a.(通貨に応じてスワップ市場データ又は国債市場データのいずれかを使用して)基本イールドカーブを決定する。
b.その基本イールドカーブに調整を適用する。

ここで、基本イールドカーブの設計は、以下の3つのセグメントで行われる。

a.セグメント1:最終観察期間(Last Observed Term:LOT)で終了する市場情報に基づく流動セグメント
b.セグメント2:第1セグメントと第3セグメントとの間の補間/グラデーション。そして
c.セグメント3:(収束):イールドカーブに暗黙のフォワードカーブが収束する LTFR(Long Term Forward Rate:長期フォワードレート)。 LTFRは、マクロ経済的手法を用いて決定される。
Discounting approach
2018年フィールドテストとICS Version 2.0では、IAISは基本イールドカーブを決定するための方法論を規定している。この方法論はCDとは別の文書(「2018年フィールドテスト技術仕様書」のセクション6.3.15.2及び「ICS Version 2.0のためのIAIS基本イールドカーブ手法」)としてリリースされ、2017年まで使用されたアプローチと比較していくつかの変更が行われている。具体的には、以下の通りである。

a.セグメント1の商品の選択を通知するための基準セットが提案され、ローカル金融市場の特性をよりよく反映する商品を管轄地域の監督当局が選択するのに十分な柔軟性を可能にした。

b.セグメント1の終わりを設定するLOTは、もはや30年にキャップされないが、選択された商品の市場の取引量が多く、流動性があり、透明であるとみなされる最後の満期を反映する。

c.セグメント2の長さは、60年後に全ての通貨について終了するようには設定されていない。代わりに、(1)収束期間が十分に長い期間(最低30年)続くこと、及び(2)収束点があまりに早く発生しないこと(最低限の60年満期)。

d.LTFRの決定は依然としてマクロ経済的アプローチに従っているが、その構成要素は変更されており、その決定方法も変わっている。これまで、LTFRの構成要素は、長期経済成長期待と長期インフレ期待であったが、これはOECDの研究から得られたものである。修正された方法論では、長期成長期待は、将来の資産回収のためのより良い代替になることから、期待実質金利に置き換えられている。また、両方のLTFRコンポーネントを決定する方法論は、外部の研究に頼るのではなく、データ駆動型になっている。フィールドテストでIAISがカバーする35の通貨全てに利用可能なデータがないため、実質金利パラメータには平均が使用された。

e.LTFRの更新を反映する方法論も新しい方法論で確立されている。以前は、IAISがLTFR構成要素の変化をどのようにして基本イールドカーブに反映させるのかは明らかではなかった。新しい方法論はLTFRの年次変動の制限を設定し、その重要な特徴の1つであるこのパラメータの安定性を確保している。

改訂された方法論は、とりわけ、IAISによって基本イールドカーブが決定される方法に関して、IAIGs及び利害関係者に透明性をもたらすことを目指している。また、IAIGsは、フィールドテストに含まれているグループに含まれていない通貨の基本イールドカーブを一貫して決定することができることになる。
(3)基本イールドカーブの調整-3バケットアプローチ
2018年フィールドテストとICS Version 2.0では、IAISは、監督と業界の両方に対処するバランスの取れたソリューションを提供するために、近年テストされた様々な方法の特徴を組み合わせることを目的とした3バケットアプローチの開発にその作業を集中させたと述べている。

3バケットアプローチは3つのバケットで構成されており、保険負債を3つの異なるカテゴリに分け、それぞれの機能に応じて異なる調整方法が適用される。

・トップバケットは、グループの資産構造と特定のスプレッドに依存するため、最もエンティティ固有である。 IAIGが実際にその自己資産を満期まで保有し、それゆえ保険負債の割引に用いられているスプレッドを獲得できることをある程度保証する、最も限定的な基準を満たす負債にのみ適用すべきである。基準は、2018年フィールドテスト技術仕様書で定義されている。

・ミドルバケットは、トップバケットと一般バケットのバランスをとることを目指している。それは依然として適用可能な一連の基準を満たす負債を必要とするが、この基準は多くの面でトップバケットと比較してより緩和されている。ミドルバケットは、IAIG自身の資産構造に基づいて加重された市場スプレッドを使用して、市場及びグループ固有のインプットをミックスする。

・一般バケットは、他のバケットに設定されている基準を満たさない保険負債に使用できるキャッチオール(あらゆるものを含む)バケットである。したがって、(関連する通貨に対して)IAIG市場全体について決定されたスプレッド及びポートフォリオ構造の両方を使用して、市場全体で計算される。

1) トップバケット(Top Bucket
トップバケットの調整は、IAIGの自己資産保有とそれぞれのスプレッドに基づいて、所定の適格基準を満たすポートフォリオについて計算される。この調整は、保険負債の償却までの基本イールドカーブへの平行シフトとして適用される。これは、これがLOTを超えている場合でも同様である。

トップバケットは適格資産の概念を適用する。つまり、指定されたカテゴリ(主に固定利回り資産)の資産のみがスプレッド調整の計算に役立つ。ICSカテゴリ4以下の格付け資産には、ICSカテゴリ4資産のスプレッドが割り当てられる。

トップバケットでは100%の適用比率が使用される。

2) ミドルバケット(Middle Bucket
ミドルバケット調整は、IAIGの自己資産保有額(複数代表ポートフォリオの加重平均(WAMP)方法論)によって加重された市場スプレッドに基づいて、所定の適格基準を満たすポートフォリオについて計算される。これらの資産がヘッジされ、ヘッジコストが控除されている場合には、外貨建の通貨から得たスプレッドを考慮することができる。

ミドルバケットは適格資産の概念を適用する。つまり、指定されたカテゴリ(主に固定利回り資産)の資産のみがスプレッド調整の計算に寄与する。ICSカテゴリ4以下の格付け資産には、ICSカテゴリ4資産のスプレッドが割り当てられる。

適格基準の厳格な性質を反映し、スプレッド計算におけるベーシスリスクが高いことを反映するため、ミドルバケットは90%の適用比率を使用する。

3) 一般バケット(General Bucket
一般バケットは、市場全体のスプレッドと代表的なポートフォリオに基づいて計算されるため、特定のIAIGによって適用された場合に高いベーシスリスクが組み込まれる。

一般バケットは、トップ及びミドルバケットの基準のいずれも満たさない全ての保険負債に適用され、80%の適用比率の対象となる。

構築方法論に起因する潜在的なベーシスリスクを軽減するため、2つのベーシスリスク緩和メカニズムを組み入れている。これは、(1)負債とは異なる通貨建ての資産の保有と、(2)構成する管轄区域の各々で観測されるスプレッドレベルと比較した時に、通貨組合せについて計算された平均調整額の間の大きな差異、の重要な影響を、調整において反映することを目的としている。

一般バケットは適格資産の概念を適用する。つまり、指定されたカテゴリ(主に固定利回り資産)の資産のみがスプレッド調整の計算に寄与する。ICSカテゴリ4以下の格付け資産には、ICSカテゴリ4資産のスプレッドが割り当てられる。

さらに、IAISは、LTFRのレベルでのスプレッド調整の較正を検討している。

以前は2018年フィールドテストでも10 bpsのプレースホルダー較正が使用されていた。 プレースホルダー較正の妥当性については、様々な見解がある。

2017年、ボランティアグループの一部は、このプレースホルダーを放棄し、代わりにLTFRの調整を過去のデータに基づいて較正することをIAISに提案した。

下記で述べる方法論に基づき、以下のスプレッド調整が、(基準点における)LTFRに適用される通貨のサンプルについて決定された。
 
選択通貨のスプレッド調整
上記表のスプレッド調整は、通貨ベースで、以下のステップを用いて導出されている。

a.信用格付け(AAA、AA、A、BBB及びそれ以下)及び満期(例えば1~3年、3~5年、7~10年、10~15年、15年以上)毎の過去のスプレッドデータは、パブリックデータソースから得られた。

b.IAISが規定した信用格付によるリスク調整が、満期及び信用格付け毎のリスク調整済みの過去の社債スプレッドを得るために、適用された。

c.(レビュー中の全ての年と、代わりに2008年6月から2009年6月までの金融危機期間を除いて)満期及び信用格付けによる過去の社債スプレッドが平均化された。

d.短期/中期/長期の債券配分(例えば、USDの場合、1~7年で5%、7~15年で45%、15年以上で50%など)に関する前提を設定して、信用格付け毎の平均過去社債スプレッドが決定された。

e.前のステップで決定されたリスク調整済みスプレッドを、社債の代表的なミックスに適用することにより、全体的なスプレッドを計算した。ここで、代表的なミックスは、 2018年フィールドテストの技術仕様書の3バケットアプローチのミドルバケットで特定されているように、WAMP方法論に基づいている。

これについては、IAIS加盟国の間でも意見が分かれており、この考え方を指示する国とこの提案に同意せず、むしろいかなるスプレッド調整もLTFRに追加すべきでない(0bps)ことを支持している国もある。

IAISは、様々な意見を調整する方法を引き続き検討する、としている。
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中村 亮一

研究・専門分野

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