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- 中国の公的医療保険制度について(2018)-老いる中国、14億人の医療保険制度はどうなっているのか。
2018年06月28日
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3――都市・農村住民基本医療保険制度-北京市を例に
1|制度構造
都市・農村住民基本医療保険の対象者は、当該市の戸籍をもつ(都市戸籍、農村戸籍の両方)、都市職工基本医療保険に加入していない高齢者、非就労者、学生・児童である。
制度の構造としては、まず、基本医療保険から一定額まで基礎的な給付が受けられる。これを上回る高額な医療費については、大病医療保険から給付が受けられる。また、大病医療保険においても一定の自己負担が必要となっているが、限度額が設けられていないケースが多い。
基本医療保険の運営は各地域で行うが、大病医療保険については、地域を管轄する地方政府と当該地域に進出をした民間保険会社が協働で運営を行う。
北京市では、2018年1月1日から、都市の非就労者と農村住民の医療保険制度を統合し、新たに都市農村住民基本医療保険をスタートさせた4。
対象者は、北京市の戸籍をもつ、都市職工基本医療保険に加入していない高齢者(男性60歳以上、女性50歳以上)、非就労者(男性16歳以上60歳未満、女性16歳以上50歳未満),学生・児童(未就学児童)などである5。
制度の構造として、入院給付は病院のランクに応じて、まず、300~1,300元までが全額自己負担となる。免責額から年間20万元までが給付対象となり、自己負担は入院する病院のランクに応じて20~25%となる(図表6)。
一方、通院(一般外来)は、受診する病院のランクに応じて、100元または550元までが全額自己負担となる。免責額から年間3,000元までが給付対象となり、自己負担は病院のランクに応じて45%または50%となる。
都市・農村住民基本医療保険の対象者は、当該市の戸籍をもつ(都市戸籍、農村戸籍の両方)、都市職工基本医療保険に加入していない高齢者、非就労者、学生・児童である。
制度の構造としては、まず、基本医療保険から一定額まで基礎的な給付が受けられる。これを上回る高額な医療費については、大病医療保険から給付が受けられる。また、大病医療保険においても一定の自己負担が必要となっているが、限度額が設けられていないケースが多い。
基本医療保険の運営は各地域で行うが、大病医療保険については、地域を管轄する地方政府と当該地域に進出をした民間保険会社が協働で運営を行う。
北京市では、2018年1月1日から、都市の非就労者と農村住民の医療保険制度を統合し、新たに都市農村住民基本医療保険をスタートさせた4。
対象者は、北京市の戸籍をもつ、都市職工基本医療保険に加入していない高齢者(男性60歳以上、女性50歳以上)、非就労者(男性16歳以上60歳未満、女性16歳以上50歳未満),学生・児童(未就学児童)などである5。
制度の構造として、入院給付は病院のランクに応じて、まず、300~1,300元までが全額自己負担となる。免責額から年間20万元までが給付対象となり、自己負担は入院する病院のランクに応じて20~25%となる(図表6)。
一方、通院(一般外来)は、受診する病院のランクに応じて、100元または550元までが全額自己負担となる。免責額から年間3,000元までが給付対象となり、自己負担は病院のランクに応じて45%または50%となる。
年間の入院、通院の医療費が高額となった場合(入院費は20万元以上、通院は3,000元以上)、官民協働の大病医療保険から給付される。北京市では、年間の自己負担総額のうち(公的医療保険の給付対象範囲内)、前年の農村住民1人あたりの平均可処分所得額を超えた場合に、一定額が償還される。例えば、超えた自己負担額が5万元以内の部分は自己負担割合が4割、5万元を超える部分は自己負担が3割となるよう、償還される。
都市・農村住民基本医療保険は、都市の会社員の制度と比較して、基金による給付限度額が低く設定されている上に、自己負担も高く設定されている。実質的には所得が相対的に低い非就労者・農村住民が実額の上でもより多くの負担を支払う構造となっている。大病医療保険は発生した自己負担費用に主眼を置き、直接的な負担軽減とそれによる制度間の受給格差の緩和を目的としており、構造上、上限額が撤廃されているケースが多い。
4 2016年以降、各地域で順次統合が進んでおり、導入時期はそれぞれ異なる。
5 その他に、加入対象者として、夫婦の一方が北京市戸籍の配偶者,夫婦の一方が北京市に所属する勤務先を定年退職した幹部で、当該者が死亡した場合その配偶者,北京市の「外国人永久居留身分証」を取得し、都市職工基本医療保険に加入していない外国人も含まれる。
都市・農村住民基本医療保険は、都市の会社員の制度と比較して、基金による給付限度額が低く設定されている上に、自己負担も高く設定されている。実質的には所得が相対的に低い非就労者・農村住民が実額の上でもより多くの負担を支払う構造となっている。大病医療保険は発生した自己負担費用に主眼を置き、直接的な負担軽減とそれによる制度間の受給格差の緩和を目的としており、構造上、上限額が撤廃されているケースが多い。
4 2016年以降、各地域で順次統合が進んでおり、導入時期はそれぞれ異なる。
5 その他に、加入対象者として、夫婦の一方が北京市戸籍の配偶者,夫婦の一方が北京市に所属する勤務先を定年退職した幹部で、当該者が死亡した場合その配偶者,北京市の「外国人永久居留身分証」を取得し、都市職工基本医療保険に加入していない外国人も含まれる。
2|保険料負担
都市・農村住民基本医療保険の保険料は、地方政府がそれぞれ年齢等の基準に応じて決定している。被保険者は1年間に1回、決められた期間中に年額の保険料を納付する。また、市・区の財政から一定額の補助が拠出される。保険料と財政補助は、都市・農村住民への給付を目的とした基金(都市農村住民基本医療保険基金)に積み立てられ、都市職工基本医療保険の基金とは分離されている。
大病医療保険の保険料は、地方政府と民間保険会社が定め、都市・農村住民基本医療保険基金から一定額を転用して給付される。都市職工基本医療保険とは異なり、保険料は別途徴収していない。
北京市の場合、保険料は年齢によって設定されている。2018年の年間保険料は学生・児童、高齢者が180元、非就労者(労働年齢内)は300元となっている。また、市の財政からは1人あたり485元、区の財政からは945元が拠出され、保険料と合わせて基金に積み立てられる(図表7)。
保険料は労働年齢内の対象者は高くなっており、高齢者や学生児童は相対的に低く設定されている。都市職工基本医療保険では、所得に応じて保険料を課しているため、所得の格差を是正する再分配機能の役割は一定程度果たされている。しかし、都市・農村住民基本医療保険では、年齢に応じて一律の保険料となっており、必ずしも同様の機能を果たしてはいない。
都市・農村住民基本医療保険の保険料は、地方政府がそれぞれ年齢等の基準に応じて決定している。被保険者は1年間に1回、決められた期間中に年額の保険料を納付する。また、市・区の財政から一定額の補助が拠出される。保険料と財政補助は、都市・農村住民への給付を目的とした基金(都市農村住民基本医療保険基金)に積み立てられ、都市職工基本医療保険の基金とは分離されている。
大病医療保険の保険料は、地方政府と民間保険会社が定め、都市・農村住民基本医療保険基金から一定額を転用して給付される。都市職工基本医療保険とは異なり、保険料は別途徴収していない。
北京市の場合、保険料は年齢によって設定されている。2018年の年間保険料は学生・児童、高齢者が180元、非就労者(労働年齢内)は300元となっている。また、市の財政からは1人あたり485元、区の財政からは945元が拠出され、保険料と合わせて基金に積み立てられる(図表7)。
保険料は労働年齢内の対象者は高くなっており、高齢者や学生児童は相対的に低く設定されている。都市職工基本医療保険では、所得に応じて保険料を課しているため、所得の格差を是正する再分配機能の役割は一定程度果たされている。しかし、都市・農村住民基本医療保険では、年齢に応じて一律の保険料となっており、必ずしも同様の機能を果たしてはいない。
大病医療保険については、保険料としての徴収はしていない。北京市では、基金の積立金から一定額が転用されている。2017年までは、都市住民基本医療保険基金から当年の保険料徴収基準の5%分、新型農村合作医療保険基金から残高の5%分が転用され、給付に充てられている。
3|入院・通院給付
給付は、都市職工基本医療保険と同様、入院、通院(一般外来、特殊疾病、慢性病)を対象としている。
自己負担割合は受診した医療機関の規模やランクなどに基づいて各地域が設定している。なお、都市職工基本医療保険に見られるような、医療専用の個人口座は設けられていない。
北京市の入院給付をみると、まず、受診した医療機関のランク1~3級病院に応じて、免責額300元、800元、1,300元までは自己負担しなければならない(図表8)。この免責額を超えてから20万元までが給付対象となる。自己負担割合は、3級病院に入院した場合、医療費1,300元超から20万元の部分については25%となっている。病院ランクが下がる毎に自己負担割合は22%、20%と軽減されている。自己負担割合は、都市職工基本医療保険とは異なり、給付限度額まで一律で、総じて高く設定されている。
通院(一般外来)給付は、入院給付と同様、免責額が設定されている。受診病院が1級病院の場合は100元、2級・3級病院の場合は550元である。通院給付はこの免責額を超えてから適用され、3,000元を限度額に、1級病院の場合は45%、2級・3級病院の場合は50%が自己負担となっている(図表9)。都市職工基本医療保険とは異なり、受診病院のランク毎に免責額を設定し、自己負担割合もそれに応じて設定している。
給付は、都市職工基本医療保険と同様、入院、通院(一般外来、特殊疾病、慢性病)を対象としている。
自己負担割合は受診した医療機関の規模やランクなどに基づいて各地域が設定している。なお、都市職工基本医療保険に見られるような、医療専用の個人口座は設けられていない。
北京市の入院給付をみると、まず、受診した医療機関のランク1~3級病院に応じて、免責額300元、800元、1,300元までは自己負担しなければならない(図表8)。この免責額を超えてから20万元までが給付対象となる。自己負担割合は、3級病院に入院した場合、医療費1,300元超から20万元の部分については25%となっている。病院ランクが下がる毎に自己負担割合は22%、20%と軽減されている。自己負担割合は、都市職工基本医療保険とは異なり、給付限度額まで一律で、総じて高く設定されている。
通院(一般外来)給付は、入院給付と同様、免責額が設定されている。受診病院が1級病院の場合は100元、2級・3級病院の場合は550元である。通院給付はこの免責額を超えてから適用され、3,000元を限度額に、1級病院の場合は45%、2級・3級病院の場合は50%が自己負担となっている(図表9)。都市職工基本医療保険とは異なり、受診病院のランク毎に免責額を設定し、自己負担割合もそれに応じて設定している。
また、特殊疾病の通院治療の対象は都市職工基本医療保険と同様の7種を指定している。これらの治療は入院の自己負担割合が適用されるが、特殊疾病の給付を受けるには申請が必要である。
受診機関は予め3ヵ所の病院と1ヵ所の社区衛生サービスセンターを指定し、その医療機関で受診する。A類病院、漢方専門病院、専門病院については、指定をしなくても利用が可能である。
特に、高齢者と非就労者(労働年齢内)の通院(一般外来)については、まず社区衛生サービスセンター(または1級以下の医療機関)で受診するよう定められている。初診でそれ以外の規模の大きい病院で受診した場合、保険給付の対象外としている(救急を除く)。
なお、2015年の平均入院費を地域別でみると、北京市は首位の20,149元であった。これは全国平均である8,268元の2.4倍と高い。また、平均入院費は、同年の北京市の在職者の平均月給(7,086元)の2.8ヶ月分にあたり、一旦入院となった場合、その負担は重いといえるであろう。
受診機関は予め3ヵ所の病院と1ヵ所の社区衛生サービスセンターを指定し、その医療機関で受診する。A類病院、漢方専門病院、専門病院については、指定をしなくても利用が可能である。
特に、高齢者と非就労者(労働年齢内)の通院(一般外来)については、まず社区衛生サービスセンター(または1級以下の医療機関)で受診するよう定められている。初診でそれ以外の規模の大きい病院で受診した場合、保険給付の対象外としている(救急を除く)。
なお、2015年の平均入院費を地域別でみると、北京市は首位の20,149元であった。これは全国平均である8,268元の2.4倍と高い。また、平均入院費は、同年の北京市の在職者の平均月給(7,086元)の2.8ヶ月分にあたり、一旦入院となった場合、その負担は重いといえるであろう。
(2018年06月28日「ニッセイ基礎研所報」)
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経歴
- 【職歴】
2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
(2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
(2019~2020年度・2023年度~)
・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
・千葉大学客員教授(2024年度~)
・千葉大学客員准教授(2023年度) 【加入団体等】
日本保険学会、社会政策学会、他
博士(学術)
片山 ゆきのレポート
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