2――公的年金財政の構造、財政収支状況
中国の年金の財政は、管轄している各地域(主には「市」単位)で、制度ごとに管理されている。よって、年金財政を確認する上では、‘制度ごと’の収支のみならず‘地域ごと’の収支も確認する必要がある。
例えば、2015年の都市職工年金(会社員、公務員など被用者)について、制度ごとに全国の収支を集計してみると、黒字であった。しかし、地域ごと(省単位)で集計すると、全国31地域のうち、およそ2割にあたる6地域は赤字であった。
2015年の財政収支について、制度ごとに全国の収支の状況を集計してみると、会社員が加入する都市職工年金、公務員年金、都市・農村住民年金の財政収支はいずれも黒字であった。
会社員が加入する都市職工年金(公務員年金を除く)の財政収支について、収入をみると、保険料収入が2兆1,093億元と全体の79.3%を占めており、運営に必要な財源の多くは保険料でまかなわれていることがわかる(図表5)。地方政府財政からの繰り入れは3,970億元(収入全体の14.9%)、年金に充てられなかった部分を運用した収益は1,019億元(収入全体の3.8%)で、収入総額は、2兆6,613億元(約49兆円)であった。
都市の非就労者・農村住民が加入する都市・農村住民年金の財政収支について、収入をみると、国庫・地方財政からの繰り入れが2,019億元と70.7%を占めており、運営に必要な財源の多くは、税金によってまかなわれていることがわかる。その多くが基礎年金の給付に充てられている。保険料収入は700億元で24.5%を占めるのみとなっており、最終的な収入総額は2,855億元(約5兆円)であった。
一方、支出については、基礎年金への支出に加えて、加入インセンティブを高めるため、被保険者が納付した保険料の多寡に応じて、一定額が加算されることになっており、個人口座へ193億元の支出も見られる。最終的な支出総額は2,117億元(約4兆円)であることから、全体の財政収支状況は収入が支出を上回り、黒字となった。ただし、制度維持において政府財政への依存度が高い構造といえよう。
一方、2015年に収支が赤字となったのは遼寧省、河北省、陜西省、吉林省、黒龍江省、青海省の6地域であった。これらの地域をみると、年金扶養率はいずれも全国平均以下となっている。そのうち、特に、東北地域に属する遼寧省、吉林省、黒龍江省については、受給者1名を順に1.78人、1.53人、1.37人で支えており、当該地域における現役世代の負担は大変重いことがわかる。
3――年金積立金の運用
年金制度を管轄する地方政府は、給付に充てられなかった部分(年金積立金)の運用について、これまで銀行預金、国債の売買に限定し、自家運用してきた。このような運用手法は、安全に運用できる反面、利回りは低く、近年は物価上昇分をカバーできていない年もあった。
中央政府は、少子高齢化が急速に進む中で、将来世代の負担が大きくならないようにするにはどうするべきか、これまで検討を重ねてきた。その結果として、2015年8月に、年金積立金の株式運用などの市場運営や、リスク資産への投資解禁を決定した。加えて、市場での運営を受託する機関を「全国社会保障基金」(全国社保基金)を管轄する理事会とし、2016年には、全国社保基金理事会が運用を受託する21の金融機関、資産管理を受託する4銀行を発表した(図表7)。
一方、国民の老後の生活を支える年金積立金の運用は、全国社保基金のそれとは異なる。運用、資産管理の受託機関は、長期的に安全かつ効率的に運用するという観点からも、原則として、これまで企業年金または赤字補填金の受託実績がある金融機関から選出している。今後は、その運用状況に応じて、新たな金融機関の増加も考えられるが、現時点で、海外大手の運用機関を選出していない。
このように、年金積立金の委託運用の枠組は整えられ、委託する資金をどれくらい拠出するかについては、各省などの判断に委ねられることになった。

なお、運用で損失が発生した場合は、全国社保基金が純利益の1%を準備金として積み立てた資金から補填されることになっている。