- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- 中国経済 >
- 米中貿易摩擦と日本の役割-米国に代わるWTOの基本原則とその精神の主導者が必要!
このまま米中の関税引き上げ合戦がエスカレートしていけば米中経済が共倒れになる恐れがある。米国が中国からの輸入品にだけ高関税をかければ、米国における中国製品の競争力は低下、米国への輸出が減少して中国企業の抱える過剰生産設備問題は深刻化し、中国経済には大きな打撃となる。一方、中国が対抗して米国からの輸入品にだけ高関税をかければ、中国における米国製品の競争力は低下、中国への輸出は減少して米国の農業生産者などが顧客を失うとともに、米国内では中国からの輸入品であるスマホや衣料品などが値上がり家計を圧迫するため、米国経済にも大きな打撃となる。また、米中の関税引き上げ合戦はその他の諸国にも大きな影響を及ぼす。米中両国が互いの輸入品に高関税をかけることになれば、漁夫の利を得る国もでてくるからだ。米国向け輸出では米アップル(それを受託製造する台湾企業)が中国にあるスマホの製造拠点をベトナムなどへ移転したり、中国企業が国内にある衣料品の製造拠点をミャンマーなどへ移転したりする可能性がある。また、中国向け輸出では、米国産(ボーイング)の航空機が減少して欧州産(エアバス)が増加したり、米国産の自動車が減少して日本産が増加したり、米国産の農産品が減少してブラジル産が増加したりする可能性もある。ただし、米中貿易摩擦の行方を見通すには不確実性が高すぎて、漁夫の利だと思っていたら取らぬ狸の皮算用だったということも十分あり得る。将来トランプ米大統領が対話姿勢に転じると、その後は中国による米国製品の輸入拡大に焦点が移って、米国企業や中国企業が中国にある製造拠点を中国以外の新興国に移転する必要はなくなり、中国政府は米国産(ボーイング)の航空機を増やして欧州産(エアバス)を減らし、米国産の自動車を増やして日本産を減らし、米国産の農産品を増やしてブラジル産を減らすこと検討し始めて、それまでとは全く正反対の動きになりかねないからだ。
このように米中両国が関税引き上げ合戦を繰り広げる中で、その一挙手一投足に右往左往する日本を初めとするその他諸国は、WTOの基本原則とその精神の主導者の復帰を待ち望んでいるようだ。第二次世界大戦前のブロック経済が輸出市場を囲い込み戦争への道を開いたとの認識の下、米国はその前身であるGATT(関税及び貿易に関する一般協定)の頃から前政権に至るまで、WTOの基本原則とその精神の主導者だった。しかし、「米国第一」を掲げて登場したトランプ政権は、保護主義的な政策を打ち出すとともに、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)から離脱し米国に有利な二国間交渉を推進している。その他諸国が米国と二国間交渉に臨めば、米国の強い政治的圧力を背景に不利な交渉となるのは明白だ。そして、世界はWTOの基本原則とその精神の主導者を失いつつある。一方、中国は前述のようにWTOの枠組みの中で紛争を解決しようとしてはいるものの、中国に進出した外資企業に技術移転を事実上要求したり、外資企業の活動を事実上制限して国内企業を優遇したり、また中国と政治的に対立するとフィリピンが南シナ海の領有権問題で対立したときのように検疫の強化を名目に事実上バナナ輸出が止められたり、韓国がTHAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)配備問題で対立すれば中国本土からの韓国旅行を事実上制限したりする行動が目立つ。従って、中国が「形式的」にはWTOの枠組みの中でも、「事実上」は強い政治的圧力を背景にその精神に反した行動をとり続けるなら、WTOの基本原則とその精神の主導者とはなり得ないだろう。
以上のように、米中両国以外の諸国には、米中両国の政治的圧力に負けないだけのパワーが必要であり、日本を初めとするその他諸国は一致団結してそのパワーを高めることが肝要だと思われる。そして、米中両国に次ぐ経済規模の日本はそのリーダーとして前面に出るべきだろう。米国がWTOの基本原則とその精神の主導者に復帰するまでの一時的なリリーフだとしてもそれは構わないと思う。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
三尾 幸吉郎
研究・専門分野
(2018年04月13日「研究員の眼」)
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年04月25日
欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況-2023年決算数値等に基づく現状分析- -
2024年04月24日
中国経済の現状と注目点-24年1~3月期は好調な出だしとなるも、勢いが持続するかは疑問 -
2024年04月24日
人手不足とインフレ・賃上げを考える -
2024年04月24日
米国でのiPhone競争法訴訟-司法省等が違法な独占確保につき訴え -
2024年04月23日
他国との再保険の監督に関する留意事項の検討(欧州)-EIOPAの声明
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年04月02日
News Release
-
2024年02月19日
News Release
-
2023年07月03日
News Release
【米中貿易摩擦と日本の役割-米国に代わるWTOの基本原則とその精神の主導者が必要!】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
米中貿易摩擦と日本の役割-米国に代わるWTOの基本原則とその精神の主導者が必要!のレポート Topへ