2018年04月05日

EIOPAがソルベンシーIIレビューに関する第2の助言セットを欧州委員会に提出(4)

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5|XXI209(3)条:許容される調整
CPではなかった新規の助言である。

EIOPAは、欧州委員会への第1の助言セットにおいて、「エクスポジャー調整」であれば、毎週のリスク軽減技術(RMT)の調整が許可されるべきであると提案し、これについては、第2の助言セットにおいてさらに明確化を提供すると述べていた。

今回の助言では、法律に新たなエクスポジャー調整の概念を導入する必要はなく、現在の類似性の要件が、不十分な取り決めを「選り分ける」のに十分であるとしている。

類似性については、単に同じ種類の手段の使用を意味するものではないとし、標準式に反映されたリスク軽減効果と実際のリスク軽減との間の可能性のある逸脱と委任規制第210条に規定されているベーシスリスクの要件の遵守は、ORSAの一部とすべきである、としている。また、いかなる調整も重要なベーシスリスクをもたらすべきではない、としている。

2156.法律に新たなエクスポジャー調整の概念を導入する必要はない。現在の類似点の要件は、不十分な取り決めを「整理」するのに十分であると思われる。

2157.類似性は単に同じ種類の手段の使用を意味するものではない。

2158.標準式に反映されたリスク軽減効果と実際のリスク軽減との間の可能性のある逸脱と委任規制第210条に規定されているベーシスリスクの要件の遵守は、ORSAの一部とすべきである。

2159.いくつかのリスク軽減手法は、オプションポジションの価値のデルタ変動をシミュレートする目的で、基礎となる証券又は先物、オプション又は先物契約のポジションを増減することによって、オプションのようなリターンを作成する。これらは、同様の取り決めとみなされるべきではない。

2160.いかなる調整も重要なベーシスリスクをもたらすべきではない。

6|XXII失効リスクに対するUSP
CPではなかった新規の助言である。

会社固有のパラメータのためのフレームワークは、負債に合わせた較正を計算するのに十分なデータが利用可能な場合に、標準式において定義されたパラメータのセットを置き換える標準化された方法を提供する。この枠組みは、引受リスクモジュールにおいて可能な限り提供されるべきである。

EIOPAは「引受リスクモジュールの追加パラメータを置き換える標準化された方法を評価し、監督上の承認が得られるまでに満たされなければならない使用されるデータの完全性、正確性および妥当性に関する基準を評価する。」ことを求められた。

失効リスクに対するUSP(会社固有のパラメータ)については、ステークホルダーから、標準式を較正するために使用されたものと同様の方法論を提案され、EIOPAはこの方法論を評価した。

結論としては、全体的に、提案が標準式の較正を再現する場合に、標準式よりも会社のリスクプロファイルをよりよく反映するとは考えられないことから、欧州委員会に対して、委任規則に提案された方法論を反映するようには勧告しない、としている。提案された方法論に埋め込まれた専門家判断は、USP方法論に比例していないと思われる詳細な文書化及びレビューを意味している、としている。

2201.ステークホルダーは、標準式を較正するために使用されたものと同様の失効リスクに対する会社固有のパラメータのための方法論を提案した。この方法論を評価し、以下の結論が導かれた。

2202.範囲について:ステークホルダーは、失効率の恒久的な増加及び恒久的な低下のリスクについてのみSCRを計算するためのUSPのための方法を提案した。委任規制第142条第1項に記載されているように、失効リスクに対するSCRは、上記の2つの資本要件のうちの、そして大量失効リスクに対するSCRのうちの最大となる。失効率の恒久的な増加及び恒久的な低下のリスクについてのみUSPを導入することで、大量失効リスクに対するSCRが3つの資本要件のうちの最大である場合に、失効リスクに対する全体のSCRに与える影響が殆ど無いというリスクを冒す。

2203.ストレスファクターを較正するために使用されるデータについて:提案された方法論は粗失効率に対応するデータに依存していた。委任規制第142条によれば、部分解約や更新によるリスクも考慮する必要がある。したがって、基礎となるリスクファクターのいくつかが考慮されないリスクがある。

2204.方法の妥当性について:提案された方法は、対数正規分布に依存する。標準式のストレスファクターは、部分的に対数正規分布前提に依存しており、部分的に経験分布を用いた研究から引き出されている。この分布の前提が会社レベルで適切であるという保証は何もない。

2205.生命保険の失効リスクのドライバーは多様で複雑である。例えば、それは契約特性(例えば保証利率)や外部環境(例えば、財政環境)に依存する。 対数正規分布前提に基づく標準的な手法の中で全ての保険契約者のオプション(部分解約、更新など)を適用することは、重要な専門家の判断を埋め込むように見え、ストレスファクターを過小評価するリスクを伴う。

2206. EIOPAは、欧州委員会に対し、委任規則に提案された方法論を反映するようには勧告しない。全体的に、提案が標準式の較正を再現する場合、標準式よりも会社のリスクプロファイルをよりよく反映するとは考えられない。

2207.提案された方法論に埋め込まれた専門家判断は、USP方法論に比例していないと思われる詳細な文書化及びレビューを意味している。

7|XXIII不利な進展カバーの認識
CPではなかった新規の助言である。

ソルベンシーIIはリスクベースの枠組みであり、特に特定のリスク軽減技術の効果を考慮している。

EIOPAは次のことを求められていた。

・リスク軽減技術、特に組込デリバティブ及び長寿リスク移転に関する最近の市場動向に関する情報を提供する。
・リスク軽減技術の認識の枠組みが、これらの最近の市場動向を適切にカバーしているかどうかを評価する。
・必要に応じて、このフレームワークの更新を提案する。
 
標準式に対しては、損害保険リスクをカバーする非比例再保険を十分に認識していないとのステークホルダーの批判を受けている。ステークホルダーは、保険料及び準備金リスクサブモジュールに適用される式を通じて、特定のタイプの非比例再保険を認識することを提案し、EIOPAは、この提案に関して、ステークホルダーとの集中的な対話を行った。EIOPAの分析は、この提案は実際のリスクを過小評価するケースを認めることになることを示し、ステークホルダーとの間でいくつかの修正が議論されたが、いずれもこの欠陥に対処できなかった。

ステークホルダーの提案がうまくいく唯一のケースは、単一ライン保険会社の場合であったが、EIOPAは、特定のケースでのみこれらのカバーを認識することは、マルチライン保険会社と異なる取扱をもたらすことになるため、適切ではないと考えた。

以上により、EIOPAは、ステークホルダーの提案に基づいて不利な進展のカバーを認識することは助言しない、とした。

標準式における再保険
2263.標準式は、損害保険リスクをカバーする非比例再保険を十分に認識していないとのステークホルダーの批判を受けている。

2264.損害保険引受リスクモジュールは、いくつかのサブモジュールで構成されている。非比例再保険は通常、保険料及び準備金リスクサブモジュール及びカタストロフィリスクサブモジュールに関係している。


2265.(再)保険会社の再保険プログラムは、通常、これらの種類の損害保険引受リスクの全てをカバーしている。非比例再保険条項は、通常、極端な事象又は請求の数及び/又は金額の増加による損失に対して、(再)保険会社をカバーしている。これらの極端な事象は、自然ごとに、カタストロフィリスクに対応している。

2266.カタストロフィリスクサブモジュールに対する資本要件はシナリオに基づいて計算され、リスク軽減手法として適格である場合に非比例再保険の認識が可能となる。外部再保険契約の適用に関するEIOPAガイドラインは、こうした外部再保険契約の適用方法を規定している。

2267.保険料及び準備金リスクサブモジュールの資本要件は、ファクターベースのアプローチに基づいて計算される。資本要件は、ボリューム測定に適用される標準偏差に基づいて計算される。

2268.準備金リスクの標準偏差は、再保険差引後で較正される。これは、較正時に準備金リスクに対する非比例再保険を含む再保険の平均的な効果がすでに含まれていることを意味する。 較正の定期的な更新は、平均的な効果が適切に捕捉され続けることを確実にすべきである。

2269.保険料リスクの標準偏差は、再保険差引後で較正される。委任規則第117条は、保険料リスクの標準偏差は、最も関連性の高いセグメントに対して、80%の非比例再保険の調整ファクターを掛けることを規定している。

2270.調整ファクターと標準偏差の両方を、会社の特定の再保険プログラムを考慮した会社固有のパラメータに置き換えることができる。

2271.標準偏差には保険料リスクと準備金リスクのボリューム指標が乗じられる。保険料リスクのボリューム指標は、再保険控除後の保険料に対応している。準備金リスクのボリューム指標は、再保険契約から回収可能な金額を控除した後の未払請求の鋳の最良推定値に対応している。

2272.上記のように標準式における非比例再保険の認識にもかかわらず、もしそのリスクプロファイルの特定の性質のために特定の再保険プログラムを結んだ場合、内部モデルフレームワークはこれらの特異性の認識を認めている。


不利な進展のカバー
2273.ステークホルダーは、保険料及び準備金リスクサブモジュールに適用される式を通じて、特定のタイプの非比例再保険を認識することを提案した。

2274. EIOPAは、彼らの提案に関してステークホルダーとの集中的な対話を行った。EIOPAの分析は、この提案は実際のリスクを過小評価するケースを認めることになることを示した。ステークホルダーとの間でいくつかの修正が議論されたが、いずれもこの欠陥に対処できなかった。

2275.ステークホルダーの提案がうまくいく唯一のケースは、単一ライン保険会社の場合である。 EIOPAは、特定のケースでのみこれらのカバーを認識することは、マルチライン保険会社と異なる取扱をもたらすことになるため、適切ではないと考える。

2276EIOPAは、ステークホルダーの提案に基づいて不利な進展のカバーを認識することは助言しない。

3―まとめ

3―まとめ

以上、今回のレポートでは、EIOPAが、2018年2月28日に公表した「ソルベンシーⅡ委任規則の特定項目に関する欧州委員会へのEIOPAの第2の助言セット」の中から、保険引受けリスク及び資産運用関係以外の項目について、報告してきた。

「繰延税金の損失吸収能力(LAC DT)」については、保険業界団体の保険ヨーロッパ(Insurance Europe)は、

「EIOPAは、欧州委員会によってLAC DTのEEAで現在適用されている様々な方法とその影響について報告するように要請されたことを理解している。したがって、保険ヨーロッパは、EIOPAは分析を提出することにより、既にその任務を全面的に果たしていると考えている。」

「現在の枠組みが既にLAC DTの問題について重要な指針を提供していると強く信じており、いかなる監督上の懸念も、会社の特定の事業モデルに対する適切な知識と尊敬を持って、適切な監督上の対話を通じて、対処されるべきである。」

との意見であり、具体的な制限の設定等については、否定的なスタンスを示していた。
しかしながら、今回のEIOPAの助言は、LAC DTの計算における制限を設定するものとなっている。これらの制限の設定による影響はEIOPAによる評価によれば限定的とされているが、各会社の判断を制約するものとなっていることから、業界からは反対の意向が示されてきている。

「リスクマージン」については、CPに対して、保険ヨーロッパは、「1)非常に限定的に焦点を当てたレビューを行い、資本コスト率のみを検討し、2)何の変更も提案しない、というEIOPAの決定を支持していない。」とし、「現在の資本コストの6%の較正は必要以上に高く、リスクマージンが過大である主要な理由である。保険ヨーロッパは、証拠に基づいて、3%の資本コスト率が適切で正当化されていることを繰り返す。さらに、保険ヨーロッパは、現在のリスクマージンの設計に欠陥があり、特定の長期商品に不均衡で不当な配分をもたらす。」と指摘していた。

ところが、EIOPAは、最終の助言でもCPの考え方を維持しており、資本コスト率等の見直しは提案していない。

「保険及び銀行部門における自己資本の比較」については、保険ヨーロッパも基本的にはCPにおいて提案されていた考え方を支持しており、今回の最終の助言はこれらの考え方に基づいた具体的な提案がなされている。

「合計ティア1の20% までティア1として適格な資本手段」については、保険ヨーロッパも、CPに対して「現状が維持されるべきとのEIOPAの評価を歓迎する。」としており、それらの意見を踏まえた助言となっている。

「第209(3)条:許容される調整」、「失効リスクに対するUSP」、「不利な進展カバーの認識」については、今回の最終の報告書で新たに行われた助言である。これらの項目については、ステークホルダーの意見を踏まえた内容になっているものもあるが、ステークホルダーの提案を受け入れなかったものもあるという助言内容になっている。

以上、今回の項目については、CPに比べて、その後のステークホルダー等からの意見や分析結果等を踏まえて、記載内容を充実させているが、その助言等の内容は必ずしも保険業界団体の意向に沿ったものとはなっておらず、その意味では引き続き検討すべき課題を残したものとなっている。

このシリーズの最終の5回目のレポートでは、今回の助言内容のベースとなった影響評価の内容の一部を報告するとともに、今回の助言を受けての保険業界団体の反応や今後の動向等について報告する。 
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中村 亮一

研究・専門分野

(2018年04月05日「基礎研レポート」)

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