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2018年04月05日
EIOPAがソルベンシーIIレビューに関する第2の助言セットを欧州委員会に提出(4)
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1―はじめに
ソルベンシーIIのレビューに関して、EIOPA(欧州保険年金監督局)は、2018年2月28日に、「ソルベンシーII委任規則の特定項目に関する欧州委員会へのEIOPAの第2の助言セット」(以下、「第2の助言セット」という)をまとめて、欧州委員会に提出した1、と公表した。
基礎研レポート「EIOPAがソルベンシーIIレビューに関する第2の助言セットに関する第2の助言セットを欧州委員会に提出(1)」(2018.3.26)では、全体概要とEIOPAによる助言のうちの保険引受けリスクに関係する項目について報告した。また、前回と前々回の基礎研レポート「EIOPAがソルベンシーIIレビューに関する第2の助言セットに関する第2の助言セットを欧州委員会に提出(2)」(2018.3.28)及び「EIOPAがソルベンシーIIレビューに関する第2の助言セットに関する第2の助言セットを欧州委員会に提出(3)」(2018.4.2)では、この第2の助言セットについて、そのEIOPAによる助言のうちの資産運用に関係する項目について報告した。
今回のレポートでは、これまでに報告した保険引受けリスク及び資産運用関係以外の項目について報告する。
1 プレスリリース:https://eiopa.europa.eu/Publications/Press%20Releases/EIOPA%20recommends%20further%20simplifications%20to%20the%20calculation%20of%20insurers%27%20capital%20requirements.pdf
報告書:https://eiopa.europa.eu/Publications/Consultations/EIOPA-18-075-EIOPA_Second_set_of_Advice_on_SII_DR_Review.pdf
基礎研レポート「EIOPAがソルベンシーIIレビューに関する第2の助言セットに関する第2の助言セットを欧州委員会に提出(1)」(2018.3.26)では、全体概要とEIOPAによる助言のうちの保険引受けリスクに関係する項目について報告した。また、前回と前々回の基礎研レポート「EIOPAがソルベンシーIIレビューに関する第2の助言セットに関する第2の助言セットを欧州委員会に提出(2)」(2018.3.28)及び「EIOPAがソルベンシーIIレビューに関する第2の助言セットに関する第2の助言セットを欧州委員会に提出(3)」(2018.4.2)では、この第2の助言セットについて、そのEIOPAによる助言のうちの資産運用に関係する項目について報告した。
今回のレポートでは、これまでに報告した保険引受けリスク及び資産運用関係以外の項目について報告する。
1 プレスリリース:https://eiopa.europa.eu/Publications/Press%20Releases/EIOPA%20recommends%20further%20simplifications%20to%20the%20calculation%20of%20insurers%27%20capital%20requirements.pdf
報告書:https://eiopa.europa.eu/Publications/Consultations/EIOPA-18-075-EIOPA_Second_set_of_Advice_on_SII_DR_Review.pdf
2―今回のCPにおけるEIOPAによる助言の概要-保険引受けリスク及び資産運用関係以外-
この章では、EIOPAによる欧州委員会への助言内容のうち、保険引受けリスク及び資産運用関係以外の項目(今回の一連の基礎研レポートの第1回目のレポートの2―2|の24項目のうちのXVIIからXXIII)について報告する。なお、これらの項目に関する欧州委員会からの助言要求内容及びEIOPAが2017年11月6日に公表した「ソルベンシーII委任規則の特定項目に関する欧州委員会へのEIOPAの第2の助言セットに関するコンサルテーション・ペーパー」(以下、「CP」と言う)2での助言内容については、基礎研レポート「EIOPAがソルベンシーIIレビューに関する第2の助言セットについてのCPを公表(3)-欧州委員会に対する助言内容-」(2017.12.25)で報告しているので、このレポートも参照していただくことにして、今回の一連のレポートでは詳しくは説明していない。
これまでのレポートで述べたように、今回のEIOPAの報告書の助言内容については、いくつかの点でCPからの変更がなされ、また新たな助言の追加も行われている。
報告書の助言に関する記載内容の変更点については、基本的には「新規追加は下線付き、削除は元のCPの記述を括弧〔 〕書き、変更は変更後に下線を付けて変更前のCPを括弧( )書き」としている。ただし、「記載内容の変更点をこれらで示すことが容易でない場合には、項番号に下線」等して、適宜対応することとしている。
これまでのレポートで述べたように、今回のEIOPAの報告書の助言内容については、いくつかの点でCPからの変更がなされ、また新たな助言の追加も行われている。
報告書の助言に関する記載内容の変更点については、基本的には「新規追加は下線付き、削除は元のCPの記述を括弧〔 〕書き、変更は変更後に下線を付けて変更前のCPを括弧( )書き」としている。ただし、「記載内容の変更点をこれらで示すことが容易でない場合には、項番号に下線」等して、適宜対応することとしている。
1|XVII.繰延税金の損失吸収能力(LAC DT)
欧州委員会は、LAC DT(Loss-Absorbing Capacity of Deferred Taxes:繰延税金の損失吸収能力)の算定に現在適用されている様々な方法と、相違する慣行が資本要件の差異につながる程度について、EIOPAに報告するように依頼した。
欧州委員会は、「繰延税金調整による資本要件の減少の計算は複雑であり、高水準の監督上の判断を必要とし、その結果、加盟国間で異なる慣行を生じさせている」と述べていた。
これに対して、EIOPAは、この情報要求に応えるために、まずはコンサルテーション・ペーパー(EIOPA-CP-17-004)を発行して、欧州委員会に事実情報を送付した。
その後、CPにおいては、EIOPAは、助言は含めずに、ステークホルダーのコメントを考慮してさらに検討した後、EIOPAは合理的な決定を下す、としていた。
ただし、監督上のコンバージェンスを促進し、以下の3つの懸念に取り組むために、いくつかの主要原則を検討する、とし、さらに、具体的な主要原則として、いくつかの項目を挙げ、これらの主要原則について、「可能性の高い具体的な実施」について記載していた。そして、CPには「主要原則に関する結論」として、その考え方が記載されていた。
3つの懸念は、以下の通りである。
・名目上の繰延税金資産(DTA)の利用に対する将来利益についての不確実性
・これらの将来利益の予測に関係する複雑さ
・名目上のDTAの可能性の高い利用に関連する広範囲の判断による不公平な競争条件:
主要原則は次のとおりである。
Ⅰ.会社の財務及びソルベンシーポジション-ショック損失後のMCRとSCRの遵守の
役割
Ⅱ.新契約からの将来利益 - 予測の前提
Ⅲ.新契約からの将来利益 - 新契約からの将来利益の予測期間
Ⅳ.新契約からの将来利益 - 新契約販売の予測期間
Ⅴ.資産の利益からの将来利益
Ⅵ.技術的準備金を超えた資産の収益からの将来利益 –予測期間
Ⅶ.将来の経営行動
Ⅷ.ガバナンス制度の役割
Ⅸ.監督者の報告と開示
今回の最終助言書においては、これらの「主要原則に関する結論」の内容が大きく充実され、「助言」として提案されている。
ショック後のDTAの可能性のある利用の実証についての主要原則Ⅰ~Ⅵに関して、EIOPAは、ショックロス後の繰延税金の計算のための追加の基準を設定することによって、主要原則を実施するよう勧告している。また、その目的のために、LAC DTに関する委任規則第207条に、LAC DTに適格であるショックロス後の想定繰延税金の決定の根底にある前提のための要件を追加するという改正を勧告している。
これらの要件は、LAC DTを計算する際に、会社は、ショックロス後の財務及びソルベンシーのポジションとショックロスに続く将来利益の予測に関する不確実性の増加を考慮しなければならない、ことを明確にしている。ショックロスに続く将来利益を予測する場合、委任規則第15条に従い、ソルベンシーIIの貸借対照表上の繰延税金の評価に適用される前提よりも有利な前提を適用すべきではない、としている。
具体的には、例えば、
・資産リターンについてのショック後の前提は、関連する金利ターム構造から導出された先物レートと等しく設定することが適切であると考えるが、一定の状況下では、より高いリターンが正当なものであることを認識すべきであるとして、EIOPAは、会社がショックロス後にそのような超過リターンを実現する可能性が高いという確かな証拠を提供できる場合に、リスクフリーレートを超えるリターンを認められるように勧告している。ただし、一方でこれらのより高いリターンは限定されるべきであるとしている。
・ショックロス後の想定繰延税金の評価に使用される期間は、繰延税金の貸借対照表評価に使用される対応する期間より長くすべきではない。新契約に関しては、EIOPAは、(再)保険会社によって実施される様々な予測における一貫性を確保するために、新契約の計画と事業計画をリンクさせることを勧告するとしている。
主要原則VIIについては、LAC DTの計算要件と委任規則第83条に規定されているシナリオベースの計算要件を調和させるべく、委任規則第23条を参照することにより、将来の経営行動に関する主要原則Ⅶを実施することを勧告している。
主要原則VIIIについては、リスク管理分野に関する第260条と保険数理機能(アクチュアリアル・ファンクション)に関する第272条を変更することにより、LAC DTに関するガバナンス要件に関する主要原則Ⅷを実施するように勧告している。リスク管理方針にガバナンス要件を含めることで、方針の承認中にAMSB3の適切な関与が保証される、としている。また、保険数理上の機能又はより適切な場合にはリスク管理機能は、貸借対照表上の繰延税金資産の評価(第15条)と LAC DTの目的(第207条)の両方のための将来の利益予測に適用される基礎となる前提を評価し検証することを公式的に求められるべきである、としている。
3 AMSB(administrative, management or supervisory body:管理、経営、監督機関)
欧州委員会は、LAC DT(Loss-Absorbing Capacity of Deferred Taxes:繰延税金の損失吸収能力)の算定に現在適用されている様々な方法と、相違する慣行が資本要件の差異につながる程度について、EIOPAに報告するように依頼した。
欧州委員会は、「繰延税金調整による資本要件の減少の計算は複雑であり、高水準の監督上の判断を必要とし、その結果、加盟国間で異なる慣行を生じさせている」と述べていた。
これに対して、EIOPAは、この情報要求に応えるために、まずはコンサルテーション・ペーパー(EIOPA-CP-17-004)を発行して、欧州委員会に事実情報を送付した。
その後、CPにおいては、EIOPAは、助言は含めずに、ステークホルダーのコメントを考慮してさらに検討した後、EIOPAは合理的な決定を下す、としていた。
ただし、監督上のコンバージェンスを促進し、以下の3つの懸念に取り組むために、いくつかの主要原則を検討する、とし、さらに、具体的な主要原則として、いくつかの項目を挙げ、これらの主要原則について、「可能性の高い具体的な実施」について記載していた。そして、CPには「主要原則に関する結論」として、その考え方が記載されていた。
3つの懸念は、以下の通りである。
・名目上の繰延税金資産(DTA)の利用に対する将来利益についての不確実性
・これらの将来利益の予測に関係する複雑さ
・名目上のDTAの可能性の高い利用に関連する広範囲の判断による不公平な競争条件:
主要原則は次のとおりである。
Ⅰ.会社の財務及びソルベンシーポジション-ショック損失後のMCRとSCRの遵守の
役割
Ⅱ.新契約からの将来利益 - 予測の前提
Ⅲ.新契約からの将来利益 - 新契約からの将来利益の予測期間
Ⅳ.新契約からの将来利益 - 新契約販売の予測期間
Ⅴ.資産の利益からの将来利益
Ⅵ.技術的準備金を超えた資産の収益からの将来利益 –予測期間
Ⅶ.将来の経営行動
Ⅷ.ガバナンス制度の役割
Ⅸ.監督者の報告と開示
今回の最終助言書においては、これらの「主要原則に関する結論」の内容が大きく充実され、「助言」として提案されている。
ショック後のDTAの可能性のある利用の実証についての主要原則Ⅰ~Ⅵに関して、EIOPAは、ショックロス後の繰延税金の計算のための追加の基準を設定することによって、主要原則を実施するよう勧告している。また、その目的のために、LAC DTに関する委任規則第207条に、LAC DTに適格であるショックロス後の想定繰延税金の決定の根底にある前提のための要件を追加するという改正を勧告している。
これらの要件は、LAC DTを計算する際に、会社は、ショックロス後の財務及びソルベンシーのポジションとショックロスに続く将来利益の予測に関する不確実性の増加を考慮しなければならない、ことを明確にしている。ショックロスに続く将来利益を予測する場合、委任規則第15条に従い、ソルベンシーIIの貸借対照表上の繰延税金の評価に適用される前提よりも有利な前提を適用すべきではない、としている。
具体的には、例えば、
・資産リターンについてのショック後の前提は、関連する金利ターム構造から導出された先物レートと等しく設定することが適切であると考えるが、一定の状況下では、より高いリターンが正当なものであることを認識すべきであるとして、EIOPAは、会社がショックロス後にそのような超過リターンを実現する可能性が高いという確かな証拠を提供できる場合に、リスクフリーレートを超えるリターンを認められるように勧告している。ただし、一方でこれらのより高いリターンは限定されるべきであるとしている。
・ショックロス後の想定繰延税金の評価に使用される期間は、繰延税金の貸借対照表評価に使用される対応する期間より長くすべきではない。新契約に関しては、EIOPAは、(再)保険会社によって実施される様々な予測における一貫性を確保するために、新契約の計画と事業計画をリンクさせることを勧告するとしている。
主要原則VIIについては、LAC DTの計算要件と委任規則第83条に規定されているシナリオベースの計算要件を調和させるべく、委任規則第23条を参照することにより、将来の経営行動に関する主要原則Ⅶを実施することを勧告している。
主要原則VIIIについては、リスク管理分野に関する第260条と保険数理機能(アクチュアリアル・ファンクション)に関する第272条を変更することにより、LAC DTに関するガバナンス要件に関する主要原則Ⅷを実施するように勧告している。リスク管理方針にガバナンス要件を含めることで、方針の承認中にAMSB3の適切な関与が保証される、としている。また、保険数理上の機能又はより適切な場合にはリスク管理機能は、貸借対照表上の繰延税金資産の評価(第15条)と LAC DTの目的(第207条)の両方のための将来の利益予測に適用される基礎となる前提を評価し検証することを公式的に求められるべきである、としている。
3 AMSB(administrative, management or supervisory body:管理、経営、監督機関)
(2018年04月05日「基礎研レポート」)
中村 亮一のレポート
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2025/05/02 | 曲線にはどんな種類があって、どう社会に役立っているのか(その11)-螺旋と渦巻の実例- | 中村 亮一 | 研究員の眼 |
2025/04/25 | 欧州大手保険グループの2024年の生命保険新契約業績-商品タイプ別・地域別の販売動向・収益性の状況- | 中村 亮一 | 基礎研レポート |
2025/04/14 | 欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況-2024年決算数値等に基づく現状分析- | 中村 亮一 | 基礎研レポート |
2025/04/01 | 欧州大手保険グループの2024年末SCR比率等の状況-ソルベンシーII等に基づく数値結果報告と資本管理等に関係するトピック- | 中村 亮一 | 基礎研レポート |
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【EIOPAがソルベンシーIIレビューに関する第2の助言セットを欧州委員会に提出(4)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
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