2018年04月03日

年金改革ウォッチ 2018年4月号~ポイント解説:積立金の運用利回りの前提と目標

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ―― 先月までの動き

先月の年金財政における経済前提に関する専門委員会では、運用利回りについて年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)からのヒアリングや議論が行われました。年金数理部会では、2016年度の公的年金の財政状況を確認した結果が報告書としてとりまとめられました。
 
○社会保障審議会  年金財政における経済前提に関する専門委員会
3月9日(第4回)  GPIFからのヒアリング、運用利回りの設定、諸外国の経済前提、など
 URL http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000197101.html (配布資料)
 
○社会保障審議会 年金数理部会
3月16日(第77回)  公的年金財政状況報告-平成28年度-、その他
 URL http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000198131.html (配布資料)
    http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000198528.html (報告書)
 

2 ―― ポイント解説:積立金の運用利回りの前提と目標

2 ―― ポイント解説:積立金の運用利回りの前提と目標

先月の年金財政における経済前提に関する専門委員会では、当委員会の検討事項である運用利回りの前提に加えて、検討事項外の、厚生労働大臣がGPIFに課す目標利回りについても議論になりました。
図表1 運用利回りの前提と目標の設定方法 1|前提と目標の設定方法:目標が前提を上回る構造
公的年金財政の将来見通しの作成には様々な前提が必要で、その1つが運用利回りです。運用利回りの前提は、長期金利の見通しに、株式などへ分散投資する効果が加味されます。長期金利の見通しは、当面10年間は内閣府の中長期経済モデルの計算結果(毎年変動・2通り)が、10年後以降は当委員会の長期経済モデルの計算結果(一定値・8通り)が使われています。分散投資効果は、どちらの時期にも、過去の実績等から計算した0.4%が使われています*1
図表2 運用利回りの前提等(2014年見通し) 一方、GPIFに課される中期目標には、確保すべき運用利回り(目標利回り)と運用リスクの条件*2が含まれ、目標利回りは「賃金上昇率+1.7%」となっています。賃金上昇率が基準になるのは、年金財政の大部分を占める保険料や給付費が賃金上昇率に連動するため、と説明されています。「+1.7%」は、前述した10年後以降の前提(8通り)のうち、賃金上昇率と運用利回りの差が最大となるケースEの値です。+1.7%はどのケースでも適用されるため、他のケースでは目標利回りが前提利回りを上回る構造になっています。

また、GPIFの資産配分は、分散投資効果を計算する際とは違い、金利上昇に伴う債券価格下落の影響(国内債券の収益率低下)を織り込んだ上で目標を達成するように設定されたため、株式への配分が多くなっています。
 
 
*1 国内債券なみのリスク水準(収益率のブレ)で分散投資した場合に達成されうる収益率と、国内債券のみに投資した場合に達成されうる収益率との差。この計算に用いられた収益率は、名目収益率から賃金上昇率を控除したもの。
*2 名目賃金上昇率からの下振れリスクが全額国内債券運用の場合を超えないこと。加えて、株式等は想定よりも下振れ確率が大きい場合があることを十分に考慮し、予定された積立金額を下回る可能性の大きさを適切に評価すること等を行うことになっている。
図表3 目標利回りへの指摘の例 2|目標利回りへの指摘:専門家からも様々な指摘
目標利回りについては、名目の利回りに対する感覚的な批判が話題になりがちです。しかし、専門家からはこれまでに具体的な複数の指摘があり、当委員会でも議論になりました。例えば、賃金上昇率を基準にすることに対して「年金財政への影響を見る際には重要だが、目標に利用するのは不適当」、期間について「目標利回りは経済再生後の値で、近年の運用環境で実現すればリスク資産が多くなる」という指摘や、「目標利回りの確保ではなく、年金財政への悪影響の最小化が重要」といった根本的な指摘もあります。
3|今後の課題:前提と目標を設定する議論の連携強化
現在の審議会の役割分担では、運用利回りを含む経済前提については当委員会で議論し、目標利回りを含む中期目標については資金運用部会で議論することになっています。しかし、運用利回りと中期目標は深く関連しており、先日の当委員会でも検討事項外であるにも関わらず議論が行われました。運用利回りの議論を深めるには、当委員会で前提を検討する際に今回のように目標のあり方も議論したり、当委員会と資金運用部会の複数の委員*3が意見を交換するなど、両会議体の連携を密にする必要があるでしょう。
 
 
*3 当委員会の植田委員長は資金運用部会の部会長代理を務めている。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

(2018年04月03日「保険・年金フォーカス」)

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