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公的年金改革があると考える人はNISAやiDeCoに加入するか?-自助努力を進める可能性に関する実証分析

北村 智紀
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1――はじめに
老後の生活費の準備に利用できる税制優遇措置がある積立・資産運用制度には、NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)や、iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)などがある。また、生命保険会社等が販売する個人年金保険も利用できる。NISAとは、NISA口座(非課税口座)内で毎年一定金額の範囲内で購入した株式や株式投信などの金融商品から得られた運用益が非課税になる制度である。iDeCoとは、毎年一定金額の範囲内で掛金を拠出し、預金や株式投信などの予め用意された金融商品で運用して、60歳以降に年金や一時金を受け取れる年金制度のことである。掛金や運用益が非課税になり、長期投資ではメリットが大きい。個人年金保険は、定期的に(例えば毎月)保険料を支払うことで、契約時に定めた年齢から、一定期間、年金が受け取れる貯蓄型の保険である。生命保険料控除制度を利用でき、税制上のメリットがある。
公的年金は、2004年に大きな改革があり、保険料固定方式やマクロ経済スライドが導入されて、一定の健全性が保たれるようになった。しかし、当初予測していなかった長年にわたるデフレ経済が続いたことや、少子高齢化が大きくは改善されないことから、将来、大きな年金改革が再び行われるのではないかと考える人も多い。年金改革の可能性としては、年金の給付水準のさらなる引き下げや、年金の支給開始年齢の引き上げなどが考えられる。退職後の生活費を準備する方法としては、NISA制度やiDeCo制度を使って、貯蓄の積み増しと資産運用を行うことが考えられる。その一方で、金融資産に頼るのではなく、できるだけ自分が長く働くことにより収入を得て、公的年金の給付水準低下を補うことも考えられる。そこで、本レポートは、税制優遇措置がある、NISA制度、iDeCo制度、個人年金保険がどの程度知られているのかと、ライフプラン設計で重要な、将来の公的年金の給付水準低下や支給開始年齢の引き上げの可能性、あるいは、長く働いて収入を得る可能性との関係を分析する。
男性会社員を対象とした、独自に実施したWeb上のアンケート調査を利用して分析を行った結果、公的年金の給付水準の低下や支給開始年齢の引き上げの可能性が高いと考える人は、NISA制度、iDeCo制度、個人年金保険を知っている人の割合が高い傾向が観察された。一方、自分が長く働く可能性が高いと考える人は、これらの制度・保険を知らない傾向があることが観察された。
本レポートの構成は、以下のとおりである。第2節で分析方法、第3節で分析結果を示す。第4節は結論と課題である。
2――分析方法
分析に用いる各変数の定義を説明する。被説明変数(Y)となる変数は以下の3つのダミー変数である。(A) NISA制度を知らない人、(B) iDeCo制度を知らない人、(C)個人年金保険を知らない人、である。それぞれの変数は、各制度(個人年金)に加入しているか、していないかを選択式の質問で尋ね、その中で「知らない」と答えた人を1、そうでない人0であるダミー変数である1。
メインとなる説明変数(X)は以下の3つの変数である。「年金額3割削減」は、「10年後、公的年金は3割削減される」ことについてどう思うか、1.そう思わない~6.そう思うまでの6段階のスケールで尋ね、その回答を可能性低、可能性中、可能性高の三分位にわけたものである(選択肢の1~3を回答した場合は可能性低、4を回答した場合は可能性中、5~6を回答した場合は可能性高である。以下の2変数についても同様)。「支給開始年齢2歳引き上げ」は、「10年後、年金が受け取れる年齢は2歳引きあがる」ことについてどう思うか、同様に6段階のスケールで尋ね、回答を可能性低、可能性中、可能性高の三分位にわけたものである。「70歳まで働く」は、「自分は70歳まで働かないといけない」ことについてどう思うか、同様に6段階のスケールで尋ね、回答を可能性低、可能性中、可能性高の三分位にわけたものである。
その他のコントロール変数(Z)については、金融資産の保有額、毎月貯蓄額:将来に向けた毎月の計画的貯蓄額(預貯金・株式・投信の積立等)、85歳生存確率:自分が85歳まで生きる可能性についてどの程度の確率か尋ねた回答、複利クイズ正解:複利の効果が理解できるか尋ねたクイズが正解である場合は1、不正解である場合は0であるダミー変数である。さらに、以下のダミー変数を加えた(その変数に該当している場合は1、そうでない場合は0)、正規雇用、大学卒、自宅保有、既婚、子供1名、子供2名、子供3名以上、及び、回答者の年齢である。
分析は以下の回帰分析を利用して行った。
予測される回帰係数の符号は以下のとおりである。公的年金の削減や支給開始年齢の引き上げの可能性が高いと考える人は、自助努力で老後の準備を行う必要があると考えるはずで、運用益や掛金に税制メリットがあるNISA制度、iDeCo制度、個人年金保険への関心が高まるはずである。従って、年金額3割削減、及び支給開始年齢2歳引き上げの回帰係数は負となることが予想される。一方、老後の生活費を金融資産の蓄積や資産運用ではなく、自分が働く期間を延ばして対応しようと考える場合もある。その場合は、NISA制度、iDeCo制度、個人年金保険への関心が高まらず、70歳まで働くの回帰係数は負である可能性がある。
1 そのため、厳密には非認知率ではなく、本当は各制度(個人年金)に加入しているのだが、加入していることを忘れてしまっている人も含まれている可能性がある。
(2017年12月29日「基礎研レポート」)
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