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- まるわかり“内部留保問題”~内部留保の分析と課題解決に向けた考察
2017年11月30日
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2|余剰資金が現預金に積み上がり、過大な水準に
また、B/Sの資産サイドでは現預金の増加も目立つ。2016年度末の現預金残高は211兆円と2012年度末から43兆円増加し、過去最高を記録している(図表19)。
売上が増加していれば、運転資金等に当てるために現預金を厚めに持つ必要性が出てくるが、近年の売上の増加ペースは緩やかであるため、現預金を月間売上高で割った手持月数は2016年度末で1.7ヶ月分と2012年度末から0.2ヶ月分上昇している。仮に1980年度から2012年度までの長期平均である1.2か月分が適正水準とすると、その際の現預金残高は146兆円となり、2016年度末時点では65兆円が過大ということになる。マイナス金利政策の影響で国債等の利回りがマイナスとなり、一部運用資産が現預金に流れた面もあるとみられるが、2012年度末以降の公社債・その他の有価証券(流動資産計上分)の減少額は4兆円に過ぎないことから、影響は限定的だ。
現預金の積み上がりは、企業規模を問わず見られる事象だが、近年はとりわけ中小企業で顕著になっている。2012年度末から2016年度末にかけて、大企業では現預金が17兆円増加したのに対し、中小企業では21兆円増加している(図表20)。結果、2016年度末の企業全体の現預金のうち、6割弱が中小企業の保有分となっている。
中小企業は経営資源の制約によって大企業に比べて海外展開が難しく、投資有価証券に資金が回りにくいため、現預金への資金滞留が起こりやすい構造になっている。
また、B/Sの資産サイドでは現預金の増加も目立つ。2016年度末の現預金残高は211兆円と2012年度末から43兆円増加し、過去最高を記録している(図表19)。
売上が増加していれば、運転資金等に当てるために現預金を厚めに持つ必要性が出てくるが、近年の売上の増加ペースは緩やかであるため、現預金を月間売上高で割った手持月数は2016年度末で1.7ヶ月分と2012年度末から0.2ヶ月分上昇している。仮に1980年度から2012年度までの長期平均である1.2か月分が適正水準とすると、その際の現預金残高は146兆円となり、2016年度末時点では65兆円が過大ということになる。マイナス金利政策の影響で国債等の利回りがマイナスとなり、一部運用資産が現預金に流れた面もあるとみられるが、2012年度末以降の公社債・その他の有価証券(流動資産計上分)の減少額は4兆円に過ぎないことから、影響は限定的だ。
現預金の積み上がりは、企業規模を問わず見られる事象だが、近年はとりわけ中小企業で顕著になっている。2012年度末から2016年度末にかけて、大企業では現預金が17兆円増加したのに対し、中小企業では21兆円増加している(図表20)。結果、2016年度末の企業全体の現預金のうち、6割弱が中小企業の保有分となっている。
中小企業は経営資源の制約によって大企業に比べて海外展開が難しく、投資有価証券に資金が回りにくいため、現預金への資金滞留が起こりやすい構造になっている。
3―内部留保を巡る動きの総合評価と要因・背景の考察
1|総合評価
ここまでの話をまとめると、次のとおりとなる。
(1) 事業環境の改善などから、利益水準が大きく改善する一方、人件費・法人税・配当の増加がそれぞれ抑制されたため、企業規模を問わず、内部留保の増加ペースが加速、自己資本比率は過去最高レベルに。
(2) 人件費の増加率は多くの業種で付加価値増加率を下回っており、幅広く抑制されている。
(3) 内部留保の増加で生まれたCFは十分に設備投資に回らず、(大企業では)一部資金が海外投資に向かうものの、余剰資金が現預金に蓄積され、現預金の水準は過大となっている。
内部留保や現預金の増加自体は別に悪い事象ではないばかりか、日本経済にとって良い面もある。内部留保の増加は自己資本比率上昇に直結し、企業の財務基盤を強固なものにする。また、併せて現預金をある程度蓄積することで資金繰りに余裕が生まれ、経済危機など事業環境が悪化する際における企業の存続可能性を高める。
問題なのは、「内部留保の積み増しが、人件費や配当等の抑制によって一部実現されており、さらに内部留保増加によって得られたCFが設備投資に十分に回らず、多くが現預金に蓄積されている」ことだ。しかも、これらの事象は、「一部の大企業だけでなく、中小企業も含め、多くの業種で共通してみられる」。一言で言えば、「日本企業全体に蔓延する後ろ向き感の強い内部留保の積み増し」である。
このような企業の後ろ向きの姿勢は、日本経済の所得から投資・消費へという好循環や物価上昇を阻害する要因になっていると言えるだろう。
ここまでの話をまとめると、次のとおりとなる。
(1) 事業環境の改善などから、利益水準が大きく改善する一方、人件費・法人税・配当の増加がそれぞれ抑制されたため、企業規模を問わず、内部留保の増加ペースが加速、自己資本比率は過去最高レベルに。
(2) 人件費の増加率は多くの業種で付加価値増加率を下回っており、幅広く抑制されている。
(3) 内部留保の増加で生まれたCFは十分に設備投資に回らず、(大企業では)一部資金が海外投資に向かうものの、余剰資金が現預金に蓄積され、現預金の水準は過大となっている。
内部留保や現預金の増加自体は別に悪い事象ではないばかりか、日本経済にとって良い面もある。内部留保の増加は自己資本比率上昇に直結し、企業の財務基盤を強固なものにする。また、併せて現預金をある程度蓄積することで資金繰りに余裕が生まれ、経済危機など事業環境が悪化する際における企業の存続可能性を高める。
問題なのは、「内部留保の積み増しが、人件費や配当等の抑制によって一部実現されており、さらに内部留保増加によって得られたCFが設備投資に十分に回らず、多くが現預金に蓄積されている」ことだ。しかも、これらの事象は、「一部の大企業だけでなく、中小企業も含め、多くの業種で共通してみられる」。一言で言えば、「日本企業全体に蔓延する後ろ向き感の強い内部留保の積み増し」である。
このような企業の後ろ向きの姿勢は、日本経済の所得から投資・消費へという好循環や物価上昇を阻害する要因になっていると言えるだろう。
2|背景・要因
それでは、なぜ企業はこのような後ろ向きの姿勢を取るのであろうか?最大の要因は企業が「成長するイメージ」を持てていないためと考えられる。
内閣府が企業に実施したアンケート調査によれば(図表22)、わが国の今後5年間の期待(予想)実質成長率は直近2016年度で年1.0%に過ぎない。バブル期の3.5%前後とは比べるべくもないが、2012年度時点の年1.2%さえも下回っている。さらに、業界需要の期待実質成長率が日本全体の期待成長率を下回って久しい点も注目される。直近では、特に紙・パルプや鉄鋼、石油・石炭、小売、建設といった内需依存度の高い業種の期待成長率が日本・業界全体を大きく下回っている(図表23)。
家計の将来不安は近年よく言われることであるが、企業でも少子高齢化に伴う人口減少や厳しい財政状況などを背景として、将来にかけて内需を中心とした低成長持続への懸念が根強いことがうかがえる。そのような状況では、将来にわたってのコスト増加に繋がりかねない人件費や設備投資等の増加を抑え、「いざという時」に備えた自己資本の積み増しを優先するという行動が、企業において正当化されやすくなる。
それでは、なぜ企業はこのような後ろ向きの姿勢を取るのであろうか?最大の要因は企業が「成長するイメージ」を持てていないためと考えられる。
内閣府が企業に実施したアンケート調査によれば(図表22)、わが国の今後5年間の期待(予想)実質成長率は直近2016年度で年1.0%に過ぎない。バブル期の3.5%前後とは比べるべくもないが、2012年度時点の年1.2%さえも下回っている。さらに、業界需要の期待実質成長率が日本全体の期待成長率を下回って久しい点も注目される。直近では、特に紙・パルプや鉄鋼、石油・石炭、小売、建設といった内需依存度の高い業種の期待成長率が日本・業界全体を大きく下回っている(図表23)。
家計の将来不安は近年よく言われることであるが、企業でも少子高齢化に伴う人口減少や厳しい財政状況などを背景として、将来にかけて内需を中心とした低成長持続への懸念が根強いことがうかがえる。そのような状況では、将来にわたってのコスト増加に繋がりかねない人件費や設備投資等の増加を抑え、「いざという時」に備えた自己資本の積み増しを優先するという行動が、企業において正当化されやすくなる。
(2017年11月30日「基礎研レポート」)

03-3512-1870
経歴
- ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所
・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)
上野 剛志のレポート
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