2017年11月21日

CLM諸国の保険市場動向-最近の各市場における変化を中心として-

平賀 富一

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本稿では、アジア地域において、今後の有望な保険市場としての注目を集めているカンボジア・ラオス・ミャンマーのいわゆるCLM諸国1(3国の頭文字から「CLM」と総称)の保険市場の動向につき、定点観測としての位置付けで、前回のレポート(2016年11月15日公表)以降のポイントを中心に述べる。
 
1 CLM諸国の正式な国名は、カンボジア王国、ラオス人民民主共和国、ミャンマー連邦共和国である
 

1――CLM諸国と近隣のアセアン諸国の経済概況等

1――CLM諸国と近隣のアセアン諸国の経済概況等

図表-1 CLM諸国および周辺国の主要経済指標(2016年)
CLMとその周辺3国(タイ・インドネシア・ベトナム)の人口、経済規模(GDP:国内総生産)、一人当たりGDPと実質ベースの経済成長率の動向を比較した(図表-1)。

ほとんどの指標で、CLMは周辺3国に見劣りするが、人口でミャンマーが52百万人とタイに次ぐ規模にあることが分かる。経済規模(名目GDP)では、未だ僅少であるが、一人当たりGDPでは、ラオスが、2,000ドル水準となりベトナムを上回っている。さらに、実質経済成長率では、図表-1および図表-2にあるように、CLMは、年平均7%の水準で過去3年推移しており、今後の3年間についても同水準の高い成長率が予測されている。
図表-2 実質GDP成長率の推移(%)

2――CLM諸国の保険市場動向

2――CLM諸国の保険市場動向

以下では、CLM諸国の保険市場につき、生保分野を中心に最近の動向を述べる(図表-3参照)。
図表-3 CLM諸国および周辺国の主要保険指標(2016年)
(1)カンボジア
順調な経済成長を背景に、2016年の生命保険料は、対前年比95%増の43百万ドルとなり、生損保合計の保険料114百万ドル2の3割強が生命保険となっている(同年の生損保合計の保険料は、対前年比35.6%増であった)。直近の報道によれば、2017年第1四半期における生命保険料は、対前年同期比63.5%増の14百万ドルとなっている(損保は、対前年同期比6.3%増の22百万ドル)。カンボジアの生保契約者数は、2015年末時点で50万人とされるが、その数は、それ以前の3年間で3倍増となった由である。

保険会社の動向としては、損保7 社,生保6 社の13 社が保険事業の免許を取得して市場に参画している。生保では、2012 年に設立されたCambodia Life(カンボジア政府の過半出資で、Bangkok Insurance、Bangkok Life 等との合弁で設立され、その後2015年に地場のRoyal グループが全株を取得)に次いで、Manulife(カナダ)、Prudential(英国)、Muang Thai Life(タイ)、Bangkok Life(タイ)、AIA(香港)が開業しており、その中でPrudentialが業界の首位企業となっている。損保では地場のForte 社が約45%のシェアを保有する首位企業である。同国では外資の全額出資も認められている。日系の保険会社では、Asia Insurance(損保)にMS&AD グループが出資している他、損保ジャパン日本興亜、第一生命、東京海上日動が駐在員事務所を設置している。
 
2 113.6百万ドル。
(2)ラオス
15 社が営業免許を取得し事業活動を行っているが、損保が主体で、生保商品を販売しているのは2社のみの由で今後増加が見込まれている。業界首位のAllianz General Laos(1990年設立、Allianz(ドイツ)とラオス政府の合弁企業)が2005年まで市場を独占した。他社は2006年から市場に参入している。Allianz General Laos のマーケットシェアは2015年で約65%の由。業界2位のLao-Viet Insurance(地場銀行が65%出資、ベトナムの銀行が35%出資の合弁企業で、日系の損保ジャパンと提携)が約25%のシェアを保有しており、上位2 社が市場を寡占している。外資系保険企業の動向としては,日系のMS&ADグループのMSIG Insurance(Lao)、中国系企業・韓国系企業・タイのMuang Thai グループに加えて、地場およびシンガポール系資本の合弁企業も営業を開始予定との情報がある。

上記のMuang Thai グループ(タイを本拠とするMuang Thai Life(生保)・Muang Thai Insurance(損保)・Muang Thai Holdings(グループ持株会社))は、CLM諸国とベトナムを最初のターゲット市場として国際展開を開始し、将来的に。アジア地域全体での有力保険企業になるとの戦略を有している。ラオスでは、地場のST銀行との合弁形態で、ST-Muang Thai Insurance社を設立し事業免許を取得し、ST銀行の支店網を活用したバンカシュアランスをメインとしつつ、並行してエージェントチャネルの育成も開始する予定である。
(3)ミヤンマー
若年者を主体として人口規模が大きくアセアン(東南アジア諸国連合)における「最後のフロンティア」とも称される市場であり、現地Metlifeの首脳によれば、2012年のわずか1百万ドルが、2030年には10億ドル規模の保険料を有する生保市場へ拡大すると期待している。

市場で圧倒的なシェアを有する国営のMyanmar Insurance (生損保兼営)が市場を独占してきたが、2012年に地場の12社(9社が生損保兼営、3社が生保)に対して新たに免許が付与された。しかしながら、Myanmar Insuranceが依然として圧倒的に大きなシェアを保有している。各社の商品・料率は同一であり、サービス面での競争となっている。

外資系企業として初めて,2015年に ティラワ経済特別区(SEZ)において、日系メガ損保3 社へ営業免許が付与された。外資系の生損保企業は20社以上が駐在員事務所を置いており、営業免許の取得を待っているとのことである(生保分野では、Prudential(英国),Manulife(カナダ),Great Eastern(シンガポール・マレーシア)、AIA(香港)、Metlife(米国)、太陽生命・第一生命(日本)、三星(韓国)、新光(台湾)の名が挙がっている)。

同国政府は、近く、保険市場の一層の自由化を行う方針と見られており、地場民間会社への認可種目の拡大のあり方、外資系保険企業に関して、全額出資(単独出資)を認めるか、地場企業との合弁形態とするかといった諸点について検討が行われている由である。また、保険協会の設立も近々予定されている。

さらに、同国政府は65歳以上の高齢者への国営年金制度の検討を行っているとの情報がある。2015-16年の調査によれば、60以上の高齢者人口は、475人と人口全体の9%強であり、この比率は、2030年までに15%、2050年までに25%に増加すると予測されている由である。
 

3――おわりに

3――おわりに

CLM諸国では、各国の政治体制の安定化傾向、経済発展への一層の取り組みという状況の中にあって、保険業についても、前年のレポート以降も、地場の民間保険会社や外資系保険会社の市場への参入や免許の付与が増加するなど様々な発展が継続・加速しつつある。

保険市場として初期段階にある3国は、現状では、保険料収入の規模が小さく、普及率も低水準であり、損保市場の規模が生保市場よりも大きい。今後の健全な市場の成長に向けては、消費者の保険に対する認識・理解の向上、法制度の整備や監督体制の強化が重要な課題である。しかしながら、人口動態面でのメリット、自由化や市場開放などの経済政策の推進、および、メコン地域に立地するメリットによる、日系企業の「タイ・プラス・ワン戦略」、「アセアン経済共同体」(AEC)や、中国の「一帯一路」政策に伴うインフラ開発・産業関連の建設増、物流の活発化、消費者の所得水準や生活レベルの向上というポジティブな環境変化の中で、生命保険分野の急拡大を含めて保険市場の長期的な成長が期待されよう。
<主要参考文献>

・ニッセイ基礎研究所編(2017)「第8章 その他アジア諸国の生命保険市場の要点」『アジアの生命保険市場』文眞堂。
・平賀富一(2016)「CLM諸国の政治経済の概況と保険市場動向」『保険・年金フォーカス』ニッセイ基礎研究所、2016年11月15日。
・IMF『World Economic Outlook Database』(2017年10月)。
・Ins Communications 『Asia Insurance Review』各号。
・同上『Insurance Directory of Asia 2017』.
・Swiss Re「Insuring the frontier markets」『Sigma No.2/2016』.
・同上「World Insurance in 2016: the China growth engine steams ahead」『Sigma No.3/2017』.
・Timetric 社データベース。

(2017年11月21日「保険・年金フォーカス」)

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